『う…ん…』
目を覚ますと、目に飛び込んできた最初の光景は見知らぬ天井だった。
『……ああ』
意識の覚醒と共に、記憶が徐々に呼び起こされる。
俺は箒酔いで気分が悪くなり、香霖堂の一室で休ませてもらう事になったのだ。
体を起こし、体調を確認する。 …うむ、もう大丈夫だ。
『お、丁度目覚めたみたいだな』
と、少女の声。部屋の入り口には魔理沙の姿が。
『御陰様で、夢見が良かったよ』
本当は見てないけど。
『そりゃ良かったな。ま、たっぷり寝たんだから夢見も良いだろうさ』
『……たっぷり? え、今って…』
『もう夕方だ』
ファー!? 神社を出た時は昼頃だった筈だぞ!? 寝過ぎだ俺の馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿!!
時は金なりという名セリフを知らないのかよ!
……悔いていても仕方ない。
『霖之助さんは?』
『香霖なら━━━』
『呼んだかい』
『うゎっ!?』
突如、背後に霖之助さんが現れ魔理沙が驚く。
『驚かすなよ!』
『驚かしてないよ。それより、君は僕に用があると聞いたんだが』
『あ、そうです。えっと…』
ポケットから紙とペンを取り出す。
『ここにサイン…署名を戴いてもいいですか?』
『署名? まあ、構わないが』
青年署名中。
『ありがとうございます!』
『どう致しまして。用はそれだけなのかい?』
『あ、いえ。出来れば買い物も…』
『ああ、勿論構わないよ。好きなだけ見ていってくれて構わないよ』
『ハイッ!』
サイヤ人の王子の息子みたいな声が出た。
★
『━━━身を守る道具、か……』
霖之助さんが考え込む様に呟く。
俺が幻想郷を巡る為には、武器や道具が必要である。手ぶらで行けば、直ぐに妖怪に襲われて御陀仏だ。
その為、護身用に使える道具が無いか霖之助さんに聞いてみたのだが。
『護身用なら矢張り
ナンテコッタイ。
霖之助さんの魔法具を頼りにしていたのに…。使えないのでは意味が無い。
どないしよ…?
素手か? 素手で妖怪と闘り合うしかないというのか? 死ぬわ。
あー、マジでどうしよう…。このままでは幻想郷の有名人━━人?━━達からサインを貰うという俺の計画は、何もかもおしまいだぁ。
『…とりあえず、使えそうな物が無いか探してみるよ』
『面白そうだな、私も行くぜ』
霖之助さんと魔理沙は奥へと入っていった。霊夢は居ない。紫様が来てスキマで連れ帰ったらしい。誘拐だ。
…とりあえず、俺も何か探してみるか…。
そう思い、近くの棚に手を伸ばした所で━━━
『おい』
突如、背後から少女の声。振り返ってみれば━━━其処には、雪の様に白く美しい、長い髪をした少女が立っていた。
年の頃は霊夢や魔理沙より少し上だろうか。瞳は紅く、肩が剥き出しの白いワンピースを着ている。靴は…履いていない。裸足だ。
…誰だこの娘? 原作にこんな奴おらんぞ。
少女は俺を値踏みする様に見て、
『ふむ、中々男前じゃなあ。身体能力もまぁまぁ良さそうじゃ。気に入った』
『はぁ…どうも…?』
……気に入ったって何だ? 男前とか言っていたから、好意的な解釈と受け取って良いのだろうか……ハッ、まさか!? この娘、実は妖怪で俺を喰う気なのでは!?
等と勘ぐっていると、
『よろしく、相棒』
━━━と。少女は握手を求め手を差し出してきた。
『……』
……What?
少女の唐突過ぎる発言と行動に俺は頭が混乱した。意味不明過ぎる。相棒って何だ。ドラマ
とりあえず俺を喰う気は無さそうだが……そもそもこの娘が妖怪かどうかも解らん。
『どうした?』
『あ、いや……えっと、君は一体…?』
『おっとすまぬ。自己紹介が遅れたな』
少女はコホン、と咳払いを一つ。
『妾はそこに立て掛けてある剣だ。人々からは━━━草薙の剣、と呼ばれておる』
『……ッ!?』
草薙の剣…!? 草薙の剣って、あの古事記に出てくる草薙の剣の事か!?
そう言えば、書籍「東方香霖堂」で魔理沙が蒐集していたゴミ━━主に鉄屑━━を、霖之助さんが交換条件で引き取り、そのゴミの中に草薙の剣があったんだったか。
霖之助さん曰く「外の世界を変えてしまう程の品」だとか。
そして、それが大変な代物である事が魔理沙にバレて後で返せと言われないよう「霧雨の剣」と名付けていた。
それが人の形をしている……という事は、付喪神になったのか…?
俺が思考を巡らせてると、再び「おい」と声を掛けられる。
『あ…ああ、ごめん…』
『一々呆けるな…まぁ良い。して、そなたの名は?』
『…霧崎霊牙』
『ほう、良い名だな。これからよろしく頼む、相棒』
彼女は俺の手を取り、強引に握手を交わした。
いやいや、何がよろしくなのか。
『とりあえず、その相棒って何? どういう事?』
『決まっとろう、お前は妾の使い手という事だ』
…使い手? 草薙の剣の使い手って事か…?
それは、
『俺は君━━━草薙の剣に選ばれた、っていう事?』
『そうじゃ』
少女は当然だとばかりに肯定する。
………。
……いや、マジかよ。神話に出てくる剣に選ばれちゃったよ。天下を取る程度の能力を持つ剣に選ばれちゃったよ。
いやまて。何故に俺なんだ? 俺は何の力も無い、ただの一般人だぞ? 此処は幻想郷だ。他にも俺以上に有能な人間は居る筈である。俺なぞは凡人でしかないのだ。
だのに俺を選ぶなんて、何か裏があるんじゃないのか…?
『…えっと、質問いいかな?』
『なんじゃ?』
『どうして俺なの? 俺より凄い人なんて他にもいるでしょ? それなのに━━━』
『直感じゃ』
彼女は俺の言葉を遮る様にそう言った。
『妾はお前がこの隔離世界の外にいる時から、その存在を感知していた。妾を振るうに相応しい人間━━━つまり、お前が訪れた。だから、妾はお前の歩む道を切り開いた。隔離世界の内側へと入れる様に』
……それは、つまり。
『幻想郷に入れたのは、貴女のお陰という事か』
少女は頷く。
『普通の人間に結界は越えられんからな。我がお前を導いた』
……そうか。色々と納得した。
原作でも外から幻想郷へ迷い込む人間は居たらしいが、二つのパターンに分けられる。
一つは、俺と同じく神社から此方へ迷い込んでしまう人間。しかし、これは極めて稀なパターンである。それこそ、何らかの影響で結界が緩んだりしない限りは、有り得ない。
二つ目は、絶望した人間。世の中の全てがどうでも良く、何もかもを諦めた人間が無縁塚へ流れて、再思の道を歩む事で再び活力を取り戻し、幻想入りするパターン。
しかし、再思の道及び無縁塚には知能の無い、まさしく獣の様な妖怪達が棲んでいる。再思の道で活力を取り戻しても、結局はその妖怪達に喰われてしまう。
…まぁ、それは今はいい。
兎に角、俺は極めて稀なパターンで幻想入りしたのだ。
境内に居た霊夢に会った時、彼女はとても落ち着いた様子だった。その後に現れた紫様は「お茶にしましょう」なんて暢気な台詞を吐いていた。
つまり、結界に異常は無かったのだと考えられる。それでも幻想入りしたというのは、少々おかしな話だと思っていた。
『…じゃあ、目的は?』
次の質問。直感で選ばれたというのは少々アレだが、本人━━人?━━がそう言うのだから、もうそれでいい。
しかし、使い手が現れたからといって、意味も無く此処へ呼び寄せたりはしないだろう。何か目的があると踏んでいたが、予想は当たりだったらしい。
彼女は「うむ」と頷き、
『妾の目的は、ある刀を折る事じゃ』
『……刀?』
『その刀は妾と同じに、意思がある。しかし、妾との違いは━━━その刀が「妖刀」である、という事じゃ』
『……妖刀』
妖刀。曰く付きの刀、若しくは呪われた刀を指す。意思があるという事は、その刀も付喪神なのだろうか。
『その妖刀の名は━━━
霖之助さん何でそんな簡単にサインするん?
もうちょっと何でか理由を聞けよ。と思ったけど、多分きっと恐らく早いとこ霊牙に商売したかったのかもしれない。