愚かな僕は勇者になれない   作:ソウブ

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十三話 疑念

 目を開けると、学校の屋上だった。

 周りを見ると、皆もいる。

 どうやら戻ってこれたようだ。

 最初に樹海から戻ってきた時は気絶してたし、どう戻るのかは詳しく知らなかった。

 普通に帰れたし、何も心配する事はなかったみたいだが。

 屋上から望める夕日を眺めながら、胸を撫で下ろす。

 これでもうバーテックスは来ない。

 今後は、あんな戦いをする必要無いのだ。 

 平和に、なったのかな……。

 とりあえず、僕たちは日常を歩んでいけるだろう。

 これから皆と、楽しく愉快で痛快でワンダフルな日常が待っているのだ。

 最高だなあ。

 明日はなにしよう。

 なんて物思いに耽っていると、

 

「朝陽くん、すごいよっ!」

「アンタの女子力は最大級ね!」

『やったなっ、本当にやったな! 朝陽!』

「わあっ!」

 

 友奈と風先輩と、銀まで姿を現して抱きついてきた。

 というか女子力ってなんだよ、僕は男子だよ!

 あと苦しいやら恥ずかしいやら嬉しいやらで困る!

 すごい困る!

 そしてやわらかい!

 おっぱい!

 

 テンションが可笑しくなってきた。

 東郷さんは殺気を放ってくるかと思いきやなんか羨ましそうな目で見てるし、樹さんは苦笑、三好さんは呆れた顔をしている。

 

「いや~、最後のあれは本当にダメかと思ったわ」

「夢河くんがいなかったらどうなっていたか分かりませんもんね」

 風先輩と東郷さんがそんなことを言っているけれど。

 

「僕は、ただ必死なだけだったけどね」

 ただただ我武者羅(がむしゃら)で、ぎりぎりな所を走っていただけだ。

「それでもすごいですよっ」

 樹さんもそんな僕に笑顔で言葉を向けてくれる。

「まあ、根性あったじゃない」

 三好さんも、一番弟子が大成(たいせい)して嬉しい師匠のような、有り体に言ってよくやったというような笑みを向けてくれる。

 

 僕は、こんなに褒められてもいいんだろうか。

 皆の力があったから、レオ・ジェミニだって倒せたのだ。僕一人では到底叶わなかっただろう。

 勇者部の力で奴らを殲滅できたといって過言は無い。

 勇者部五箇条を胸に僕は戦ったのだから。

 ここまで言われて嬉しくないわけがないが、なんだか身の丈に合っていないようでむず痒い。

 

「明日は、お役目も終わったし祝勝会ということで皆でカラオケに行きましょう!」

「おお、いいですねそれ!」

 風先輩が宣言し、友奈が乗り良く賛成する。誰も異を唱えることは無かった。

 僕もそうだが。

 明日は日曜日だしね。

「午後二時半あたりに学校に集合してから行くって感じでいいかしら?」

 皆同意する。

 

 カラオケか……楽しみだな。

「これでもう、みんな楽しく過ごせるね!」

 友奈はそういって、桜咲く笑みを浮かべていた。

 

 

 

 家に帰り、夕食の席で友奈が両親に伝えた。

「私たちのお役目、今日で終わったんだよっ」

「おお、それは本当か!?」

「よかったわ」

 友奈パパとママは、心底安堵したように祝ってくれた。

 当然だ、自分の娘が危険な戦いに(おもむ)いていて心配しない親はいないだろう。

 まあ、まったくいない事は無いかもしれないが、今はそんな特殊な事情を抱えた極少数の事などどうでもいい。

 人類対化け物の戦争から解放された友奈を、安心の笑みで喜んで迎えている二人を見て、そう思った。

 

「…………」 

 いや。

 待て。

 そもそも、この両親は友奈がバーテックスと戦っている事を知っていたのか?

 知っていたとして、愛する娘をそんな死地に送り込むだろうか?

 友奈パパも溺愛している様子だったのに。僕は身をもって知っている。

 大赦に適当にはぐらかされて、大事なお役目とかそういう風にしか伝えられていなかったんじゃないのか?

 

 聞いてみたい。

 知っていたのか、知らなかったのか。

 凄く聞いてみたかった。

 だけどその反面、怖くもあった。

 だって、もし知っていた上で友奈を死地に送り込んでいたとしたら、これはなんだ。

 この暖かな光景はなんなんだ、ということになる。

 偽りに塗れた、どす黒く腐臭漂う光景に様変わりしてしまうじゃないか。 

 そんなのは嫌だ。そんなことは認められない。

 この光景が偽りの筈が無い。

 もしそうだったら僕は耐えられない。

 これは強く優しくかっこよくとは関係ない、そんなこと、いくら強い人間でも平然としていられる訳が無いのだから。

 信じていた事が偽りだと知って、動揺しない人間はいない。

 それに対して思い入れがあればあるほど、そうなるだろう。

 逆になにに対しても興味が無いような奴がいれば、毛ほども揺れないだろうが、僕は友奈達に無関心ではない、完全にその逆だ。

 だから、僕は聞くことができなかった。

 返答を聞くことが恐ろしくて堪らなかった。

 僕は静かに、今見えているものが絶対の真実であると信じて、夕食の席のお茶をすするしかなかった。

 

「明日はご馳走ね」

 友奈ママが優しい微笑みを見せながらそんな言葉を発したが、僕はもうその微笑みを純粋に信じることができなかった。

 

 

 

 

 経過は、順調。

 

 驚くほどに、順調。

 

 (かげ)は、笑う、笑う、笑う。

 

 道化のパフォーマンスに、喜悦(きえつ)する。

 

 まだまだ演目は終わっていない。

 

 舞台設定を考えなくては。

 

 さあ、ここからだ。

 

 

 

 

 深く広がる、青。

 

 その清涼なる青に、異物。

 

 黒い異物が、複数。

 

 (いな)、複数どころではない。大量。

 

 その異物は、人間。

 

 広がる青に浮かぶ、人々。

 

 動かない。

 

 波に揺れるその人型達は、自らは微動だにしない。

 

 静かに、浮かび続ける。

 

 動かない、動かない、動かない。

 

 骸達は、不気味に静謐(せいひつ)だ。

 

 

 

 

 …………朝の陽光が眩しい。

 チュンチュン、チュンチュン。

 安っぽい銃声ではない、外でスズメが鳴いている。

 

 ――と思ったが、全然そんなことは無かった。

 いつものそんな清々しい朝ではなかった。

 

 ザザーーーーーーーーーーーーーーー。

 

 大雨が降っていた。

 朝の陽光なんてまったく見えない、暗く陰気な空だけだ。

 スズメの声も当然聞こえない。

 この豪雨、どぶとか水が溢れるレベルじゃないだろうか。

 こんなに雨が降ってると、カラオケにいけるのか不安になってくる。

 後でチャットで聞いてみよう。

 昨日はあんなこと考えてしまった所為で、あまり眠れなかった。

 あ~、俺二時間しか寝てないわ~、今日二時間しか眠れなかったわ~。という奴である。

 まあ僕はそんなうざい寝てない自慢などしないが。 

 とにかく僕はその影響で、身体が気だるい。

 ああ、もっと寝ていたい。

 時計を見ると朝七時だった。

 もう起きないと学校に間に合わせるのが辛いだろう。

 寝たい、起きなきゃ、寝たい、起きなきゃ。

 相反する思考がせめぎ合うが、なんとか起きなきゃという思考の方に軍配が上がったようで、だらだらと体を起こす。

 

 なにげにかなり気に入っている黒灰色の制服へと着替えを済ませ、下に下りる。

 洗面所に行き、鏡を見るが、今日は陰気な顔をしていた。

『うわっ、酷い顔してるな朝陽。大丈夫か?』

 寝不足と大雨のダブルコンボだからね……それと、昨日の事も……。

「ま、まあちょっと寝不足でね……」

『なにかあったのか? といってもあたしはずっと一緒にいたか。心配事か?』

「い、いや、昨日戦ったし疲れただけだよ……」

「そうか?」

 言っても要らぬ不信感をぶちまけるだけだろうし、ごまかすことにした。

 銀は釈然としてないような声音だが。

『ああそれと、おはよう朝陽』

「うん、おはよう銀」

 まあ、昨日の疑心は忘れよう。

 考えても意味が無い。 

 時間と労力を無駄にするだけだ。

 精神を蝕むだけだ。

 だから忘れよう。

 うん、それがいい。

 そんな結論を出し、歯磨きと洗顔を済ませた。

 

 

 リビングへと顔を出す。

 友奈ママがこちらに気づき、

「おはよう。休みなのに早いわね、友奈にも見習わせたいわ。て、あら? 制服?」

 ん? 休み?

 ああ、そうだった。今日休みだった。

 昨日土曜日、今日日曜日、完全に休みだったわ。

 というかカラオケ行く約束してたじゃん。忘れるなよ。

 ちょっと寝ぼけてたのかもしれない。

 休みならもっと寝ていてもよかったかな。

 まあ、早起きは三文(さんもん)の徳ともいうしね。

 

 ……だけど、制服はこのままでいいや。

 この制服気に入ったんだし、休みの日に来ても別に問題ないだろ。 

 むしろこれから毎日来てもいいな。

 それに僕はファッションセンスとかそういうのわからないし、下手に服選んで変な服着て嫌な風に思われるのやだし。 

 予備の制服と合わせて交互に着れば良いし。

 これでいいな、うん、この黒灰色の制服がいい。

 夏とかそういうのは気にしない。

 

「おはようございます。休みなのはそうなんですけど、この制服気に入ったので休みでも着ようかと」

 実際は休みなのを忘れていただけだが、それを伝える必要も無いだろう。

「そうなの? 変わった趣味してるのね」

「いやあ、あはは……」

「休みということを忘れていただけじゃないのか?」

 う……鋭いな友奈パパ。娘に付く悪い虫をよく観察しているみたいだ。自分で悪い虫って言っちゃうのかよ。

 敵の情報は必要だからね、さすが武人といったところだ。

「お父さんもおはようございます。そんなことより、友奈はまた起きてないようなので起こしてきますね」

「悪いわね、お願いするわ」

「いえ、居候の身ですので」

「あからさまにごまかしやがったな。あと俺はお前の父親じゃねえ」

 そんな最後の声は無視して、友奈の部屋へと階段を上った。

 

 普通に、明るく話せたな……。

 実際あの人たちが何か変わっているわけじゃない。

 話してみれば、後は簡単だった。

 

 

「友奈ー朝だぞー」

 どうせ寝てるだろうと思ってバンッとドアを開けて、ノックもせずに友奈の部屋に入る。

 案の定、電気は付いておらず、薄暗い部屋で友奈は寝たままだった。

 ドアを開けた後に気づいたが、もし着替え中だったらやばかったな。

 そんなラッキースケベなんて起こらなかったが。

 友奈の朝の弱さに感謝すべきか嘆くべきか。

 それはさておき、友奈を起こそう。

 体を揺するのが手っ取り早いということは前に学習済みだ。

 ベッドに近づく。

 手を伸ばす。

 友奈の肩を揺さぶった。

 ガシッ。

 その手を掴まれた。

 

「ふぁっ!?」

 なななななんどすえ!?

 混乱のあまりなんとか弁になっていると、すう、すう、という寝息が聞こえてきた。

 見ると、友奈は僕の右腕を抱き枕にして眠っている。

「ね、寝ぼけているのか……?」

 多分そうだろう。目を完全に閉じているし寝息も穏やかで規則的だ。

 というか。

 腕に、あたっているんだけど。

 やわらかくて、暖かいんだけど。

 決して大きいとはいえないが、女性らしいふくらみを持った胸が僕の腕に接触している。

 大きくはないといったが東郷さんは例外なのだ、中学生ならこれくらいの大きさでも普通といえるんじゃないだろうか。

 まあ、とにかく、うん――――やばい。

 

 ラッキースケベなんて起こらなかったとかいった矢先にこれだよ! 

 いや嬉しくないわけじゃないけど心臓に悪いよ!

「友奈……ちょっと……」

 声を投げかけてみるが、ぐっすりと寝ている。

 くそっ、幸せそうな顔してるよ。

 僕もある意味幸せだけれど。

 

 …………もう、このままでいいんじゃないかな。

 うん、放してくれそうもないし、起きるまで別にこのままでも――――

 

「はいどーーーーーーーーーーーーーーーん!」

 

「ぐっはああああああああああ!!??」

 ドンガラガッシャーン!

 大げさな擬音だが、僕の中ではこのぐらいのことは起きた。

 椅子を巻き込みながら吹っ飛んだだけだけど。

 だけってことはないか、ちょっと痛い。

 そんな暴挙(ぼうきょ)に出たのは、僕の目の前に浮遊している三ノ輪さん()の銀さんである。

 

「なにしてくれてんの!? 暴力ヒロインなの!?」 

「朝陽がヘンタイだから悪いんだろー」

 ジト目で睨んでくる。

「ヘンタイ!? 今のどこにヘンタイ要素が!? 不可抗力だよ!?」

「たとえ最初は不可抗力だったとしても、なんですぐに振りほどかなかったんだ?」

「ぐっ……」

 確かにやましい気持ちが芽生えなかったといえば嘘になる。

 そのままの状況を維持しようと思考を無理やり納得させていた感も否めない。

 だから友奈のために突き飛ばされても仕方がない。

 痛いところを突かれたというような考えが顔に出ていたのか、

「ほら、やっぱり朝陽はヘンタイだ」

 と銀は言ってきた。

 

「ぐああああああああ」

 頭を抱える。

 完 全 論 破。

 強く優しくかっこよくとはなんだったのか。

 いや、戦いが終わって気が緩んでただけだ。

 きっとそうだ。

  

 その後友奈をなんとか起こし、朝食を食べたのだった。

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