少年少女 夢舞台   作:味噌の素

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王の器

 

「ちくしょう……ちくしょう。何だったんだあいつは……」

 

先日のオーディションバトルで惨敗を喫した俺はとにかく荒れて、落ち込んでを繰り返し、今では憤る気力すらなくした脱け殻のようになっていた。

 

「あの野郎……俺たちには勝負する価値すら無かったってのか……」

 

突如現れた謎のアイドル"秋月涼"。

 

奴は大会史上初の最高得点を記録したが、何を考えたのか途中で辞退したために優勝こそできたものの、あれはどう考えても納得できるものではなかった。

 

――点数でも、ダンスでも、歌でも、ヴィジュアルアピールでも完璧に負けていた。

 

俺たちJupiterを相手に"秋月涼"はただ一人で完勝した、俺は生まれて初めて恐怖という感情をステージで感じた。

「そんなに落ち込んでもしょうがないよカマドウマくん! 当初の予定通り優勝してきたんだから……」

 

「多田……俺の名前は天ヶ瀬冬馬だ……間違えんな」

 

自分でも分かるほどに俺は落ち込んでるらしい、後輩達に格好いいところを見せてやると意気込んでおいてこの様だ……情けなさ過ぎて会わせる顔もない。

 

「あ、あれ? ほんとに元気ないねぇ……」

 

「びしっとしろよ! あまとう! 今日のお前からは全然ロックを感じねぇぞ!」

 

「一回負けた位でうじうじしやがって……アタシが根性入れ直してやろうか?」

 

そんな俺の醜態を見兼ねたのか、木村と向井が声をかけてくるが俺はそれに対してマトモに反応を返すことも出来なかった。

 

「すまねぇ……少しほっといてくれねぇか? 今は……」

 

「っ!……てめぇ! アタシの顔を見てハッキリ喋りやがれ!」

 

やめろ……俺の顔を……今の俺の顔を見ねぇでくれよ……

 

「 ……冬馬、どうしちまったんだよその面は……」

 

「本当に……本当に今はほっといてくれよ」

 

「冬馬君……」

 

「あまとう……お前……」

 

俺の顔を見た瞬間、向井は驚きの表情を浮かべた後に呆れた様な表情になり、俺の胸ぐらから手を離す。

 

「ちっ! 白けちまった……おい、黒井社長から伝言だ。社長室に来いってよ」

 

「あん? 黒井のおっさんが……」

 

珍しいこともあったもんだ……まさかわざわざ慰めるつもりでもないだろうが。

 

「ああ、わかった。ありがとよ……すまねぇな」

 

「ふん! いつまでもしけた面してっとほんとにブッ飛ばすからな!」

 

俺はそんな言葉を背中に受けて、脱力しきった体を引きずるようにその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく……腑抜けた顔しやがって」

 

アタシはトボトボと歩いていったバカ(冬馬)の背を見ながら、そう呟いた。

 

「うーん……あんなに落ち込んでる冬馬君なんて初めて見たね……」

 

「……にしてもアイツほどロックな奴をあんなにまでしちまうなんて、一体どこのどいつだろうな?」

 

アタシのその呟きに対して二人がそう口に出す、確かにアタシもあのバカをあんな風にした奴に対して気になってはいたところだった。

 

「……まあ当たり前のことしか言えねぇけど、圧倒的に実力のあるやつなのは間違いないだろうな」

 

アタシは口にこそ出さないがアイツのことは割りと尊敬している。

 

アイツの実力は男性トップアイドルと言えるほど高いとは思っているし、ステージに対するアイツの真っ直ぐさやアイドルとしての姿勢は好ましいものだと思っている。

 

それに、個人的にはこのアイドルの世界へ連れてきてくれたアイツには、正直とても感謝している……だからこそ腑抜けたアイツの姿なんて、アタシは見ていられなかった。

 

おそらくそれはこの二人も同じだろう、だからこそ今もこうして三人でウンウンと頭を悩ませていた。

 

「うーん……思い当たらねぇな……そもそもアイドル業界全体を見回したって、Jupiterに勝てる奴自体少ないだろ……」

 

「うーん……そうだね……ていうか話は変わるけど、拓海ちゃんさっきはいくらなんでもやり過ぎじゃない?」

 

アタシも無い頭を使って考えていると、李衣菜が私に対してそんなことを言い出した。

 

それに対し、夏樹も同意を示す、まあ確かにやり過ぎちまったのはアタシも少し感じていたが……

 

「確かにありゃあちょっとな……しっかしあそこまで拓海がやってもダメなら別アプローチってのはどうだ?」

 

「別アプローチ……! そうだ!いいこと思い付いた! ……拓海ちゃん、冬馬くんに謝りたいと思ってる?」

 

「う……そりゃあアタシもやり過ぎちまったとは思ってるが……」

 

何だか嫌な予感がするが、何故かこういうときの李衣菜には逆らえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……けれども後になってあの時無理にでも逆らっておけば良かったとアタシはとても後悔することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ……なんだよおっさん。俺を笑い者にでもしようってのか?」

 

「ふん……まだ軽口を叩くだけの元気はあった様だな」

 

部屋に入るなり俺は不貞腐れた態度を取るが、黒井のおっさんは態度を変えずに相変わらずいつもの様に傲岸不遜な態度だった。

 

「秋月涼に手も足も出ずに完敗したようだな……どうだ? 今の気分は」

 

「へへ……こんな気持ちは初めてだぜ。正直自分でもビックリするほど落ち込んでるよ」

 

おっさんはニヤニヤと薄ら笑いを浮かべて、こちらを挑発するように問いかけてくるが、俺の反応は相変わらずだった。

 

俺はてっきり散々こけにされて、へたすりゃクビにでもされんのかと思ったが、次におっさんの口から出てきた言葉に仰天した。

 

「……冬馬よ、敗北から得るものということもある……心底……心底! 気に食わんが765プロに負けた時に私は感じた。そしてこれも非常に……非常に! 気に食わんが仲間との絆等という甘ったれたことも、ときには必要なことなんだと学んだぞ」

 

「お、おっさん……」

 

本当に俺は驚愕するしかなかった……まさかあの傲慢で自己中心的で敵愾心の塊みたいな、あの黒井のおっさんから"負けから得るものがある"とか"仲間との絆"だとか、そんな言葉が出てきたことがただただ信じられなかった。

 

「現に北斗と翔太はお前が立ち直ったときに、足を引っ張らないようにと特訓をしている……他の奴等も、当然のようにお前が立ち直るのを待っているらしい」

 

……わかってる、そんなこたぁ俺が良く分かっていたが、どの面下げてあいつらに会いに行きゃあいいんだよ。

 

普段から偉そうにご高説を垂れて、リーダー面して、いいとこを見せてやると大見得を切っておいてこの様だ……会わせる顔なんてありゃしねぇ。

 

「……一度下らんプライドを捨てて周りを見渡してみるといい。案外、王とは孤独なばかりなものでは無いらしい……それに確かお前は逃げることが大嫌いだったはずだよな……ええ? 冬馬よ」

 

……逃げる……か。

 

まぁ考えても見りゃあ確かにこれは逃げ以外の何物でもねぇよな。

 

これからどうするにしても、いつまでも逃げていられるような事じゃねぇ。

 

「わかった……わかったよおっさん……とにかくあいつらに一度会ってくるよ」

 

ここまで来ても俺はまともな反応を返すこともできないことに、今更ながら自分への怒りを少し感じていた。

 

とにかく行かなきゃ話にもならねえと思い、部屋から出ようとすると、最後におっさんは俺に対してこんなことを言った。

 

「……冬馬よ、お前は王となる器だ。せいぜい私の期待には答えろよ……それと、たまには自分の気持ちに素直になるんだな」

 

――へ、あんたにそんなこと言われるとは思っても見なかったよ。

 

そう声をかけられて部屋を出た俺は、さっきよりは少しはましな面をしていたと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~! 貴方雨傘さんですよね! Jupiterの雨傘さん! 私今日からここでお世話になるアイドル候補生の本田未央っていいます! 私のことはちゃんみおって呼んで良いんで、私もあまとう先輩って呼んでいいですか!?」

 

……部屋を出た俺の前には、キーキーとうるさい奇妙な生物がいた。

 

――キーキーと喧しい奴だな……取り敢えず黙らせっか。

 

そう考えた俺は目の前の女に対して容赦の無い攻撃(突っ込み)を仕掛けることに決めた。

 

「俺の名前は天ヶ瀬だ! ア・マ・ガ・セ! あとあまとうとか言うなや! ちゃんみおなどとも呼ばねぇ! それからなんで候補生がこんなとこをうろちょろしてんだ! ていうかなんでお前は初対面の相手にそんなに馴れ馴れしいんだーーー!」

 

と、俺は今まで溜め込んでいたものを、全部吐き出す勢いで目の前の相手の言葉を完璧に捌ききる。

 

「お、おお~! 噂通り凄い突っ込み力です……やっぱり尊敬の意味も込めてあまとう先輩って呼ばせてください!」

 

「だから呼ぶなっつってんだろが! それとなんで尊敬してる相手のアダ名があまとうなんだよ!」

 

……ああ何だろう、出会って数秒しか経ってないがわかった、こいつは俺にとってかなり厄介な奴らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ったく! それならそうと何で早く言わねぇんだ」

 

俺は現在、先程社長室前で出会ったアイドル候補生の本田未央と廊下を歩いていた。

 

どうやらこいつの説明によると、つい先日面接を終えたばかりで、今日から初めてレッスンをするらしかった。

 

……しかし途中でレッスンルームへの道が分からなくなってしまったらしく、建物の中をさ迷っているところ、社長室の前まで来てしまい、そこで俺を見かけたので道を訪ねようとしたらしい。

 

「うう~すいません、躑躅ヶ崎(つつじがさき)先輩……つい興奮してしまって」

 

「だから天ヶ瀬つってんだろ! ヶしかあってねぇよ!」

 

――この野郎……わざとやってんのか?

 

そんな風にこいつと漫才をしながら歩いていると、もうすぐそこに「トレーニングルーム」と書いたプレートが目に見えてきた。

 

そしてトレーニングルームへの扉の前に並んで一度立ち止まる。

 

「……ちょっと待ってろ、まず俺が説明しといてやるからお前は取り敢えずそこで待ってろ」

 

俺がそう言うと、本田が頷くのを確認してから俺は一度大きく深呼吸をしてから、部屋へと踏みいった。

 

「お、おう……お前ら、実はな……」

 

まず部屋へと入った瞬間、俺が見たのは多田と揉み合った姿勢のままこちらを見て硬直している、顔を真っ赤にし露出度の高いバニーガール姿に身を包んだ向井だった。

 

「……っ!――――」

 

そして見事なスピードを有した向井の右ストレートが、俺の顔を目掛けて飛んでくるのをスローモーションのように感じる。

 

――甘いぜ! お前のストレートは見切って……

 

それと同時に右に避けようとしたが、諸星が「にょわ~! 冬馬さん! 良かった……良かった~!」と言いながら、こちらに物凄い勢いで突撃してくる諸星の姿が目に入った。

 

――あ、これ俺死ん……

 

 

 

 

"グワッシャーン!!!!"

 

 

 

両方の攻撃をモロに食らった俺は、5メートルほど後ろにあったはずの廊下の壁を突き破り、コンクリートの海に沈む。

 

朦朧とする意識の中、最後に聞こえた声は……

 

「高天原先輩! しっかりしてください! 高天原先輩!」

 

――だから……俺の……名前は……

 

「あ……まが……せ……だっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……全く、ようやく顔を見せたと思ったら。あんまり心配かけないでよね、冬馬くん」

 

「そうだぞ、冬馬。俺と翔太だけでなく皆にも心配をかけてたんだからな」

 

何故か部屋に入った直後の記憶が無かったが、何はともあれ本田の自己紹介なんかもすんだらしい。

 

それはともかくとして、何でさっきから諸星と向井が申し訳なさそうにこっちをみてるんだ? まあそれはこの際どうでもいいか。

 

今は何よりも先にやらなきゃいけないこと、ケジメをつけなきゃなんねぇところだ。

 

「みんな……本当にすまなかった! あれだけ大口を叩いて負けた挙げ句に、今までお前らに謝罪の一つもせずに逃げ回っていた……本当にすまない!」

 

とにかく俺は誠心誠意、全力を込めて腰をしっかりとくの字にまげ、謝罪をする。

 

当然許してくれるとは思っちゃいなかったが、これは自分自身の、それに何より今まで着いてきてくれた皆の為にもやらなくてはいけないことだと思った。

 

「……こんなダメな俺が言うのもおこがましいかも知れねぇが……もう一度、俺を仲間に入れてくれやしねぇか? やっぱり俺は、お前らと頂点(てっぺん)目指してぇんだ……どの口が言うんだって思うかも知れねぇが……頼む!」

 

 

……アイツに負けてから気持ちは深く沈んでいた。

 

とにかく負の感情ばかりが沸いてきて、自己嫌悪や、罪悪感なんかに苛まれた。

 

けれども根っこのところ……心の奥底で燻っていたのは、「まだやりたい!」「こいつらと一緒に頑張りたい」という感情だった。

 

そしてついさっき黒井のおっさんに言われ、俺はやっと皆に伝えようと思えた、本当に今更ではあったが。

 

都合のいいことばかり言っているのは自分が良く分かっていたが、それでも皆に伝えようと思えた。

 

しかし皆から返ってきた反応は、俺の予想を大きく裏切るものだった。

 

「な~んだ、トーマ君そんなこと気にしてたんだ!それならあんまり心配しなくても良かったかもね! お姉ちゃん」

 

「じょ、城ヶ崎2号……」

 

「え?う、うんそうだね……ていうか むしろショック? って感じ」

 

「じょ、城ヶ崎1号……」

 

俺には城ヶ崎姉妹の言っていることを今一理解できず、周りを見渡してみるが何故か皆うんうんと頷いている。

 

疑問符を顔に浮かべたまま戸惑っていると向井がはぁ~、と呆れた様な溜め息をついた後に、口を開く。

 

「はぁ……ったく。何でお前はそう根っこのところが根本的にバカなんだよ」

 

「な、なんだよ! 俺に理解できるように言ってくれよ!」

 

そこでもう一度向井は「だーかーらー!」といった後に、再び声を出す。

 

「だれが! 一度でもお前をもう仲間じゃねぇなんて言ったんだよ! 逆に聞きてぇが何でお前は一回負けた事ぐらいでその結論に至るんだよ!」

 

「い、いや……だってよぉ。あれだけ言っといて負けたんだぞ……お前ら俺のことなんて見損なったろ?」

 

「……おいお前ら、お前らの中でこのアホのことを見損なったって奴は居るか?」

 

絶対に皆俺のことなんて見損なったはずだ、こんな最低な俺のことなんて……

 

「いや~負けちゃったのは残念だけど、別に見損なうようなことは……」

 

「た、多田……」

 

「そうだ! アンタほどロックな男が一度の負け位で気にすんなよ!」

 

「木村……」

 

「そーそー、そんなこと言い始めたら杏なんて絶交されるレベルだぞ~」

 

「双葉……」

 

「杏ちゃんはもっと本気でやらなきゃダメだにぃ……でも杏ちゃんの言う通り! 私達と冬馬さんは仲間☆仲間☆」

 

「諸星……」

 

「そうそう! それにトーマ君はいつも誰よりも一生懸命じゃん! アタシは知ってるんだよ☆」

 

「城ヶ崎2号……」

 

「そうだよ★それにさ、男の子があんまり小さいことでくよくよすんのはカッコ悪いぞ★」

 

「城ヶ崎1号……」

 

――もしかして俺は大きな勘違いをしていたのかもしれない

 

そう俺が考え直すほどに、皆の反応は凄く暖かいものだった。

 

俺の涙腺が思わず緩みそうになったところで、最後に向井がこう締めくくった。

 

「というわけだ……わかったか?冬馬。もちろんアタシだってお前がいなくちゃ始まらねぇと思ってる。今度またうじうじしてみろ、今度こそブッ飛ばすからな!」

 

――そうか……俺は……俺はまだここにいていいんだな

 

「あ~あ……言いたいこと全部言われちゃったね。当然僕たちは……」

 

「言わなくてもわかるな?冬馬」

 

「ああ! ありがとう皆! 俺はこれからもうぜってぇ迷わねぇ! 皆ついてきてくれ!」

 

「「「「「「「「「おー!(お~)」」」」」」」」」」」

 

今までに無いほどの結束を感じる……そうか……今から……ここから、全てが始まるんだな。

 

「皆言い感じでまとまりましたね! 関ヶ原さん!」

 

――まったく、こいつは……だから俺の名前は

 

「天ヶ瀬だっての! 忘れんな!」

 

見てやがれ、秋月涼! 俺が……いや! 俺たちで、お前を越えてやっからな!

 

 

 

 

 

 





ちょっと961組の仲の良さに疑問を感じるかもしれませんが、過去の話なんかも追々やっていきますのでご安心を。
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