結局、エドはかなり遅くに帰って来た。
憔悴しきった顔で帰って来るなり、肩に背負ったかなり大きな袋を自分のベッドの上にどさり、と置いた。
「何だ、それ…?」
「新しいボウガンの部品だ…ここで組み立てて明日また残りの部品を加工屋に取りに行く…」
「今から組み立てるのか?明日にしたらどうだ?」
「言われなくてもそうする…」
そう言って、エドはそのままどさりとベッドに倒れ込み、そのまま寝てしまった…
* * *
翌朝、俺はカチャカチャという金属の音で目を覚ました。音の方を見ると、床の上に敷いたシートの上で、エドがボウガンを組み立てている。もうかなり形になっていた。
「おっと、すまん。起こしたか…」
「別にいい。ところでこれ、いつからやってるんだ?」
「これか?んー。一時間ほど前だな」
一時間でそこまで組み立てられるとは…エドの器用さには本当に驚く。
「おーい、レツ君、エドウィン。二人にお客さんだぞー」
不意に部屋のドアがノックされ、団長の野太い声が聞こえた。俺はドアを開けた。
「はーい。っと、あれ?団長しかいないじゃないですか?」
「違う違う。下だよ。下」
団長に言われるまま、下を見てみると…一匹のアイルーと、同じくらい小さな竜人のおばあちゃんがいた。
「あらァ。こんにちは、ハンターさん」
「ど、どうも。こんにちは…」
しまった。とんだ失言をしてしまった…
「こちらのご婦人は、チコ村の村長さんだ。で、こっちのアイルーが…」気恥ずかしさで団長の説明も耳に入らない。
「ハンターさん、ボクはジルといいますにゃ。今日はハンターさんにお願いがあって来たのにゃ」アイルーが話し始め、はっと我に帰る。
反射的に後ろを振り向くと、エドの作業の手がぴたりと止まっていた。
エドは虚を突かれたような顔をしているが、その目が、獲物を狙うティガレックスのように光ったのを、俺は見のがさなかった。
「とりあえず、散らかってるけど中へどうぞ。立ち話もなんなので」
エドの方を見ずに、努めて冷静な口調で俺は言った。
* * *
急遽、床の絨毯の上に置かれたちゃぶ台を境界線に、村長とジルと呼ばれたアイルー、そして俺とエドが向き合って座っていた。
「…で、お願いとは?」
「この子がねェ、あなた達のオトモになりたいって言うのよォ。あんまり熱心だから、じゃあ一度お願いしようかと思って来たのよォ」
村長がゆっくりと話し始める。
「そんな事を急に言われても…なあ、エド」
「俺は別に構わないぞ。むしろ大歓迎だ!」
エドは嬉々とした表情で即答した。
お前はこいつのふさふさな毛が目当てだろ。喉まで出かかったその台詞を慌てて飲み込む。
「まあ、とりあえずこいつはほっといて、何でお前は俺達のオトモになろうと思ったんだ?」俺はアイルーに聞いた。
「それは…」
ジルは少しの沈黙の後、話し始めた。
「ボクのふるさとは、大きなモンスターに焼かれたのにゃ…ボクは逃げて逃げて、気がついたら狩猟区にいたのにゃ」そこでアイルーは再び黙った。
「で、そこであいつに拾われたのか…?」
エドが後を引き取るように聞いた。
「そうにゃ。気がついたらあの人がいて、『今から俺がお前の主人だ』って言ったのにゃ。それから、まともにご飯ももらえず、ことあるごとに殴られたり、蹴られたりされたにゃ」
ジルのその言葉に、全員が押し黙った。それほどに彼の言葉はショックであり、悲しいものであった。
「ハンターさん、ボクは力が欲しいにゃ。故郷を、仲間を守れなかった自分が悔しいにゃ。仲間を守れなかった代わりに、ハンターさん達の力になりたいにゃ。ハンターさん達を手助けしたいのにゃ」
一言一言、噛み締めるようにジルは言った。その言葉には強い決心がこもっていた。
「そうか…覚悟はよく分かった」沈黙を破るように俺は言い、そしてこう続けた。
「ただ、オトモになるのなら、覚悟だけじゃなく、実力も必要だ。それに、モンスターを相手取る以上、生きて帰れる保証は無い。俺の言いたい事は分かるな?」
俺がこう言うのは、ジルに対する意地悪では無い。オトモアイルーは狩りの補助とはいえ仲間の生死を左右する重要なものだし、場合によっては命を落とすこともある。なにしろ、最近ではオトモアイルーの死亡率がハンターの死亡率を上回っているのだ。
朝元気だったオトモアイルーが、その日の夜に冷たくなっていることはハンターにとっては決して気分の良いものではない。それゆえに、俺はこんな事を言うのだ。
しかし、ジルはゆっくり、力強く頷いた。その目はまっすぐで、彼の強い決心が本物であることを裏付けていた。
「よし、分かった!今日からよろしくな、ジル!」
「ありがとうございますにゃ!一生懸命オトモしますにゃ!」
そのときのジルの嬉しそうな顔を、俺は一生忘れないだろう。
* * *
その日の夜、あてがった寝床でジルが寝た後、俺は41式の整備をしながらエドとあることを話していた。
「ジルの事だけどな…ひとまず俺のオトモになってもらおうと思う」
「何でだよ、レツ。別に俺でもいいじゃんか」
「はっきり言おう。お前はその点では信用出来ない。いつあいつに手を出すか分からんからな」
「むう…」
エドはむっつりとした表情で黙りこんだ。恐らく、彼なりに自覚があるのだろう。
「それはそうと、それが新しいボウガンか…?」
俺はエドが磨いていたボウガンを見て言った。
「そうだ!名付けて『后妃竜砲【桜花】』だ!といっても、中の部品はカブレライト鉱製だけどな」
まるで新しいオモチャを与えられた子供のような笑顔で、エドは言った。
「名付けるもなにも、すでにある名前だろ。で、あっちにある防具が…」今度は壁に掛かっている新品の防具一式を見る。
「そう、リオハートシリーズの防具一式だ!」
「って事は、まさかお前…」
「ああ。『あの時』の素材を使った。使わないのも勿体ないしな」
『あの時』とは、バルバレにいた頃に、エドが単独でリオレイア亜種の狩猟に挑んだ時の事である。
周囲のハンター(もちろんその中には俺も含まれる)が無謀だ、死にたいのかなどとと言う中、なんと彼は愛用の大鬼ヶ島一丁でリオレイア亜種を討伐した。
しかし、その時の彼の評価は決して良いものでは無かった。
いくらなんでも、ライトボウガン(ただし、厳密には大鬼ヶ島はライトボウガンではなく、便宜上の分類である)一丁でリオレイア亜種を討伐するなど信じられない、何かイカサマをしたに違いないという輩が少数ながら現れ、いつの間にか彼等の方が正しくなってしまったのだ。
もちろん、俺はエドがイカサマをしたとは思っていない。しかし、エドはその事を気にかけたのか、そのリオレイア亜種の素材をおおっぴらに使う事は無かった。
噂は真実より強い。その時俺達はその事を身をもって知ったのだった。
「まあ、随分と前の事だしな。もう良いんじゃないかと思ってな」
「なるほど…確かに、素材をしまいこんだ所で過去が変わるわけでもないからな」
「そーいう事」
「とりあえず早いとこ切り上げて寝ようぜ。俺は明日からジルの訓練もしなきゃならないしな」
「全くだ…俺も忙しくなるな…」そう言ってエドは大きなあくびをした。
「あれ、お前には何も頼んでないがなぁ?」
「そんなぁ…」エドが泣きそうな表情で言った。つくづく彼の表情の豊かさは見ていて飽きない。
「冗談だよ」
「お前なぁ…冗談にも程があるぞ…」
そう言って俺達は互いの顔を見て、思わず笑った。
書きたいこと書いてたらいつの間にか文章量がこんなに肥大しました…(-_-;)まあ、『大きい事は良いことだ!』ということで…駄目ですかねぇ…(^_^;)