東方署名帳   作:勇(気無い)者

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其の十八、破壊衝動

『ゲームオーバーだね』

『うっ━━━』

 

 フラン嬢の一言。

 逃げ場は何処にも無い。四方八方から光の壁となった弾幕がゆっくりと押し寄せてくる。

 唯一空いているのは真上だが、それが何だというのか。俺は博麗霊夢の様に空を飛べる訳ではないのだ。

 成す術が無い。回避不能。絶体絶命。四面楚歌。

 いや、最後のはちょっと違うな…。

 最早、動転して思考もちゃんと回らない。

 為す術がない。もう駄目だ。終わりだ。死んだ。

 

 

 

 ━━━それでも身体は動いてくれた。

 

『うおおああぁぁぁァァァーーーーーッ!!!!!』

 

 雄叫びをあげ、背負っている草薙の剣を抜き放ち、眼前の弾幕に振り下ろす。

 すると、前方の光の壁がばっくりと裂けた。

 一太刀では終わらない。

 縦斬り袈裟斬り横薙ぎ斬り上げと、何度も剣を振るい光の壁を斬り裂きながら前へ前へと進んでゆき━━━突破して前方が開けると、直ぐ目の前にはフラン嬢の姿が。

 彼女は右腕を振りかぶっていた。

 突きが来る! マズい! 避けろ!

 

『うおおおおぉぉぉォォッ!』

 

 咄嗟の事ではあったが、体は何とか反応してくれた。

 フラン嬢の突きよりも一瞬速く地を蹴り、右斜め前方へ跳んだ。地面に手を着き、受け身を取って前転。直ぐ様立ち上がり、フラン嬢の方へ向き直る。

 ……し、死ぬかと思った…。お気にのジャケットが少し破れただけで済んだが、もう少し遅ければ土手っ腹に風穴が開いていたかもしれない…。

 光の壁となっていた弾幕はいつの間にか全て消え失せていた。というか、四人だった筈のフラン嬢も今は一人しか居ない。

 彼女は此方へゆっくりと振り向き、

 

『アッハハハハハハハ! お兄さん良い剣を持ってるねぇ! アタシも出していいかなぁ!? いいよねぇ!? ━━━禁忌「レーヴァテイン」』

 

 途端、フラン嬢の手に炎が溢れ出し━━━刀身にメラメラと燃え盛る炎を纏った長剣を握っていた。

 デカい。フラン嬢の背丈と同じ……いや、もう少し長い。

 ……フラン嬢の初見殺しスペル。原作では飛ばしていたが……あれ、まさか振るう気か…!?

 

『お兄さぁん……簡単に壊れたりしないでよぉ…? もっともっとモットモットモットモットモットモット楽しみたいからさぁ…。ウフフ…フフッ! アハハ! アハハハハハハ! アーーーッハッハッハッハッハッハッ!!』

 

 ああ……もう……最高にハイッて感じになってるわ……。

 

「姉と違って狂気に満ちておるな」

 

 ああ、薙。ずっと黙り込んでるから心細かったよ、マジで。

 

「下手に話し掛けるとお前の集中を掻き乱すと思うてな。ほれ、来るぞ」

 

 フラン嬢が高笑いをピタリと止め、ゆっくりと上半身を前に倒して項垂れる様な体勢になり━━━地を蹴って飛び出した。

 

『ッ!?』

 

 次の瞬間には、フラン嬢の姿が直ぐ目の前にまで肉迫していた。

 

『うぅおぉォォーーーッ!?』

 

 またもや身体が反応してくれた。

 咄嗟に体を仰け反らせたのだ。眼前を炎の刃が通過する。

 もしも身体を動かしていなかったら、今頃俺の頭は真っ二つになっていただろう。

 

『熱…っ!』

 

 目の前を一瞬通っただけでもかなり熱い。が、そんな事を気にしている隙は無い。

 そのままバック転で後方へ飛び退き、次の攻撃に備える。

 

『うっ━━━!』

 

 俺が身体を起こして前を見据えた時、またしてもフラン嬢は目の前にまで肉迫していた。

 二撃目が来る!

 ━━━左の横薙ぎ。

 咄嗟に草薙の剣を振るい、レーヴァテインの刀身の腹にぶつけながら身体を伏せる。すると斬撃の軌道が狂い、刀身は俺の頭上を通り過ぎた。

 三撃目。

 ━━━右の袈裟斬り。

 俺はその攻撃を彼女の予備動作を見て予測していた。だからこそ剣が振り下ろされるよりも速く地を蹴り、左方へ飛び退いてそれを回避する事が出来た。

 ゴロゴロと二回転してから身体を素早く起こし、フラン嬢の次の攻撃に備える。

 が、彼女は動いていなかった。剣を振り下ろした体勢のまま動いていなかったのだ。

 フラン嬢が此方へ振り返る。

 

『駄目だよお兄さん、動いちゃさぁ……ちゃんと真っ二つに斬れないじゃんかさぁ…』

『………』

 

 もう支離滅裂だな…。さっきは簡単に壊れたりしないでとか言ってた癖に…。

 

『でもよく躱せたねぇ? ただの人間の癖にちょっと凄いんじゃない?』

『……それはどうも。しかしフランドール様、弾幕鬼ごっこがいつの間にかチャンバラごっこに替わってますよ。弾幕はどうしたんです?』

『あぁ〜…そうだったね。じゃあお望み通りにィィーーーッ!!』

『……っ!』

 

 再び弾幕攻撃が始まった。先程よりも弾速が少し速いが、それでも避けれない程じゃない。

 避けれない軌道にあるものは剣で斬って対処してゆく。弾幕攻撃の方が遥かに御しやすい。

 ほら、また避けれそうにない弾幕が来たけど、こうやって剣で斬ってやれば━━━

 

『な…ッ!?』

 

 弾幕を斬った先━━━俺の目の前にフラン嬢が立っていた。刀身の燃え盛るレーヴァテインを両手で振り上げている。

 そこから繰り出されるであろう次の攻撃は容易に予測出来る。そのまま振り下ろす気だ。

 

 回避━━━間に合わない。運が良くて身体の一部を切り落とされる。悪ければ即死。躱せない。

 剣で受け止める━━━無理だ。人間が吸血鬼の怪力に太刀打ち出来る訳がない。真っ二つにされて終わりだ。

 意表を突いて攻撃━━━駄目だ。俺が斬り掛かるよりもフラン嬢が剣を振り下ろす速度の方が圧倒的に速い。結局真っ二つにされて終わりだ。

 為す術がない。絶体絶命。

 

 そんな中━━━俺は左腕を動かしていた。

 フラン嬢が剣を振り下ろす。

 俺は左の拳で迎え撃つ。

 

『うあああぁぁぁァァーーーッ!!!』

 

 叫び。無心の叫び。

 振り下ろされる剣の内側へと拳を潜り込ませ、透かさずスクリュー状に回転させる。

 ━━━白刃流し。レーヴァテインの軌道がズレて、刀身は床へ突き刺さった。

 左腕がぶすぶすと焼け焦げる音を立てる。しかし、熱さを感じるよりも先に、俺は次の行動に移っていた。

 草薙の剣を振り上げ、ゴルフクラブの様に振るったのだ。ゴルフスイングである。

 

 ━━━ベキンッ。

 

 金属がへし折られた様な音。

 いや。

 レーヴァテインの刀身がへし折られた音。

 そこから直ぐ様飛び退き、距離を置く。すると、次第に左腕の火傷が痛み始めた。

 熱い…と言うより痛い…!

 昔、甘栗拳を習得しようとして火傷した経験があるけど、その時とは全然違う!

 火傷はジリジリと痛むのだが、これはなんというか……言葉にするなら、蝕まれるという表現が一番近いと思う…!

 かなり痛い…!

 ふと、フラン嬢が大きく溜め息を吐き、

 

『…あーあ…折られちゃったぁ………ふふ…ウフフフ…』

 

 彼女は小さく笑い、剣の柄を放り捨てた。

 その笑い声は次第に激しくなってゆき、

 

『アーーーッハッハッハッハッハッハッハッハッ!! アーーーッハハハハハハハハハッ!!!』

 

 遂には狂った様な高笑いへと変わった。上半身を仰け反らせ、両腕を大きく開いて豪快に笑っている。

 ……やれやれ、いい加減付き合いきれなくなってきた…。

 

『ねぇ、お兄さん……私、凄く興奮してきちゃった……。胸の高鳴りが止まらないの…! 抑えきれないのよ! このままじゃおかしくなっちゃいそうなのよッ!!』

『………』

 

 台詞だけ聞くと艶事の意味に取れなくもないが、彼女の狂気に満ちた笑みで言われるとゾッとするだけだ。

 今更ながらに来るんじゃなかったと後悔し始めている…。

 フラン嬢が続けて、

 

『お兄さん……()()()もいい…?』

『うっ━━━』

 

 彼女が右手を開いた状態で前に突き出した。

 ヤバい、能力を使う気だ! ありとあらゆるものを破壊する程度の能力を使って、俺を()()気だ!

 逃げなければと思い横へ走り出そうとしたが、フラン嬢の手の動きの方が速い。

 彼女が開いていた手を軽く握る。

 途端、全身が何かに圧迫される感覚に襲われた。例えるなら、巨人の手に握り潰される様な感覚。

 

『ぐうぅ……ッ!?』

 

 やばいヤバいヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイッ!!

 このままだと潰され━━━ッ!!

 

 

 

 ━━━グチャッ。

 と。

 肉片が床に落ちた様な音が辺りに鳴り響いた。

 

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