魔法少女リリカルなのは Another   作:Avell

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第五話

 

◆◇ 5 ◇◆

 

 

 

 

 

 青年は色々なものを失ってきた。

 まず失ったのは母親だ。

 

 

 

 

 

 彼がまだ幼く、地球と言う管理外世界に住んでいた時のとこだ。女手一つで育ててくれた立派な母親が自分の目の前で刺殺された。

 夕食の買い物が終わり彼と母親は大通りを歩いていた。材料が詰め込まれた袋を覗いで彼は夕食の予想をしたり、学校でおきた些細な事柄や、近所の女の子の話をしていた。いつもと変わらない土曜の夕暮れだった――いや、そのはずだった。

 母親が道の真ん中で不意に立ち止まった。異変が起きたのはそれとほぼ同時だった。周囲に溢れていた人々の姿が突然消え、白服の集団に囲まれていた。今まで人ごみに紛れていたのだろうか、彼には分からなかった。白服達は被っているフードから、履いている靴まですべて白色で統一していた。

ローブのように余裕がある袖からキラリと光る何かが飛び出した。今から思えばそれはナイフだったんだろう、と思う。

白服達がその場から助走もなしに飛びかかってきた。母親はそれが分かっていたかのように、彼をかばうようにして抱きしめる。ナイフは止まらない。

 彼の目の前で母親が滅多刺しにされた。零れる鮮血をかぶりながら、彼は母親の胸の中で何もできずに立ち尽くしていた。かばっていた母親が彼に何かを囁きながら崩れる。

 次は自分が死ぬ番だ――幼いながらも少年はそれを理解していた。

 迫ってくる白服達に彼は声さえ出すことが出来ない。

 彼は後悔していた。こんなことなら近所に住んでいる剣術家の鍛錬を断らければよかった、と――今の彼からすればそれは馬鹿らしいことで、仮に習っていたとしても白服達には敵いっこなかっただろうというのは重々承知している。

 ナイフの矛先が彼に向いた。ゆっくり近づいてくるというのに、恐怖から目を逸らすことすらできない。呼吸が急激に浅くなり、持っていた買い物袋が手からずれ落ちる。

 次の瞬間、銃声が響いて白服達の動きが止まった。

 少年の真後ろまで迫っていた白服が頭を吹き飛ばされてひっくり返る。けたたましい銃声が響き、白服達がいとも簡単にはじけていく。少年は白服達の間からガリルARM(アサルトライフルマジンガン)を構える青年を見た。夕日を背にして黒い服を着ているせいか、青年の背中から黒いオーラのようなものが立ち上がっているように見えた。

 白服の一人が少年の胸をナイフで切り裂いた。それを合図にしたかのように撃たれていない白服達が一気に散る。空中に飛んだ白服達を、黒服の青年が丁寧に撃ち落していく。それでも全員は捉えることが出来ず、何人かはビルの陰の向こうに消えていった。

 

 

 

 

 裂かれた胸が痛い――母親の血の海に倒れ込んだ少年は、眠るように気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぁ……」

 

――寝てたのか……

 

 ハラオウン家のソファーで暁終夜は目を覚ました。悪夢でも見ていたのだろうか、頬を涙が伝っている。

 リビングで一人横たわっていた終夜が壁にかかっている時計を見ると、約束の時間が近づいていることに気がついた。

 

「やべ……」

 

 もう少し起きるのが遅ければ完全に寝過ごすところだった。終夜は基本的に時間に厳密な人間だ。よっぽどのことがない限り、約束の時間というやつは守るようにしている。

 ソファーからあわてて起き上がり、近くの机に置いてあった腕時計をはめる。ベランダの鍵、ガスの元栓、電気の消し忘れがないことをしっかり確認して終夜は、玄関に急いだ。

 茶色い革のスニーカーを手早く履いていると、タイミングよくエンジンの音が聞こえてきた。

 

「お、ちょうどいいな」

 

 外に出ると高町士郎が出迎えてくれた。笑顔のせいか、今日も翠屋の店長は若く見える。

 ハラオウン家の前には一台のワゴン車が止まっていて、終夜と士郎以外の全員が既に搭乗していた。

 間に合ってよかった、そう心ではい思っても顔には出さない。終夜も笑顔で士郎と挨拶を交わした。

 

「おー、久しぶりだね。終夜君」

 

 ワゴン車に乗り込んで初めに声をかけてきたのは高町家長女の高町美由希だった。

 茶髪を後ろで三つ編みにしている大学生、年齢は終夜より三つ上で、縁の細い丸眼鏡をかけている。クロノに聞いたところ、彼の幼馴染みであるエイミィと気が合うようだ。年齢が近いこともあるのだろう。

 エイミィというのはクロノと同じ現場て働く管理局員の一人のことだが、ここでは割愛させてもらうとしよう。

 士郎が運転席に乗り込むと間もなく車が動き出した。

 

「そういえば、最近翠屋でバイト始めたんだって? ごめんね、大学忙しくて会えなくて」

 

 顔の前で両手を合わせる美由希はどこか可愛らしく、数年後のなのはを彷彿させた。

 

「そんなことないですよ、士郎さんと桃子さんにはよくしてもらっています」

 

 運転している士郎が「しっかりしていてくれて助かる」と笑う。

 高町家が向かっているのはとある温泉宿だ。

 終夜がこうして高町家に誘われて外出することは少なくない。今日、フェイトは仕事の都合で来られないが、向こうに着けば八神一家が待っている。終夜はいつものように自分のバイクでいけばいいと思っていたのだが、ついてだからと言うことで拾ってもらったのだ。

 正直言うと、こうやって運んでくれるのはありがたいし、終夜自身も楽しい。

 だが、恭也に嫌われていると勝手に思っている終夜は、自分がいると空気を悪くしてしまうのではないかと懸念していたのだ。

 

 ――今だってなぁ……

 

 そう思い、さりげなく後部座席を覗き見る。

 なのはの兄である恭也は、終夜達の後ろの席に彼女の月村忍と言う女性と一緒に座っている。腕を組んで目を閉じているあたり、終夜は未だ歓迎されていないようにみえた。

 

 ――えっ……?

 

 紫色という独特の髪の色を持つ忍は、終夜の視線に気付くと人差し指を口元に立てた。大人びたそのしぐさに少しドキッとしたのは終夜だけの秘密だ。どうやら、歓迎をしてくれていないわけではなく、恭也は本当に寝てしまっているようだ。

 そんなわけで、終夜と同じ席に座っているのはなのはと美由希である。美由紀は窓側にすわっていてドア側が終夜なので、必然的になのはを挟む形になる。

 

「そう言えば、なのはも翠屋を手伝ったりするのか?」

 

 この前バイトに入った時は会わなかったので、何となく話題を振ってみた。

 

「え? そ、そうだね、うん、時々手伝うかな」

 

 なんだかしどろもどろの応え方である。美由希はそんななのはの様子を見て納得したように微笑んだ。助手席に座っている桃子も上品に笑っている。

 

「厨房には入れれないけどね~」

 

「え?」

 

 美由希の言葉がどういう意味かと聞く必要もなく、その真意を終夜はすぐに理解できてしまった。

 

「お姉ちゃんよりはましだよ!」

 

 顔を赤くして言ったなのはの言葉に美由希も黙ってはいなかった。

 

「む、言うようになったね、なのは」

 

 なのはと美由希でどちらが料理が下手なのかと言う口論が始まってしまったので、二人に意見を求められるたびに苦笑いをして「どうだろうなー」と答えることしか出来ない終夜だった。

 

――どちらの料理が上手いか、じゃないわけね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 月が空を見下ろしている。水面から湧き出る湯気が体と一緒に思考も和ませる。少し鼻に着く匂いは硫黄だろう。温泉に入る前の立て看板に湯の成分や効能が細かく書かれていたのを終夜は思い出した。

 温泉宿に着いた終夜と高町家は先についていた八神家と合流した。到着したのは昼過ぎだったので、なんだかんだしている内にみんな風呂に入る形となっていた。

 この宿に訪れるのが初めてだった終夜は、少し散歩をして時間をつぶしていた。途中までは一緒だったなのはやはやて、ヴォルケンリッターの面々も、女子が多いからか、散策は早めに切り上げていた。残された終夜と八神はやての守護獣であるザフィーラはそれほど仲が悪いわけではない。宿の周辺を二人で一時間ほど回ったのであった。因みにこの時ザフィーラは子犬形態で、そう彼はアルフと同じように体を小型化できるのであった。

 しかし、ここはペット禁制の温泉。結局、士郎や恭也と入りそびれた終夜はこうして夕食前に一人で入っているのであった。

 

「ま、静かでいいかもな……」

 

 開き直っていた。

 岩で縁取られている温泉の囲いに背を任せ、終夜は目を閉じた。のぼせているのではない。ハラオウン家の風呂も小さくはない、むしろ一般家庭にしては大きいほうだ。けれどこの温泉に比べたら小さいと言わざるをおえない。日本好きのリンディが温泉について話しているのを聞いて終夜は前から気になっていたのだ。

もしかしたら、裏で高町家と結託しているのかもしれない――などと幸せ気分を堪能しつつ考えていると、風呂場に誰かが入ってきた。

 

――士郎さんか……?

 

 目を開けて音のした入り口の方を見てみるが、湯気で視界があいまいになっていて、入り口から遠いところにいる終夜には誰か判断できない。こちらに近づいてきているようだが、終夜はあまり関心を示さなかった。

 

――まぁ、誰でもいいか

 

 「ふぅ……」と息を吐き出してもう一度目をつぶる。

もう少ししたら出よう、このままでは寝てしまうかもしれない――かなり満喫している終夜であった。

 

「めづらしいなぁ~、終夜さんがそんなにくつろいでいるのも」

 

「そうか……、って、あ?」

 

 バリバリ関西系のイントネーションに、再び目を開けた終夜は冷や汗を垂らした――温泉に入っているのにだ。

 

「ええんよ、主夫にも休息は必要やもんなー」

 

「……八神? 俺は別に主夫じゃない、なんてことはどうでもいい。なんでお前がここにいるんだ!」

 

 湯気が立っているとはいえ、近づけば誰が誰だかはよく分かる。湯に浸かっている終夜の目の前にはタオルを体に巻いた八神はやてが立っていた。

 湯に浸かりながら近くに置いてあったタオルを目に見えぬ速さで腰に巻く終夜、それを見ていたはやては感心したように口笛を吹いた。

 

「温泉でそれはマナー違反や」

 

「だ・ま・れ。そういうお前だってタオル巻いてるじゃないか」

 

「ほなら、タオル取れというんか?」

 

 この時の心情を終夜の代わりに代弁するなら、「中学生の裸を見たところで俺は興奮するのだろうか、というかそれ以前に俺がシグナムやヴィータに殺される気がしてならない」――つまり、ハイリスク、ローリターンであった。

 改めてはやてを見る。中学生にしてはいいスタイルなのではないだろうか、タオル越しに見てもはやての体はよく出来ていた。それに八神はやては一般的に見れば可愛い部類に簡単に入るルックスを持っている。終夜の守備範囲ではなかったが、少なくともローリターンは過小評価だろう。

 

「いや、それはマジ勘弁してください、――というか誰か入ってきたらどうするんだよ!」

 

「まぁ、終夜さんが取れと言うなら逆らえへんなぁ~」

 

 ガン無視である。

 中腰になり両手を腰に当てているはやてが、頬を釣り上げて終夜に迫る。はやては上半身を突き出すような格好になっているので、終夜の視界には自然とタオルの隙間から覗いたはやての谷間が映っていた。

 

「ちいさいな……」

 

 思わずなだらかな丘に感想を述べてしまった。

 

「ちっぱい言うな! タオルのせいや!!」

 

 切れたはやてがタオルを取り払った。ぶわっ、とまるでマントを脱ぎ捨てるように。あまりの突然さに終夜は何も反応出来なかった。

 それでもせめて体裁くらいは守らねばと思った終夜は、はやてから顔を背けようとして、止めた。

 

「くっくっく……、残念でした。私はそんなに安い女やないんよ~」

 

「……それ反則じゃね?」

 

 水着を着ていた。それも中学で支給されるスクール水着ではなく、おそらく自前の白いビキニの水着だった。

 

「背中流してあげようかなぁ、と思って」

 

「いや、もうなんか疲れたんで出るわ……」

 

 くったいない笑顔のはやてをよそに、終夜は大きなため息をついて立ち上がった。少し前まで慌てふためいていた自分をなぐってやりたい、終夜の心境はそんなところだった。

 

「むー」

 

 動揺する終夜を見れたことに満足する反面、少し納得出来ない風に頬を膨らませた。終夜の傷だらけの背中を見送りながら、ゆっくりと温泉に浸かる。

 外に清掃中と言う看板を出しておいたのでそれほどあわてる必要もないだろう。なにより水着だし。

 八神はやては暁終夜のことを気に入っている。それがはたしてLIKEなのかLOVEなのかは本人にもいまいちよく分からない。初めて会った時に言われたことはよく覚えているし、終夜といると楽しいのは本当だ。でもそれがそういう感情なのか自分でも整理できていないみたいだった。

 

「まぁ、ええか」

 

 まだ中学生なのだから――そうつぶやいてもう少しだけ温泉に浸かることにした。

 

 

 

 

――log-out……

 




少しシーンが飛び飛びかな、と毎回書いていると思います。

実際どうなんでしょう。

しかし、このサイトお気に入りの機能なんてあったんだ……、今まで知らなかった。
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