東方署名帳   作:勇(気無い)者

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其の七、宵闇の妖怪

『では霖之助さん、また』

『ああ、待ってるよ』

 

 日は沈み、辺りはすっかり暗くなった頃。こんな時間になるまで霖之助さんの蘊蓄に聞き入っていたが、魔理沙が止めなければ日を跨いでいたかもしれない。

 用事も済んだし、お暇する事に。草薙の剣は鞘に収め、いつでも抜刀出来る様に背負っている。

 

『…お昼の時みたいな飛行は勘弁してよ』

『わかってるって。吐かれたら嫌だからな』

 

 平常運転ならきっと大丈夫だろう。しかし、箒で飛ぶのは運転というのだろうか?

 心底どうでもいい疑問であった。

 

 魔理沙と俺は箒に跨がり、人里を目指して空を行く。

 地上でしきりに鳴いていた虫の声も、上空にまでは届かない。衣服がバタバタとはためく音のみである。そして、魔理沙の髪が顔に当たってこそばゆい。

 暫くして人里が見えてきた。矢張り幻想郷は大して広くはない。

 夜なので、灯りが幾つも連なって遠くからでも判りやすい。

 しかし、俺はこの時既に目的地を変更していた。

 

 

 

 

 

 

『着いたぜ』

 

 着陸。しがみついていた魔理沙の体から離れ、箒から降りる。

 

『ありがとう。こんな時間まで付き合わせてごめんね』

『ああ、まさか香霖の蘊蓄に聞き入る奴が居るとは驚きだったぜ』

 

 俺は東方projectを宗教の様に信仰している。原作キャラは神様。つまり、霖之助さんの蘊蓄も、俺からすれば神様の有り難い御言葉と同義なのである。

 というか、

 

『霖之助さんの蘊蓄、結構面白かったけどね』

『……異常だぜ』

 

 そこまで言うか。

 

『まぁ、私はまた香霖堂へ戻る。ここまで連れてきておいて何だが、お前も一緒に花火やるか?』

『いや、折角のお誘いだけど、俺は別に行きたいところがあるから今回は遠慮しておくよ』

『へえー、何処だよ?』

『紅魔館』

『………』

 

 途端に会話のキャッチボールが途切れる。

 どうした魔理沙。そんな哀れむ様な目で人を見て。若干失敬だぞ。

 

『どうかした?』

『いや……生きて帰れるといいな』

 

 何て不吉な事を言うんだ!

 

『送っていってやろうか?』

『いや、一応道中で会いたい人が居るから、徒歩で行くよ。ああ、方角だけ教えてくれる?』

『紅魔館はあっちだ。……生きて帰れるといいな』

 

 二度も言うな!

 

『じゃあな。生きてたらまた会おうぜ』

 

 そして、去り際にも不吉な事を言い残す魔理沙。

 彼女の目から見ても、一般人(パンピー)の俺が紅魔館へ赴くというのは無謀な事である様だった。

 

 

 

 

 

 

『ラッタラッタラ〜♪』

 

 自分でもよく解らん歌を口ずさみ、雑木林をスキップしながら進んでゆく。 外の世界だったら、完全に不審者である。

 僅かな月明かりの元、紅魔館を目指して進む。

 さて、会いたい人物がいるとは言ったものの、会えるだろうか? 主な生息地は不明だが、紅魔郷では霧の湖周辺にいた。

 まぁ会える確率は低いが、まだ慌てる様な時間じゃない。ゆっくり探せばいいさ。

 

『あ痛っ!』

 

 …なんて考えながらスキップしていたら不意に転んだ。暗がりでスキップなんてするもんじゃねぇな…。

 

『大丈夫?』

 

 地面に倒れ伏していると、頭上から声。顔を上げれば、目の前には金髪美少女が立っていた。

 外見から察するに、年齢は十歳前後といった所か。瞳は赤く、髪は金色のボブカット。上側が白で下側が黒の洋服を着ており、下は黒のロングスカート。胸元には赤いリボン。また、左側頭部辺りにも赤いリボンをつけている。

 どう見てもルーミアです。本当にありがとうございました。

 とりあえず俺は服についた砂を払いながら立ち上がる。いつまでも寝そべっている理由は無いし、何よりも傍目に見れば少女のスカートの中を覗こうとしている変態に見えなくもないかもしれない。

 

『ああ、うん。こう見えて体は頑丈だから大丈夫だよ』

『そーなのかー』

 

 リアルそーなのかーキタアアアアアアァァァァァッ!!!!!

 笑顔がかわゆい!

 しかも俺の心配してくれるとかマジ天使。誰だよ人喰いとか言ってんの。出鱈目(でたらめ)だろ。

 ただ、欲を言えば原作みたく両手を横に広げて「そーなのかー」を言ってほしかった。

 

『ところで、あなたは食べてもいい人類?』

 

 前言撤回。間違いなく人喰いだわ。

 誰だよ天使とかほざいてたボケナスは。俺か。

 人はこの笑顔に騙されるのだ。

 

『俺は毒人間だから食べたらお腹壊すよー』

『人間に毒とかあるの?』

『あるよー。しかも吐くほど不味いよー。ゲロみたいな味するからね』

『そーなのかー』

『そーなのだー』

 

 嘘だけどー。っていうか知らんけどー。

 

『ところでルーミア』

『なにー? ってあれ? 私名乗ったっけ?』

『俺は幻想郷の事なら何でも知ってるんだ。だから、ルーミアの事も知ってるのさ』

『そーなのかー』

『そーなのだー』

 

 わはー。

 

『ところで、ちょいとお願いがあるんだけど』

『なにー?』

『このメモ帳に名前を書いてくれないかい?』

 

 ポケットからペンとメモ帳を取り出す。

 

『名前をー? なんでー?』

『俺は幻想郷を巡って有名な人のサイン━━━署名を集めてるんだ。だからルーミアのサインも欲しくてね』

『私って有名?』

『有名だよー。めっちゃ有名だよー』

 

 外の世界では、ね。

 

『いいよーサインするー』

 

 少女署名中。

 

『ありがとう。お礼に飴ちゃんをあげよう』

『わー、ありがとー』

 

 ポケットに入ってた飴を渡すと、ルーミアは早速舐め始めた。ゴミは俺がもらっておく。ポイ捨て厳禁。ダメ、絶対。

 

『じゃあ、俺は行くところがあるからこれで』

『うん、じゃあねー』

 

 ルーミアは飛び去っていった。

 ……白か。勿論、ドロワだけど。

 

『……あれ』

 

 ふと、ルーミアの能力を思い出した。

 彼女の能力は「闇を操る程度の能力」である。基本的に新月の時以外はその能力で自分を闇に覆っていると聞く。

 今日は新月ではないのだが、何故能力を使っていなかったのだろうか?

 

『……まぁ、どうでもいいか』

 

 多分、今日は月明かりが弱いからとかそんな理由だろう。若しくは、能力使用時に矢鱈と木とかにぶつかるから夜は使わないとか。

 

『さて、紅魔館へ向かいますか』

 

 考察もそこそこに、俺は再び雑木林の中を進んでいく。

 その際、余りの上機嫌に再びスキップしながら進んでいたら、また転んでしまった━━━というのは余談である。

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