場所は変わって、地下室の中で一番広い場所に連れて来られた。
ヤバいぐらい広い。
部屋の端から端まで百メートルぐらいあるんじゃないかと思えるぐらい広い。天井は三十メートルぐらいだろうか。アホみたいに高くて広い。
しかして床も壁も天井も色は黒で、赤い魔法陣が輝いているだけ。飾りも何も無く、何とも味気ない。
因みにこの室内は結構明るいのだが、どうやら一面に広がる魔法陣の輝きのお陰らしい。眩しくなく、程良い明るさ。
俺とフラン嬢は十メートル程の距離を置いて相対している。
『さぁ〜て、じゃあ始めるよ〜』
『━━━う…っ!』
フラン嬢の朗らかな声とは裏腹に、レミリア嬢と初めて対面した時と同じ━━━いや、それ以上の
次の瞬間、
『それ!』
フラン嬢の手から赤い光の弾が発射された。いや、次から次へと途切れる事なく発射され続けて、それらは弾幕を形成している。
『くっ…!』
割にゆっくりではあるが、しかし数が多い。この数秒間で目算百を超えている。
焦るな。こういう時こそ冷静でいなければならない。素数を数えて落ち着くんだ。
一…十…百…千…。
万丈目サンダァーーーッ!!!
よし、テンション上がってきた。
先ずはちょん避けだ。リアルなのにちょん避けとかいう言い方はおかしいが、兎に角紙一重で躱すのだ。
正面から迫る弾をしゃがんで躱し、すぐに立ち上がって弾幕の合間を縫う様に右方向へ移動。右側は少しばかり弾幕が薄い。
時には手足を動かして避け、時には光の弾を飛び越え、時にはマトリックスしながら弾幕を危なげなく躱してゆく。
うむ、全然余裕じゃあないか。流石は俺の回避スキルはA+といった所かな。三次元でも全然通用するぜ!
二三分程すると、不意に弾幕が途切れた。どうやら躱しきれたらしい。
『いやぁ、躱すの上手いねお兄さん』
『フフ、それ程でもあります』
軽口が飛び出す始末。俺、調子乗ってます。
『じゃあ、これはどうかな。━━━禁忌「フォーオブアカインド」』
『え゛っ』
途端、フラン嬢の背後から更にフラン嬢が一人、二人、三人と次々に姿を現し━━━四人のフラン嬢が俺の前に立ちはだかった。
顔も背丈も服装も髪色も髪型も背中の翼も全てが全く同じのフラン嬢が四人。
なにこれかわいい。
とか言ってる場合じゃない。
フォーオブアカインド。フラン嬢のスペルカードの一つ。四人に分身したフラン嬢が同時に弾幕を撃ってくるというもの。
本来は分身が魔法陣を背にしている……んだけど、そんなもん全員背負ってない。見分けが全然つかない。
しかも、
残像拳だとか四身の拳だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。フラン嬢が四人に増えるというもっと恐ろしい事実を突きつけられているのだッ!
三人のフラン嬢がそれぞれ俺の右方、左方、後方へと跳んだ。距離は十メートル以上離れている。
……おいおい、そのフォーメーションはまさか…!
『おっ青ざめたね、お兄さん。今度は躱せるか、なァーーー!?』
フラン嬢がAC/DCみたいな台詞と共に弾幕を放ち始める。一瞬だけ見えた彼女の表情が何処か狂気に満ちており、背筋に冷たい感覚が走り抜けた。
……っべー…。フラン嬢が最高にハイって奴になり始めてる…。
いや、それより目の前の弾幕に集中しなくては。今度は四方向からの同時発射だ。一瞬でも気を抜いたら死んでしまう!
とりあえず中央に居るのはマズい。四人のフラン嬢を結ぶ中心点であり、間違いなく弾幕の密度が一番濃くなる場所だ。
理想はフラン嬢の間から包囲網の外へ抜け出る事。
俺は右方と前方のフラン嬢の間に向かって、全方向を何度も確認しながら弾幕を躱し、ゆっくりと確実に進んでゆく。
『ぐぅ…っ!』
しかし、流石に四方向から発せられる弾幕を躱しきる事は出来なかった。目測を誤り、光弾が左腕を掠める。
痛い…というよりも熱い…! まるで熱せられた金属で触れられたみたいだ…! もしも直撃しようものならタダでは済まない。
だが、こんなものは想定内である。単純に言って弾幕の密度が最初の四倍になり、それが四方から襲いかかってくるのだ。初めから無傷で突破出来るとは思っていない。
慎重に。かつ冷静に。
前後左右に細心の注意を払いながら、少しずつだが確実に前へと進んでゆく。
『……むっ』
数歩分の距離を進んだ所で、迫る弾幕を前に足を止める。密度がかなり濃い。通り抜ける事は出来ないだろう。
仕方ない、後ろへ下がりながら横へズレて回り込んで回避しよう。そう思い、後ろを振り返ると━━━
『なっ、何ィィィィーーーーーッ!!?』
思わず叫び声をあげてしまう。
後方から光の壁━━そう思える密度の弾幕━━が此方に迫っていた。
そんな…馬鹿なっ!!
後方には確かにまだ余裕があった筈だ! 目を離したのはほんの一秒……そう、一秒程度だ! 一秒前はこんな壁の様な密度ではなかったのに!
『お兄さん』
右方からフラン嬢の声。其方を見やると、二メートル程の距離を置いてフラン嬢が立っていた。
『バ…カな…ッ!』
ついさっきまでフラン嬢は其処に居なかった筈だ…! 弾幕がギリギリ避けられそうな間隔で飛んできていただけだった! なのに、いつの間にかフラン嬢が其処に居る…!
彼女の両手から弾幕が放たれ、光の壁が形成されてゆく。
左方を振り返ると━━━同じだった。右方と同じように、今まさに左方のフラン嬢が光の壁を形成している所だった。
そのフラン嬢の口から一言、
『━━━ゲームオーバーだね』
その一言に、俺は戦慄した。
いや、正確には一瞬だけ見えた彼女の表情に戦慄した。
笑っていたのだ。口角を吊り上げ、愉快そうに笑っていたのだ。
俺はその笑みを見て━━━まるで蟻を潰して遊ぶ、残酷で無邪気な子供の様だと感じていた。