―誰か来たにゃ―
次第にぼやけて行く視界の中で、アイルーはこちらにやってくる二人のハンターを見つけた。
―けど、どうせ助けてはくれないのにゃ―
アイルーの視界の中に、あの時の光景がフラッシュバックする。
以前同じようにこの光景を不審がり、『主人』に声をかけたハンターが、『主人』から黄金石を受け取ってそそくさと立ち去って行く光景を見たとき、自分はどんな表情をしていただろうか―
―思い出せないにゃあ―
どうせ死ぬまでこんな生活が延々と続くのだから、そんなことを考えても無駄だ―
そんな苦笑めいた考えが浮かんだ後、アイルーの意識は深い闇の中へゆっくりと落ちていった…
* * *
アイルーは、未だに蹴られ続けていた。
もはや痛いという感覚も無いのか、ただ蹴られるままになっている。
俺達に気がついたのか、ハンターはアイルーを蹴るのをやめ、俺達の方を向いた。身に付けているグラビド装備のせいで、顔は見えない。背中には高価そうな太刀を背負っている。
「何だ?お前ら」ドスのきいた声で尋ねてくる。
「何でそのアイルーを蹴っている?」相手の質問には答えず、俺はハンターに聞いた。
「…何の話だ?」
「とぼけんじゃねえよ。そのアイルーを何で蹴ってんのか聞いてんだよ!!」
俺が言うより先に、エドがいつもなら考えられないほどに、激しく怒鳴った。本当は相手を刺激してほしくなかったが、やはり無理だったようだ…
「…は?だから何の話――」ハンターの声はそこで銃声にかき消された。同時に彼が背負っていた太刀の柄が半分ほど吹き飛ぶ。
エドの方を振り向くと、彼は大鬼ヶ島を構えていた。その銃口からは細く硝煙がたなびいている。
「…まだしらばっくれるか?」エドは押し殺した声でそう言いながら、今度は銃口をハンターの頭に向けた。
「わっ、分かった分かった!」そう言いながら、ハンターはポーチから何かを取り出した。
「これで勘弁してくれ。 ―な?」
そう言ってハンターは、俺の手に何かを握らせた。俺は手を開き、それを見た。
「これは…黄金石?」
それもかなり大きなものだ。
ハンターは、エドにも同じものを渡した。
「…どういうつもりだ?これは。俺達を買収でもするつもりか?」相手の態度が急に軟化したことをいぶかしみつつ、俺は尋ねた。
「いやいや、そういう訳では…」
「じゃ、これはなんだ?どうして俺達にこれを渡した?」
「う…」
「ところで…」黄金石をぽいと投げ捨てた後、俺は話を変えてみることにした。
「あんた、ギルドからの許可証は持ってるのか?」
「なっ…!…そ、そんなのお前らに見せる必要はない!」俺の買収に失敗したことを焦ってか、ハンターの声は多少うろたえていた。
「『見せたくない』じゃ無くて、『見せられない』んじゃないのか?」ピシャリと言い返す。
「―っ!」
「なるほど、“密猟”か」同じく黄金石を捨てたエドが俺に同調した。
ハンターが俺達に渡した黄金石は、本来帰還後にギルドから強制的に(安値で)買い取られる“精算アイテム”だ。しかもこんなに大きな塊はそうそう採れるものでは無い。おそらく、何らかの手段で没収を免れたのだろう。
「おまけに、そのアイルーの虐待をしていた。これをギルドのお偉いさんに報告したら、あんたはどうなるかな?」ぐったりと横たわっているアイルーの方を見ながらエドは続けた。
ハンターの顔が蒼白になる。
エドが言った事の答えは分かりきっている。
精算アイテムの未提出、オトモアイルーの虐待。そして密猟。これだけの事をやれば、恐らくこのハンターは資格剥奪だけでは済まないだろう。ギルドは違反者に対しては容赦しない。
「さて、どうする?俺達と村へ行ってギルドの方へ確認を取るか、それともその柄の無い得物で俺達とやりあうか、どっちでもいいぞ」
エドの問いに密猟者は答えず、湿った地面にへたりこんだ。
それには目もくれず、俺はアイルーの元へと走った。
* * *
チコ村へ向かう船の中―
ネコタクのアイルーに事情を話し、俺は密猟者を予備のもやい綱で縛って船に乗せた。
隣では、エドが弱く息をしているアイルーを抱えて座っている。
「酷いな…毛の下の皮、あざだらけだ…」エドがアイルーの皮膚のあざを見つけ、顔をしかめる。
「こういう手合いのやりそうな事だ。逃げ出さないようにそうしたんだろ。もしくは単なる八つ当たりだな」しゅんとなっている密猟者を睨みながら俺は言った。
それから船頭のアイルーに声をかけた。
「とにかく、村までもう少し早く頼む。こいつを早く医者に見せなきゃな」
「了解だにゃ!」
* * *
チコ村―
村へ着いた後、すぐに俺達はギルドの支所へ行き、受付嬢に一連の事情を話した。
彼女はすぐ、村に駐留しているギルドナイトを連れて来てくれた。
彼は、密猟者を縛ったままの状態で別室へと連れていった。恐らく、あの密猟者には相応の罰が与えられるだろう。
その後、衰弱したアイルーはすぐにギルド直属の医師に運ばれていった。
「ところで、あのアイルーはどうなるんですか?」やはりアイルーの事が気になるのだろう。エドは受付嬢に尋ねた。
「しばらくここで様子を見てから、この村の村長さんのところで預かってもらうことになります。少なくとも、あのケガではしばらくまともには動けませんから」
「村長?ギルドでは無く?」疑問に思った俺は、受付嬢に聞いてみた。
「はい。この村の村長さんはここに住むアイルーさん達を長年束ねてきた人ですし。それにこの村も、元々は遭難した村長さんと乗組員のアイルーさん達が作った村ですから」
「なるほど…じゃ、後はよろしくお願いします」
「じゃ、帰るか。行こうぜ、レツ」
「おう」
* * *
キャラバンの船へ帰る途中、ふと気になった俺はエドに聞いてみた。
「エド、ところで…」
「何だ?」
「お前、あの時本当にあいつの太刀の柄を狙ったのか?」
「いや、本当は最初から頭を狙うつもりだった。ただ…」
「ただ?」
「それをやると、お前がまたうるさくなると思ってな。直前で外した」
「あの時のお前の目はマジだったからな…そうだ、あのアイルーが元気になったら村長の所へ行ってみるか?」
「おお、いいなー。ついでにふっさふさの毛のアイルーも居れば…」
「抱きつくなよ?」
「抱きつかないって!」
嘘だ。こいつの目は今マジだった。
まあ、今はあのアイルーの早い回復を祈ろう…
* * *
???―
『それ』の空腹は収まることを知らなかった。
しかし、『それ』が補食できる生物は周辺にはもういなかった。
―次の場所へ移ろう。もっともっと沢山の獲物が穫れる場所へと―
『それ』は次の狩りの場所を求め、再び活動を開始した…
当初のモックアップ(意味の分からない方は感想をご覧ください)より大きくずれました…でも個人的にはなんとか形にはなったかと思います。
作中のアイルーの名前はまだ決めておりませんので、アイデアがある方は活動報告、メッセージにて随時受け付けております(*^^*)