あの後。
即捕まった。
そして、
いやあ、友奈たちを総動員するのはずるいっすよ東郷さん……。
さすがに皆に追いかけられたら逃げ切る事はできない。
能力の無い僕は一般人程度の身体能力しかないからね。
まあ、あのしごきで少しは鍛えられたかもしれないけど……。
閑話休題、夕方になったので今日はもう帰ることになった。
友奈と東郷さんとの帰り道で、
「夢河くんはもうこれで立派な日本男児ですね」
「そ、そうだね」
「日本男児たるもの強くなければね」
「そう、だね……」
強く、か……。
僕は、強くなれたのだろうか。
東郷さんのあのしごきで。
確かに、軍隊に入ると嫌でも精神は鍛えられるだろう。
それに東郷さんの教育も軍隊っぽかったけど。
でも数時間程度だしな……。
その程度で強くなれたら僕は苦労していない。
だから、まだまだだろう。
全くの無意味とは言えないけどね。
きつかったけど、鍛えられた感はあるし。
…………二度とやりたくは無いけど。
「今日の晩御飯なにかな~」
そんな思想に
「なんだろうね……」
穏やかな気持ちで、僕も呟いた。
――――そして
ピロロ、リリリン。ピロロ、リリリン。
不安を煽るような、電子音。
さらに――
時が、止まる。
「え?」
なん……だ?
空間の全てが止まった感覚。
走っていた車の突然の静止。
歩いていた通行人の停止。
飛んでいたカラスの硬直。
目に見えるものだけじゃない。
空気というか、まるで空間をそのまま縫い止められた様な、そんな感覚。
夕日すら存在感が希薄で。まるで光るだけの無機物のようだ。
もちろん呼吸はできている。けど、これは――
『来た、か』
「来たわね…………」
「うん……」
そんな言葉がすぐ横と頭から聞こえて、振り向く。
見ると、友奈と東郷さんは普通に動いていた。
二人は手にスマホを持っている。そこから電子音は聞こえていた。
「あ……え……?」
どういうことか解らず、混乱する。
言葉が上手く出ない。
ふと、思い至り。
自分のスマホもポケットから取り出してみると、そのスマホからも同じ電子音が発されていた。
画面は、通常とは異なっていた。
――樹海化警報――
FORESTIZE WARNING
バーテックスが壁を通過しました。人類保護のため出勤してください。
「樹海化警報……?」
……なるほど、敵が来たというわけか。
「でも、早すぎるわ。三日前に来たばかりなのに……もっと後にしてくれればいいのに……」
「うん。だけど、来たからには戦わなきゃね」
『三日前か……その時にはまだアタシはいなかったな』
「これは、バーテックスが来るってことでいいんだよね?」
スマホの画面と三人の言動から
「あ、朝陽くんはまだこの現象は初めてだったっけ? これはバーテックスが攻めてきた時に樹海に入る前に起こる現象だよ」
やはり、そうか……。
僕が最初に樹海に行った時は、目覚めたらすでにそこにいた。
だから、こうして樹海に入る前の現象は体験した事が無かった。
その
だけどどういうことか解ってしまえば、大丈夫だ。
呼吸を落ち着け、次第に冷静さを取り戻していく。
「わかった、ありがとう」
そういった瞬間、光が視線の彼方から勢いよく迫ってきた。
白い光に、全てが包まれる。
眩しさに目を瞑ってしまって、次に
目の前の景色は一変していた。
樹海――。
神樹の
バーテックスを迎え撃つための、最後の砦だ。
『この景色、なんだか久しぶりに見るような気がするよ……』
銀が切なげな呟きを漏らした。
過去の友達、か……。
僕は、掛ける言葉が思いつかなかった。
「おーい! 友奈ー! 東郷ー! 朝陽ー!」
遠くからの大声に振り向くと、風先輩と樹さんと三好さんがこちらに向かって走って来ていた。
「あ! みんなー!」
友奈がその声に答え、こちらからも歩み寄り合流する。
「じゃあさっそく、変身するわよ!」
風先輩がそう言うと、皆スマホの画面をタップして、神秘的な光に全身が包まれる。
その光が晴れた後、勇者部の皆は最初に会った時と同じ、不思議な和風の戦闘服に身を包んでいた。
変身の瞬間を目の前で見て、思う。
綺麗だ……。
彼女達の姿は、他の誰よりも綺麗に見えた。
そんな
それほど見惚れていたのだ。
東郷さんは足が動かないけれど、戦闘服が長く垂れて、足の代わりとなっていた。
やっぱり勇者システムでどうとでもなるんだな。
便利な事だ、と思った。
『アタシと同じ服……?』
三好さんの方に僕の視線が行った時、銀がそんなことを呟いた。
「ん? どうしたの銀?」
『……いや、いい。時間が無いだろ』
「そう……?」
「朝陽も、早く戦闘態勢に入って!」
「あ、うん……」
銀と話していたら、風先輩に急かされた。
よし、僕も……。
手の平に拳を横から打ちつけ、
両の瞳が
白銀の剣をその手に携え、僕は変身とも言えない様な中途半端な変身を終えた。
「よし! 円陣組むわよ!」
「「「「おう!」」」」
「え…………?」
戸惑っている間に、僕以外の全員で円陣を組み終わってしまう。
「早く、朝陽くんもだよ!」
「う、うん……」
女の子と密着するのに恥ずかしさで抵抗感を感じるが、今は時間が無い、迷っている暇は無いのだ。
だから、流されるままに僕も友奈と三好さんの間の円陣に加わる。
「勇者部、ファイトー!!」
「「「「「『「おおーーーー!!!!」』」」」」」
銀も含め、全員で声を張り上げた。
士気が高まっていく。
円陣を解き、皆で並んで武器を構える。
そして、
樹木達の向こう、遠くの方に無機物の様な化け物が、四体。
「来るわよ……」
風先輩、
「四体ね……」
三好さん、
「じゃあ、これが……」
樹さん、
「最後の戦い……」
友奈、
「ですか……」
東郷さん、
『最後……あれ?』
銀、
「…………」
と皆がそれぞれ呟く。
僕は懐に入れていた、始めて会った時に友奈から貰った押し花に手を当てる。
目を瞑る。
――絶対に勝って、帰る。
決意を心の中で
死の恐怖がないわけじゃない。
今だって、少し震えている。
でも、みんながいる。
一緒に戦ってくれる、みんなが。
みんなは、少なくとも表面上は怖がっているそぶりはない。
それなのに、男の僕が怖がっていては、始まらない。
大丈夫だ、やれる。勇者部六人だ――戦闘はできないが銀も入れると七人か――負ける気がしない。
目を開け顔を上げる。
そうして僕は、観察する。
といっても、見た目が見た目だけに、どういう種別なのかもよく分からない。
奇怪な容姿すぎて、くまなく観察してもどの星座のバーテックスか判別できない。
でも、その中でも一際目立つバーテックスがいた。
他のバーテックスより一回りも二回りも巨大というのもあるが、それだけじゃない。
雰囲気が違う、格が違う、そんな強大さを感じる。
恐らく奴がバーテックスたちの親玉だろう。
さすが、残りの全体で攻めてきただけはある。
気をつけなければ……。
そこまで考えて、忘れていた事に気がつく。
わざわざ観察しなくてもスマホ見ればいいではないか、と。
このスマホにダウンロードされている機能は色々あるが、その一つを失念してしまっていた。
この樹海の地図と、そこにいる生物がどこにいるか、またどういうものか表示される機能だ。
早速そのアプリを起動させる。
表示された画面を見ると、四体のバーテックスがどの星座か解った。
牡羊座と、水瓶座と、双子座と、獅子座だ。
つまり、アリエス、アクエリアス、ジェミニ、レオということだ。
そして一際目立っていたバーテックスは、獅子座のレオ・バーテックスだった。
レオが親玉か。
『あ……』
「? なに銀」
『……いや、多分気のせいだ』
「そうなの?」
『ああ……』
今はあまり話している時間も無いし、銀がそう言うなら気にしないことにした。
一応スマホの画面をそのままにして、僕は正面を向いた。
そして、四体のバーテックスがこちらへと接近してくる、かと思われたが――
奴らはその場で、依然静止したままだ。
「なんだ……?」
そう呟いた刹那、
バーテックス四体が
「バーテックスが、合体している…………!?」
そうとしか思えない現象が、今目の前で起きている。
「これは、やっかいそうね……」
三好さんが歯噛みする。
「うん、でも倒さなきゃいけないことに変わりはない、やることは変わらないよ」
友奈が皆を
僕は直ぐにそのままにしておいたスマホの画面を見た。
名前が、ごっちゃになっていって、ぐるぐると混ざり合っている。
奇妙な画面だ。
まるで文字化けでもしているかの様。
気持ち悪い。
そして、
今ここに、結合した頂点が二体
画面は、正常に戻り、名前が変わっていた。
そのまんま繋がった名前に変化していた。
合体したにしても安直すぎる名前だ。
今度こそスマホを僕はポケットにしまった。
そうして敵の容姿を、観察する。
アリエスとアクエリアスが合体した、アリエス・アクエリアス。
アクエリアスの水瓶の様な体から、アリエスの羊のような頭と芋虫の様な胴体が生え出ている。
レオとジェミニが合体した、レオ・ジェミニ。
レオの、絵に描いた下手な太陽の様な形をした胴体から、ジェミニの珍妙な腕と頭がまるで自分こそが本体だといわんばかりに生え、
様な、なんて曖昧な言い方だが、そうとしか言えない。
奴らの
この波動には、総ての動物が本能的に服従してしまうほどだろう。
でも、その強力な合体に、僕は違和感を覚えた。
まるで、地を駆ける虎がいきなり機械の羽を生やし、飛翔しだしたような。
そんな強烈な違和感。
だが、今はそんなことを考えている場合ではない。
アリエス・アクエリアスが、先に動いた。
大して速くは無い動きだが、近づいてくる。
レオ・ジェミニは、まだ遠くで静止したまま。
何故だ?
強力な二体で一斉に掛かってきた方が、相手にとって有利なはずだ。
だが、レオ・ジェミニは微動だにしない。
それに薄ら寒い不気味さを感じた。