東方署名帳   作:勇(気無い)者

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其の二十、お風呂だー!

 フラン嬢のサイン、ゲットだぜ! ピッピカチュウ!

 いやぁ、フランドールは強敵でしたね。っていうか強敵過ぎたね。何度死ぬかと思ったか……。

 あぁ〜、生きてるって素ん晴らしいっ!!

 さて、レミリア嬢の所へ報告に行こうか。

 ガチャリ、扉を開くと、

 

『無事だった様ですね』

『ふおぉっ!?』

 

 目の前に咲夜さんが待ち構えていた!

 びっ、吃驚(びっくり)した……思わず、岩盤に叩きつけられる直前の王子みたいな声が出た…。

 

『い、一体いつからスタンバイしてたんです…?』

『つい先程ですわ。お嬢様がそろそろ終わるだろうから、結果を見てくる様にと申し付けられましたので』

 

 あー、レミリア嬢の運命を操る程度の能力……長いな、運命力でいいか。

 まぁ兎に角それで察知したって事かな?

 しっかし、運命力っていうかまるで未来予知だな…マジレミリア嬢パネェ…。

 

『しかし、随分と派手に暴れられた様ですね』

『あー、すいません…。床とか壁は破損してないと思うんですが、フランドール様の弾幕による焼け跡とかがそこら中に…』

『それならご心配には及びません。既にお()()しておきましたから』

『え…?』

 

 振り返って確認すると、

 

『ダニィッ!?』

 

 そこら中にあった筈のフラン嬢による弾幕の焼け跡が綺麗さっぱり無くなっている…だと…っ!?

 驚きの余り、伝説の超野菜人が現れた報告を受けた時の王子みたいな声が出た…。

 ダニーではない。それは貴族の飼い犬。若しくは白いネズミ。

 いや、そんな事よりこれ……まさか俺が扉を開いてから振り返るまでの間に、咲夜さんが時を止めて掃除したって事か…?

 な、何でそんな無駄な事を…。

 い、いや…結局あとから掃除するんだから無駄ではないか。

 しかし、俺を驚かす為にやったのだろうか? 多分そうなんだろうな、咲夜さんも薄い微笑を浮かべているし。

 俺の為にやってくれたのかもと思うと、ちょっとだけ嬉しいかも…。マジで吃驚したけど。

 

『さぁ、それではついて来て下さい。浴場へと御案内致しますわ』

 

 咲夜さんが背を向け歩き出した。

 今、浴場って言った…? まさか、お風呂に入れるっ!?

 はいはーい! 今行きまーす!

 俺は喜びのスキップを刻みながら咲夜さんの後をついて行った。

 途中で転んだのはここだけの秘密。

 

 

 

 

 

 

『うっほほほほ〜…!』

 

 浴場広ッ!! 思わず変な声が出たわ!

 俺の知ってる銭湯の二倍…いや三倍は広いんじゃないか?

 それが貸切状態。独りぼっち。ちょっと寂しい…。

 

『替えの服は此方に置いておきますので』

 

 ドアの向こう、脱衣所から咲夜さんの声。

 

『あ、ありがとうございます』

『それではごゆっくり』

 

 咲夜さんは去っていった。俺の服は洗濯しておいてくれるそうだ。

 しかも、此処へ案内される前に俺の左腕の手当てもしてくれた。

 本当に何から何まで申し訳ない気持ちになる。

 さて。おっ風呂っだ♪ おっ風呂♪

 とりあえず頭と体を洗う。

 シャンプーとボディーソープ。両方とも泡立ちがヤバかった。

 高級なやつってこんなに泡立ち良いの? 俺はいつも安いやつを使ってるからよう解らん。

 体を流し終え、いよいよ浴槽へ。まず足を入れて、ゆっくりと湯に浸かってゆく。

 

『んぅ…ぬぅ…お゛ぉ〜…』

 

 凄くオッサン臭い声が出た。ちょっと熱めだったからつい、ね。誰も居ないから別にいいのだ。

 左腕の火傷に染みるか心配だったけど、特に痛みはない。咲夜さんの処置が適切だったからか、それとも火傷が魔力によるものだったからなのか。

 まぁ、兎に角痛みは無くてラッキーである。

 

『はぁ〜、気持ちいい〜…』

 

 風呂は命の洗濯って言うけど、全くその通りだよね。

 いやー、紅魔館に来てから本当に色々あったから、尚更体に染み渡るわ〜。

 

『あ〜、極楽ぅ〜』

『全くじゃのぅ』

『……………ん?』

 

 すぐ右隣からの声。其方に視線を移してみれば、雪の様に白く長い髪を結い上げた少女。

 つまり、一糸纏わぬ姿の薙ががががが

 

『うぉわーッ!?』

 

 驚きの余りバッドガイみたいな声が出た! ACでは十割もってく即死コンボの所為でクソル呼ばわりされてたバッドガイさん!

 いや、そんな事より!

 

『おまっ、おままおま、お前は何しとんじゃー!?』

『何じゃ耳元で喚くな煩い…。何をそんなに興奮しておるんじゃ? あ、もしかして妾の美しい肢体に興奮して』

『全然違います』

『…食い気味で即答……お前失礼な奴じゃな…』

 

 ごめんなさい。でも、別に裸程度で一々狼狽えたりしません。意識はするけど。

 じゃなくて!

 

『何で薙が居るの!?』

『一風呂浴びに来た。何かおかしいか?』

『いや、おかしいだろ! あんた仮にも剣だろうが! 剣の付喪神だろうが! 錆びちゃうでしょうが!』

『阿呆、草薙の剣は緋々色金で出来ておるのじゃぞ。錆びる訳なかろう』

『あ……そっか…』

 

 いや、納得しかけたけど、剣が風呂に入るって矢っ張りおかしくね? 具体的にどうこうとかは言えないけど……こう……おかしくね…?

 剣は浴槽の外に立てかけてある。持ち込むなよと言いたいが、剣から余り離れる事は出来ないらしい。

 

『良い湯じゃのぅ〜』

『……』

 

 …はぁ…。もういいや。

 湯に浸かって緩い顔を晒す薙を見てたら、ウダウダ言うのがアホらしくなってきたわ…。

 幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね、って奴だ。うん。

 

『…霊牙よ』

『うん?』

『よくやったな』

『……え…?』

 

 な、何…? 何でいきなり褒められた…?

 神妙な様子で薙は続ける。

 

『お前は妾の期待通りに天羽々斬を折った。お前のお陰で救われた命がある。これは大袈裟でも何でも無く、お前はこの世界を救った。

 誇って良いぞ、霊牙。お前は誇って良い。それだけの事を成し遂げたのだ。よくやった、霊牙』

『……』

 

 …な、何か、急にそんなベタ褒めされると、反応に困るぜよ…。

 普段、そんな褒められた事とか、無いし……ヤバイ、俺の顔真っ赤になってないよな…!? 鏡が無いから解らん…!

 

『兎に角、妾の目的は達成された。後はお前のサイン集めとやらに付き合おう』

『……うん……ありがと…』

 

 ………。

 落ち着かない。凄く落ち着かない。

 

『俺…さ、先に、上がるわ…』

『うん? そうか。妾はもう少しゆっくりしてゆく』

『う、うん…』

 

 そそくさと浴場を後にし、脱衣場へ逃げ込む。

 ……ヤバイ。心臓がすんごいドキドキしてる…。

 俺は咲夜さんの用意してくれた赤の浴衣━━色はアレだが、旅館に置いてありそうなデザイン━━に着替えて、落ち着かない気持ちのまま薙を待つのだった。

 

 

 

 

 

 余談だが、三十分近く待っても薙が出て来ないので、呼びに行ったら彼女は茹で蛸の様に逆上せていた。

 色々台無しだよ…。

 

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