雑木林を抜け出ると、其処には湖が広がっていた。これが噂の霧の湖か。霧が全然掛かってないけど、霧の湖である。
チルノとか居ないかなぁ?
そう思って辺りを見回してみるが……居ないな。モブ妖精一匹すら見当たらない。夜だからだろうか?
ま、いいや。また探しに来れば。
それより紅魔館である。対岸に洋館らしき建物が見える。遠目に見ても真っ赤で目立つ館とくれば、間違いなく紅魔館だ。
湖の
二三十分程度を費やし、やって来ました紅魔館。道中、妖怪に襲われたりするんじゃないかと思ったが、別にそんな事は無かったぜ。
さて。血の様に赤く染まった、貴族が住んでいそうな大きな洋館。高い塀に囲まれており、入り口正面には塀と同じ高さの大きな鉄格子の門。
今、門の前に立っている門番の目の前に俺は立っている。
門番さんは背丈が百六十はあろうかという若い女性。白の半袖のブラウスの上に、中華風の淡い緑色のベスト。下はチャイナドレスと同じようにスリットの入ったスカート。生足が色っぽいです。眼福。
髪は赤く、腰辺りまで伸ばしたストレートヘアー。ただ、両の揉み上げの髪は黒のリボンで三つ編みにしている。
紅魔館の門番でこの外見的特徴とくれば、確認なぞしなくとも
超美人。うわー、生美鈴だよ、超感激!
…でも……何かめっちゃ睨まれてるんですが……俺、何かした?
『あ、あの…』
『それ以上寄らば、攻撃を加える』
バックステッポゥ! 即座に後退り。
何故だ……何故こんなに警戒されているんだ…? マジで俺、何かしたか…?
何だろう……まさか、お前の顔が気に食わないとか言われたりしないよね…?
困惑しながらも警戒される理由を模索していると、美鈴が再び口を開いた。
『…その凄まじい霊力…只者ではないな…』
……は? 霊力…?
…何の事だ…? 何を……何を言ってるだァー!?
俺はただの人間やで!? しかも、外の世界の人間や! 霊力なぞ持つ筈が無い。
更に困惑していると、別の声。
「そやつが感知しているのは、私の霊力だ」
『その声は!』
草薙の剣の少女! 若干声にエコーが掛かっているぞ!?
…そういや、名前をまだ聞いてなかった。
「名前はまだ無いと言ったじゃろうが」
そうでした。記憶力悪くてすみません。
じゃあ、どうしようか。とりあえず、
「……薙で良い」
解った、薙ポン。
「怒るぞ?」
ごめんなさい。
……って、心読まれてるがな!?
「いや、お主が心で妾に語り掛けておるのじゃ。流石に思考は読めん」
そーなのかー。便利だな。
ところで薙は何処? 辺りに姿が見当たらないんだけど…。
「当然じゃ、妾は実体化しておらんからの。因みに、妾の声もお主にしか聞こえてはおらん」
……。
…えー?
……という事は…?
最初に俺が言った「その声は!」という台詞は…。というか、その一言以降、俺はずっと黙り込んで心の中で薙と話していた事になる。
……恐る恐る、美鈴さんに視線を戻す。彼女は怪訝な表情を浮かべ━━━拳法の構えをとっていた。
…っべー。完全に不審な奴だと思われてしまっている。
『…えっと、美鈴さん…?』
『…ッ! 何故、私の名を知ってる?』
ファー!? しまった! まだ自己紹介をしていない!
……いや、まだだ。美鈴さんは人里の武術家に挑まれる事があるって聞いた事がある。だから、美鈴さんの名前は人里に知れ渡ってる筈だ!
『い、いやぁ、人里で聞いたんですよ! 美鈴さんは人里では有名ですからね!』
『……人里に私の名を知っている者は居ない』
なん…だと…?
試合してるのに誰も名前を知らない…? そんな事が有り得るのか…?
こんなの…普通じゃ考えられない…!
あっ……ま、まさか……人間から試合を挑まれるという事自体が無いのか…!?
そんな内心の動揺が顔に出たのか、美鈴さんが、
『嘘だよ。私の名を知ってる人間は多い。だが、君の反応見るに、人里の誰かから聞いた訳ではなさそうだ』
…。
……。
………。
ああ、俺はカマを掛けられたのか。
どうやら、間抜けは見付かった様だな。俺だ。まるでどっかの船の偽船長が如き間抜けだ。渋いねぇ、全く。
このままでは美鈴さんにオラオラされて、
剣で闘う? 冗談コキマロ。
こんなんで斬ったら美鈴さんが死ぬ。それぐらいヤバい剣だというのは、間抜けな俺でも理解出来る。
こ…こうなったら…ジョースター家の伝統の策で…。
『何をしてるの?』
突然━━━本当に突然の事だった。何の前触れも無く、唐突に突然に瞬間移動でもしたかの如くに、少女が現れた。
年は十代半ばといった所だろうか。髪は銀色で、前髪を真ん中で分けている。美鈴さんと同じく、揉み上げの髪を緑色のリボンで三つ編みにして下げており、服装は青と白を基調としたメイド服でミニスカート。頭にはフリルの付いたカチューシャを身につけている。
さて、この少女。紅魔館周辺に出没するメイドで人間とくれば、十六夜咲夜さんで間違いない。紅魔館を取り仕切るメイド長様である。
今、咲夜さんはまるで時間でも止めて移動してきたかの様にパッと現れた。
時間……時……。
ハ…ッ! 解ったぞ! 十六夜咲夜の能力の謎が!
いや、一人でギャグやってる場合じゃねーわ。
『咲夜さん、曲者で……あっ』
逃げるんだよォ〜!
咲夜さんと美鈴さんを相手に二対一だと? 勝てる訳がねぇ!
一時撤退、出直すぜ!
紅魔館に背を向け、全力ダッシュ。逃亡を謀るが━━━
『ぐぇっ』
突然、服の襟を引っ張られて潰れた蛙の様な声を出してしまった苦しい。
走ってた勢いの所為で体は宙を舞い、地面に背中からドスンと着地痛い。直ぐに体を起こし、咽せながらも振り返れば、直ぐそばには咲夜さんが立っていた。
『何故逃げるの?』
『…ゲホッ……い…いやぁ…? 何ででしょう?』
ぶっちゃけると、何となく命の危険を感じたからですが。
『貴方、紅魔館に用事があるんでしょう?』
『…えー…そのー…』
『来なさい。お嬢様がお待ちよ』
咲夜さんは踵を返して紅魔館へと歩いてゆく。
……隙だらけだ!
攻撃しますか?
YES
→NO
隙があると見せ掛けて、彼女に隙など全く無い。「時を操る程度の能力」を持つ彼女に隙など皆無である。無論、逃げる事も不可能。
……何か、今更ながら最初に来る場所を間違えた様な気がしてきた。難易度がいきなりルナティックなんですが…。
何にしても、こうなったら腹を括るしかない。
俺は逃げ出したい気持ちを抑えながら、咲夜さんの後をついて行くのであった。
余談だが、横を通った時の美鈴さんの視線が滅茶苦茶怖かった…。