魔法少女リリカルなのは Another   作:Avell

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第四話(前編)

 

 

 

◆◇ 4 ◆◇

 

 

 

 

床に叩き付けられたお茶碗は、焼き物とは思えない高い音を出した。事件の加害者はフェイト・T・ハラオウン、被害者は暁終夜のお茶碗――負傷レベル5、破片は散り散りになり、修復はほぼ不可能だ。

 

「あ……」

 

 粉砕したお茶碗を挟んで向こうにいる終夜の顔をフェイトが見上げた。しばらく見つめあう二人。

 

「えへへ」

 

「こら、可愛いからって、笑ってごまかせると思うなよ」

 

「ごめんなさい」

 

 フェイトは態度を変えて平謝りをした。

「動くなよ」と言付けた終夜は、どこからか箒と塵取りを持ってきた。そう言われた以上フェイトに出来ることは、申し訳なさそうに片付けの様子を見守ることくらいだ。

 

「破片、もうないと思うけど、一応裸足で歩くのはやめとけ」

 

「う、うん」

 

 終夜はあらかじめ用意しておいたビニール袋にお茶碗の破片を入れる。フェイトが食器を壊すのは偶にあるので慣れた手つきだ。

 当人、フェイトは俯いて非常に申し訳なさそうにしている。

 

「仕事で疲れてるなら、手伝わなくたっていいぞ。これくらい俺一人でもなんとか出来るからな」

 

「ごめん……」

 

 そう言って肩を落とすフェイトに終夜は思わずため息をつく。

 

「謝るなよ、そういうときは『ありがとう』だろうが」

 

「え、あ……、ありがとう」

 

「――っ……」

 

 素直すぎるフェイトの言葉に、言わせた終夜もつい顔を逸らしてしまう。照れているのだろう。

 自分のした行動に思わずフェイトも赤面する。その様子を横目で見ていた終夜は、フェイトの頭を撫でようと手を伸ばしたが……一瞬で引っ込めた。

 

「なんや、ばれてしもうたんか?」

 

 ダイニングルームに独特の訛りを持った声が響く。

 廊下越しに一人の少女が顔を覗かせていた。ボブカットした茶色の前髪が愉しそうに揺れている。

八神はやて――管理局本局所属特別監査官三等陸佐、オーバーSランク、ロストロギア『夜天の書』の保持者、レアスキルホルダー……、彼女に関して説明しようとすれば余白が足りないだろう。

しかし、終夜の目の前に現れた八神はやては無垢な笑顔をみせるごく普通の14歳の少女だった。つい数年前まで車椅子に乗っていた人間とは思えない活発さを醸し出している。

 

――こいつ! どこから見てやがった!!

 

 反射的に拳を固めた終夜だったが、はやての後ろに立っている人物を見て思いとどまった。

 

「すまない、こういう時の主の感は鋭くてな……、インターホンを押さずに合鍵を使っておじゃましたのだ」

 

 ピンクの髪をポニーテールにしてまとめている背の高い女性はシグナムだ。私服なのにロングコートを着ているシグナムは八神はやてを守護する騎士の一人だ。守護騎士――ヴォルケンリッター――は四人いるが、シグナムはその中でもずば抜けて歴戦を重ねている。その精悍な顔つきからどれだけの修羅場を乗り越えてきたかくらいは終夜にも分かった。あまり関わりたくない人物の一人でもある。

 

「『おじゃました』って、くくっ、シグナムもうまいこと言うなぁ~」

 

「い、いえ、私はそういう意味で言ったわけでは! すまない、テスタロッサ」

 

――おい、なんでフェイトにあやまるんだよ、俺に失礼だろうが、俺に

 

 茶化すはやてにその場を取り繕うとするシグナム。微笑むフェイトが終夜のほうをチラッと目配らせた。フェイトの意図が全くつかめなかったが頬を引きつらせながらなんとか笑顔を返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまなかったな」

 

 ソファーに座って本を読んでいると、シグナムが横に腰を下ろした。終夜は本を開いたまま、「何が……?」と返した。

 

「その調子だから主はやてに茶化されるのだ……」

 

 ため息をつくシグナムに終夜は理解をした様子を見せない。

 ふと、シグナムは終夜の読んでいる本が気になった――この底を見せない、一見悠長に見える青年は一体どのような本を読んでいるのか、と。

 読書をすることで人は賢くなりもするがその反対もあり得る。読書とは、活字を介して作者と言う人の考えに触れ、生き方に触れるということだからだ。

 

「いいんだよ、俺はそういうポジションが嫌いじゃない――ってか、覗こうとするな、見たけりゃ見せてやるよ」

 

 シグナムの視線を感じ取った終夜は本を閉じてから返答した。『死んでからやってみたいこと』――シグナムに差し出された本のタイトルは奇妙なものだった。

 

「お前という奴は……、どうしたらこんな本を買おうと思えるんだ」

 

「おいおい、それ今期のSF大賞だぜ。馬鹿にするくらいなら読んでみろって」

 

 終夜は様々なジャンルの書物に手を出している。ファンタジーのような飛び抜けた物語も、リアルさを追求したSFも楽しんで読める。ミッドチルダ以外の共通語もいくつか知っているので原書を読むことだってあった。

 

「いや、返そう。私は人の趣味に合わせるとこはしないのでな」

 

「あぁ……、そう?」

 

 突き返された本を終夜は残念そうに受け取った。誰しも自分の嗜好を楽しんでもらいたい時があるのだ。

 

「私はお前がよくわからない、が知ろうとは思わない」

 

 肩をすくめる終夜を見て少し悪いことをしたと思ったシグナムは、自分の心情を素直に吐き出した。

 

「おいおい、他人を知るのは大事なことだぞー」

 

「……いや、もしかしたらあまり知りたくはないのかもしれないな」

 

 気にしてませんよー、と言いたげな態度で気軽に返す終夜に対して、独り言のようにつぶやいたシグナムの言葉は言いえて妙だった。

 

「お前は主が心を許せる数少ない人物の一人だ。初めて会った時の台詞を覚えているか?」

 

「え……俺なんか言ったっけ?」

 

「まぁ、覚えていないならいい。ああして主が楽しんでいられるはお前のおかげでもあるからな」

 

 リビングから覗けるダイニングルームではやてはフェイトと昼食の準備をしている。はやてがハラオウン家に来るとこういうことがよくあるので、終夜にとっては見慣れた風景だった。

 得意なはやてが未熟なフェイトに指導しつつ料理は完成に向かっていく。そこはかとなくいい匂いがリビングまで漂ってきた、もう少しで出来るのだろう。

 

「俺なんか大したことないだろ、はやてを救ったのは、なのはやフェイト、それからお前らだったんだろ?」

 

「そうだな……、しかし些細な日々の積み重ねが幸せと言うなら、お前のやっていることは――」

 

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