愚かな僕は勇者になれない   作:ソウブ

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十五話 友奈と銀とその後友奈と

 ツイスターゲーム。

 ついに来てしまった。

 ていうか本当にやるのこれ?

 色々と問題なんじゃないんですかねえ。

「ルーレットを回す役の人が必要だよね、だから僕は棄権する事にするよ」

 さすがにあれで密着しすぎるのはまずいと思ってそう提案する。

「え? 朝陽くんやらないの?」

「ここまで皆でやったんだから最後も皆でやったほうが良いだろ」

 いやいやそうは言ってもね、こう、ね?

 

 僕の理性が持つかどうかわかりません。

「でも、ルーレットどうするの……?」

 どうにかこの理由で逃げれないだろうか。

「順番にすればいいんじゃないかな。そうすれば全員と対戦できるよ」

 やはりその隙を突かれてしまったか、もう打つ手がない。

 いや、断ろうとすれば全力で拒否すればいいだけだ。

 だけど、ここで無理に断って空気が読めない行動をするのも嫌だった。

 嫌な風に思われたくないのだ。

 だが、しかし、うーん。

「ま、まあ、とりあえず二人からどうぞ。僕は後でいいから」

 結局先延ばしにした。

 ヘタレかな。

 でも責任も取れる覚悟もないのに変なことする方が間違ってると僕は思う。

 誠実じゃなければ意味がないのだ。

 

 二人がツイスターゲームのシートの上に座る。

「じゃあ、お願い朝陽くん」

「どんとこーい!」

 準備が出来たようなのでルーレットを回す。

 

 

 …………あれからルーレットを回し続けたわけなんだけど。

 今、凄い光景が目の前にある。

 

「ん、あっ、あ、朝陽くん、次はぁ……」

「あ、朝陽、早く、ルーレットを回してくれ、んっ、あっ……」 

 

 そこには、歪な体勢で密着し、くんずほぐれつする美少女二人がいた。

 うん、凄く、百合百合しいです。

 ああ、ああ、青少年のなんかが危ない!

 僕個人的には百合は好みじゃないんだけどなあ。

 でもこの光景からは目が離せないんだよなぁ。

 どうしてだろうなあ。

 

「朝陽くん、はやくぅ……」

 友奈がこちらに振り返りながら言ってくる。

「う、うん、すぐに回すよ」

 ちょっと、そんな悩ましげな目で見ないでくださいよ。

 下半身が反応してしまうじゃないですか。

 無心を意識しながらルーレットを回す。

 カラカラとしばらく回転した後、止まる。

 

「友奈、右手を青に」

「ええっ、あおぉ……」  

 友奈が戸惑ったような声を上げるが、無理も無い。

 銀の体と絡まっている状態な上に、青は銀の体の向こう側にあるからだ。

 全力で体と手を伸ばしてギリギリいけるかどうかという場所だ。

 友奈は無理やり手を伸ばす。

「んんんっ……」

 力んで体を伸ばしている。

 その時に銀と身体がより密着し、胸と胸が押し付け合わされたり足と足もさらに絡まる。

 

「おっふぉおおっ」

 はっ――変な声が出てしまった。

 だから、僕は百合には興味ないんだってばっ。 

 本当に違うんだって。

 だが目を放せない、瞼は目一杯見開かれている。

 ガン見である。

 なぜ。

 なんでだ。

 何故僕はこんなに、瞳を痛いほどに上下に伸ばして、網膜に目の前の光景を焼き付けているんだ。

「いや、でも違うから、興味ないから」

 声に出して自分に言い聞かせる。

 そうやって行動と思考が一致しないで見続けていると、

 

「ああっ!」

「うおっ!」

 友奈が後少し届かず体勢を崩して、銀共々倒れた。

 ……と同時にスマホの着信音が二つ鳴った。

 僕と友奈のスマホからだ。

 何かと思い取り出し、見てみる。

 風先輩からのメールだった。

 画面には、カラオケはまた後日大雨が降ってない日にやるという(むね)が書かれていた。

 窓の外を見てみると、大雨は弱まりを見せることなく轟々と降り続いている。

 確かにこれじゃあ中止になるのは当然と言えよう。

 危ないしね。

 大雨が降ってない日、ていうことは少しぐらいの雨ならその日はカラオケに行くということかな。 

 だったら明日にでも行けるかもしれない。

 明日月曜日で学校だけど放課後に行けば良いしね。

 と、

 

「友奈も着信着てたみたいだけど風先輩からだよね?」

 体勢を立て直しスマホを見ていた友奈が顔を上げる。

「そうだよ、てことは朝陽くんも?」

「うん、カラオケ中止っていう内容だけど友奈も同じだよね?」

「そうだね、同じだよ、残念だけどまた今度だね」

 少し眉尻を下げながら友奈が言う。

 一斉送信だったんだろうな。

「ということはもう今日は家から出る事はないかな」

 スマホの時間を見てみると、もう昼だ。

 昼ご飯の時間だ。

 ――そういえば。

 

「友奈って僕が今日一杯でこの家から出て行くって知ってるよね?」

 自然に遊んでたけどそれ聞くの忘れてた。

「ええっ!? 聞いてないよ! そうなの!?」

 物凄く驚いている。

 どうやら知らなかったみたいだ。

 情報伝達の齟齬が。

 まあ急な話だったからね。

 戦いが終わるまでっていうことは事前に知っているはずだが、まさかそんなすぐに出て行くとは思っていなかったんだろう。

 

「もっといられないの?」

 寂しげな顔で聞いてくる。

 なんだかこそばゆい。

「でも、戦いが終わるまでってことだったし、仕方がないよ」

 友奈は視線を落とし、

「……そっか」

 と呟く。

 友奈は天真爛漫(てんしんらんまん)だが、我侭(わがまま)な人間ではない。

 ちゃんと気遣いが出来る人なんだ。

 元気に振舞っていながら、考えている所はしっかりと考えている。

 数日しか過ごしていないが、それは分かった。

 だから、直ぐに引き下がったのだろう。

 いつまでも他人の家に居候するわけにもいかないから、こればかりはしょうがない。

 一拍(いっぱく)気まずいような沈黙が流れる。

 

 だけど友奈はすぐに顔を上げて、

「だったら今日中に思い出、いっぱいいっぱいつくらないと!」 

 友奈は張り切ってそう言ってくれた。

 僕も思い出を作りたいと思っていたから、それが嬉しかった。

 まあ、この家から出て行くだけで普通に毎日学校とかで会えるんだけどね。

 でもやっぱりこの家に入れるのは最後だから。

 少し寂しいと思ってしまうのは仕方がない。

 

「二人ともご飯よー」

 下の階から友奈ママの呼び声が聞こえた。

 昼ご飯が出来たらしい。

 あ、これツイスター逃れるチャンスじゃないか?

 そうだ、竜巻は回避するべきだ。

 災害なんて、来ない方が良い。

 溢れ出る煩悩を払いのける。

 僕は全力で竜巻から逃げるぞ。

 

「呼んでるし行こうか」

「うん、お昼ご飯何かな~」

 ウキウキ顔で友奈は立ち上がる。

 銀は僕の中に戻り、二人で階下へ向かった。

 そうして僕は、有耶無耶(うやむや)の内にツイスターゲームを回避したのだった。

 

 ――――少し残念に思うのは避けられなかったが。 

 

 

 

 その日の夜。

 今日は、友奈と銀とで遊び倒した。

 思い出をしっかりと頭に刻み込めたと思う。

 夕ご飯も、豪勢な料理だった。

 居候の身であんなに豪華なの口に入れるのは気が引けた。 

 少しだけ食べて止めようとしたら、もっと食べろといわれて断れずに食べたけど。

 まあ、美味しかった。

 

 そして今は就寝前。

 もうそろそろ寝ようかと思っていた頃。

 コンコンっと明日から僕の部屋ではなくなるこの部屋のドアがノックされた。

「入っていい?」

 友奈だった。

「うん、いいよ」

 僕が答えると、友奈がドアを開けて入ってくる。

 就寝前の時間帯だからかパジャマ姿だった。

 薄いピンク色で、(えり)(そで)(すそ)にレースが付いているとても可愛らしいパジャマだ。

 髪は結んでおらず肩口をくすぐるストレートだ。 

 なんか新鮮で、凄く良い。

 ここ数日一緒に住んでたけどパジャマ姿を見たのは初めてだった。

 本当に、可愛い。

 

「こんな時間に何の用?」

 この時間に、それもパジャマの状態で来たのは初めてだったので気になって聞く。

「ちょっと、朝陽くんと話したいことがあって」

 真面目な雰囲気を友奈の表情から悟る。

「それじゃあ、アタシは席を外した方が良いかな?」 

 銀が出てきて友奈に尋ねる。

「うん、二人きりの方がいいかも……ごめんね」

 申し訳なさそうに友奈が言う。

「いいってことよ」

 銀は快活に笑ってそう返す。

「私の部屋使っちゃっていいから」

「おう」

 そうして銀は部屋を出て行った。

 

 …………。

「……えっと、とりあえず座って?」

「あ、うん……」

 友奈が立ったままだったので座るよう促す。

 僕の前にとんび座りで腰を落とす。

 一拍置いて友奈は喋りだす。

 

「……そこまで重要な話というわけじゃないんだけど、聞きたいことがあって」

「聞きたいこと?」

「そう、本当にあまり重要じゃないんだけどねっ」

 友奈が苦笑しながら両手を振る。

 ちょっといつもと様子が違う。

 なにか遠慮しているような感じだ。

 何を遠慮する事があるんだろう。

「朝陽くんは、なんであそこまでして戦ってくれたのかなって……」

「……? どういうこと?」

 いまいち詳しい意味がわからなくて聞き返す。

「えっとつまりね、私たちはもう同じ勇者部の仲間で友達だけど、あってまだ少ししか経ってないよね」

「うん」

 友達だとちゃんと思ってもらえてたんだね、よかった。

「朝陽くんは始めて会った時も守ってくれたけど、今回はあんな死んじゃうような大怪我まで負ってたのに、それでも必死になって戦ってくれた、笑いかけてもくれた。確かにバーテックスを倒さないと全てが終わってしまうけど、それでも記憶がなくて会って間もない人たちばかりの中戦った。それがなんでかなって…………」

 

「……そう……かな……」

 確かに僕は、皆と会って間もない。

 そんな人間があそこまで必死に守ろうとするのは、傍から見て不思議に思うかもしれない。

 でも。

「朝陽くん、悪く言っているわけじゃないんだよ、私、すごく嬉しかったんだ。でも、なんでそこまでしてくれるのかなって思って」 

 そうか、ただ僕の行動の原理を知りたかったのか。

 遠慮がちだったのはそういう意味か。

 僕の個人的なことでもあるから、聞いていいか迷っていたんだな。

 これぐらいどうってことないのに。

 優しいな、友奈は。

 

「わかった、じゃあ僕の思いを話すよ」

「……話してくれるの?」

「うん、それぐらい問題ないよ」

「ありがとう」

 友奈は優しく微笑んだ。

 

 そうして僕は、話し出す。

「僕は記憶が無いけれど、友奈たちを始めてみた時思ったんだ。守りたいって」

「守りたい…………それは、なんで?」

「僕にもわからないんだ、ただ、そんな想いが溢れてきたんだ」

「そうなんだ……」

 友奈は思い耽るように黙る。

「それで、僕は記憶が無かったから、その自分から湧き上がってきた想いを実行する以外にやることが無かったんだ。もちろん、勇者部に入って皆と仲良くなって誰も失いたくないと思うようになっていたよ。けど、最初の行動原理はそれだったんだ。記憶が無くて、唯一その想いしか僕には無かったから、だから記憶が戻るまではそのためだけに生きようって考えたんだ。いわば生きる目的だね」

 それが、僕の理由。

 

 一呼吸置いて。

「最初は、震えるほど怖かったんだ。記憶が無くて、知ってる人が一人もいなくて、でも、皆と出会ってからは、そんなの吹き飛んでしまったんだ。皆がいたから、怖くなかった。だから、凄く感謝してるんだ」

 思わず顔が綻んでしまう。

「本当に、皆のおかげなんだ……」

 感謝の念を、吐き出す。

 

 

 全部話し終えた後、友奈が喋りだす。

「ありがとう、話してくれて」

 笑顔でそう言った。

「さっきも言ったけど、これぐらいどうってことないよ」

 友奈は首を振り、

「ううん、それでもちゃんと言ってくれて嬉しかったよ」

 そんな言葉を掛けてくれた。

「でもそれだと、もう目的は達成されちゃったね」

 確かにそうだった。

「これからはどうするの?」

 これから、か。

 そうだね……。

「もう皆のことは好きになっちゃったから、勇者部で楽しく過ごしていくことかな。それが次の生きる目的かな」

 そんな気恥ずかしい本音を、吐露(とろ)する。 

「だったら、これからは目的達成されまくりだねっ」

「そうかもね」

 そうだといい。

 いや、きっとそうなんだろう。

 バーテックスはもう全て倒したのだから。

 

「私たちはこれからも、ずっと仲間で、友達だよ」

 友奈は満開の桜のような笑顔で、そんな嬉しいことを言ってくれた。

 

 

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