モンスターハンター ~狩人ノ手記~   作:活字の嵐

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 どうもこんばんは。三か月(!)も投稿をさぼった活字の嵐です。
 先月まで社会の波に吞まれ、社畜同然の生活を送っていましたが、何とか生還しました…!
 今回は終雨さんのモンハン小説、『そのハンター、中二病である』とのコラボ回(全三話予定)をお送りします!
 この作品を続けていられるのも、読者の皆様の応援や感想、評価があるからです。これからもよろしくお願いします(*^-^*)
 それでは、待望のコラボ回をどうぞ!


【コラボ回】 #1魔法使いに会った日(前編)

 「なあ、魔法ってあると思うか?」

 部屋のベッドに横たわった俺は、何の気なしに問いかけた。

 「急にどうしたにゃ、レツさん?」

 ややあって、声が返ってくる。エドが不在の今、その声の主は一人――いや、一匹しかありえない。

 声のした方に顔を向けると、読みかけの本を開いて床に座っているジルと目が合った。 

 「いや…昔、不思議なことがあってさ。そのことを少し思い出したんだよ」

 「にゃ…?」

 俺はベッドから上半身を起こすと、その縁に腰かけた。床に座ったままのジルが、見上げるような恰好で、不思議そうにこちらを見る。

 「にわかには信じられない話だと思うけど、聞きたいか?」

 俺のその問いに、ジルは少し戸惑いながらも頷いた。自分でもわかるほどに、俺の表情が自然とほころぶ。

 「よし、じゃあ話すぞ…」

 そう前置きして、俺はまた思い出話を語り始める―

 

     *     *     *

 

 「ふ…ついてないな…」

 とある一軒家の軒下で、びしょ濡れの髪をかき上げながら、少女は一人ぼやいた。

 彼女のいる場所から一歩先、手を伸ばせば届きそうなほど近くの、ひさしの外に広がっている風景は、一面どしゃ降りの雨だった。

 「私ともあろうものが、まさか傘を忘れてくるとは……」

 傍から見ればかなり『痛い』口調でそう言った後、少女は空を見上げる。

 「早く止まないかなぁ…」

 が、彼女の期待も空しく、一面の曇天から降る雨は、いっこうに止む様子を見せない。

 「はぁ……」

 「どうしたのにゃ?」

 少女の背後から、不意に声がした。

 「うわぁっ!?」

 少女が驚いて振り返ると、家の戸口に一匹のアイルーがいた。ふさふさの青白い毛並みが目を引く、可愛らしいアイルーだ。

 「もしかして、雨宿りしてるのにゃ?」

 「な、何を言う!わたしに限ってそんなことはあるはずがない!」

 先ほどと何ら変わらない口調で放たれた少女のその返答に、アイルーは驚いたように目を丸くした。いや、正確には彼女の口調にという方が正しいかもしれない。

 「…じゃ、旦那さんの家で何してるにゃ?」

 驚きながらも、アイルーはなおも彼女に問いかける。

 「そ、それは……」

 少女は慌ててそれらしい理由を探そうとするが、なかなか思いつかないのか、冷や汗をかくばかりだった。

 アイルーは怪訝そうな顔で彼女の方を見ている。

 「…そ、そう!堕天使の声を聞いていたのだよ!」

 苦し紛れに放ったのであろう少女のその言葉を聞いた瞬間、アイルーは何とも形容しがたい表情を浮かべた。

 「にゃ、にゃるほど…それはお邪魔しましたにゃあ……」    

 若干ひきつったような笑顔で言うと、アイルーは家の中に入り、そっとドアを閉じた。 

 少女はただ一人、ぽつんと外に取り残された。

 「え…?ちょっ!?待って!」

 慌てて少女が言うと、ドアがほんの数センチほど開き、その隙間からさっきのアイルーが顔を覗かせた。

 「な、何にゃ…?」

 「…すみません、雨宿りさせて下さい!」 

 そう頼む少女の口調からは、先ほどまでの『痛い』ものはすっかり消えていた。

    

     *     *     *

 

 ガタガタと激しく揺れる荷車の上で目を覚ました時、俺の中にあったのはどこにもやりきれない気持ちだった。

 ――俺がどんなにあがいたとしても、『あいつ』には追い付けないのではないか―

 うつぶせになったままそんなことを考えていた矢先、荷車の床が突如傾いた。

 その結果、俺は荷車から転げ落ち、したたかに地面に体をぶつける。体に走る鈍痛は、俺がまだ生きていることを雄弁に物語っていた。

 倒れたまま、俺は顔だけを向けて、運ばれてきたのであろう方角を見てみる。二匹のアイルーが荷車を押して足早に去っていくのが見えた。

 起き上がる気力もなく、そのまま仰向けになって空を見上げてみる。視界いっぱいに映る空は灰色一色の曇天だった。

 もし晴れていたなら、日がかなり傾いているのがよく見えただろう。あと数十分もすれば、この辺り一帯は夕闇に包まれる。

 そして、ギルドが制限時間として指定したのは今日の日没まで。

 「はぁ……」

 思わずため息を漏らしてしまう。

 荷車の中で抱えていたやりきれない気持ちと、報酬の三分の二を失ったことが敗北感に変わり、俺の心を押し潰していくのがよく分かった。

 「やっぱり、俺には無理か……」

 嘆息しながら起き上がり、脇に投げ捨てられているアイアンソードを手に取る。やっと貯まった鉄鉱石となけなしの資金を投入し、村の工房で製作してもらった愛剣は、いつもより重く感じられた。

 それだけではない。身につけているハンターシリーズの防具も、水を吸った真綿のようにずしりと重かった。

 こんな状態では、狩り場に戻ったとしてもまともには戦えないだろう。仮に戻ったとしても、狩っている最中に日没を迎えるのは目に見えている。

 「クエスト失敗だな…」

 俺は自嘲気味に苦笑し、辺りを見回す。

 一回目に運ばれてきたときと変わらない、殺風景なベースキャンプの景色がそこにあった。

 特に考えもせず、キャンプ内に設置されているテントに入る。中は意外と広く、簡易ベッドのほかに、道具入れや小型のストーブなどが無造作に置かれていた。

 俺は迷うことなく、中央に置かれた簡易ベッドに寝転がる。

 最初は、誰が使ったかもわからないようなものに寝るのは御免だと思っていた。しかし今となっては最早どうでもいい。疲れ切ったこの身を少しでも休めたかった。

 仰向けの状態でじっとテントの天井を見つめていると、訓練所で苦楽を共にした後輩の顔が頭の中にふと浮かんできた。

 「あいつ、今頃どうしてるかな…」

 俺の後輩のルーカスは、一月ほど前に村を出て行った。

 一人前のハンターとして認められたあいつは、「もっと広い世界が見たい」と言った。「レツ先輩には負けられませんから」とも。正直、あれには驚いた。

 なぜなら、ルーカスに初めて会った時は、こんなやつがハンターになれるのかと思っていたからだ。 いつもおどおどしていて、逃げ腰で…根気とやる気だけが取り柄のようなやつだった。

 しかし、ルーカスは度重なる訓練の中で徐々に頭角を現し始めた。あいつの臆病な性格が、慎重さが求められる状況の狩りでプラスに働いたのだ。

 そして気が付いた頃には、ルーカスは先輩の俺に追い付き、追い越していた。

 普通ならばルーカスを褒めるべきだろう。追い付くために俺も努力すべきだろう。

 しかし、俺にはそれが出来なかった。

 その理由は簡単だ。俺はルーカスに嫉妬していたのだ。

 

 

 俺は小さいころから、努力というものをあまりしたことがなかった。大抵のことはすぐにできるようになったし、極端に苦手なものがあるわけでもなかった。

 訓練所に入ってからもそれは変わらず、特に特別なことをせずとも、十分な成績をとることができていた。

 しかし、それ以上のこと—努力することでさらに成長していくことができなかった。

 それゆえに、それが当たり前のようにできるルーカスが羨ましかった。

 ルーカスの成績が高いのも、調合に秀でているのも、全てはあいつの努力の結果だ。あいつは勉強熱心だった。時には日付の変わるまでルーカスの部屋の灯りが消えないこともあったほどだ。

 しかし、俺はそれに嫉妬するばかりで、ルーカスを褒めることも、追い付かれないように努力することもしなかった。

 

 

 そして、俺より先にあいつは村を出て行った。確固たる目標を持って。

 そして、俺はルーカスへの嫉妬心を捨てきれないまま、一人取り残されている。

 同期までもがが次々と旅立っていく中で、俺だけが唯一、今後について何も決められていない。

 「取り残されたな…完全に」

 ぽつりと呟くと、不意に目の奥が熱くなってきた。慌てて目をつぶるが、そんなことをしたところで、溢れ出す涙を止めることなどできるはずが無かった。

 「…う…ぐすっ……」

 涙というものは、不思議なことに止めようとするほど止まらなくなる。

 自分以外にだれもいないベースキャンプで、俺はただむせび泣くしかなかった。

 

     *     *     *

 

 「さ、どうぞですにゃ」

 「おっ、ありがと」

 アイルーが差し出したタオルを受け取ると、椅子に座った少女は、それでわしゃわしゃと髪の毛を拭いた。

 「旦那さんがもうじき帰ってくると思うから、もう少し待っててにゃ」

 そう言うと、アイルーは家の隅にあるかまどでお湯を沸かし始めた。

 お茶でも淹れるのだろうか—そんなことを思いながら、少女は家の中をぐるりと見回した。質素な調度品がいくつか置かれているなかに雑じって、大タルや回復薬の空き瓶がいくつかある。アイルーが薪をくべているかまどの横には、狩りに使う道具や素材を入れるための大きなボックスが鎮座していた。

 「ここに住んでる人もハンターなんだ…」

 そう呟いた少女の視線が、壁に掛けられたあるものを見つけた。

 「わ…」

 そこにあったのは、一振りの古びた大剣だった。丹念に磨かれているそれには、使い込まれた証である、大小の傷が無数に付いている。その傷の一つ一つが、見る人間を引き付けるような不思議な魅力を持っていた。

 「かっこいい…」

 「気に入ったかにゃ?」

 不意に後ろから声がした。少女が振り向くと、そこには二つのカップを乗せたお盆を持ったアイルーがいた。

 「この大剣は、旦那さんが昔使っていた武器ですにゃ。今じゃすっかり古くなって、こうして飾ってあるにゃよ」

 「へえ…」

 「旦那さんがこれを使ってたのは、もう何年も前の話にゃ。ボクが旦那さんにオトモするよりずっと前から、この剣は旦那さんと一緒だったにゃよ」

 「君の旦那さんって、どんな人なの?」

 少女のその問いに、アイルーは少しの間考え込んで言う。

 「とってもいい人ですにゃ。いつも冷静で、まっすぐで…でもときどき無茶するような、そんな人にゃ」

 「そうなんだ…」

 「んにゃ。さ、熱いうちにお茶をどうぞですにゃ」

 そう言って、アイルーはお茶の入ったカップをテーブルの上に置いた。

 「いただきまーす」

 少女はカップを手に取ると、その中に入っているお茶を飲んだ。心地良いハーブの香りが、少女の鼻腔をくすぐる。熱すぎず、ぬるすぎない程よい温度のお茶からは、アイルーの優しさが感じられるような気がした。

 「美味しいっ…!」

 「良かったにゃ。実はそれ、旦那さんが好きなお茶なのにゃよ」

 そう言うと、アイルーは朗らかに笑った。

 「ねえ、君の旦那さんって—」

 少女が何かを言おうとしたとき、家の玄関の方からかすかに物音がした。

 「あっ、旦那さんが帰ってきたにゃ!」

 アイルーは嬉しそうに言うと、玄関へ向かって駆けていった。

 少女の視線は、自然と駆けていくアイルーを追って、玄関のドアの方へと向く。

 それと同時に、ドアがゆっくりと開く。おそらく、この家の主が帰ってきたのだろう。

 ドアの向こうにいる人物に挨拶しようと、少女は立ち上がろうとした。

 しかし、少女の身体は彼女の意思に反して、金縛りにでもあったかのように動こうとしない。

「ぇ…!?」

 少女の視界に映る景色が、急速に色を失っていく。

 次の瞬間、少女の視界は暗転し、彼女の意識は深い闇の中へと投げ出された———




 三ヶ月…たったそれだけの期間でここまで文章が変わってしまうものなんですね(;´・ω・)
 終雨さん、今回のコラボに誘っていただき、本当にありがとうございます!
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