遺跡平原狩猟区のベースキャンプにて―
「レツ、もうすぐ迎えが来るぞ」
「もう少し待てっ!以外にっ、この汚れがっ、しぶといんだよっ!」
半ば呆れ顔のエドを尻目に、俺はたわし片手に膝まで小川の水に浸かりながら、41式と防具に付いたリオレイアの帰り血と『格闘』していた。
「お前がっ、もうちょっとっ、早く来ればっ、こんなにっ、手間かからなかったんだっ!!」
防具の継ぎ目にこびりついて固まったリオレイアの血は、力一杯こすってもなかなか取れない。
「いやー、あんたと合流しようとしてたら、偶然アオキノコの群生地を見つけて―」
「どうせっ、またアイルーをっ、追い回してたんだろっ!」
言い逃れようとするエドに対し、ピシャリと言い返す。この男、ガンナーとしては一流なのだが、『毛並みの良いアイルーを見つけると、所構わず抱きついて撫でまわす』という妙な癖があるのが残念である。
「まあ、あえて言い訳はしないが―」
もうすでにしてるだろ。
「迎え、もうそこまで来てるぞ」
「――え?」
耳をすますと、アプトノスの鳴き声とガタゴトという竜車の車輪の音がベースキャンプに近づいてきていた…
* * *
竜車の車上にて―
「へっくしょいっっ!!…うー、寒…」
「そりゃ寒いよな。インナー一枚じゃ…」
「うるさい!」
結局防具だけは乾かず、俺はインナー一枚で震えながら座席に座ることとなった。荷台では防具がびしょ濡れになって転がっている。
俺の横の座席に座っているエドが、自分のポーチから何やらドリンクのようなものを取りだし、グイッとあおる。
「何だよ、それ…へっくしゅ!」
さっきからくしゃみばかりしている俺に、エドはもうひとつ同じ物をくれた。
「元気ドリンコ。やるよ」
「さんきゅ…くしゅ!」
ビンの蓋を開け、エドと同じように一気に飲み干した。ほろ苦さの後に、ニトロダケの辛味が身体を暖める。
「どうだ、少しはマシになったか?」
「ああ…へっくし!」
暖かいのは、案外身体だけではないかも知れない…
* * *
半日ほど竜車に揺られて、俺達は現在の拠点であるバルバレに帰還した。防具も(大体)乾いたので、俺は防具を着けた。
その後、俺達は今世話になっているキャラバンの所へと向かった。
「おお、レツ君、エドウィン、よく帰って来てくれた!」
そう声をかけてきた初老の男は、俺が世話になっている商人キャラバンの団長であり、エドの父親でもある、ゴードン・ウィリアムズだ。
「どうも団長。ところで、今日の飯は何ですか?」
「はっは、食欲の方が先にくるかぁ」
「当たり前でしょう。ギルドの不味い携帯食料より、ここの飯の方が百倍旨い」
「そうだろうなぁ、すぐに準備させるからちょっと待っててくれ」
しばらくして、キャラバン所属のキッチンアイルー特製の料理が俺達に振る舞われた。
「ところで――」
食事を始めたエドに、唐突に団長は切り出した。
「そろそろ、バルバレを離れようと思う」
「何でだよ、親父」
これはエドだ。
「ギルドの職員に聞いたんだが、後三週間ほどで集会所の移動を始めるそうだ」
「そういや、集会所の様子がいつもより慌ただしかったな」
「それに合わせて、他の商人も移動の準備を始めている。だが、ここのハンター向けの市場はもう飽和状態だ。そこで我々もそろそろここに見切りを付けて、別の場所へ行こうと思う」
「で、何処へ行くんだ?」
「チコ村だ。あそこは最近できた狩猟区がある。そしてやって来るハンターの数に対し、商人が圧倒的に少ない」
「なるほど、絶好の場所って訳か。俺にとっても…」
「ん?エド、最後に何か言わなかったか?」
基本的に商売の事には口出ししない俺だが、この時ばかりは食事の手を止めてエドに尋ねた。
「いっ、いやー何も言ってないぞ。ははは…」
嘘だな。俺は思った。チコ村の人口の九割はアイルーだ。つまりアイルー(毛並みふさふさの限定)が大好きなエドにとっても、チコ村は『絶好の場所』ということだ。
やれやれとばかりにため息をついた俺を、団長は不思議そうな顔で見ていた…
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『それ』はとてつもなく飢えていた。
食べても食べてもその空腹は満たされることはなく、『それ』は焦りにも似た衝動に駆られていた。
生命を繋ぐためにももっと、もっと食べなければ…
その衝動のままに、『それ』はその巨体をゆっくりと起き上がらせた。
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登場人物紹介(2)
ゴードン・ウィリアムズ
レツが所属する商人キャラバンの団長であり、エドウィンの父親。おおらかな性格。エドウィンの(過度な)アイルー好きには全く気づいていない。
1月2日より、しばらく休載します。第三話もご期待ください!
活字の嵐
もう少し人物描写練習しよ…