上空を飛ぶ、二つの影があった。一つは赤く、一つは黒。
黒は俺と魔理沙、並んで飛ぶ赤は霊夢である。
『おい、あんまりしがみつくな』
『んな事言われても…』
落ちたら確実に死ねる高さであり、ジェットコースター並の速さである。しかして、安全措置は無いという。
重ねて言う様だが、落ちたら死ぬのだ。なので、魔理沙のお腹辺りに手を回してしがみつくしかない。箒の柄に手を掛けるだけでは、バランスを崩して落ちるだろう。
どうでもいいが、魔理沙の髪が顔に当たってこそばゆい。そして彼女の帽子は何故飛んでいってしまわないのか。この風圧を受けたら普通は帽子なんて飛んでいくと思うのだが。
幻想郷だからだろうか。幻想郷では常識に捕らわれてはいけないのか。
『そんなに怖いか? 私は、空を飛ぶのは好きだけどな』
いや、俺は飛行機やジェットコースターは普通に乗れる。空を飛ぶのが怖い訳ではない。
……これはアレだ。自分が車を運転してドリフトをやっても怖くないが、他人の運転でドリフトをされると怖いという心理だと思われる。
きっと、自分で空を飛べたのなら、こんなに怖いとは思わないだろう。
『……』
…不意に、魔理沙が悪戯っ娘の如くな笑みを浮かべた様に見えたが━━━それは間違いではなかった。
『うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』
突然の急降下。地上へ向けて真っ逆様。木にぶつかる寸前で曲がり、徐々に上昇。高度を元の高さまで戻し━━━今度は
やっと落ち着いたかと思えば━━━今度はぐるぐる円を描きながらの上昇。
再び元の高度に戻ったところで霊夢が、
『魔理沙、遊んでないで早く行くわよ』
『ああ、すまん。ちょっと面白くてな』
…目を回した俺を指差す魔理沙。
俺は何も面白くないやい…。
『霊牙、お前も面白かっただろ?』
『……、……魔理沙…』
『何だ?』
『…次は…吐いちゃう…』
『……』
少し間を置き、魔理沙は「すまん」と謝った。
★
『着いたぜ』
ふわりと地上へ着地。目の前には一軒家程度の大きさの古びた建物。入り口上部には「香霖堂」と書かれた看板。
俺はあの香霖堂に来たのだ…。感動だ…。
けど…。
……吐きそう…うぷ…。
車、船、飛行機ならぬ、箒酔いとはこれ如何に…。
『…大丈夫か?』
魔理沙が心配そうに声を掛けてきた。
君の所為なんだけどね……何て器量の狭い事は言わないが。
『うん…大丈夫…うぷ…』
…いや、やっぱり大丈ばないかも…。
『中で休ませましょう』
『だな。肩、貸すぜ』
『ありがと…』
霊夢先導のもと、年季の入ったボロ屋の入り口を潜る。カランカランと、ドアに備え付けられた鈴の音が客の入店を知らせる。
『霖之助さん、居る?』
…返事がない。留守の様だ。
なんて事はなく、恐らく彼は返事をする必要は無いと感じているのだろう。
『何だ、居るじゃない』
奥へ進むと、眼鏡を掛けた成人男性が椅子に腰掛け、本を読んでいた。
見た感じでの年齢は若い。二十代前半といった所か。しかして、半人半妖である彼の実年齢は百を超えると思われる。
髪は白に近い銀色のショートカット。服装は青と黒の着物。腹部には幅広の白い帯の上に小さな紐付きバッグ。首には黒のチョーカー、靴は白のブーツ。
…間違い無い。彼こそ香霖堂店主、
霊夢は「返事くらいしてよね」と霖之助さんに声を掛ける。重ねて言うが、必要無いだろう。
何たって、彼は二人を客だとは思っていない。
霊夢も魔理沙も勝手に奥へと入ってゆくし、お勝手にだって許可も無く足を踏み入れる。更には、霖之助さんが店に居ないにも関わらず勝手に入って寛いでいる。商品すらもツケだと言って、勝手に持ってゆく。これが外ならお縄である。
霖之助さんは溜め息を漏らし、本を閉じた。
『霊夢、何の用だい?』
少し低めで、優しい感じのする声だ。
彼は続け、
『花火は夜からだと聞いていたんだが』
意外ッ! 話は通してあった!
てっきり魔理沙の独断で勝手に行われるのかと思っていたのだが。
『用があるのは私じゃないわ』
霊夢が此方へ顔を向け、霖之助さんは彼女の視線の先を追う。
『魔理沙…と…』
俺を視界に捉え、意外そうな表情を浮かべた。
『見掛けない顔だね。君達が他の者を連れてくるとは珍しい。彼は人間かい?』
『ええ、霖之助さんに用があるんだって』
『ほぅ』
俺を客と捉えたか、表情に喜色が窺える。まぁ、買い物もしようと思っているので客に間違いはないのだが。
『しかし、顔色が優れないが。大丈夫なのかい?』
『魔理沙が余計な事をするから』
『そんな事より、奥の部屋を借りるぜ香霖』
誤魔化す様に言い、魔理沙は俺を奥へと連れてゆく。
魔理沙は霖之助さんを呼ぶ時、香霖と呼んでいる。理由は知らない。店の名前だからだろうか。
兎も角、俺は魔理沙に連れられて畳敷きの一室に寝かされた。
『ありがと…』
『ああ、早く良くなれよ』
それだけ言い残すと、魔理沙はそそくさと部屋から出て行った。
『…はぁー…』
溜め息を一つ。
魔理沙の箒に乗れたのは感動だったが、正直言って生きた心地がしなかった。マジでチビるかと思ったぐらいだ。
『……』
何の気なしに辺りを見回す。様々な物が所狭しと置いてあるが、一応整頓はされている様子。
猫の置物に剥製といった鑑賞物。孫の手や肩こりをほぐす為のS字型をしたアレといった日用品。パソコンや掃除機等の幻想郷ではまず使えない電化製品。兎に角、色々ある。
『……!?』
アレは…拳銃…!?
…いや…エアガンか?
部屋の隅には
『はぁ…』
再び溜め息。
何にしても気分が悪い。俺は目を閉じ、少し眠る事にした。
私自身、乗り物酔いの経験がないので症状は適当です。何か兎に角気持ち悪くなったり吐き気を催したりするんじゃないかに?ぐらい適当なノリです。すんません…。