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青年のテンションは最高に近かった。
――もう少しでたどり着ける……、もう少しだ!
愛銃sw1911のハンマーを起し安全装置をかけて、いつでも撃てる状態にしておく。
銃弾は、弾身と薬莢で構成されている。発射用の火薬と信管がセットになっているのが薬莢だ。薬莢の底をハンマーが叩くと弾身が飛び出す。これがいわゆる弾丸と言うものだ。
sw1911は引き金を引けば弾が出るというダブルアクションと言われるものと違い、初弾は銃の後部についているハンマーを起さなければいけない。これをシングルアクションと言う。
終夜が身を隠しているのは目標の建物から少し離れた木陰だ。
今はトラップや人感センサーが密集した森を抜けて、突入するタイミングを計っているところだ。見張りが二人――完全武装した魔導警備隊が施設の入り口を固めている。
侵入しようとしている施設の背はそれほど高くない。ガラス張りになったドーム状の屋根が見えるがあれが全体ではないだろう。一見無防備に見えるが、ガラスには対物理、対魔法障壁がかけられている。青年はそれをすでに手持ちの特殊なスコープで確認していた。上空からの侵入は不可能といってもいい。
元々こう言う事態を想定していた青年は、慣れ親しんだ方法で施設に潜り込むことにした。上空からの侵入や、正面からの強行突破は青年の領分ではないし、それに今の青年には資金も装備も、そしてなにより情報が足りない。
「行くか……」
青年の格好はいつもと全く違った。
白衣に腕を通し、胸にはIDカードをかけている。慎重な彼は眼鏡をかけて出来る限りの変装もしておく。侵入に必要だったものはここから帰ろうとしていた研究員を拉致し……――そこからは察してほしい。
「おつかれー」
青年は入口を何食わぬ顔で通り抜ける。頭を下げる警備隊を内心で嘲笑しながら施設に入った。
この施設の防犯レベルはそれほど高くない。IDカードさえ持っていれば変装する必要もないし、網膜認証つまり生体認証もない。もっともこのことは襲われた研究員の不幸中の幸いとなったわけだが。
――ふぅん……、中身は外から見た感じと一緒だな
施設の中は実にシンプルだった。人影はない。あるのは左右に行儀よく並ぶ8つのエレベーターだけだった。
IDカードをエレベーターの近くにあったセンサーにかざすと、迎えはすぐにやってきた。
目の前の、扉が開いた無人のエレベーターに乗リ込む。
何階に行くかはもう決まっていた。一般研究室には用がない彼が押したのは『34』だった。
Gを体全体で受けると、エレベーターが加速して地下に向かっていくのがよくわかる。この施設の全貌は地下にあると言っていいだろう。空に伸ばすよりも地面を掘った方が、実験中の爆発や侵入者に対応しやすいからだ。
こういった施設のエレベーターには防犯カメラがつきものだ。
斜め上、密室の角に設置されている防犯カメラを見つけると、さりげなくそちらに背を向ける。
エレベーターが止まった。
青年が瞬時に振り返り、防犯カメラを愛銃で撃ち抜いた。
これで完全にばれただろうが関係はない。
白衣を脱いでいつのも黒い服装になった青年は、エレベーターから出る前に懐から取り出した太いガムテープで入り口を抑えた。エレベーターを他の階に昇降させないためだ。
地下34階に通じているのがこのエレベーターだけ、と言うのは白衣を奪った研究員からすでに聞いていた。
警備隊もしばらくは来ることが出来ないだろう。
「さてと……、やりますか」
sw1911を両手で構え直し、黒髪黒眼の青年はさらに奥に進んでいく。
真実を見つけるために、復讐を果たすために――。
――log-out……