東方署名帳   作:勇(気無い)者

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其の三、署名帳

 滞在。余所に長く留まる事を意味する言葉。

 

『それは、外の世界での生活を捨てて幻想郷に住む、という事ですか?』

 

 紫の問いに俺は首を横に振る。

 

『いいえ。自分は滞在したいのです』

『…つまり、外来人として幻想郷に滞在したい、という事ですか』

『…そうなりますね』

『……』

 

 間。

 

『…良いでしょう』

『…っ!』

 

 やったどー! 紫様から許可をいただいた! これで幻想郷を練り歩く事が出来る!

 等と心中で喜んでいると、紫様は「ただ」と付け加え、

 

『命の保証は致しませんわ』

『……』

 

 …先刻述べた通り、バランス維持の為に里の人間は命の保証がされている。里から無闇に出ない限りは安全なのだ。

 しかし、外来人は殺してもバランスに影響は全く無い為、外来人である俺の命の保証は無い。

 だが。それでも。

 

『覚悟の上です』

 

 覚悟━━━死ぬ覚悟、ではない。死と隣り合わせでも、諦めずに生き抜く覚悟、である。

 …この機会を逃せば、二度と幻想郷へ訪れる事など出来ないだろう。それはきっと、死ぬより後悔するだろうから。

 

『…そう』

 

 紫は目を伏せ、俺の横を素通りして霊夢の隣へと歩いてゆく。

 

『美味しいお茶菓子が手には入ったの。霊夢、お茶にしましょう』

『何言ってるのよ。この人を放っておく訳にもいかないでしょ。滞在するなら、せめて人里へ連れて行かないと』

『放っておきなさい。どうせ喰われるのがオチよ』

 

 紫なんでそんな事言うん? 我は死なぬ! ……簡単には死なぬ!

 …きっと。

 

『私は博麗の巫女として彼を人里まで送るわ』

『……チッ。私が喰ってやろうかしら…』

 

 アヒィ…ゆかりんがメッチャ怖い事を呟いてらっしゃる……。多分、霊夢との時間を邪魔されてご立腹なのだ……。ていうか霊夢とそんなに仲良いんですね紫様。

 霊夢は「馬鹿言ってんじゃないわよ」と突っ込み、此方へ近寄って、

 

『えっと…霊牙さん、だったわね。とりあえず━━━』

『━━━おーい、霊夢ー!』

 

 後方より霊夢でも紫でもない、別の少女の声。振り返ると、上空より飛来する人影が。よくよく見れば、箒に跨がっている。

 

『よっ、と』

 

 ふわりと、箒に乗って現れた金髪美少女が着地。年頃は霊夢と同じ位か。

 

 その特徴を一言で表すならば「魔女」。

 服装は白のブラウスの上に、四角形の様な配置でボタンの付いた黒い服。下は黒のロングスカートの上に、白のエプロンを前掛けの様に着けている。

 ウェーブの掛かった髪は、後ろは背中まで伸びており、顔の左横の髪は三つ編みにして肩に乗っている。

 また、一番特徴的なのは頭に被った黒い帽子だ。先の尖った三角帽で、白いリボンが付いているつばの広い帽子。

 

 ━━━どう見ても霧雨魔理沙。東方projectにおける、もう一人の主人公。

 …本物だ。あの霧雨魔理沙が、俺の目の前に居る…!

 

『お、なんだ人が居たのか』

 

 と、俺を見るなり彼女は声を掛けてきた。

 

『見掛けない顔だな。霊夢の男か?』

 

 小指を立てていやらしい笑みを浮かべる。ああ、ちょっと何言ってるか解りませんね。

 対して霊夢は「馬鹿言ってんじゃないわよ」と軽く受け流す。

 

『それより何か用なの?』

『ああ、そうそう。香霖の所で花火をやる事に()()んだ。霊夢はどうする?』

 

 …やる事に()()って事は、自分で決めたけど許可は取ってないという事では…。魔理沙なら有り得る。

 

『私は今から、この人を人里へ送ってかなきゃならないのよ』

『あー、花火は夜にやるからまだ時間はあるぜ。私はすぐに香霖堂へ向かうが』

『そうね…』

『あのー…』

 

 霊夢と魔理沙の会話に割り込み、声を掛ける。反応したのは魔理沙。

 

『何だ? 何か用か?』

『いやぁ、つかぬ事を聞くけど……君は霧雨魔理沙さんで合ってるかな?』

 

 一応確認。絶対霧雨魔理沙だと思うけど。

 

『お? そうだけど、霊夢から聞いたのか?』

『私は何も教えてないわよ』

『じゃあ、何故知ってるんだ?』

『それは、幻想郷から外へ出た人から色々聞いたんですよ。だから、魔理沙さんの事も知っていたんです』

『へぇー、そーなのかー』

 

 碌な説明もしてないのに、一言で完結してしまった。特に興味は無いらしい。

 まぁ、楽だからいいけど。

 

『で、その幻想郷にお詳しい外来人が私に何の用だ?』

『ええ、まぁ…魔理沙さん本人かどうかの確認と……あと、ちょっとしたお願いがありまして…』

『…お願い、だぁ?』

 

 魔理沙が訝しげな声をあげる。

 まぁ、初対面で厚かましくお願いしてくる奴なんて怪しいと思うのは当然だよね。

 

『あ、霊夢さんと紫様にもお願いしたい事なんですが…』

『私も?』

『……』

 

 ゆかりんが無言で睨んできた…怖ひ…。

 

『面倒な事ならお断りだぜ。私は暇だけど忙しいからな』

 

 どっちやねん。

 

『いえいえ、簡単な事ですよ。自分のお願いってのは━━━お三方の御署名を戴きたいのです』

『……署名だぁ〜?』

 

 魔理沙が怪訝な表情を浮かべる。

 

『えっと、何の為ですか?』

『ええ、自分は先程幻想郷に滞在すると申し上げましたが、自分が幻想郷に居たという証が欲しいのですよ。その為に、幻想郷の各所を巡り、色々な方にサイン……つまり、署名を戴きたいと思っております。それで、幻想郷における主人こ……じゃなくて、有名で高名なお三方のサインを戴きたく思いまして』

『……』

『……』

 

 シーン…。返事が無い…只の屍の様だ…。なんつって。

 というか何この沈黙、凄く居たたまれないんだけど…。まるで一発ギャグを披露して滑った様な重たい空気…。あ、何か胃が痛くなってきた…。

 沈黙は暫く続いたが、不意に紫様が動いた。此方へ歩み寄り、俺の手からメモ帳とペンをぶんどってスラスラと何か記入した後、突き返される。

 メモ帳を開いてみれば、其処には「八雲紫」と署名があった。

 

『…っ! ありがとう御座います!』

 

 背を向ける紫に深々と頭を下げる。

 やったぜ! ゆかりんのサインゲットだ! 超嬉しい!

 心中で狂喜乱舞していると、

 

『いいぜ、私も書いてやるよ』

 

 魔理沙がメモ帳とペンを取り、紫様と同じ様に何かを記入してから、それらを俺に返してきた。

 「八雲紫」の下に「霧雨魔理沙」と署名が。

『じゃあ私も』と続いて霊夢が 「霧雨魔理沙」の下に「博麗霊夢」と署名。

 

『…ありがとう! 本当にありがとう!』

『そんな喜ばれると何だか照れるぜ。大した事はしてない、名前を書いただけだ』

『そうですよ。頭を上げて下さい』

『い、いやぁ……嬉しくて』

 

 これはあれだ。芸能人にサインを貰えた時の心境に似ている。超嬉しい。ヒャッホー!

 

『…面白い奴だな。お前、名前は何ていうんだ?』

『え? ああ、自分は霧崎霊牙と申します。以後、お見知り置きを』

『へぇ、良い名前だな』

 

 魔理ちゃんに褒められちゃった!

 

『てか、敬語はやめてくれ。何だかむず痒い。それに呼び捨てでいいぜ』

『えぅ? …じゃ、じゃあ魔理沙、で』

『ああ、それでいい』

 

 呼び捨てで呼んで良いってさ。

 これはもう、友達になれたと言っても過言ではないんじゃないかな? かな?

 なんつって。単に彼女の性格なんだろうけどね。

 

『そろそろ人里へ行きましょう』

『あ、そうですね』

『人里か。私が送ってってやろうか?』

 

 と、何故か魔理沙。

 

『あんた、霖之助さんの所に行くんじゃなかったの?』

『気が変わったんだよ、面白そうだしな』

 

 魔理沙が「それに」と付け加え、

 

『歩いて行ったら日が暮れちまうだろ。乗れよ』

 

 箒に跨がり、後ろを親指で差した。

 

『…いいの?』

『霊夢じゃ、人を抱えて飛ぶのは無理だろうからな。ちょっと重いかもだが大丈夫だ、問題ない』

 

 その言い回しは大丈夫じゃない、問題だ。

 ま、まぁフラグになったりはしないだろう。

 …恐らく。

 

『…じゃあ、お言葉に甘えて━━━と、その前に』

 

 旅立つ前に、紫様に聞いておかなければ。

 

『幻想郷の通貨って、外とは違うんですよね?』

 

 幻想郷の文化は、明治時代のままらしい。ならば、外の通貨は使えない。

 すると、紫様は俺の言葉の意味を理解したらしく、

 

『あら、両替? いくらかしら?』

 

 と、ニコニコしながら此方へ寄ってきた。紫様にとっては、外の通貨は価値があるらしい。多分、外でお買い物でもするんだろう。

 しかし、文字通り現金な人だな…。

 

『えーと、じゃあ━━━』

 

 

 

 

 

 

『ありがとうございました、紫様』

『ええ、生きてたらまた会いましょう。まぁ、無理でしょうけど』

 

 紫何でそんな事言うん?

 俺は苦笑しながら「ええ、また」と返し、魔理沙の箒に跨がった。

 

『よし、落ちるなよ』

『う、うん』

 

 彼女が神社へやって来た時の高度を鑑みれば、落ちたらスペランカー先生でなくとも即死である。

 

『って、霊夢。貴女まで行く事ないんじゃないかしら? 魔理沙が送っていくのでしょう?』

『ああ、私に任せてくれていいんだぜ?』

『私は博麗の巫女としての責任があるのよ』

 

 これは少し意外だ。原作の性格から考えても、霊夢は割に面倒くさがりだと思っていた。博麗の巫女として〜なんて台詞を口にする様な勤勉さを持っていたとは…。

 ふわりと、霊夢が上空へ飛び上がる。本当、反重力でも使ってんのかって感じで飛ぶなぁ…。

 彼女の姿を下から眺めていると、霊夢はスカート押さえた。俺も慌てて視線を逸らす。ドロワを穿いてても見られたくはないらしい。当たり前か。

 いや、別にスカートの中を覗いてた訳じゃないんだけどね?

 

『じゃあ、人里へ━━━』

『あ、出来れば俺も香霖堂へ連れて行って欲しいんだけど…』

『へっ? …別にいいけど、何でだ?』

『霖之助さんのサインも欲しいんだ』

『はぁ、あいつのか。いいぜ、先に香霖堂へ寄ってやるよ』

 

 魔理沙の了承を貰った。香霖堂は人里から少し離れた位置にある。里の人間ならまだしも、外来人の俺では妖怪に捕まって食べられてしまう。

 因みに、サインともう一つ目的もある。

 そして、背後からゆかりんの舌打ち口撃。…聞かなかった事にしよう。

 

『よし、飛ばすからマジで落ちるなよ』

『え…っ━━━うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』

 

 初速が日本一と言われるジェットコースター「ドド○パ」顔負けの速度に、思わず絶叫。

 その叫び声は幻想郷中に響き渡ったのだとか。

 




漸くタイトル回収。
以降、彼の事は「妖怪サインくれ」と呼ばれるようになったとか何とか…。
嘘でぇぇぇぇぇす!
さて、紫様の性格が早速おかしいです。霊夢と一緒にお茶ってなんだよw
ねーよ。
本当はもっと胡散臭い感じにしたかったんですがねぇ…。これじゃあただの霊夢スキーじゃあねぇか…。
どうでもいい事ですが、最初は小説のタイトルを東方友人帳にしようかと思ってました。それは余りにも余りなのでやめました。
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