薙とレミリア嬢のお陰で傷心状態の俺は今、咲夜さん先導のもと地下への階段を降りている。俺と咲夜さんの靴音がコツンコツンと反響する。暗くて長くて広くて、囚人として連れてかれるみたいで何だか落ち着かない。
目的地はレミリア嬢の妹、フランドール・スカーレットの部屋。これから彼女のサインを頂戴しに行くのだ。
フランドール嬢……長いな。フラン嬢でいいか。
フラン嬢は少々気が振れており、普段は表に出してもらえず地下室に閉じ込められているらしい。というか、自分から出ようともしないとか。
その理由はただ単に出不精なのか、姉に出てくるなと言われているからなのか、それとも他に何か理由があるのか。
何にせよ、俺はこれから彼女と会ってサインを貰わなくてはならない。
『着きました』
咲夜さんが扉の前で立ち止まる。両開きの扉で、色は茶色。形は板チョコの様で、その上に赤い魔法陣が描かれている。
『ご案内は此処までとさせて頂きます』
『はい、ありがとうございます』
『では、くれぐれもお気をつけて…』
それだけ言い残し、咲夜さんの姿はフッと消えた。
……何か、フラグみたいな一言だったが……だ、大丈夫…だよね…?
『………』
ふと、此処へ来る前レミリア嬢に言われた事を思い出す。
━━━アイツと出会って死んでしまっても私は知らんぞ。
"知らんぞ"、と。彼女は確かにそう言った。
知らない。それはつまり、フラン嬢の運命を読む事は出来ないという事ではないだろうか。
これは個人的な考察に過ぎないのだが、フラン嬢の破壊の能力は彼女自身の運命を"破壊"しているのだ。そして"破壊"された運命は消え、新しい運命が上書きされるのだ。
何が言いたいかと言うと、レミリア嬢はフラン嬢の運命を
そんな彼女と関ったのなら、俺の運命もどうなるのか解らなくなってしまう。
……いや、まぁ単なる考察にしか過ぎない。単純に自分と近しい実力者━━フラン嬢の方が上だと思うが━━の運命が読めないのかもしれないし、他にも色々と考えられるだろう。
「グダグダ言ってないでさっさと行けッ!!」
『ぅお…っ!?』
……凄ぇ頭に響いた…っ! 痛ぇ…っ!
いきなり怒声を発するなよ! 響くんだからさぁ!
「知るか。お前がグダグダウダウダ悩んでいるからだ」
はい、すいませんでした。
いや、だってさ…。怖いじゃん…。
もしもフラン嬢が「URYYYYーーー!」とか言いながら襲い掛かってきたら、俺小便チビるよ? 余りの恐怖にチビるよ?
あ、でもどうだろう。レミリア嬢があんなに可愛かったんだから、当然フラン嬢も可愛いに決まってるよね。うん、そう考えると怖くないかm
「いいからさっさと行かんかァァーーーーーッ!!!」
ぐぅ…ぁ…、……ッ……!!
ああ、もう! 解ったよ! 行けばいいんでしょ行けば!
俺は意を決して扉の取っ手に手を掛け━━━
『……ッ…!?』
その瞬間、背筋に冷たい感覚が走った。
な、何だ…今のは…!? 俺はまだ扉を開けていない…手を掛けただけだ…!
それなのに、天羽々斬と相対した時よりも更に恐ろしい……天羽々斬が霞んで思える程に恐ろしい何かが、体の中を走り抜けていった…ッ!
今は特に何も感じないが……さっきのはまさか……室内のフラン嬢から発せられたものか…?
そうだとしたら……。
……いや。そんな事はどうでもいい。さっきのが何だとしても、俺がフラン嬢に会う事は変わらない。
俺は意を決して扉を引いた━━━。
ギイィィ……。
扉が軋む音と共にゆっくりと開かれる。
すると突然━━━直ぐ目の前に、口角がニヤリとつり上がった逆さまの幼女の顔がバッと現れ
『HAAAAAAAAAAAAAA!?!?!?』
おわぅばっ…! たばらすかとなぺぽぺ…!?
『アッハハハハハハハ!』
俺が腰を抜かして盛大に奇声をあげると、逆さまだった幼女が楽しそうに笑いながら地面に降り立った。
外見は十にも満たない、レミリア嬢と同じ年頃の幼女。金色の髪をしており、赤いリボンで左のサイドテールに纏め、ナイトキャップを被っている。瞳の色はルビーの様に美しい真紅。服装は白の袖口がフワッと小さく膨らんだ半袖のシャツの上に、赤い洋服を着ている。下は洋服と同じ色のミニスカートで、白のニーソックスを着用している。靴は赤のストラップシューズ。
そして、背中には一対の翼━━━の様なものがある。
というのも、その翼はまるで木の枝の様な骨格に、七色の宝石の様なものが吊されているのだ。背中にあるし、何となく翼の様な印象を受けるが、こんな形の翼を持つ生物は地球上に存在しない。
━━━彼女がフランドール・スカーレット。レミリア嬢と同じ吸血鬼であり、レミリア嬢より五つ年下の妹である。
姉妹でありながら、フラン嬢とレミリア嬢の髪色が違うのは父親似と母親似で別れたのか、それとも実は腹違いの子だったりするのか。
因みに、フラン嬢は魔法少女らしい。
『お兄さん、良い反応してくれるね。凄く面白かったよ』
ニコニコしながら話し掛けてくるフラン嬢。可愛い。
『……こっちは凄く驚きましたよ』
立ち上がりながらそう返す。
いや、本当に心臓止まるかと思った。マジで。
『しかし、よく扉を開けるタイミング解りましたね』
『そんなの簡単だよ。地下道は足音がよく響くからね。誰か来てもすぐに解るの』
…それでステンバーイしていた訳ですか。なるへそ。
『でも、驚いてくれたのは貴方が初めてよ。他のみんなは全然驚いてくれないの』
『……そいつぁ、光栄です』
確かに、レミリア嬢にやっても白い目で見られるだけだろうし、咲夜さんは驚いている様子が想像出来ない。ぱっつぁん事パチュリー・ノーレッジは……まだ会ってないので解らんが、矢っ張り驚かないイメージ。
『ところで、お兄さんは誰?』
『ああ、申し遅れました。自分は霧崎霊牙と申します。少々目的があって紅魔館までやって来ました。以後お見知り置きを』
『ふぅん。私に何の用?』
『ええ、まぁ』
ポケットからメモ帳とペンを取り出す。
『自分は幻想郷の有名な方のサインを集めて回っておりまして、フランドール様のサインも戴きたいなぁ、と』
『そうなんだ。別にいいよ』
ッシャア・アズナブル!
と喜んだのも束の間、
『ただし、私と遊んでくれたらだけど』
『え゛っ』
…何…だと……!?
フランドールと"遊ぶ"っておまっ…!
『なぁに? 嫌なの?』
『……、……えーっとぉ……』
ぶっちゃけて言うと、凄く嫌です。まだ死にたくない。
死にたくなぁぁぁい!! 死にたくなぁぁぁい!! 死にたくなぁぁぁぁぁいっ!!
ダメギ的な心の叫び。
『遊んでくれなきゃ、サインしてあ〜げない!』
『ぅぐ…っ! わ、解りました……付き合いますよ…』
『そうこなくっちゃ!』
嬉しそうにハシャぐフラン嬢。可愛い。
ま、まぁ、今のところフラン嬢に狂気の様なものは感じないし……大丈夫だろう…。
『で、何して遊びます?』
『弾幕ごっこ』
………。
いや。
いやいや。
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。
弾幕ごっこって"少女達"の遊びだからね。俺の実力(貧弱)がどうこうとかは置いといて、そこに男━━妖怪とか━━が混ざっちゃうとパワーバランス崩れておかしくなっちゃうからね。駄目だからね。
っていうか根本的な問題として、
『すみません、自分は弾幕撃てないです…』
『えー、そうなのぉー?』
凄く不満そうな声と表情。可愛い。
美少女は何をしても━━ある程度は━━許されるのだ。お得だね。
まぁ、とりあえず弾幕ごっこは回避出来たな。だって弾幕撃てないんだもん。しょうがないよね。
『あ、じゃあ弾幕
回避出来てねぇ……!
何だよ、弾幕
っていうか、名前から大体想像出来てしまうんだが……。
『あ、あの……それは一体どういった遊びで…?』
『簡単だよ! 私が弾幕を撃つから、お兄さんが必死こいて避けるのさ』
やっぱりねー! 思った通りだよ!
つまり弾幕鬼ごっこってのは俺をターゲットにした的当ての事だ。
『……いいでしょう』
俺はルナティックノーミスクリアを成し遂げた事もあるルナシューターだ。
その実力が伊達じゃないという所を見せてやろうじゃあないか!
避けゲーのプロ(自称)たるこの俺に、避けれぬ弾幕などあんまりない!
こうして俺は、新感覚的当てゲーム弾幕鬼ごっこの的役を引き受ける事になったのだった。