魔法少女リリカルなのは Another   作:Avell

11 / 16
九話は少し長いので二つに分けさせてもらいます。


第九話(前編)

 五年以内に事を起さなくては、二度とチャンスはめぐってこないということを終夜は確信していた。五年以上すれば終夜はきっと連れ戻されてしまうし、その後の監視も強くなるだろう。『彼(か)の組織』にはそれだけの人材と資金があることは、終夜にとって当たり前だった。

 しかし、シナリオは念密に、入念に書かなければいけない。少しでもほころびがあるようならば、何度でも書き直さなければいけない。この二年間終夜はその計画を確固たるものとするためだけに動いてきた。そうは言っても実質的に動き出したのはここ半年の間だったのだが。

 今、彼のバックには組織的体制もなければ潤沢な資金もない。あるのは自分自身の信念と実力、それだけだ。

 ハラオウン家で迎える最後の朝、何食わぬ顔でいつも通りの家事をこなし終えた昼過ぎ。上半身半裸の終夜は机に向かって最後の点検をしていた。弾薬箱から取り出した四五口径ACP弾丸を、机に並べた四本のマガジンに一発ずつ押し込んでいく。しっかり八発分、それぞれのマガジンに収める。

 実弾でいっぱいになったマガジンの一本を愛銃sw1911に挿し込む。スライドを引き、初弾を薬室に装填してから安全装置をかける。ずっしりと重みを増した愛銃に終夜は何とも言えない安心感を覚えた。拳銃家業をやっていると、銃を手放せなくなるというのは本当らしい。自身のデバイスを肌身離さず持っている終夜でさえ、幼少期の習慣がしつこく付きまとっていた。銃を抱いて安眠出来た日のことは未だ久しくない。

 sw1911を両手で眼前に構える。雑念が取り払われ、瞬間的に集中力が跳ね上がる。どこまでも手が届くような感覚。

 

――こいつは俺自身だ

 

 非日常から日常(・・・・・・・)に戻る時が、すぐそこまで来ていた。

 

 

 

 

◆◇ 9 ◇◆

 

 

 

 

 

 「――ったく、たりい……」

 

 白髪の青年ランケア・ユースティティアは早朝からの出勤に愚痴をこぼした。非番だというのに出社しているのは、まだ提出期限でない書類を先方が急かしてきたからだ。せめてそういうことは前日以前に言ってほしいものだ、そうは思わずいられない。

 昼食をとらず起きてすぐに出社してきたランケアは、帰りに何か食べていこうと思いながら管理局の入り口をくぐった。

管理局地上本部には入ってすぐにインフォーメーションセンターがあり、常に受付が一人待機している。久しぶりの外食に思いふけりながら、入り口の受付嬢に軽く挨拶しようとして、足を止めた。

入り口正面を避けて壁に寄っている一団を目にしたからだ。そこにいる十数人は灰色の作業着を着ていて、足元に大きめのバッグを置いていた。

 

「おはよう――ところであれはなんだ?」

 

 灰色の一団を指さしながらランケアは受付嬢に聞く。管理局の制服の上にベージュのコートを羽織っているランケアは少しばかり有名人だ。答えた受付嬢の声には少し緊張の色が見えた。

 

「あれはサーバールームの点検に来てくださった業者の方々です。えっと、先月起った事件絡みだと聞いています」

 

 ランケアは自分の同僚が先月担当していた事件を思い出した。管理局のサーバーに不正に正規のアクセスした事件だ。ランケアは自分の追っている黒髪の男がその事件に関わっていると確信していたが、捜査本部が解散した後なので彼に出来るのは捜査記録を読むことくらいだった。突き止められなかった同僚を非難するつもりはない、自分が追っている相手がどれほどの人物なのかをランケアはよく理解していたからだ。

 

「なるほど……それで点検か、こういうことだけは用心深いんだよな」

 

「え?」

 

 昼過ぎのロビーは意外に騒がしい。人も少なくない。ランケア一人の呟きくらいは簡単に呑み込んでしまうみたいだった。

 

「いや、なんでもない。すまなかったな」

 

 ランケアは受付嬢に礼を言うと、上司の待つ部屋へと足を急いだ。昼食のメニューを考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャワーを浴び終わった高町なのはが更衣室を出ると、先に上がっていたヴィータが待っていた。デバイスの調整が終わったので、その点検を兼ねて試運転をしていたのだ。

 数年前に大怪我を負って以来、なのはの訓練に無茶は見られなかったが、怪我をした現場にいたヴィータは心配だったのだろう。昼にその話をしたら、付き添ってくれたというわけだ。試運転は2時間ほどで切り上げられた。

 

「まぁ、調子は悪くないみたいだな」

 

 足並みをそろえて歩いているとヴィータが試運転の評価を始めた。歴戦のベルカの戦士だ。もしなのはが少しでも無理をしていたりしたらすぐに見抜くことが出来る。評価はあくまで中立的立場によるものだ。

 

「にゃはは、もう大丈夫だよ。心配性だなぁ、もう」

 

 そういうなのはの笑顔を横目で見てから、ヴィータは思わずため息をついてしまった。体の方は本当に大丈夫のようなので、しばらくは様子を見ることに決めたみたいだ。

 人間その状況に陥って初めて学ぶことは少なくない――故にほんの少しの先見と用心深さが人生にとって大切なものとなる。高町なのははそれを身をもって知っただけなのだ。

 

『I manage a master’s condition. Reckless behavior is never performed.』

(マスターの体調は私が管理しています。もう無茶はさせません)

 

 なのはの控え目に膨らんだ胸元に収まる赤い球体がきらりと光る。インテリジェンスデバイス、レイジングハートはその特徴的な機械的な音声でヴィータをなだめた。レイジングハートは、なのはが魔法の世界に足を踏み入れるきっかけとなったそのものであり、長年の相棒でもある。

 二人が話をしながら歩いていると正面から十数人の団体が向かってきていた。全員が灰色の作業着を着て、同色のキャップを深くかぶっていた。肩に大きめのボストンバックをかけていたので道幅を多くとっているが、何かの作業道具ならば仕方ないことだろう。

 

「おっと……」

 

いち早く気付いたヴィータが、なのはに寄るようにして道を譲った。

 

「なんだ?」

 

「あれは……、確か管理局にあるサーバーのメンテナンスに来ていた人たちだったと思うよ。去年同じ人達を見たから」

 

 離れていく集団を立ち止まって見ていたヴィータになのはが思い出したように付け加えた。集団が通るたびに局員が脇による、中には書類を見ながら歩いていたので慌てて退く者もいた。

 ヴイータはなのはの言葉に、「ふーん」と興味なさげに相槌を打った。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。