魔法少女リリカルなのは Another   作:Avell

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第七話

 青年はかつて銃を捨てようと思ったことがあった。

 

 いや、事実、一度捨てた。

 

 自分の母親を殺した集団を壊滅させ、組織自体を破壊した彼に残ったのは、言いようがない喪失感だった。

 

 復讐と言うヤツは確かに何の意味もないな――心底そう思い知らされた。

 

 彼に殺人の技術を叩き込んだ男は言った――勝手にしろ、自分の人生くらい自分で決めろ。

 

 女は言った――そうか、止めるか……、なに心配するな。お前がいなくなったくらいで、この組織は潰れんよ。

 

 彼の腕に抱かれながら少女は言った――戦って、戦って本当に私たちがやっていることに意味なんてあるのかな?

 

 

 

 

 これは戦い終えた男の終幕(エピローグ)――これは男が再び銃を握る序章(プロローグ)

 

 

 

 

 

◆◇ 7 ◇◆

 

 

 

 

 

 休み時間に受付に呼び出された八神はやては、ありえない光景を目にしていた。彼女が管理局に入って5年、他の局員と比べたら少ない勤務時間かもしれないがそれでもこんな場面に出くわすことは稀だろうと自負できる。

 

「なに捕まってるんや……」

 

 局員に両手を前でがっちりとバインドされた終夜を見てため息交じりに吐き出した。

 

「いや~、何度説明しても信じてくれないんだよ、助けて」

 

 八神はやては若いとはいえ三等陸佐だ。彼女が勘弁してくれと言うと、一般局員は言うことを聞くしかない。終夜は解放された手首をさすりながら、没収されていた小包を一般管理局(男)から受け取った。

 

「――で、何しに来たん?」

 

 はやては入行許可証に記載するためのボールペンを手元でクルクル回しながら尋ねた。

 

「いや、ちょっと忘れ物を届けに来ただけ。すぐに帰るよ」

 

 珍しいものでも見るように辺りをきょろきょろしていた終夜が、黒い風呂敷で包まれた小包を持ち上げてはやてに見せる。

 

「お弁当……、フェイトちゃんに会いに来たんか」

 

 終夜と会話しつつも慣れた手つきで用紙の空欄を埋めていく。日々追ってくる書類もこのくらい単純ならと思う。

 

「八神がフェイトと会う予定があるなら預けてもいいんだけど」

 

「届けるころに空になってても良いなら」

 

 記入が終わって終夜に向き直ったはやてだったが視線は弁当に向かっていた。ほのかに匂いが漏れているのだろう。恨めしそうに見るはやてから終夜は弁当をさっと遠ざけた。

 

「……やっぱり自分で届けに行くわ」

 

「ほな、このプレート胸につけてな。えっと、フェイトちゃんは多分五階にいると思うから」

 

 今度自分にも弁当持ってくる等に言付けたはやては、『来賓者』と大きく書かれたプレートを終夜に渡す。

フェイトは最近追ってる事件が長引いているせいでずっと捜査本部に駆り出されているとのことだ。最近はフェイトの帰りが遅いのでクロノと夕飯を食べることが多い終夜からしたら、仕事に恨みを持つのはしかたないことだった。男二人で飯を食べるより、可愛い女の子と食べた方がいいに決まっているからだ。

 あわただしく廊下を行き来する管理局員を見るたびに、絶対にここでは働きたくないと思う――右手が一瞬鈍く痛む。ここにいる人たちは組織の歯車で、でもいくらでも替えが効く人達が多い。自分にしか出来ないとか、自分は特別だなんて思うとひどく裏切られることを終夜はよく知っていた。誰もが自分の人生の主人公かもしれないが、それは誰も主人公でないと言っているのと同じだ。

 

「終夜じゃねぇか」

 

 どこから現れたのか、赤髪の少女が周りと同じ制服を着て書類を脇に抱えていた。三つ編みにした髪に、終夜の胸辺りまでにも達しない身長――どう見ても子供だ。目つきが鋭く、いつも笑顔を心得ている終夜とは雰囲気が全く違った。

 

「しっかり仕事してるんだな……」

 

 赤髪の女の子が抱えていた書類を見下ろして終夜は意外といった声を上げた。ヴィータはその言葉が気に入らなかったらしく眼を細くして睨んだ。

 

「あ? 万年ニートのお前に言われる筋合いないな」

 

「ヴィータ、俺だってやるときはやるんだ」

 

「そう言ってる奴に限って何にも出来ないんだよ……はやてが言ってた」

 

 鼻で笑って言い返してしたり顔のヴィータに終夜は反論をあきらめる。

 

「へいへい、俺はお使い程度が限界ですよ」

 

 ヴィータはシグナムと同じ八神はやての騎士、ヴォルケンリッターの一人だ。可愛らしい外見とかけ離れた二つ名を持つ彼女は、シグナムと同じ空気を醸し出している。終夜は、シグナムほどではないがこの少女ともあまり一対一の時には接触したくなかった。

 特に一人で行動したいと思っている日に限っては――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 鼻歌交じりで捜査本部に戻ってくると、頭を抱えたランケアがいた。

フェイトの記憶が正しければランケアは上層部の一人に何やらかけ合って行っていたはずだった。捜査本部は昼時も相まって人影が少ないことが多いが、おそらく空気に当てられみんな耐え切れなくなって出て行ったのだろう。

 

――うわー、話しかけたくない……

 

 フェイトも逃げて行った他の捜査員同様ランケアに近づこうとはしなかった。むしろ後ずさりをしている。

ランケアの周囲1メートルが地雷原に見える。机に肘をつきながら頭を抱えているので顔が見えないが、見えないせいで余計近寄りがたい。

 

「なんだ、テスタロッサか、そんなところに立ってないで入って来たらどうだ?」

 

 しまった、声かけられた……、声には出さないがフェイトの表情がそう物語っていた。「はい……」と小さく返事をして部屋に並べられた机の一番後ろに向かおうとする。そうは言っても広くない部屋だ。フェイトとランケアの距離はそれほど遠くない。

 

「なぁ、なんで上はあんなに頭が固いんだろうな……」

 

「え? な、なんででしょうね?」

 

 無難な返事を返したつもりだったが、フェイトは失敗したと悟る。そもそもこの部屋に入ってきたこと自体が間違いなのだから。

 ゆらり、とランケアが自分の席、つまり最前列で唯一反対を向いている机から離れる。そしてフェイトに向かってゆっくり近づいてくる。

 

「弁当か……、お前嫁でもいるのか? 噂になってる教導科の高町か?」

 

 フェイトとなのはが幼馴染で仲がいいことは管理局で少し有名な話だ。二人の天才少女が一度に二人も入ってきたのだ。スキャンダルやそちら方面のことに疎いランケアの耳にも届いていた。

 

「ち、違います! なのはは友人だけど、そんなんじゃありません!」

 

 図らずもフェイト自身その噂を耳にすることもあったので、ここはしかっり否定しておく。友人の高町なのはと決めたことだった。

 このままじゃ、二人とも彼氏出来ないで――そう言ったもう一人の友人である八神はやての声がすぐそばで聞こえてくる気がした。

 

「じゃあ誰からだよ、明らかに手作り感バリバリじゃねぇか」

 

「う、それは、それよりどうしたんですか?」

 

 居候している暁終夜からだと言えばいいのだがなんだかはばかられた。これ以上追及されるとなんだか、嫌な予感がしたのでフェイトは話題のベクトルを無理やり曲げた。

 

「ちょっとな……」

 

 容疑者を尋問するような嬉々とした態度から肩をすくめるランケアに、フェイトも違和感を覚えた。どこか迷っているようにも見える。

一息ついてランケアはフェイトを見据えてこう言った。

 

「なぁ、テスタロッサ、お前この仕事好きか?」

 

 差し込む太陽の光がランケアの寂しそうな顔を照らす。いつもの睨み付けただけで人を殺せそうな眼力はそこにはない。フェイトにとってその表情はとても新鮮だった。

 

「どうして、突然そんなこと?」

 

「好きか?」

 

「え……、その、好きです」

 

 有無を言わさない最後の一押しに、フェイトもランケアを正面から見据えて正直に答えた。ランケアの底が見えない瞳に自分が映っている。思わず口をきつく結んでしまった。

 

「なら、お前はこの事件のことは忘れろ。好きでいたいなら、これ以上先は見るべきじゃない。他の奴らにも同じこと聞いて、結果、この捜査本部を――解散することに決めた。お前はよくやってくれた。次の事件はもう少しまともな上司の下で働けるといいな」

 

 冴えないブラックジョークはランケアが言うと妙に似合って、似合いすぎていた。

 

 

 

 

 

――log-out……

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