東方署名帳   作:勇(気無い)者

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其の二十一、今日の終わりに

『あー…疲れた…』

 

 場所は変わって、咲夜さんに案内された客室。真っ赤なシーツのベッドに背中からダイブする。

 ボフッと柔らかい感触に包まれる。うっは、めっちゃ気持ちいい〜……これが高級ベッドか…。

 ヤバいな、高級ベッド……。なんていうか…こう……兎に角気持ちいい〜…。

 因みに、此処へ案内される前に咲夜さんが、俺の火傷した左腕に包帯を巻いてくれた。本当に何から何まで申し訳ない。

 でも時間止めて巻くのはやめてほしい。ビビる。

 

『しっかし…』

 

 まぁ、室内は赤が多いな…。

 まずベッドが赤。シーツも掛け布団も枕も赤。床一面に敷き詰められた絨毯も赤。壁の色も赤。

 どんだけ赤好きなん…。ここまで赤いと、ちょっと怖いんだが…。

 広さは普通のホテルの一室より少し広いぐらい。流石に部屋が広すぎたら落ち着かないので助かる。

 室内を照らす灯りは、黒を基調とした英国照明(シャンデリア)。レミリア嬢の部屋にあった奴よりちょっと小さい。なんで赤じゃないんだ? 別にいいけど。

 壁際には茶色の棚が並んでいる。好奇心に駆られて開けてみたけど、何も入ってなかった。残念。

 薙は剣の中に戻っていった。……戻っていったという表現で良いのだろうか?

 姿を現したり消したりしてるんだが、いつの間にか過ぎてどうやって出たり消えたりしてるのか知らないんだよな……まぁ、兎に角今は姿を消している。風呂で逆上せたからだ。多分、明日まで出て来ないと思う。

 それしても、

 

『色々あったなぁ……』

 

 幻想郷にやって来てから、まだ一日しか経っていないが、本当に色々あった…。

 博麗神社で霊夢や魔理沙、紫様と出会い、香霖堂では霖之助さん。

 其処で薙と出会ったんだ。薙が居なかったら俺は今頃……レミリア嬢の下僕になっていたか、それともフラン嬢の手でグロ画像状態にされていたか。どっちにしてもBAD END。

 本当、薙には感謝してもしきれないよな……。

 しかし、今日一日で何度死にかけた事か……。サインを集めるうえで、今日みたいな事がこれからも続くんだろうか……?

 ……い、いや…紅魔館が特別なだけ…だよな…? 此処以上に危険な場所なんて……、……あっ。

 ……ある…。紅魔館以上に危険でヤバイ場所が…。

 ………。

 ま、まぁそれはその時考えれば良いや。薙も協力してくれるって言ってたし、大丈夫だろう。というか、薙が居なかったら即刻GAME OVERになりそうだが。

 

 そんな風に色々考えていると、ドアがコンコンとノックされた。

 開いてみると、其処には咲夜さんが立っていた。サンドイッチが数切れ乗った皿を手に持っている。

 

『お申し付け通り、お夜食を持って参りました』

『あー、ありがとうございます』

 

 サンドイッチの皿を咲夜さんから受け取る。

 

『わざわざすみません、面倒な事を言ってしまって…』

『構いませんわ。━━━そうそうコレは独り言ですが、門番の部屋は邸内を入ってすぐ右を行った突き当たりの部屋になります』

『━━━』

『では、私はこれで失礼致しますわ』

 

 そう言い残し、咲夜さんは音もなく姿を消した。

 ……まさか、このサンドイッチの意味を見抜かれていたとは…。

 

『……全く、咲夜さんは瀟洒だなぁ…』

 

 誰に言うでもなく、俺は呟いていた。

 

 

 

 

 

 

『んーっと……この部屋かな…?』

 

 咲夜さんの言われた通り、玄関ホールの入り口側から見て右の通路を真っ直ぐ進んだ、突き当たりの部屋の前。

 

『うーむ、ちょっと緊張するな…』

 

 いざ美鈴さんに会うとなると、何を話せば良いのやら…。

 まぁ、迷ってても時間が勿体無いだけだ。なるようになるだろう。

 俺は意を決してドアをノックした。

 中から『はい』という声が聞こえて数秒後。ガチャリと、ドアが開かれた。

 

『…あっ』

 

 中から現れたのはパジャマ姿の美鈴さんだった。

 白を基調としたパジャマで、水玉模様が所々に入っている。如何にも女の子らしくて可愛いパジャマ。

 彼女は俺の姿を見るなりドアをバタンと閉めた。

 

『………』

 

 ……閉められちゃった。

 矢っ張り、夜中に女性の部屋へ赴くのは不謹慎だっただろうか……いや、冷静に考えると不謹慎とかってレベルじゃない。まさか、夜這いだと勘違いされてないよな……!?

 ど、どど、どうしよう…? 美鈴さんのサインはまだ貰ってないし、嫌われる様な行動を取るのは拙い…!

 サンドイッチは部屋の前に置いといて、声だけ掛けて自分の部屋へ戻った方がいいか…?

 そんな風に悩んでいると、再びドアが開かれた。中から現れたのは美鈴さん……だが、服装が最初に会った時の門番ルックに変わっている。わざわざ着替えたらしい。申し訳ない……。

 

『失礼しました。えっと、私に何か御用でしょうか?』

『あ、えっと、咲夜さんに夜食を作って貰ったので、美鈴さんにと思いまして……』

『………』

 

 ……返事がない。…というか、美鈴さんがポカーンとした表情で呆けている。

 お、俺何か変な事言ったか…!?

 内心で焦っていると、数拍の間を置いて美鈴さんが俺の手をガシッと握り、

 

『ありがとうございます!』

 

 ……お礼を言われた。

 …のは…良いんだけど…痛…美鈴さん、力強……痛ただだ…っ!

 

『あ、すみません…!』

 

 美鈴さんはすぐに気付いて俺の手を解放してくれた。

 い、痛かった……握られた所が赤くなってるし…。

 それでも平静な振りをして答える。

 

『い、いえ……大丈夫ですよ』

『……本当にすみません、余り気遣ってもらった事とか無いので、嬉しくてつい…』

 

 ……美鈴さんの扱いって悪いんだろうか…。仕合後のオゼウニズムを見た感じ、そんな気がする…。

 

『そうだ、お茶を出しますから中へどうぞ』

『えっ、あ、はい…』

 

 何故かお茶する事になった。

 

 

 

 

 

 

 で、美鈴さんの部屋の中。

 現在、俺は中央に置かれた小さな白い長方形の卓子(たくし)の前で正座している。卓上には美鈴さんのサンドイッチが置いてある。下には白いモコモコの絨毯が敷かれている。とても肌触りが良い。

 前方には箪笥が二つ、壁際に設置されている。多分、着替えとかが入っているのだろう。

 右方にはベッド。シーツと枕は白で、掛け布団代わりのタオルケットはピンク色。よく見ると桜模様が入っている。可愛らしい。

 後方には入り口のドアがあり、左方は壁。更に左奥にはお勝手っぽい所に繋がる入り口がある。美鈴さんは先程、其処へ入って行った……と、戻って来た。

 

『どうぞ』

 

 目の前に湯呑みが置かれた。中には湯気が立ちのぼる緑茶が入っている。

 

『ありがとうございます』

『咲夜さんの淹れたもの程美味しくはないですが…』

 

 たははと笑い頬を指で掻く美鈴さん。可愛い。

 早速、お茶を一口頂く。

 

『……あ、美味しい』

 

 思わず呟く。お茶は結構好きなので自分でも淹れるのだが、ここまで美味しくはならない。自分で淹れたやつの三倍は美味しい。何かコツでもあるんだろうか?

 

『お口に合った様で何よりです。えーっと、霊牙さん、でしたっけ?』

『あ、はい、そうです』

『何か私に御用でしょうか?』

 

 流石にサンドイッチを渡しに来ただけではない事はバレていたらしい。当たり前か。

 

『実は、美鈴さんのサインを戴きたいなと思いまして』

『さ、サインですか?』

『ええ。此方のメモ帳……あっ』

 

 メモ帳とペンを部屋に忘れて来ちまった……。

 そうだよ、今の俺の服装は浴衣だよ…。ポケットなんてないんだよ…。馬鹿か俺は……。

 

『……えー……、……のつもりだったんですが、メモ帳を部屋に忘れてしまったので…』

『ああ、ではお部屋まで伺いますよ』

『あぁ、いやいや、大丈夫です! また明日にでもお願いしに行きますので!』

 

 そこまでご迷惑をお掛けする訳にはいかない! 申し訳ないし!

 

『…そうですか…? 解りました。明日も門の前に立ってますから、何時でもお越し下さい』

『はい、ありがとうございます』

『ところで。一つ、私からもお聞きしたい事があります』

『え? あ、はい、何でしょう?』

『決闘の時に思ったのですが、貴方は武術の心得がありますね』

『えっ……ええ…まぁ…』

 

 心得って程、立派なものでもないけど…。

 

『私も武術を長いこと嗜んでおり、色々な武術がある事も知っています。空手や柔道、合気道等、様々な武術の使い手と試合をしました。その経験で、試合をした時に相手の武術の根底が見えてくるのです。

 しかし、霊牙さんとの試合で、私は貴方の武術の根底を見極める事が出来なかった。空手の様でもあり、中国拳法の様でもある。他の武術の顔も見え隠れしている…』

 

 …達人ってすげぇな…。そんな事まで解るのか…。

 

『それで質問ですが、貴方は一体どこで武術を習ったのですか?』

『……習ってはいません…。殆ど指南書を見ながら独自で学んだものですから…』

 

 しかも、その大半は漫画知識ですから…というのは伏せておく。伏せておくっていうか、説明するのが面倒くさい。これこれこういう漫画がありまして、という所から説明しなければいけなくなる。それは非常に面倒くさい。

 美鈴さんは「成る程」と、どこか納得した様に頷いた。

 

『矢張り、我流でしたか……霊牙さん』

『はい?』

『紅魔館で門番をやってみませんか?』

『は……はい…?』

 

 え…? 勧誘された? 何故? 今の会話の流れで何故勧誘?

 

『えっと、何故です…?』

『ざっくり言うと、才能があるからです。貴方の身体能力はかなり高い。加えて、技の意味を理解した上で、それを正確に体得する事の出来るセンスがある。一つ一つの技の練度を見てもそれは明らかです。

 しかし、それ以外はかなりお粗末なものになってしまっている。技から技への繋ぎ。体運び。防御。身の躱し。それら全ての基礎がまるでなっていない。これは非常に勿体無い。

 ですが、然るべき師の元で武術を習ったのなら━━━貴方は確実に今の段階から数段強くなれるでしょう。私ならばそれが出来る』

『━━━』

『どうです? 此処で門番をしながら、私に師事してみませんか?』

 

 ……えっと……何か。つまりこれは、弟子入りしないかと勧誘されているのだろうか…?

 何というか、申し出は凄くありがたいし、マジで受けたいと思うんだけど……。

 

『ごめんなさい、それは出来ません…』

 

 大学は夏休みに突入している。勉強はそれなりに出来る方だし、就職はまだなので今年の夏休みは遊んでても問題ない。

 なので、俺はその殆どをこの幻想郷で過ごそうと考えているのだが、それは長い様で実のところ短い。

 行きたい所は他にも沢山あるのだ。人間の里、永遠亭、妖怪の山、魔法の森、太陽の畑、玄武の沢…etc(エトセトラ)etc(エトセトラ)…。

 兎に角沢山だ。

 故に、紅魔館にずっと留まる訳にはいかない。

 

『……そうですか。残念ですが、仕方ないですね。でも、気が変わったら何時でも訪ねて来て下さい』

『ありがとうございます。しかし、門番に雇用するなんて、勝手に決めちゃっていいんですか?』

『それは本来なら駄目でしょうけど、お嬢様は貴方を妙に気に入っていますからね。頼み込めばイチコロですよ、きっと』

 

 い、イチコロですか…。お嬢様チョロいですね…。

 っていうか、門番になったら毎日血を吸われそう……死んじゃう……。

 

『そうだ、仕合の時に私の手刀を払った技の詳細を教えて頂けませんか?』

『手刀……ああ、白刃流しの事ですね。あれは空手の技でして、刀を持った相手に素手で対抗する為の━━━』

 

 

 

 それから俺と美鈴さんは武術の話題で小一時間近く盛り上がった。凄く勉強になりました。

 いよいよ眠くなってきた所で、俺は割り当てられた客室へ戻って眠りについたのだった。

 

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