広ッ!
紅魔館に入って最初の感想はそれだった。兎に角広い。馬鹿みたいに広い。
五メートルはあるんじゃないかっていう程の高さがある天井、突き当たりが見えない通路、五十段近くありそうな二階へと続く両脇の階段。
何度も言う様だが、広い。そして豪勢。なんか、西洋の甲冑とか飾ってあるし。いきなり動き出して襲い掛かってくるとか無いよね…?
邸内の光源は蝋燭の火。ズラリと沢山設置されているが、邸内が広すぎる為に少し薄暗い。というか、そんな数の蝋燭を何処から仕入れてくるんだろうか。
『こっちよ』
咲夜さんが階段を上がってゆき、俺はその後をついて行く。
……見え…見え…ない…! 何がとは言わないが、見えそうで見えない。
階段を上がり終え、通路に入ってゆく彼女の後を、無言のままついて行く。何だか、話しかけるな的なオーラを感じる……様な気がする。ちょっと悲しい。お話したい。
たまにメイド妖精とすれ違ったりする。みんな可愛い娘ばかりである。妖精だから可愛いのか、それともおぜう様や咲夜さんが厳選しているのか。
暫く進む事、数分。一室の前で咲夜さんが立ち止まった。彼女はドアをコンコンとノックする。
『お嬢様、客人を連れて参りました』
『…通せ』
中から幼い少女、略して幼女の声。
咲夜さんが「失礼します」とドアを開け、中へと通される。
そこは、窓の無い豪勢な部屋だった。
部屋一面に敷かれた赤い絨毯。天井に吊された豪勢なシャンデリア。俺の膝辺りまでの高さしか無い、とても高価そうな足の短い長方形のテーブル。
そして、その机の前に置かれたソファーに腰掛ける、見た目は十歳にも満たない幼女。
ウェーブの掛かった青い髪は肩に掛かる程度の長さをしており、瞳の色は真紅。背中には蝙蝠の様な一対の大きな翼が生えており、その大きさは身の丈程もある。
服装は原作初登場時と同じピンクのドレス。袖口とスカートの先にフリルが付いており、全体的にフワフワとしたイメージ。腰辺りには赤く大きなリボンが付いている。頭にはドレスと同じピンク色をした、みんな大好き
どう見てもレミリア・スカーレットです。本当にありがとうございました。
それでは拙者はこれにて失礼します━━━と言って今すぐ紅魔館から出たい…。
…何故かって?
凡そ可愛いとか愛らしいという言葉がこれ以上無いくらいに似合う容姿をしたレミリア嬢から、まるで獰猛な肉食獣と対峙している様な圧倒的なまでの
何かもう、対峙しているだけで後ろに倒れてしまいそうな程である。スカウターで戦闘力を測定したら絶対ぶっ壊れると思う。
「かりちゅま(笑)」だとか「カリスマブレイク」だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ…もっと恐ろしいカリスマの片鱗を現在進行形で味わっているぜ…。
内心でそんな事を考えていると、レミリア嬢が徐に口を開いた。
『初めましてだな。私の名はレミリア・スカーレット。お前がこの紅魔館にやって来る事は知っていた』
な、なんだってー!?
まさか……運命を操る程度の能力(笑)か!? 何か原作では余り触れられていないし、運命を操るなんて吹聴なんじゃないかとか思っていたが、
とりあえず、礼を失せぬ様に名乗っておこう。
『お初にお目にかかります。私は霧崎霊牙と申します。以後、お見知りおきを』
『うむ。では、早速だがお前の用件を聞いてやろうじゃあないか』
紳士的に思える一言にも凄まじい威圧感を感じる。何か、レミリア嬢の背後にドドドドドッていう文字が見える気がする。
……えぇい、こうなりゃヤケクソだ! もう、どうにでもなぁ〜れ☆
『…実は、ちょっとしたお願いがあってやって来ました』
『ほう』
レミリア嬢がニヤリ、と。悪戯っ娘の様な笑みを浮かべた。可愛い。
『聞いてやらんでもないぞ。ただし、相応の力を示したらな』
『えっ…?』
★
━━━どうしてこうなった。
現在、俺は紅魔館の庭で美鈴さんと数歩分の距離を置いて対峙している。
レミリア嬢が出した条件。それは、門番と闘って勝つ事だった。
それ何てムリゲー? ひのきの棒を装備したレベル一の勇者が、単身魔王の城に乗り込む様なもんだよ。
勝利条件は一撃を入れる事なのだが、それでもクリア出来るかどうか怪しいところである。敗北条件は特に無し。それってつまり、死ぬまで闘えって事ですか…? 違うよね…?
レミリア嬢は椅子に腰掛け観戦ムード。目の前に置かれた円形の机に片肘をつき、此方を見ていらっしゃる。
咲夜さんはレミリア嬢の後ろに控え、澄まし顔で立っている。背筋がピンと伸びており、姿勢がとても美しい。瀟洒な感じがする。
『本当に大丈夫なのか?』
実体を現した薙の声。彼女はレミリア嬢から少し離れた所に立っている。その手には、俺が先程まで背負っていた草薙の剣。両腕で抱き締める様に持っている。
まぁ、はっきり言って大丈夫じゃない、問題だ。一番良いのを頼みたいぐらいだ。
薙もそれを何となく察しているのだろう。先程まで「妾を使って闘え」と言って聞かなかったぐらいだ。
しかし、草薙の剣は使えない。そんな神器クラスの剣で斬り掛かったら、美鈴さんを殺してしまいかねない。
なので、薙の言葉を押し切って俺は素手で闘う事を選んだ、のだが━━━
『舐められたものだな。まさか余裕のつもりか?』
と、美鈴さんがご立腹。
別に舐めている訳じゃ無いんですが……寧ろ逆っていうか……っても、馬鹿正直に「美鈴さんを殺めてしまうかもしれないので」とか言おうものなら「お前は中国拳法を舐めた」とか言って激怒しそうなんだよなぁ…。どう言ったものか。
そんな風に返す言葉に困り無言でいると、それを挑発と捉えたのか。美鈴さんの表情が一際険しくなった。
…ど、どど、どないしよ? 逃げるか? いっそ逃げるか?
いや、咲夜さんが居るのだ。どこぞの漫画世界の上院議員みたいに逃げられないのがオチだ。十六夜咲夜からは逃げられない。
謝るか? いっそ謝って靴でも舐めてみせれば解放されるだろうか?
━━━駄目だ。脳内シュミレートしてみたが、俺の頭がトマトの如くに踏み潰された。謝ったら逆に殺される気がする。
チラリと、レミリア嬢を見やる。彼女はニヤニヤと愉しげな笑みを浮かべている。何という無邪気。
咲夜さんを見やる。すると、彼女と目が合った。
……うぅっ。あれは養豚場の豚を見る目だ。逃げたら背中にナイフ突き刺して殺す目だ。
そう、咲夜さんの目には殺ると言ったら殺る、凄みがある…っ!
まぁ、逃げるという選択肢は端から無い。もし逃げ切れたとしても、今後紅魔組のサインは絶対に貰えなくなってしまう。つまる所、闘るしかないのだ。
そうだ。へこたれるな、俺よ。
承太郎先輩は言っていたじゃないか。「
そうさ! まだ勝ち目が無いと決まった訳じゃない!
俺のなんちゃって武術が、もしかしたら美鈴さんに通用するかもしれない!
うおおおおぉぉぉぉぉっ!!
人間賛歌は勇気の賛歌! 人間の素晴らしさは勇気の素晴らしさ!
震えるぞハート! 燃え尽きる程ヒート!
テンション上がってきたあぁぁぁぁぁぁッ!!
俺はこれまで生きてきた人生の中で、今までに無い程の覚悟を決めたのだった。