愚かな僕は勇者になれない   作:ソウブ

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十二話 水の世界

「あ…………」

 恐怖で、膝が崩れ横に倒れた。

 それだけは幸運だった、おかげで直撃だけは免れたのだから。       

 だが、

 消し飛ぶ。

 左腕、左脇腹、左足、消失。

 血が、壊れた貯水機のように噴出す。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 痛みが限界を突破し、叫ぶ事しかできない。

 砲撃が地面で爆発した衝撃波で、ボロ雑巾の様に吹き飛ぶ。

 即死はしなかったが、致命傷は致命傷。

 吹き飛びながら、走馬灯のようにゆっくりと動く景色を見ながら、考える。

 死の間際って、本当にこうなるんだな。

 どうでもいいけど。

 僕はもう直ぐ死ぬ。

 数分と経たず、死ぬ。

 嫌だ、痛い、怖い。

 

『朝陽!!』

「朝陽くんっ!!」

「夢河くん!!」

「夢河!!」

「朝陽!!」

「夢河さん!!」

 

 皆が何かを叫んでいる、聞こえない、わからない。

 もう、終わりなのか。

 だが、思考が回らない極限状態で、ふと生まれる。

 強く、優しく、かっこよく。

 僕の、全然達成できていない目標。

 走馬灯みたいな状況だからなのか、なんなのか、その考えが出てきたんだ。

 出てきたからには、考える。

 

 ――強くとは? 精神的にも物理的にも負けずにいることだ。

 ――優しくとは? 皆のことを想い考えることだ。

 ――かっこよくとは? こんな無様な姿じゃない、一人で突っ走るみたいな愚かな行動も言動もしない、前の二つができる人間のことだ。

 

 なら、僕は?

 ――――何も出来ていないじゃないか。 

 前から前から、考えるだけ考えて、何もやれていなかったじゃないか。

 それでこのまま、死ぬのか?

 ふざけるなよ、それじゃあ僕の人生はなんだったんだ。

 何も成し遂げられずに、消えたくない。

 考えるだけじゃなく、行動に移したい。

 弱いのは、もうたくさんだ。

 強く、ありたいよ。

 なら、行動に移そう。

 でも、どうやって?

 僕はもう死ぬぞ?

 そういえば、僕が死んだら銀はどうなるんだろう。

 精神体として幽霊のように放り出される? それとも僕諸共消える?

 わからない、わからないから悪い方を想定しておくべきだ。

 僕が死んだら、銀も死ぬかもしれない。

 なら、絶対に死ぬわけにはいかないじゃないか。

 でも、僕はほぼ半身が吹っ飛んで血も流しすぎている。

 どうやって生きる?

 ここから死なないなんて誰ができようか。

 

 

 …………。

 ………………。

 ……………………。

 

 

 ――――――――――できるだろう?

 僕なら、できるんだよ。

 そうできる力を与えられているんだから。

 誰から?

 わからない。

 でも、そんなことはどうでもいい。

 とにかく出来ると解るんだ、だったらやらなければ。 

 でも、なんでこんな状況になってようやくわかるんだ。

 さっきまでそんなことまったく知らなかった。

 最初に白銀の剣を呼び出した時だって、土壇場になって突然理解できた。

 なぜだ?

 ……今は、考えることではないかな。

 考えることは、後でいくらでも出来る。

 

 なら、いこうか。

 勝ちに。

 そして、今度こそ必ず、

 強く、優しく、かっこよくなろう。

 決意を強固に、走馬灯のような思考が終わった。

 

 

 ――――――――っ!

 光が、溢れている。

 破滅とは違う、純白の、希望を象徴するような光。

 僕は吹き飛ばされたまま、地面に落ち、転がる。

 転がって、止まって、倒れた。 

 だが。

 溢れている光が、僕の損傷した部位に集まる。

 痛みはもう無い、安らぎすら覚える。

 そうして、

 僕の体は、全くの無傷で、再生した。

『朝陽……』

 銀が驚いた風に呟く。

 血も体中を十分に流れている。

 これで、戦える。

 すぐに立ちあがる。

 スムーズに、体は動いた。

 

 先の砲撃で吹き飛ばされたので、水球からは解放されていた。

 だから動ける。

 砲撃が、再度放たれる。

 だがそれを、白銀の剣で弾く。

 腕にビリビリと痛みが奔る。

 ずっと弾き続けることはできない。持って後何回だろうか。

 さて、ここからどうする?

 皆のことを想い考える、とさっき考えたな。

 どうするべきかわからなければ、一人で突っ走らずに皆を頼ればいい。

 皆の意思を、尊重すべきだ。

 そうすれば、打開策が見つかるはずだ。

 勇者部五箇条の一つ、悩んだら相談、だね。

 

「朝陽くん、大丈夫なの……!?」

 友奈が心配と困惑を含んだ声音で聞いてくる。

「うん、大丈夫」

 安心させるように、僕は笑った。

「朝陽……くん…………」

 

「銀は何か異常ない?」

 僕が死に掛けたので、銀の存在に何かしら問題が起きていないか心配になった。

『ああ、アタシは大丈夫だ』

「そう、よかった」

 安心した。

 そして、皆に向き直る。 

 

「皆、頼む、これからどうすればいいか教えてくれ」

 ずいぶん情けない台詞だが、勇者部の皆を信頼して協力すべきなんだ。

 かっこよくは在りたいが、こんなことでかっこつけてもしょうがない。

 僕にとってのかっこよくはそこじゃないんだ。

 話している間も、砲撃は放たれている。

 それを避け、弾きながらなんとか話す。

 東郷さんが苦々しげに、

「実は、作戦を一つ思いつきはしたんですが、穴も多くかなり無謀な策なので難しいと思います……もっと別の策を考えた方がいいかと、まだ思いつきませんが……」

 それでも、一つ策はあるのか。

「他のみんなは?」

「満開ゲージも溜まってないし、難しいわね」

 風先輩がそう零す。

 満開ゲージってなんだ?

 ……まあ、今はそれはいい。難しいと言っているし。

 他の全員も首を振る。銀も、考えてはいるが思いつかないと言った。

 なら、一つでもあるならそれを聞いてみよう。

「東郷さんが考えた策、とりあえず聞いてみてもいいかな? それから判断するよ」

「わかりました」

 砲撃を掻い潜りながら、東郷さんの言葉を聞く。

 体力が、少し厳しくなってきた。

 早くしないと。

 

 話が終わる。  

 東郷さんは早く簡単に説明してくれた。

 このジリ貧な状況をちゃんと解ってくれてるんだろう。

 聞いて判断した結果。

 僕は、直ぐに決行した方が良いと思った。

 この状況も長くは続かない。

 あと数分もすれば、体力の限界が来て砲撃に押し負けるであろう。 

 だが、無謀かもしれなくても策があるなら、実行してみるべきだ。

 今こそ、三好さんから教えられた『大胆さ』を活かす時だ。

 勇者部五箇条の一つ、なせば大抵なんとかなる、だよ。  

 

 そう皆に伝えると、

「そうだね、やってみよう!」

『うん、アタシもそれでいいと思う』

「時間もありませんしね」

「やるからには必ず成功させるわよ!」

「私も、頑張ります!」

「よし! 勇者部一同、一丸となってあいつらに思い知らせてやりましょう!」

  

 全員の了承を得た。

 作戦、開始だ!

 

 

 

 まず、東郷さん、三好さん、樹さん、風先輩の四人が動く。

 東郷さんが銃撃で、大量のアリエス・アクエリアスを集中的に攻撃する。

 その間にできる隙を、三好さんが二刀を力強く振り、砲撃を防いでフォローする。 

 そして犬吠埼姉妹も、風先輩が大剣でフォローしつつ樹さんがワイヤーによってアリエス・アクエリアスを切り刻んでいく。

 水球を動かしてきたりしていたが、それもなんとか避けれている。

 僕は離れて戦況を判断している。

 友奈も、拳では今行動するとリスクが高かったので僕の隣にいた。

 僕たち二人とも、今はまだ動く時ではない。

 砲撃がこちらへ放たれた時は、二人で弾きなんとか凌いだ。

 

 そうして、何十体かアリエス・アクエリアスを倒しただろうか。

 水球の包囲網が、少し薄くなった。

 ここまでは、順調だ。

 作戦は、次の段階に移行する。

 

「よし! これぐらいでいい! 次にいく!」

 叫んで伝える。

 僕の声を合図に、皆で一箇所に集まる。

「いくわよ!」

 風先輩が声を上げ、大剣を最大まで巨大化させる。

 まるで巨人の武器だ。

 その柄を、全員で持つ。

「僕が合図をする! そのタイミングで頼む!」

 全員が柄を強く持ち直し、身構える。

「いっせーのーでっっ!!」

 勇者部全員で振りかぶり、全力で投げた。

 ――レオ・ジェミニまで一直線に。

 

 巨大な槍と化した大剣は、量を減らした水球を吹き散らしながら飛んでいく。

 そして、レオ・ジェミニに到達、

 しなかった。

 砲撃が、放たれる。

 大剣は、それに落とされた。

 

 ――――だが、ここまでは想定内だ。

 すでに、僕と友奈は走り出していた。

 友奈が僕を抱える。

 そして、全力で跳躍。

 一部の水球の群れが、大剣によって吹き散らされた空へと。

 だけど、それだけでは届かない。

 跳躍が失速したところで、友奈は抱えていた僕を全力で投げた。

 勇者の力を利用した、二段ジャンプだ。

 

 そうしてようやく、僕はレオ・ジェミニの目の前に到達する。

 これが、僕たちの策。

 少しでもイレギュラーがあれば破綻する、強引な作戦だった。

 だが、実った。

 あとは僕がこの白銀の聖剣を振り下ろすだけだ。

 

「くらえっ!」

 レオ・ジェミニに、振り下ろした。

 

 だが――――

 当たらなかった。

 

「なっ……!」

 レオ・ジェミニは、瞬速で、バックステップをするようにかわしたのだ。

 こいつは、高い機動力を持っていた。

 それが、計算に入っていなかった。

 あと数十センチ、足りなかった。

 剣を振り切った状態で、僕は固まる。

 大きな隙。

 

 神滅砲撃が、超至近距離で放たれる。

 それで、全てが終わる。

 

 ――――――――そんなの、認められるかっ!!

 

 ここで勝てないで、なにが強く優しくかっこよくだ!

 そう、勇者部五箇条の一つ、『なるべく諦めない』。

 僕には力がある、あるのなら、どこまでも引き出せばいい。

 どこまでも、だ!

 

 

 刹那の時の中――

 なにかが、胎動(たいどう)する感覚。

 そして、弾ける。

 首に巻かれている、純白の粒子を散らすマフラーが、粒子となって弾け、

 その大量の粒子が、白銀の剣へと集まる。

 希望の光、眩く、輝く。

 純白の光り宿す、白銀の聖剣へと成った。

 

 砲撃が、迫る。

 後、0.1秒と掛からず直撃する。

 普通なら、ここから防ぐことはできない。

 そう、普通なら。

 

 白銀の聖剣が、振り切った状態から、刹那、神速の切り返しをする。

 僕はほとんど力を入れていない。オートカウンターといっていい。

 白閃(はくせん)

 砲撃と白が、衝突する。

 ――――砲撃が、跡形も無く消滅した。

 

「終わりだよ」

 希望の光り輝く、白銀の聖剣を振り下ろした。

 先の様に空ぶることはしない、その斬撃は伸び、奴に容易(たやす)く命中する。

 光が、爆発する。

 世界が、白く染まる。

 納まった時には、レオ・ジェミニは御魂(みたま)ごと真っ二つになっていた。

 終焉。

 レオ・ジェミニは、砂となり消えた。

 

 僕は、勇者部五箇条の一つを思い出していた。

「ほら……なんとかなった……」

 なせば大抵、なんとかなる。

 

 

 

 レオ・ジェミニを倒した後、足場も無く高所から落ちていく。

 粒子となって剣に集まったマフラーは、再度マフラーへと戻っていた。

 それと同時に白銀の剣の光も消えた。

 

 この後、どうすればいいんだっけ?

 倒した後のことを考えていなかった。

 このまま地面に落ちたら、さすがにただじゃ済まない。

 良くて大怪我、悪かったら死ぬ。

 でも、どうすることもできず落下していく。

 地が、迫る。

『朝陽っ……』

 ああ、銀、どうしよう……。

 

 と、ワイヤーの網が張られた。

 樹さんか。

 そこに落ちる。

 だが、落下の勢いで突っ切ってしまった。

 地面が、もう目の前まで迫る。

 といっても、ワイヤーのおかげで勢いはだいぶ殺されたので死ぬことはないだろう。

 

 そして地面に激突する、と思ったところで視界に入ってくる人影。

 受け止められる。

「朝陽くん、怪我してない……!?」

 友奈だった。

 思い切り抱きしめられているので、柔らかい身体が思いきり密着し、女の子特有の甘い匂いがしてドギマギする、と同時に強い安心感を感じる。

 いや、さっきも抱えられてる時に密着してたか。

 まあそんなこと考える余裕など当然無かったけど。

 心配げな瞳に、答える。

「うん、どこも怪我してない、大丈夫」

「よかった……」

 安心してくれたようだ。優しげな微笑みを浮かべている。

「それと、やったねっ!」

 そして、燦々(さんさん)と輝く太陽のような満面の笑みで労ってくれる。

 その表情に、見惚れる。

 間近でそんな顔見せられたら、照れてしまうよ。

 でも、凄く嬉しい。

 ああ、この暖かい柔らかさと甘くいい香りに、全てを委ねてしまいたい。 

 

 

「え………………」

 ん?

 友奈が唐突に、そんな声を漏らした。

「友奈、どうしたの?」

 怪訝に思って、聞く。 

 まさか心の中を覗かれたんじゃ、と危惧していると、

「あれ……」

 友奈が指差した先を振り返って、そんな暢気な思考は即座に吹っ飛んだ。

 

 数百対に及んでいたアリエス・アクエリアスが、再度合体していく。

 戦慄する。

 増殖したとはいっても、大きさは元と変わらないやつらが総て一つになる。

 その意味を考えると、

 汗がこめかみを垂れ落ち、焦りが募っていく。

 あとは鈍足なやつらを、殲滅するだけだと思っていた。

 だから、レオ・ジェミニを倒した時点で勝ったと、安心してしまった。

 でも、そんなのは傲慢な慢心だった。

 

 そして――

 牡羊座と水瓶座の名を冠したバーテックスの、その頂点が、顕現する。

 アリエス・アクエリアス・クラスター。 

 それが、水の神罰を下す頂点の名だ。

 

 もう、止まらない――――。

 レオ・バーテックスよりもさらに巨大なレオ・ジェミニの、そのさらに数倍はあるアリエス・アクエリアスが出現したと思ってから、何をする間もなかった。

 

 

 ――――――世界が、総て水と化す。

「がぼっ…………!!??」

 気づいた時には、空間全域が、水の世界になっていた。

 まるで、海の中になんの前触れも無く瞬間移動させられたかのようだ。

 アリエス・アクエリアス・クラスターは、天高くに鎮座している。

 このままだと、溺れ殺される。 

 直ぐに理解した。あの化け物をこの世から消さない限りは、この水の世界は終わらないと。

 理解したと同時に、泳いで奴の元に向かう。

 皆も理解したのだろう、僕と同時に泳ぎ始めた。

 だが、全然進まない。

 アリエス・アクエリアス・クラスターが、瀑布(ばくふ)のように叩きつける水流を流してきているからだ。

 もう、限界が近い。

 水の世界になる前に、息を吸う間もなかった。全然酸素が足りない。

 先にも、似たような状況にはなった、だが、これはその比ではない。

 水球の中なら、引っ張り出してもらえばよかった。

 だけど、世界の総てが水に成っているこの状況では、どうすることもできない。

 奴を、倒す以外には。

 だが、暴力的な水流の前に、一向に前に進む事ができない。

 奴への道程(みちのり)が、エベレストの山頂よりも遠く思える。

「ぐっ……がっ……」

 もう……限界か……。

 皆も、息が限界に来ているように見える。

 やばい、まずい、どうすれば――――

 

 

 ――どうすれば、じゃないだろう?

 僕なら、こんなもの、打破できるんだよ。

 完膚なきまでに、不条理に、叩き潰せるんだよ。

 その力が、与えられているんだから。

 ――誰から? 

 知るか。

 ――――やってやる。

 

 

 白きマフラーが、また弾け、四散する。

 そしてその粒子が、白銀の剣へと集まっていく。

 剣が全て純白の光に包まれ、形状を変化させていく。

 変形が終わった時には、僕の手に巨大な白銀に輝く聖槍(せいそう)が握られていた。

 逆手(さかて)に持ち直す。 

 

 白き剛槍(ごうそう)を、全身全霊で()って投擲した。 

 

 ドオォッッッッッッッッ!!!!!!

 

 全く減速することなく、光り輝く轟槍(ごうそう)は水の化け物目掛けて飛翔する。

 そして――

 

 奴の体を、中心から貫いた。

 それでも白き聖槍は、止まることなく空の果てまで飛んでいく。

 御魂を貫かれ、破壊されたアリエス・アクエリアス・クラスターは、砂となって消えた。

 水も世界から、消失する。

 そのまま皆揃って地面に落ちる。

 水流の所為であまり進めなかったのが幸いした、たいした高さではなく全員怪我も無い。

 

「ごほっ……がほごほっ……」

 皆、水を結構飲んでしまったみたいだが。

 それでも、誰一人欠けることなく、敵は全て倒した。

 よかった……。

 これでもう、戦いは終わりなんだよね。

 安心して、息を深く深く吐くと同時に、視界が白く包まれた。

 

 

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