魔法少女リリカルなのは Another   作:Avell

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昨日の分の投稿忘れてました。

では、どうぞ……


第八話

 

◆◇ 8 ◇◆

 

 

 

 

 

 防衛の要である管理局地上本局は、第一管理世界ミッドチルダ首都クラナガンに位置している。管理局は近年人員不足に悩まされているが、それは局員が少ないというわけではない。掌握するべき次元世界が広大すぎるだけなのだ。

 故にここクラナガン地上本局の食堂は昼時とても混雑する。フェイト・T・ハラオウンは人が洪水のように行きかう中、対面の席をキープしながら友人である、高町なのはが来るのを待っていた。

 

「ごめんごめん、探しちゃった」

 

 人ごみの中をかき分けてやってきたなのはが持ってきたのはエビフライ定食だ。食堂は毎日定食と言う形でメニューを出している。なのはが持ってきたのはその中の一つだ。

 

「すごい人だね」

 

「あれ? 食堂、来たこと無いの? フェイトちゃん」

 

 ありのままの感想を言ったつもりだが、教導官としてたびたびここに訪れるなのははもう見慣れてしまったようだ。一方、フェイトは宇宙(そら)の本局に所属している執務官なので滅多に訪れることはない。

 そうはいっても最近、事件がらみで地上本局に立ち入っていることは、なのはの耳にも届いていた。

 

「うん、いつもお弁当だから」

 

 そういってフェイトは、対面に座ったなのはに、手元の弁当を持ってみせた。

 

「……自分で作ったわけじゃないよね? 作ってもらったのかな?」

 

 なのはは箸でつまんだエビフライをフェイトに突きつけた。なのはの行動からして自分の弁当の出所は既にばれているとフェイトは確信した。それと同時に小さな危機感もやってきていることにも気づいた。

 

「え……、えっと、なのは?」

 

「まぁ、いいか……、私も終夜君に頼もうかなぁ……」

 

 

 予想通りだった。母親であるリンディも料理は得意だったが、暁終夜がハラオウン家に来てからは専ら彼が台所の全てを担当している。台所だけではない、掃除、洗濯……、家事のことはほとんどすべてと言ってもいいくらい彼にまかせっきりと言う状況だ。

 なのはがフェイトの持っている弁当の大元を探るのに大して苦労することもないというわけだ。

 

「ど、どうかなぁ……、終夜最近忙しそうだし」

 

「目が泳いでるよ、フェイトちゃん。それに幼馴染みの私のお願いくらい、終夜君は聞いてくれるの」

 

 幼馴染み――なのはの言ったその言葉はフェイトの危機感に拍車をかける。

上がる心拍数。胸を締め付けられるような痛み。喉の奥がどろりとして少し呼吸がしづらい。

 それでも友人であるなのはの前では表情を崩さない。犯人を取り調べるときに必要なスキルがこんなところで役立つとはどうにも皮肉なものだ。

 

「そう言えば、そうだったね。なのはと終夜は、その……幼馴染み」

 

 改めてその言葉の重さを噛みしめる。当のなのはは意識もしていないが、それは大きなアドバンテージであるということをフェイトはよく理解していた。

 

「小学校も同じだったから結構仲よかったんだよー」

 

「へぇ……」

 

 捜査本部が解散になったことでなのはに相談しようとしていたフェイトだったが、それどころではないようだ。動揺を必死に抑え、弁当箱を開ける。中身はから揚げ弁当。隠し味にはちみつが入っている終夜特製のから揚げだ。

 会話の中で時折、羨ましそうに見るなのはの視線を感じたが、今日のフェイトは一つたりとも譲る気はなかった。噛みしめるたびに甘辛いうまみが口に広がる。

 

――やっぱり、終夜の料理はおいしい

 

 ちょっとだけ立ち直ることが出来たフェイトであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラナガン郊外、そこには数えきれないほど多くの墓石が鎮座している。主に軍人として殉職した者がそこに眠ることになっていた。もっとも、墓の下に五体満足でいる者がどれだけいるかは疑問だが。

 終わりを迎える夏が、それを促すように墓地周辺の木々を紅葉させ始めていた。色あせるものもあれば、色鮮やかに変化していくもの、それぞれだ。日中だというのにあたりは暗い、空は分厚い雲で覆われていた。

 雨の匂いがするそんな墓地に一人の青年が現れた。右手に持った紙袋には知り合いの好きなワインが一瓶、左手はポケットに手を突っ込んでいる。白いTシャツに、上下合わせた黒いジャケットと綿製のパンツスーツ。

 

「雨、降りそうだな……」

 

 ふと立ち止まった黒髪の青年が空を見上げてつぶやいた。

この墓地の墓石は総じて白い肌の石を切り出されて作られたものだ。刻まれているのは名前、享年、必要以上のものが書かれることは少ない。青年の眼前には二つの墓石が並んでいた。

 

「明日はちょっと来れない、ってことを言いに来た」

 

 墓石はしゃべらない。

 紙袋から取り出したワインボトルを墓石の前に置いてから、青年は報告を再開した。身振り手振り、まるで踊っているようにジェスチャーを織り交ぜながら会話を楽しんでいる。

 

「怒るなよ、別にいいじゃないか、一日くらい死んだ日が変わろうと大差ないだろ。そうだ! 今日からお前の命日は今日になった。それがいい、ってかそうしてくれると助かる」

 

 何ともわがままと言うか、身勝手な熱弁を聞くものは他にいない。青年もそれをわかっているからだろうか、加減しているようには見えない。むしろオーバーすぎるくらいだ。

 まるで恋人に話しかけるように、青年は話しかける。

 

「お前たしかこの柄のワイン好きだったよな? 間違ってても怒るなよ、店で一番高い赤ワインはこれって言われたんだ。昔、お前言ってたじゃん、おいしいものを食べるにはそれ相応の対価を支払わないと、って……、あぁ、この場合は飲み物なんだが、細かいところ気にすんなよ」

 

 墓石はしゃべらない。

 空気が変わった。いや、むしろ戻ったというべきなのか。急に黙り込んだ青年は、肩を落として小さくため息を漏らした。

 季節の変わり目を運ぶ風が、青年の頬をやさしくなでる。広い墓地にたった一人立ち尽くす青年を憐れんでいるのだろうか。

 

「……明日、俺がすべて終わらせてきてやる。自己満足だと、お前は笑うだろうが、それでもかまわない」

 

 青年は墓石から目を逸らして握りしめた右手を見つめた。ゆっくりと拳が開くのを見終えてから視線をもう一度上げた。

 眼前には一つの墓石が立っていた。

 

「何もお前の為だけじゃない、お前や他の連中が死んだのはお前らが弱かったせいだ。いや、運がなかったというべきか……。俺はお前たちに同情しない、だからお前も俺に同情なんてするなよ」

 

 長々と話し切ったところで青年の頬に雫が垂れた。端々まで雲に覆われた空が、少しずつ雨足を速めていく。

 

「もし、全部終わったら、終わらなくても来ることが出来たなら、今度はバイオリン聞かせてやるよ。約束だったもんな。そろそろ行くわ、大事な前夜に風なんて引いたらそれこそ興醒めだろ――じゃあな……」

 

 雨が激しくなる。それでも墓石はしゃべらない。

 青年は『フィーナ・メリクリア二等陸士』の墓石に別れを告げると、余裕のある足取りでその場を後にした。背にして去っていく黒一面の後ろ姿が、死者を背負っているようで、似合いすぎて……、それはまるで『あちらの世界の番人』を体現していた。

 ワインボトルの置かれた墓石の右隣、鎮座する他の墓石となんら変わらないそれにはこう刻まれていた。

 

 

 

 

『暁 終夜三等陸士』  享年15歳(新歴66年)

 

 

 

 

――log-out……

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