#04 原生林狩猟区にて―(前編)
原生林狩猟区―
一匹のアイルーが、湿った地面の上を歩いていた。しかし、よく見ると、そのアイルーの元は艶やかだったであろう毛はボサボサで、泥で汚れていた。毛の下の皮膚は所々にまだ新しいアザがある。
毛皮の上からでも分かるほど痩せ細った身体は、満足な食事も出来ていないことを切実に物語っていた。
アイルーの手には、古ぼけた“ボーンネコピック”が握られていた。
大きなドングリをくりぬいて作った腰のポーチには、ピッケルや虫アミ、ハチミツなどを入れるためのビンが入っている。着ているぼろ切れのようになったインナーが、『彼』がオトモアイルーであることを示していた。
ほどなくして、アイルーは倒木に生えたアオキノコを見つけた。引き抜こうとしたが、右腕に力を込めると、この間『主人』に蹴られた右肘がズキズキと痛む。思わずアオキノコから手を離してしまい、しりもちをついてしまった。
向こうから何か怒鳴り声が聞こえる。『主人』の声だ。
―しまったにゃ。しりもちをついたのを見られてしまったにゃ―
そう思った時には、『主人』の足が腹をとらえていた。抵抗する力もなく蹴飛ばされ、まりのように地面を転がる。その上から、主人が何度も踏みつけてくる。口の中に生温かい鉄の味が広がってゆく。
―こんなはずじゃなかったにゃ―
止めどなく流れ落ちる涙は、塩と鉄の味がした…
* * *
チコ村―
俺達がチコ村に着いてから3日ほどが経った。積み荷の整理も粗方終わり、俺とエドは原生林狩猟区の下見に行くことにした。
航路発見からほどなくして、チコ村には小さいながらもハンターズギルドの支所が置かれた。俺達はそこで採取ツアーへ行くための手続きをとり、村の裏手の川からネコタクの船で原生林狩猟区へと向かった。
「原生林狩猟区ってどんな所なんだ?」
道中、俺は船頭のアイルーに聞いてみた。
「あそこはいい所ですにゃあ。魚は沢山いるし、うまい木の実もあるにゃ。ただ…」
「ただ?」
「地面がいつも湿っていて、少し歩くと足が泥だらけになるのにゃ。あれさえ無ければ、とてもいい所なのににゃあ」
本当は生息するモンスターや、採れる素材などを聞きたかったが、船頭のアイルーもなぜかその点についてはよくは知らなかった。
ただ、原生林で釣れる魚の種類については非常に細かく知っていた。隣ではエドがいびきをかきながらなんとも気持ち良さそうに寝ていた…
原生林狩猟区―
ベースキャンプに到着後、未だに寝ているエドをたたき起こした俺は、ひとまず狩猟区の地理を確めるために、支給品の地図を手に取った。
「エド、とりあえずどこから行く?」
「…任せる…」
まだ眠いのか、それともたたき起こされて機嫌が悪いのか、エドの返事は無愛想だった。
「じゃあ、とりあえずエリアの番号順に回って見るか…今回は下見だしアイルーの居住区はこの際無視だな」
「ちょ…!?それは待て!それは困る!」お、目が覚めたか。
「俺は別に困らないけどなぁ?」
「お前が困らなくても俺が困るんだよ!」
こいつ、本当にアイルー(毛並みふさふさ)が好きなんだな…
「分かった分かった。じゃ、最後に居住区に寄ろう」
「おう!そうとなったら早速出発だ!!」
「全く現金だな…―あれ?」
既にエドの姿はベースキャンプから消えていた…
* * *
ベースキャンプから姿を消したエドを探し、俺はエリア2までやって来た。
「全く…どこ行ったんだ?おおーい!、どk―?!」
突然、背後から口を塞がれた。訳が分からず、抵抗しようとする俺に、これまた突然聞き慣れた声が聞こえる。
「シッ…!少し静かにしろ!」
俺に背後から襲い掛かってきたのはエドだった。しかし、そのヒソヒソ声はいつものエドらしくない。しかもエドの視線は、ただならぬ風囲気を発していた。
「どういうつもりだ、エド!」一応俺もヒソヒソ声で返す。
「あれを見てみろ」エドがそう言いながら指をさした。
「あれって…アイルーだよな…お前まさか…?」
「バカ!そうじゃない!あのアイルーをよく見てみろ!」
そう言われ、俺は手持ちの双眼鏡でアイルーを見てみる。次の瞬間、俺は思わず息をのんだ。
「なんだよ、あれ…」
アイルーの毛はボサボサで、おまけにひどく汚れている。そしてその身体は毛皮の上からでも分かるほどに痩せ細っていた。着ているぼろ切れのようなインナーからして、オトモアイルーのようだ。しかし、モンスターに襲われてああなったのでは無いことは、アイルーの近くにいる、ハンターらしき男から分かる。
アイルーは、どうやらキノコの採取をしているらしい。倒木から一本一本キノコを引き抜いている。
だが、引き抜くのに力を込めすぎたのか、その場にしりもちをついた。近くにいたハンターがそれに気付いたのか、アイルーに歩み寄った。
次の瞬間、俺はまたもや信じられないような出来事を見た。
ハンターがアイルーを蹴ったのだ。アイルーが倒木からかなり遠くまで吹き飛ぶ。その上から更に何度も踏みつけながら、聞くに絶えない罵声を浴びせている。抵抗する力もないのだろう。アイルーはただ踏みつけられるままだ。
「酷い…なんだよ、あいつ…」
「さっきもああしてた…」エドの声は怒りで震えていた。「お前が来るまでは様子を見ることにしてたんだが…」
正しい判断だったかも知れない。俺がエドなら即座にあのハンターを撃ち殺していただろう。目の前の光景はそれほど酷かった。
「行こう。あのアイルーを助けるんだ」俺には迷いはなかった。
「異議はないだろ、相棒?」
「もちろんだ!ついでにあいつにもきついお灸をすえてやる!」エドもその気らしい。
俺達はアイルーと、未だに罵声を浴びせ続けるハンターの元へと歩き出した。
最後の方はだいぶ感情移入してます(レツ&エドの方に)。「キャラは書き始めると作者の意思とは関係なく勝手に動く」(何かのガンダム小説のあとがきにあった言葉です)と言う言葉の意味を身をもって知りました…
P.S…校閲等は十分しておりますが、万が一誤字脱字(過去話、最新話も含む)などありましたら、作者に遠慮なく報告ください。