モンスターハンター ~狩人ノ手記~   作:活字の嵐

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 気づけば『狩人ノ手記』も十話目…これも本作を読んで下さる皆さんのおかげです。本当に感謝します。
では、第十話をどうぞ!


#10 勇気

 一瞬の閃光の後、ジルが見た光景は、凄惨の一言に尽きるものだった。

 さっきまで彼がいた辺りの地面は黒く焦げ、あまつさえ軽く抉れてすらいる。 

 ドスイーオスの攻撃を喰らい、エドが落としたボウガンは、さっきよりも遠くにあり、その銃身は真っ赤に焼けていた。

 ジルから見てはるか向こうには、ドスイーオスだったものが転がっている。こちらも地面同様、黒焦げになっており、辺り一面には、コゲ肉と炭の匂いが漂っている。

 ジルの鼓膜には音爆弾に似た不愉快な音がこびりつき、なかなか離れなかった。 

 「にゃあ…?何が起きたにゃ…?」

 一体何が起きたのか。訳が分からず、ジルはしばし呆然とするしかなかった…

    

     *     *     *

 

 何かが、俺の口に流し込まれた。

 独特な草の味がするそれを、解毒薬だと理解するまでには、そう時間はかからなかった。

 続いて、回復薬グレートが流し込まれる。瞬時に体力を回復する作用のあるその薬によって、毒で削れた俺の体力が回復していくのが分かる。

 もっとも、狂竜ウィルスの初期症状である、体を蝕むような倦怠感と胸焼けだけは消えなかったが。

 しかし、体力の回復によって、重かった瞼が、ゆっくりとだが動くようになってきた。

 俺が目を開けると、そこには心配そうな顔のジルがいた。その両目は潤み、くしゃくしゃに歪んだ顔は、今にも泣き出しそうだった。

 そして目が合うや否や、ジルは泣きながら俺に飛びついて来た。 

 「ふにゃあああ!うにゃあああ!」

 「痛てて…おいおい…どうしたんだ…?」

 「だって、旦那さんが動かにゃいから、死んじゃうかと思って、怖くて怖くて…に…にゃあああ!」

 再び号泣しながら、ジルは俺の首に抱きついた。その頭を撫でながら、俺は言った。  

 「大丈夫だよ…ほら、この通り俺は生きてるからさ…それより…ジル、エドは?」

 「俺ならここ。ったく、ようやく起きたか…」

 俺のすぐ横に、ボリボリと頭を掻きながらエドがしゃがんだ。せっかくの彼の防具は泥だらけで、左胸のプレートにはドスイーオスの爪によってできたと思われる大きな傷があったが、幸い体には目立った外傷は無いようだ。

 「ほれ、これ食っとけ」

 そう言いながら、エドは自分のポーチからウチケシの実を取りだし、俺に渡した。

 「さんきゅ…」

 エドに礼を言って、俺はウチケシの実をかじった。完全とは言えないが、初期症状が薄れて行くのが分かる。とりあえず、これでしばらくの間狂竜症は発症しないだろう。

 俺は、エドに支えられながら、ゆっくりと体を起こした。

 そして、異様な光景を目にした。

 真っ黒に焦げ、軽く抉れてすらいる地面。そしてその向こうに転がる焼け焦げたドスイーオスの遺骸。

 かつて、俺があるハンターと共に狩りをした際、何度か目にした光景がそっくりそのまま再現されていた。

 『竜撃砲』。ガンランスの砲撃の中で最も強力なそれを放った後の光景が、俺の目の前にあった。

 「…っ!?…エド、一体…何があった?」

 「ま、それはジル君が説明してくれるだろうよ」そう言って、エドはジルの背中をぽんと叩いた。

 「…ジルが?…で、これは何なんだ…?」

 「にゃ…お話ししますにゃ…」

 俺から離れて、ジルは事の顛末を話し始めた…

 

     *     *     *

 

 レツとエドがドスイーオスによって動けなくなった後に、ジルはただ一匹取り残された。

 程無く、ドスイーオスがジルに気付く。真っ赤に染まった感情の無い双眸、文字通りのモンスターのそれが、ジロリと彼の方を向いた。

 「に、にゃあ…」

 ジルの本能が、逃げろ、逃げろと彼に訴えかける。

 しかし、彼は動かなかった。否、動けなかった。

 不意討ちとは言え、ハンター二人を数秒で行動不能にしたドスイーオスに、ジル一匹では敵う筈がない。

 常識的に考えれば、彼等を見捨ててでも逃げる方が良いだろう。そうすればジルだけは助かる。

 しかし、ある言葉が彼にそれをさせなかった。

 『あなた、本当にその選択を後悔しない?』

 村長が言った言葉が、彼をその場に押し止めていた。

 「ボクは…ボクは…」

 震えながら武器を握る手に、力がこもる。

 「こんな所で、終わりたくないにゃ…」

 じわりと汗が滲み、足の筋肉が緊張する。

 「でも…でも…」

 襲い来る恐怖を払い除けるように、力の限り叫ぶ。

 「でも、こんな所で後悔したくないにゃあ!」

 刹那、細い足が地面を蹴り、ジルの小さな体は、ドスイーオスに向けて、矢の如く疾走していた。

 「ふにゃあああ!」

 叫びながら跳躍、『肉球ネコぱんち』で、ドスイーオスをおもいきり叩く。

 しかし、何故かそれは硬い手応えと共に弾かれた。ドスイーオスの紫に染まった鱗が、ジルの攻撃を受け止めたのだ。

 狂竜ウィルスによって異常な程に硬質化した鱗は攻撃を弾くだけでなく、『肉球ネコぱんち』の先端の頑丈な爪を欠けさせた。

 驚愕の表情になったジルの足が地面に着く前に、ドスイーオスが反撃のタックルを繰り出した。

 「うにゃ!?」

 ジルはたまらず吹き飛び、『肉球ネコぱんち』は彼の手から離れて、遠く離れた崖の下へと落ちていった。

 地面へと落ちたジルは、そのまま転がるしか無かった。

 ドスイーオスが止めを差すべく、彼にゆっくりと近寄ってくる。

 しかし、ジルにはもう武器は無い。彼の爪では、あの硬い鱗に傷をつけることすら難しいだろう。

 「あ…にゃああ…」

 尻餅をついた格好のまま、ジルは後ずさった。

 少しでも生き延びよう、ジルのその本能が、彼を動かしていた。

 その時、彼の肘に、何か硬い物が当たった。

 振り向くと、そこにはエドが落とした后妃竜砲【桜花】があった。  

 ジルは夢中でそれに飛び付いた。残された最後の武器である、ものすごく重いそれを、パワーバレル下部の銃架を使って何とか安定させる。そして、ドスイーオスに向かって引き金を引いた。

 しかし、弾は出ない。不発の散弾がまだ弾倉に残っているのだ。

 彼は無我夢中でボウガンの色々な所をいじった。その手が一つのレバーに触れ、その瞬間、勢いよく不発弾が強制排出された。

 そして、代わりに何かが装填される重い音がする。

 ジルがドスイーオスに視線を戻すと、ドスイーオスが上から襲い来るのが見えた。ジルに回避する時間的余裕は無い。

 「もうどうにでもなれにゃあ!!」

 ジルは全力で叫び、全力で引き金を引いた。

 直後、銃口から覗く青い炎がちろりと見えた。

 そして一拍遅れて、凄まじい閃光と爆風、さらに大地を揺るがすほどの轟音が、ジルとドスイーオスを飲み込んだ。

 

     *      *      *

 

 「…で、気がついたら、こうなってたにゃ」

 ジルの長い説明の後、俺はため息をついた。

 「おいエド、お前ボウガンに何を仕込んだ…?」

 エドの方を向かずに、質問する。

 「あれか?『竜撃弾』だが。それがどうかしたか?」

 まるで昼食のメニューを聞かれたかのような、まあ要するにいつも通りの口調で、エドは答えた。

 『竜撃弾』とは、竜撃砲の発射機構を研究し、それをボウガンの弾薬レベルまで小型化した特殊な弾のことである。

 もちろん小型化した分、威力は落ちるものの銃身への負担も少なくなり(ただし生半可なもので撃つと銃身が持たないらしいが)、ボウガンによっては連発も可能という恐るべき代物である、というのがエドの説明だった。

 「まあ、肉薄しないと効果も薄いし、こいつじゃ一発撃っただけでこれだからな…」

 そう言って、エドは俺に后妃竜砲【桜花】を見せてくれた。

 その銃身は歪み、本体はガタガタになっている。ボウガンに関しては素人の俺でも、使用に耐えない状態であるのが分かった。

 「こりゃメンテ代かなり取られるな…ま、ジル君の命には代えられないから別にいいけど。ジル君に礼言えよ、レツ。そいつがいなきゃ、今頃俺ら生きちゃいないからな」

 「ああ…ありがとな、ジル。おかげで助かったよ…」

 「どういたしましてにゃ、旦那さん」

 「その『旦那さん』っていうのもな…レツでいいよ…」

 「はいにゃ、レツさん」

 「じ、じゃあさ、俺も『エドさん』って読んでくれよ!」

 「ジル、こいつは呼び捨てて構わんからな。敬語も

必要なし」

 「はいにゃ」

 「ちょっ…!?それだけは、それだけは勘弁して…ください…」

 「なんでお前が敬語で話すんだよ」

 俺とエドのやり取りを聞いて、ジルがくすり、と笑ったのが見えた。

 それは泣き笑いのような、しかし心からの楽しそうな笑みだった。

 

 




あああ…2500文字で済ますつもりだったのに…回を追う毎に肥大する文量…会話が多いとここまで増えるんですね…
後、お気付きの方もいらっしゃると思いますが、初めて3DSで書いたので、書きづらい&顔文字が無いんです…はい…
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