凡そ三世紀半ば、
その際、八俣遠呂智の尾から一本の太刀が出てきた。この太刀こそが、
そして、八俣遠呂智を切り裂いた剣である
『嘘だろ…!? 天羽々斬っつったら、
『ほう、博識じゃなぁ。妖刀になった経緯は妾も知らん。だが、それは確かにこの隔離された世界に存在し、人を斬っている。妾はそれを感じる事が出来る』
『…マジかよ』
神話に出て来る剣が妖刀化とかヤバ過ぎんだろ…。
『それに、斬っているのは娘ばかりの様だ。まるで━━━八岐大蛇の様だと思わんか?』
八岐大蛇は生け贄に捧げられた娘を喰っていたと聞く。
『…つまり、八岐大蛇の怨念が剣に宿って妖刀になった…って事か…?』
『正確な事は解らん。だが、もしそうなら斬らねばならん。だから━━━』
彼女は剣を指差し、
『妾を振るい、お前が斬るのじゃ』
『……いや…でも、俺なんかが…』
『自信を持て』
少女に手を引かれ、剣の前へと連れられる。
『妾に撰ばれたお前ならば、必ず成し遂げられる。必ずだ。妾を信じよ。自分を信じよ。さぁ、その手に掴め』
彼女に言われるがまま、まるで引き寄せられるかの様に俺は剣に手を伸ばし━━━掴む。
すると突然、剣が輝きだした。力強くて、何処か温かい光だ。全身に力が漲る様な気がする。
『何事だ!?』
異常に気付いたのか、奥に行っていた魔理沙が慌てて戻ってきた。
『……これは…』
少し遅れてやって来た霖之助さんが呟く。
剣の光は徐々に弱まってゆき、最後には儚く散る様に霧散して消えた。
『…あれって、私が交換条件で前に香霖にやった剣じゃ…』
『………』
無言の霖之助さんと視線が合う。彼は驚くというよりも、呆気に取られた様な表情を浮かべていた。
気まずい沈黙が流れる。
…何か言わねば……しかし、何を言う?
この剣が草薙の剣だという事を伏せて話さなければならない。魔理沙が居るからだ。彼女にこの剣の価値を知られるのは拙い。霖之助さんの不利になる様な事は言いたくない。
だから考えろ、俺よ。この場を上手く切り抜ける為の嘘を考えるのだ。
しかし、俺が考えを纏めるよりも早くに口火を切ったのは魔理沙だった。
『その剣、光ってたよな…? 何をしたんだ…?』
『……、……えーっと…』
考え中。考え中。
……駄目だ、何を言えばいいのか全然纏まらない。
『妾が話そう』
俺が迷っていると、草薙の剣の少女が前へ出た。
『…お前は?』
『妾はこの剣だ。……名前はまだ無い』
吾が輩は剣である。名前はまだ無い。
…なんつって。
因みにこの場合の名前とは、草薙の剣という名前ではなく、付喪神としての名前だろう。
例えば、この幻想郷には傘の付喪神が居る。その付喪神には「
そういった固有の名前が無いという事は、彼女は付喪神になったばかりなのだろうか?
『…剣? どういう事だ?』
『恐らくだが』
魔理沙の疑問に、霖之助さんが口を開く。
『草な……いや、霧雨の剣が付喪神になったのではないだろうか』
流石霖之助さん、大正解。
でもうっかりこの剣の本当の名前を言いそうになっていた。危ない。
『付喪神に?』
『あの剣は相当古い代物だったからね。付喪神になっていても、おかしくはないだろう』
『…香霖の扱いが
『失敬だな。手入れは欠かしていない』
確かにこの剣、年代を感じさせはしたがボロくはなかった。と言っても、大根一つも満足に斬れなさそうな位に切れ味は悪そうではあったが。
しかし、先程剣が光ったあと、刀身はまるで鍛え上げられたばかりの剣の様に輝いている。あの光は何だったのであろうか。不思議。
『で、その付喪神の剣が何で光ってたんだ?』
『使い手を見つけたのだ。コイツがそうじゃ』
バシンと背中を叩かれる。痛い。
そして、草薙の剣の少女の言葉を聞いた霖之助さんが、何とも複雑そうな表情を浮かべていた。
何処の馬の骨とも解らぬ人間が現れて、その人間が持ち主を差し置いて使い手に選ばれたのだ。良い気分はしないだろう。
しかし、この俺には彼を説得する為の策があるッ!
早速、交渉に移る。
『霖之助さん』
『…何だい?』
『交換条件といきませんか?』
『…交換条件?』
俺はポケットから携帯電話を取り出した。
『コイツは外の道具で、自分の私物です。名前と用途は解りますよね?』
霖之助さんには、名前と用途が解る程度の能力が備わっているのだ。
『これを霖之助さんにお貸しします』
携帯を霖之助さんに手渡す。因みに電池は抜いてある。データを見られるのは流石に困る。
『自分はこれから幻想郷をあちこち廻ります。その過程でもし死んでしまったら、それは霖之助さんに譲渡します』
『……それは嬉しいが…剣は…』
『…剣を持って運ぶくらいは出来るよな?』
少女に問う。
『当然出来る』
『じゃあ、此処に剣を持って戻る事も出来るよな?』
『勿論出来る』
『という訳です。もし、自分が命を落としても霧雨の剣は此処に戻ります。その道具も霖之助さんの物になります。霖之助さんにとって損は無いと思いますが、どうでしょう?』
『……』
目を伏せ考え込む霖之助さん。
……NOって言われたらどうしよう…。
策があるッ! とか自信満々だったが、彼がYESという保証無い。
よくよく考えてみれば、携帯電話風情で交換条件とかチャンチャラおかしいわ。草薙の剣とは全く釣り合わない。
やべぇ…何か急に不安になってきた…な、何か他に…交渉に使えそうな道具は無いのか…!?
ポケットに何故か入ってる飴ちゃんを出すか…!?
……子供じゃないんだから受け取る訳がない。アババババどうしよどうしよ…。
そんな感じで内心、戦々兢々していると、やがて霖之助さんが
『━━━いいだろう』
ファーッ!? 許可が降りたぞー!?
『…えっと、自分で言っといてアレなんですが……よろしいので?』
『剣自身が使い手を撰んだんだ。僕がどうこう言っても仕方ないさ』
…まぁ確かに。いくら持ち主とは言え、剣自身が使い手を撰んだのだからどうこう言えないだろう。
内心で安堵の溜め息を吐く。これで幻想郷巡りをする際の、俺の致死率が下がった。
しかし、霖之助さんは「だが」と付け加え、
『君が生きて剣を此処へ持ち帰るんだ。死ぬつもりで持って行かれるのは、少々気分が悪いからね』
『あ……はい、すみません…』
そうだ……そもそも俺は死ぬつもりなど毛頭無いのだ。覚悟を決めた筈だ、しっかりしろ俺!
『話は着いたか? そろそろ人里へ行こうぜ、日が暮れちまう』
『ああ、待って。渡す物がある』
そう言って霖之助さんは奥から黒い鞘を持ってきた。
『草……霧雨の剣の鞘だ。抜き身で持っていくのは面倒だろう』
『あ、ありがとうございます!』
早速、剣を鞘に収める。刀身はぴったり鞘に収まった。
『因みに、その鞘には色々な効能があって━━━』
霖之助さんの