東方署名帳   作:勇(気無い)者

11 / 23
其の十一、ディナータイム

『それまでだ』

 

 レミリア嬢が試合終了の合図を出し、此方へと歩み寄る。

 

『中々面白い見せ物だったぞ、霧崎霊牙。咲夜』

『はい』

『これより霊牙は客人として扱え』

『畏まりました』

『では、ついて来い』

『あ……はい!』

 

 急いで服に付いた土を払い、館へ歩いてゆくレミリア嬢の後についてゆく。

 すると突然、レミリア嬢が何かを思い出した様に「あ」と呟き、立ち止まる。

 

『美鈴』

『……っ! はい!』

 

 主に名を呼ばれ、呆けたまま動かなかった美鈴さんが立ち上がった。

 

『お前、今晩夕食抜きな』

『えぅ……!? そ、そんなぁ!』

 

 何という罰則…。非道いオゼウニズムを見た…。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、邸内のとある一室。

 夕食はもう食べたのかと聞かれ、NOと答えたらレミリア嬢と食事をする事になったでござるの巻。

 今、部屋には俺とレミリア嬢の二人きりである。白のテーブルクロスが敷かれた長方形の机を挟み、対面して席に着いている。互いの手前には、紅茶の入ったカップが一つ。

 咲夜さんは食事の用意をしているのではなかろうか。部屋に案内され、紅茶を出した後に音もなく消えた。

 

 さて、お紅茶を飲みたい所なのだが……俺、テーブルマナーについてあんまり覚えてないんだよね…。

 確か、カップの取っ手に指を入れてはいけないんだったか……? そんで、受け皿も一緒に持ち上げるんだったっけ……?

 っていうかその前に、さっきの試合で少量とは言え吐血したんだけど、飲み食いしても大丈夫なんだろうか……? なんて言うか、内臓とか……。

 ………。

 

 ええい、ままよ!

 咲夜さんの紅茶と手料理、そしてレミリア嬢と一緒に食事なんて、普通の人間では絶対に体験出来ない激レアイベントだ!

 例えこの身がどうなろうとも、俺は全力で今を生きる!

 左手で受け皿を持ち、右手の指をカップの取っ手に引っ掛ける。

 それをそっと口元まで運び、一口━━━

 

 

 

 トレッッッッビアアアアアアアァァァンッ!!!

 何だこの味は!?

 鼻腔を刺激する芳醇な香り! 口いっぱいに広がる程良く甘い風味! スッキリとした爽やかな喉ごし!

 完璧だ! 瀟洒だ! 完全だ! 咲夜さんだ!

 そう、この紅茶は咲夜さんの全てを体現している……ッ!!

 

 ……とまぁ、何かグルメ番組っぽく意味不明な感想を思い浮かべてみたが、つまるところ美味いっていう事だ。

 

『気に入った様だな』

 

 レミリア嬢の言葉に俺は頷く。

 

『ええ、今までに飲んだ事のない美味しさでした。間違いなく、自分の人生の中で最高の一杯です』

『フフフ、料理の方も期待していいぞ』

 

 勿論です。

 えへっ。咲夜さんの手料理を食べられるとは…! 俺はなんてツイてるんだ!

 ああ、生きてて良かった! マジで!

 

『お待たせ致しました』

 

 どこからともなく咲夜さんが現れ、思わずビクッとなる。彼女が時間を止められると知っていても心臓に悪い。

 いつの間にか料理もテーブルに並んでるし。

 一皿目はハンバーグらしきお肉。てかハンバーグか。結構大きめで、全体にデミグラスっぽいソースが掛かっている。美味しそう。

 ……人肉とかじゃないよね…? 流石に違うよね…?

 二皿目は野菜の……何か。料理の名前は解らんが、人参とかジャガイモとかブロリーとかが一口サイズにカットされ、白いソースと和えてある。あんまり伝ってないと思うが、兎に角美味しそう。

 三皿目はスープ。コーンポタージュだろうか…? 多分そうだ。

 机の中央辺りに置かれたバケットには、切り分けられたフランスパンが入っている。

 そして、咲夜さんがパッと隣に現れ、グラスに赤ワインを注ぐ。うわ、咲夜さんから凄く良い香りがする! なんていうか、女の子の香りがする!

 彼女は注ぎ終えると再びパッと姿を消し、今度はレミリア嬢の隣に現れグラスにワインを注いでゆく。

 

『どれ、乾杯といこうじゃないか』

『あ、はい!』

 

 慌ててグラスを手に持ち、

 

『乾杯』

 

 それを掲げて乾杯する。

 そして、俺はそのままワインを口に含んだ。

 

『あ、美味しい』

 

 ワインを飲んだのは初めてなのだが、甘味あって凄く美味しい。一気に飲み干してしまった。

 誉めたからか、レミリア嬢も機嫌が良さそうにニヤリと笑みを見せる。可愛い。

 そして、咲夜さんが再び隣に現れ、おかわりを注いでくれる。ありがとうございます。

 

『なぁ、霊牙よ』

『はい?』

『外の世界では乾杯の時、ルネッサンスとか言うらしいが、本当か?』

 

 ……おぜう様、そのネタは古いです。

 

 

 

 

 

 

 会話を交えながら、食事は恙無(つつがな)く終了した。

 咲夜さんの手料理は殺人的に美味しかったよ。毎日食べたいくらいだわ。ご馳走様でした。

 食事中に何も言われなかった事を考えると、テーブルマナーは大丈夫だったのだろう。まぁ、レミリア嬢を見ながら確認してたんだけどね。

 あと、俺のお腹も大丈夫だった。内臓的な意味で。今のところ痛くも痒くもない。良かった良かった。

 まぁ、後で何か良くない症状が出たら永遠亭に行けば問題ないだろう。

 そして、何気なく俺が外の人間だという事がレミリア嬢にバレていたが、これも気にしない。きっと、運命を操る程度の能力をアレしてコレしてアレな感じなのだろう。

 何、良く解らない? 大丈夫、俺もだ。幻想郷では常識に囚われてはいけないのです。

 で、本題。

 

『サイン?』

『ええ、このメモ帳にレミリア様と咲夜さんのサインを戴きたいと思っておりまして』

 

 テーブルにメモ帳とペンを置く。

 俺の申し出は意外だったのか、レミリア嬢は目を丸くしていた。

 やがて彼女は口を開き、

 

『いいだろう。咲夜』

 

 次の瞬間、俺の前に置かれていたメモ帳とペンは、レミリア嬢の前に瞬間移動した。

 咲夜さんの時間停止能力、リアルで見るとかなり奇妙な光景である。

 

 幼女署名中。

 

 レミリア嬢は書き終えるとそれらをテーブルの上へ戻し、メモ帳とペンは再び俺の前へ瞬間移動して戻ってきた。

 手に取り開いてみれば、其処にはレミリア嬢と、いつの間にか咲夜さんのサインが。

 凄く……瀟洒です……。

 しっかし、二人とも字が矢鱈に上手いなぁ。レミリア嬢なんて英語の筆記体で書いてあるし。矢っ張り貴族なんだなぁ。

 

『ありがとうございます』

『なに、気にするな。サイン程度、礼を言われる程の事でもない』

 

 寛大なカリスマを垣間見せるレミリア嬢。思わず配下になりたくなってしまう。ならんけど。

 

『ところで霊牙。一つ、私もお願いがあるのだが』

『何でしょう?』

『少しだけ、お前の血を吸わせてくれないか?』

 

 ━━━まさかの吸血宣言だった。

 




血反吐を吐く。本来はとてつもなく危険な状態です。皆さんが同じ症状になった場合、可及的速やかに病院へ直行して下さい。

尚、霧崎霊牙は特別な訓練を受けているから大丈夫です。
嘘でぇぇぇぇぇす!
この霊牙(バカ)もすぐに永遠亭へ行くべき。
多分、プラシーボ効果で平気とかそんなんじゃないかな(適当
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。