ところで、皆さんは小説を書く際のいわゆる『作業用BGM』みたいなものはあるのでしょうか?
「はあ…だるい…エド、肩貸してくれ…」
「お前なぁ…もう大丈夫だろ」
そう言いながらも、エドが肩を貸してくれ…
立ち上がった後、そのまますっと力を抜いた。
当たり前だが、俺の体は重力に従ってゆっくりと前のめりに倒れ、当たり前だが、俺は額をこれでもかというほど船底に強くぶつけた。
船は大きく前後に揺れ、ジルと船頭のアイルーは揺れの中、驚きの声を上げながら、まりのようにバウンドした。
「痛ぇ!!何すんだよ、エド!?」
「そのぐらい大声出せるんなら大丈夫だろ。ま、明日いっぱいまで養生しとけ」
「む…」
「さっさと帰ろうぜ。早くしないと昼飯が無くなる」
そう言い、エドは船頭のアイルーに向かってにっこり微笑んで、
「ごめんなぁ、驚かせたろ?」
少し多めにチップを渡した。
エドは微笑んでいるつもりのようだが…いや、やっぱり止めよう…
そして俺には…
「ほれ行くぞレツ」
非常に素っ気なく言い、船から降りてすたすたと一人歩いていった。
何故俺とアイルーで扱いがこんなに変わるんだ?
そう言いたいのをこらえ、俺は未だふらふらする頭を抱えながら、立ち上がった。
* * *
「え…も、もう一回言ってくれ…」
「だから、もうお主らの昼飯は無いニャ」
「無い…?何でだよ、まさか作ってないの『無い』じゃ」
「いいや、作るには作ったニャ、エド氏。ただ、お主らが遅すぎるから団長がお主らの分も全部食ったニャ」
「そ…そんなぁ…」
エドがガックリと膝から崩れる。
ここはキャラバンの船の厨房、いつも俺達が食事をする所だ。
既にいつもの昼飯の時間から、二時間以上が経っている。
俺もエドも、そしてジルも昼飯が既に片付けられている事を覚悟していた。しかし、その覚悟が現実のものとなれば、俺だってエドのように落ち込みたくなる。
「な、何か…余り物でもいいから何かくれぇ…」
エドがキッチンアイルーに懇願する。お前、どれだけ腹減ってたんだよ…
「やりたいのは山々なれど…食材が殆ど無いニャ、エド氏。夕飯まで我慢してくれニャ」
エドの顔が、まるで地獄を見せられたかのようになる。
「それまで…それまでこのままでいろと…?!」
「いい加減しつこい。エド、ほら行くぞ!」
未練がましくキッチンアイルーに懇願し続けるエドの後ろ襟を掴み、ずるずると引きずって厨房から無理やり連れ出す。
その一部始終を、ジルは何を思ったのか、じっと考え込むような眼差しで見ていた。
* * *
「畜生…だるい…腹へったぁ…」
「うるさい。少しは静かにしてくれ」
「はぁ…」
「お前なぁ…いい加減つまみ出すぞ」
船内の自室で、俺とエドは不毛なやり取りを続けていた。
やることも無いので、俺は部屋のベッドで昼寝でもしようと思ったのだが、何故か眠れず、結局さっきから横になったままエドの愚痴を延々聞き続ける羽目になっている。
ジルはいない。まだ厨房から戻ってきていないようだ。
「おーいレツ、お前のこんがり肉よこせ…」
「一昨日で切らした」
「じゃ焼いてくれ…」
「肉が無い。あっても焼けない」
「携帯食料…」
「ギルドに返した」
「何か食えるもの…」
「無い」
しばらくの間、沈滞した空気が俺達を包んだ。
長い沈黙の後、部屋のドアを小さく控えめにノックする音が聞こえた。
叩く力加減からして、恐らく団長では無いだろう。
誰かと思いながらドアを開けると、そこにはエプロンを着て、短めのコック帽をかぶったジルがいた。
「お食事を作りましたにゃあ。よかったら食べてくださいにゃ」
へ…?
* * *
「んめぇ~~!!飯がこんなに旨かったとは!ジル君、君は天才だ!救世主だ!」
場所は再び厨房。そこでエドが喜びのあまり唸った。
「そんにゃあ。救世主だなんて、大げさですにゃあ」
そう言いながらも、ジルはまんざらでもなさそうな顔だ。
テーブルの上には、たくさんの魚料理が並べられている。煮魚、こんがり魚、刺身…どれも食欲をそそられる、美味しそうな料理ばかりだ。
そして、エドの言う通り、それらの料理はどれも、『ほっぺたが落ちるほど』旨かった。おまけに味のレパートリーが豊富で、魚ばかりでも全く飽きが来ない。
ましてや、空腹だった時にこれほど完成度の高い料理を出されれば、ジルを救世主と言うエドの気持ちもよく分かる。
「悔しいが…こやつの料理の腕前は本物ニャ。ワタシをこうまで唸らせたアイルーはこやつ以外には、殆どいなかったニャ」
いつの間にか厨房の奥から出てきたキッチンアイルーが、俺に言った。
ちょうどよかったので、俺はキッチンアイルーにある疑問をぶつけてみることにした。
「ところで、確かさっき『食材はもう無い』って言ってなかったか?」
「そこがこやつの凄い所ニャ、レツ氏。なんとこやつは、これだけの魚を自分一人で獲ってきたニャ。そして、ワタシに厨房を使っていいかと聞いてきたニャ。なんでも、『レツさん達の為に料理を作りたい』ということだったので、渋々貸してみたところ、これだけの料理を作ったニャ」
「そりゃ確かに凄いな…ジル、一体どうやったんだ?」
ジルは何故か赤面しながら、答えた。
「ボクは元々、魚を捕るのが得意なのにゃ。それに、この村の周りはたくさん魚がいたにゃ」
「なるほど…ちなみに、料理はどこで学んだんだ?無理に答えなくてもいいが…」
最後にそう付け加えたのは、つい最近までのジルの境遇をおもんかばってのことだった。それにもしかしたら、ジルはそれを話したがらないかも知れない、とも思った。
しかし、ジルはとつとつとだが話し始めた。
「昔、ボクは料理に興味があったにゃ。けど、仲間達は『そんな面倒なこと必要ない』って言ってたにゃ。そんな時、一人のハンターさんが集落に来たにゃ。その人はボクにいろんな料理を教えてくれたにゃ。料理の本もくれたにゃ。それからボクは夢中になって料理を学ぼうとしたにゃ。けど、その矢先に…」
そこまで話すと、ジルは急に暗い顔をして、下を向いて黙ってしまった。
もしかすると、俺は何かジルの暗い過去を掘り返してしまったかもしれない。そう気がついた時には、既に遅かった。
狭い厨房の中は、急に重い空気に包まれたように静まりかえった。
そんな中、エドは急に声を上げた。
「なんだよ、急にしんみりして!そんな顔してても良いことないぞ、ジル君!ほれ、一緒に飯食おうぜ!」
ジルがゆっくりと顔を上げる。
「にゃあ…」
「ダメダメ、そんな顔じゃ。ほら、笑って笑って!大丈夫、俺達が一緒にいてやるから。な、レツ!」
「あ、ああ。さ、こっちに来いよジル。一緒に飯食べよう?」
ジルの顔が少し明るくなった。
「…はいにゃあ!」
その微笑ましく見える光景を、キッチンアイルーは温かい目で見ていた。
「なかなか良いとこあるじゃないですかニャ、エド氏」
小さく発せられたその声は、エドには聞こえなかっただろう。
* * *
何処までも広がる蒼い大海原、そこを一隻の撃龍船が白波を立てながら突き進んでいた
撃龍船の船首、大きな骨から削り出されたそれの上に、一人の人間の姿があった。
レウスシリーズの剣士用防具に身を包み、腰の後ろに片手剣を吊るしたその人間は、フルフェイスタイプの頭装備を外し、
「ぷはぁ!」
新鮮な潮風を、おもいきり吸い込んだ。
防具を外したその素顔は、まだ大人になりきっていない少年のものだった。
ゆっくりと開いたその二つの瞳は、水平線の向こう、小さく点のように見える島に向けられていた。
「おっ、見えてきた見えてきた!」
少年は実に楽しそうに言い、そしてこう続けた。
「チコ村かぁ…あそこに先輩がいるんだよなぁ…」
感慨深そうにそう呟いた少年に向かって、
「おいそこ!ぼさっとする暇があったらケガ人の手当てを手伝え!」
ハンターの怒声が飛んだ。
はい、タイトルの時点で皆さんお気づきでしょうが、今回は当初から設定していた、ジルの特技についての話です。
さて、いよいよ次回辺りから新キャラが登場するかも…?次回もご期待ください!( ≧∀≦)ノ
余談ですが、私の作業用BGMは、モンハンでお馴染み『英雄の証』と、モンハンMADで知った、『凛として咲く花の如く』です。