魔法少女リリカルなのは Another   作:Avell

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不定期更新失礼します。


中編:本日10時
後編:本日12時
の更新予定です。

では、よろしくお願いします。


第十話(前篇)

 

◆◇ 10 ◇◆

 

 

 

 時空管理局地上本局、その一室の所有者である男は外の異変に気付いたのか、手元に展開していた光学ディスプレイを閉じた。

 人の気配が薄い。思えばいつも騒がしい秘書の姿もない。もしかしたらこの階には自分一人しかいないのではないだろうか、そんな風に思えた。

 しかし、もし何かしら問題があるなら、館内放送が流れるだろうし、自分ほどの地位、少将ともなれば直接連絡してくるはずだ。

 男は手持ちの端末機を懐から取り出した。小型のディスプレイには誰からの着信もメールも来ていない

 

――取り越し苦労か……

 

 しかし、この物言えぬ不安と焦燥はなんなのだろう。自分は何か大事なことを見落としていないだろうか。もう一度画面を確認する。隅々まで。

 そうしてその正体にようやくたどり着く。端末画面の右上に表示されているあるマークが目に飛び込んできたからだ。

 

「圏外……?」

 

 おかしい、それはいくらなんでもおかしい。ここミッドチルダが首都クラナガンだ。電波の悪い場所など数えるほどしかないし、ここは地下でもない。事実、昨日まではしっかりとアンテナが立っていたのだ。

 少将の疑念は確固たるものになり、ようやくその重い腰を持ち上げようとした時だった。

 

「失礼しまーす。いやー、気付くの早いね、それが出世の秘訣だったりする?」

 

 正面の扉、少将と対峙するように一人の男が部屋に入ってきた。局員の制服を着ている男の口調は軽かったが、どこか皮肉がこもっていた。

 

「誰だ? どうやってここに入ってきた? 上官は誰だ?」

 

 浮いていた腰をもう一度据える。そうして目の前の侵入者をよく観察し始めた。

 もしことが起こっているなら、あわてても仕方ないし、起こっていないなら、あわてる必要は無い――少将は決して弱みを見せない。出世の秘訣と言われれば、こちらの態度の方だろう。

 自分の目の前に立っている黒髪の青年は、柔和な笑みを浮かべ。

 

「おいおい、そんな一気に答えられないって、えぇっと……上官はいないし、開いてたから入っただけで、それに俺が誰かなんてこの状況に必要だとは思わない」

 

 ちゃっかりすべての質問に応答している青年を少将は鋭く睨み付けた。この男は部外者だ――それだけははっきりした。内部の人間なら自分にこんな疎そうな態度をとらないし、自分より地位の上の人間の名前の把握はしているつもりだったからだ。

 

「……では、質問を変えよう。何をしに来た?」

 

 眉間にしわを寄せながら語尾に力を込める。少将は苛立ちを隠そうとはしていなかった。

 

「それがさぁ、自分でもよく分かんないんだよな。これはいつもの『仕事』ってわけじゃないし、じゃあ『私用』かと言われれば、いまいちしっくりこない。俺は悩んでたんだよ、俺が今からする行動は正しいのか――」

 

 青年はミュージカルの舞台にいるかのように大げさに振る舞う。相手に言葉の一つ一つをしっかり刻みこむように、決して聞き漏らさせないように。

 

「――でもそんなこと、どうでもいいんだよな。実際、こうしてあんたを目の前にするとすべてがどうでもよくなるよ」

 

 喜劇が終わり、青年は少将に向かって仰向けに手を伸ばした。

青年は笑っていたが、それが表面上のものだということはすぐに分かる。不気味すぎるのだ。大きく横に開いた口元は、ペルソナを被ったピエロそのものに見えた。

 

「質問に答えていない。それとも、答える気がないのか?」

 

「そうだな、答える気なんてさらさらない。というか、俺はあんたと、今から死ぬ人間と話す気なんてさらさらない」

 

 少将の顔色が変わった。向けられた銃口が少将の全神経を捉えられて離さなかった。

 青年の半生は銃であると言っても過言ではない。引き金を引くこと、分解すること、弾倉を切り替えること、そして引き抜き、相手に標準を定めることは息をすることに等しかった。故に銃を向けられるまでの間はほんの一瞬の出来事であり、デスクワークに追われていた少将が反応できるものではない。

 

「き、貴様、私が誰だかわ、がっ……」

 

 一発の弾丸が全てを呑み込んだ。

 サイレンサーをつけていない、ガバメントの銃声は狭い室内で幾度か反響した後、硝煙と共に消えていく。眉間から脳みそを貫いた弾丸は、すぐ後ろに張られたガラス窓に食い込んでようやく止まったようだ。

 デスクの向こうで椅子にもたれかかる少将に、青年は頭部にもう二発、心臓にもう二発撃ちこむ。目標を完全に沈黙させてこそプロだ。少将の体からあふれ出す鮮血が滴り、ゆっくりと床に浸透してゆく。

 

「あっけないな……、こんなものか」

 

 青年は冷めた目で物言わぬ死体を見下した。

 人生であれほど苦しめられた記憶はないというのに、元凶はさして大したことはなかったことに青年はなんだか空虚を感じていた。

 自分の右手を見る。愛銃sw1911が握られていた。今この手で人を殺したという感触が残っている。自分の意志で、自分が殺したのだ。それは久しぶりの感覚だった。

 母親の復讐をした時のものとはまた違ったが、自分の中に僅かな充実感があることに気が付く――そして、それと同時に大きな“穴”が出来たことにも。

 

――帰ろう……

 

 自然にその言葉が浮かんだ。

 愛銃を懐にしまう――復讐は終わったのだ。

 

「終夜……?」

 

 どうして気が付かなかったのだろうか。いつもの彼なら、いつもの暁終夜なら気配を察することが出来たはずなのに。

 

「なに、してるの? 今、銃声みたいな音がして、それで――」

 

 青年が振り向いた先にある出口に、一人の執務官が立ち尽くしていた。

 通路の向こう側に広がる炎の海が生む熱風が、彼女の肩にかかる漆黒のマントを羽のように羽ばたかせている。金色の長い髪をツインテールに纏めている彼女は、右手にデバイスである戦斧を携えて、バリアジャケット、戦闘用保護服に身を包んでいた。

 震える瞳が信じられないものを見ていると訴えている。

 

「フェイト……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 聞こえた銃声や奥で倒れている少将の姿、そしているはずのない人物――フェイトの頭の中で何が起こったか、一つのシナリオが出来上がっていた。それは信じたくない物語。認めたくない真実。

 

「なにして、るの? 奥にいる人は、なんで、倒れているの? ねぇ……」

 

 戦斧、バルディッシュを両手で握り直し、おぼつかない言葉で必死に繋ごうとする。喉の奥が絡みつくように乾いていた。

 背中から吹いてくる熱気のせいだろうか、全身がひどく熱くなっている。普段は感じることが出来ない指先の温度まで今は感じることが出来た。

 

「ふう……、大方、本局の人間だけじゃこの大火事に対応できなくて偶々訪れたお前も現場に駆り出されたってところか」

 

 ことを起した本人にとって、その見解は当たり前のものだった。

 終夜は右手で頭をかきながらため息をついた。

 管理局の要人を一人暗殺するというのは、それも本局の中で殺害するというのは容易なことではない。防犯カメラに生体認証、入管履歴――障害がとてつもなく多いのからだ。

 しかし、その諸々の障害を一気にクリアするシチュエーションがある。そのうちの一つが局内から発生する火災だ。サーバールームに近い部分で火種を起せば、クラッキングをシステムトラブルと誤認させることが出来る。後は表ではサーバーをダウンさせているように見せ、裏では管理局本局内の 防衛システムを操る――いわゆるバックドアを仕掛ける。

 終夜が居る部屋にはまだ火は回ってきていなかったが、それも時間の問題だろう。

 

「それにしても現場にかけ着くのが思ったより早いな。流石、閃光の死神、とか言われてるだけある」

 

 犯行現場を目撃されるというのは最悪な状況だが、終夜は全くもって落ち着いていた。それは決して対面する相手が知り合いだからとか、そういうことではない。想定内のトラブルの一つだからだ。

 

「質問に答えて、お願い……じゃないと、私――」

 

「くっくくっ……」

 

 掻き消えてしまいそうな声で、必死に訴えるフェイトをみて終夜は肩を震わせる。

 

「馬鹿か?」

 

 懐から先ほどしまったsw1911を素早く取り出し、そして、何のためらいもなく発砲した。撃ちだされた弾丸が、フェイトの露出した肩をかすめる。終夜の瞳はひどく冷めていた。

 左肩に傷を負って、状況をようやく呑み込んだフェイトが身を引く。入り口に面した壁に背を預け、右手で傷口を抑えた。大した傷ではない、掠っただけだ。ひりひりと痛むがこれからの戦闘に支障はないはずだ。

 

――これからの戦闘? ひどくおかしな言葉だ。私はいったい誰と闘おうというのだろう……?

 

 暁終夜。少し前に自分が保護した男の人で、ハラオウン家の家事を担当していて、高町なのはの幼馴染で、八神はやてのお気に入りの人物で、ちょっとエッチで、でもしっかりしていて、誰にでもやさしい。

 とてもじゃないがフェイトに容赦なく発砲した冷酷な眼をもつ黒髪の青年と同一視など出来ない。

 

「それが正解だな。殺人犯の前で立ち尽くすなんて自殺行為にも程がある」

 

 隠れたフェイトにもう一度発砲する。弾丸は開らかれたドアの縁を撃ち抜き炎が広がる廊下に吸い込まれていった。

 

「――で、どうする? 火が回る前に俺を捕まえないと、めんどくさいことになるぞ?」

 

 終夜がゆっくりと隠れるフェイトに近付いていく。一歩一歩……、ゆっくりと。

 隠れたままで音でしか判断できないフェイトは目を閉じて、覚悟を決める。バルディッシュを胸の前に強く握り、呼吸をおちつかせていく。チャンスは一度きり。

 飛び出すと同時に、魔法弾で弾幕を張ってバインド拘束――頭の中で何度かイメージし終えるとやがてチャンスが訪れた。自分の計画にとって最適なはずの間合い。

 生唾を呑み込んで意を決したその時だ。

 

「――っち!」

 

 部屋の中から終夜の舌打ちをする声が聞こえた。それと同時にフェイトはその場の違和感を肌で察知していた。長く伸びる廊下からは熱風が吹きこんでくるというのに、終夜が居るはずの部屋からは明らかに冷気が漏れていたからだ。

 それはエアコンが部屋を冷やしているというレベルではない。まるで開けられた冷蔵庫からはいずり出てくるように漏れ出した冷気がフェイトの太ももを撫でた。ひんやりとした、はっきりとした冷たさだ。

 

「えっ……?」

 

 気になったフェイトが部屋を覗くと、そこは別世界だった。局地的な氷河期でも訪れたのだろうか。

 部屋が“氷漬け”になっている。それだけではない。床からはいくつもの細い氷の柱が天井に向かって突き刺さり、そのうちの一本が終夜の左腕を貫いていた。白銀が入り混じった透明度の高い氷の柱を、一筋の赤い血が伝い落ちていく。

 

『テスタロッサ執務官、よく見つけた――』

 

 デバイスのバルデッシュを通じて通信が入った。“sound only”と書かれた通信用電子パネルを見ながら、覚えのある声にフェイトは思わずつぶやく。

 

「ランケア三等陸佐?」

 

 どこにいるのかわからない自分の上司にフェイトは戸惑う。

辺りを見回してみるがそれらしい人影はなく。見えるのは自分の後ろに少しずつ迫っている炎、そして目の前に立っている左手を怪我した終夜だけだ。

 

『――あとは俺に任せてもらおう』

 

 その通信とほぼ同時だった。

 部屋に張られていた身の丈三メートルの窓ガラスが跡形もなく消し飛び、激しい音をまき散らした。普段では防犯上そう簡単に割れる代物ではないが、今は防犯システムがシャットダウンして対魔法、対物理障壁が解けている。つまり、今は普通の防弾ガラスと同じ強度となっていた。防弾ガラスはガラスの破片が巻き散りにくいだけで、強度が高いわけではない。いち早く反応した終夜は身を低くして、大きな机を壁にガラスの破片から身を守った。

 戦闘は急激に加速を始める。

 

 

 

 




なんというか、これは悪い癖なんですが、一番書きたいシーンがどうしても長くなってしまします。

それ故にgdgdになってしまっているかも……と少しばかり不安な作者です。

そういえば、気になっているのですが、「」(セリフ)がほかの行にまたがるとき、普通改行しますよね。PCだとそれができなくて少し残念です。今回は長い台詞がちらほらあるので、すこし読みにくいかもしれません。
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