愚かな僕は勇者になれない   作:ソウブ

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十七話 カラオケ

「――そしたら、絶対、見えてくる♪ 本気の時ほど、無限のパワーが、溢れて来るんだよ♪」

「「はい! はい! はい! はい!」」

 風先輩がノリノリで体を左右に揺らしながら、マイク片手に歌っている。

 友奈はタンバリンを叩きながら合いの手を入れている。

 銀も合いの手を友奈と一緒に入れながら、タンバリンとマラカスを両手に一つずつ持って交互に振っている。

 東郷さんはマラカスを両手に静かに振っている。

 そして夏凜は紙パックの野菜ジュースをストローを咥えて飲んでいて。

 樹さんは平たい機械を操作して歌を選んでいる。

 僕は黙って聞いていた。

 さらにクレイジービーフこと――この呼び方はもうやめたんだったか――牛鬼がポテチやらポッキーやらの食べ物の食べかすを口元に纏わり付かせながら貪り食っている。

 

 そうして曲が終わり、

「いえーい! 聞いてくれてありがとうっ!」

 腕を上げた風先輩のおでこが一瞬煌びやかに光った気がした。

 まあ気のせいだろう、おでこが光るわけ無いじゃないですか。

 はは、気のせいですよほんとに。 

 それにしても風先輩歌上手かったな、先陣を切るに相応しい歌声だったんじゃないだろうか。

 風先輩が席に戻る。

「お姉ちゃん上手っ」

 樹さんが拍手しながら言った。

「んふふ、ありがと」

 ピースしながら風先輩はそう返した。

 

「ちょっと、ごめんね」

 友奈がそう断ってから、樹さんの前にあった、なんていう名前なのか知らないが歌を選ぶ機械を手に取った。

「ねえねえ夏凜ちゃん、この歌知ってる?」

 友奈が夏凜にその機械の画面を見せながら聞いた。

 夏凜はストローから口を離し、

「ん、一応知ってるけど……」 

 ぶっきらぼうにそう答える。

「じゃあ一緒に歌おう」

「え!? な、なんで私が、べつにカラオケにきたからって歌わなきゃいけないわけじゃないでしょ」

 夏凜は歌うのに抵抗があるのかそんな抗弁を試みている。

 と、

「そうだよね~アタシの後じゃ~、ご、め、ん、ね~」

 風先輩が片手を頬に当てとある一点に指を刺しながら言葉を発した。

 その指の先には、

 

 92点。

 

 風先輩の歌の点数だ。

 それが棚の上に置かれている液晶画面にでかでかと映っていた。 

 それを見て夏凜は数瞬沈黙し、

「――友奈、マイクをよこしなさい」

 そう呟いた。

「え?」

 友奈が突然の態度の豹変に呆けていると、

「早く!」

「は、はい!」

 大声で怒鳴り急かし、友奈が急いで夏凜の手の上にマイクを乗せる。

 やる気満々である。

 僕はただただ、見守るのみである。

 

 

「「ちゃっちゃっちゃちゃちゃ、ちゃちゃちゃちゃ、let's go! ちゃっちゃっちゃ、ほら! ハートのカタチ、○△□(マルサンカクシカク)♪」」

 二人とも体を揺らしながら息ぴったりに歌っている。

 それにしてもかわいい歌詞だな。二人が歌う事でよりかわいさが倍増されていると思う。

 友奈は友奈らしさが現れていて可愛らしく、夏凜は逆にいつもの雰囲気とは真逆の歌詞にギャップ萌えってやつを感じる。

 うん、いいね。

 

 そうこうしている内に二人は歌い終わり、息を吐きながらソファーに座る。

「夏凜ちゃん上手じゃん」

「ふ、これくらい当然よ」

 友奈が褒めると、嬉しかったのか夏凜は頬を染めて勝気な言葉を吐いた。

 歌の採点が出る。

 

 92点。

 

 風先輩と同じ点数だ。

「……今日はこれぐらいで勘弁してあげるわ」

「お、おう」

 そんな感じで勝負だったのかどうなのかよく分からないものは終わった。

 

 

「こんな日々が~、ずっと続きますように~♪ 広がる空は~愛や希望で溢れて~♪」

 僕は今、もの凄く聞き惚れている。

 樹さんがこんなに歌が上手いとは知らなかった。

 月並みな言葉になってしまうが、まるで天使の歌声のようだ。

 皆も静かに聴き入っている。

 とても綺麗で、心が震える歌声だ。

 何度でも聞きたくなってしまう。

 

 そうして名残惜しさを残しながら歌は終わった。

 樹さんが静かにしめる。

 もっと聞いていたかった。

 その思いが溢れて僕はつい、言ってしまった。

 

「あの、mp3で樹さんのその歌貰えませんか?」

「え!?」

 樹さんは突然の申し出に驚く。

 そりゃそうだろう。僕も無意識下で自然にこんなこと聞いてしまったが即座に後悔した。

 自分の歌声をmp3で下さいなんていきなり言われたら誰だって引く。ましてやプロでないのなら。僕だってそんなこと言われたら全力で遠慮する。

 後悔と羞恥で顔を熱くして俯いていると。

 

「あ、えっと、あのあの……私の歌なんかで、いいんですか……?」

 そんなことを頬を染めてあたふたしながら樹さんは言った。

「えっ…………引かないんですか……?」 

 僕が恐る恐る聞くと。

「いいえ、少し驚きましたけど、嬉しかったですよ。私の歌声を気に入ってもらえて」

 はにかみながら樹さんはそう言った。

 天使や……。歌声だけでなく性格まで天使や……。

 そう感慨に耽っていると風先輩が、

「樹の歌は一級品だからね、朝陽が気に入るのも無理ないわ」

 腕を組み嬉しそうにうんうんと頷いている。

 妹のことが本当に好きなのだろう、まるで自分のことのように喜んでいる。

「それじゃあ今度、録音して送りますねっ」

 最後にそういって樹さんは席に戻った。

 スマホに送るということか、そういえば音楽を聞ける機器を僕はスマホ以外に持っていなかった。

 ミュージックプレイヤーでも買っておこうか要検討だな。

 しばらくはスマホでいいかもしれないけど。

 ああ、そうだ。イヤホンかヘッドホン持ってないや。それは買っておかないと。

 まあ、何はともあれ楽しみだ。

  

 そんな思考に耽っていたら、

「ちょっと休憩してお菓子食べよう」

 と友奈が言い出した。

「さ、食べて食べてっ」

 友奈はそう皆に言うが、明らかに目が据わっていない。

 友奈……お前……。

「ねえ、友奈」

「うん? なに朝陽くん?」

 首を可愛らしく傾げる友奈。

「現実を見ろ」

 僕はテーブルの上を指し示す。

 そこにはお菓子なんて一つも残っておらず、あるのは食べ散らかされたお菓子の袋と腹をパンパンに膨らませて寝ている牛鬼だけだ。

 あ、今ゲップした。

 汚い、さすが牛鬼汚い。

 これはクレイジービーフですわ。

「え?」

 友奈は僕の言葉に、目の前にある現実を徐々に受け止め顔を悲しげにしていく。

「残ってない!」

 完全に受け止め終えたのか友奈はそう叫んだ。

「うう~~」

 唸りながら涙を流す。

「ふふ、牛鬼はほんとによく食べますね」

 樹さんが微笑みながら呟く。

「食べすぎだよ~」

 涙ながらに友奈が嘆く。

 とその時、

 

 ~~~~♪

 

 部屋に備え付けられたスピーカーからやけに国歌っぽい音楽が流れてきた。

「あ、私が入れた曲」

 そして東郷さんがそう言った瞬間。

「「「「――!」」」」

 友奈、風先輩、樹さん、銀と、僕と夏凜以外の計四名がはっとなった顔をして急に姿勢よく立ち上がった。

 さらにビシィッと言いながら手敬礼を一斉にする。

 どっかの咲畑(さきはた)さんかな?

 というか――

 

「なんだこれは!?」

 僕が皆の突然の奇行に驚愕していると夏凜が、

「ああこれね、東郷が歌うときはいつもこうなのよ。銀は初めてのはずなのによく反応したわね」

 呆れながら僕に説明した。

 いつもって。

 

「我ら、古今(ここん)、無双~♪ 三国(みくに)を~守る為に~♪ いざや、立ち上がりし~♪」

 僕は唖然としながら。

 夏凜は呆れながらもどこか悪くなさそうに。 

 他の四人は歌が終わるまでずっと直立して敬礼しながら微動だにしなかった。

 

「はぁ……」

 東郷さんが歌い終わり、マイクを口から離して一息吐く。

 歌が終わると、俊敏な動きで何事も無かったように四人は着席した。

 銀も同じ反応をしていたのは過去に、鷲尾須美さんの時に一緒に歌ったことでもあるのだろう。

  

「東郷さんって珍しい趣味してるんだね、国歌とか好きなの?」

「うん、お国は大好きよ」

 満面の笑みで東郷さんはそう答えた。

 

 

「たった一人、守れないでぇ! 生きてゆく甲斐が~ないィ! 殴りかかるぅ! 悲しみさえェ! 全身で打ちのめすだろう!」

 銀は今、気分がハイになったように歌っている。

 身振り手振りを交えながら、拳を握り込んだり、目に炎が揺らいでるんじゃないかと思うほど熱い様は、まさに熱唱という言葉が相応しい。

 その熱唱している曲は、某鏡の世界に入って戦う仮面ライダーの挿入歌だ。

 聞いたことがない人には、滅茶苦茶かっこいい曲なので是非オススメしたい曲だ。

 というか銀は少し少年っぽいところがあると思っていたがこんな曲を歌ったりするんだな。

 ますますそれっぽいなと感じる。

 

 本当に、その熱唱する様は、とても勇ましいと思った。

 思ったので、歌が終わった直後に拍手しながらこう言った。

 

「いやあ銀、勇ましかったし、かっこよかったよ。すごく男らしかった! まさに(おとこ)の鏡だね!」

 

「アタシは女だ!!」

 怒られてしまった。

 わりとマジな切れ方である。 

 激おこぷんぷん丸だ、いや、ムカ着火ファイヤーまでいってるかもしれない。

 反省。

 

 

 僕が丁重に謝って許しを貰い、銀が席に戻ると皆の視線が僕に向いた。

 え、な、なに。そんなに一斉に見て。

 何故僕を見る、止めて、視線恐怖症になっちゃうっ!

 まあ冗談は置いておいて、何故僕に視線が向けられたのかはわかる。

 何せカラオケの始まりから今までずっと避けていたことだからなおさら。

 

「さあ、次は朝陽が歌う番よ!」

 風先輩の言葉通り、つまりそういうことだ。

 僕は、人前で歌うとか考えただけで胃が痛くなるほど歌いたくない。   

 だから比較的歌わないオーラを出していたつもりだったんだけど、それでもごまかせる限度があった。

 当たり前だ、僕以外の全員が一通り歌ってしまったのなら必然的に僕に順番が回ってくる。

 だが僕は回避したい。

 それとなく断わりを入れようかな。

 ――いや、でも待てよ。

 ここで断ったらせっかくの祝勝会の騒いで楽しむムードが台無しになってしまうんじゃないか?

 それは駄目だ。僕はこの今の空気が心地いいのだ。

 萎えさせてはいけない。

 いや、でも、だけど。

 う、歌いたくない。

 すんげえ歌いたくない。

 

「せっかくだけど、僕は人前で歌うのはちょっと……」

 やっぱり断ってしまった。

「えぇ~」

 風先輩が頬を膨らませてぶーたれる。

「私、朝陽くんの歌聴いてみたかったんだけどな」

 友奈が残念そうに言った。

 うぐっ……。

「そうだぞ朝陽ー歌えよー、一人だけ歌わないなんてずるいぞー」

 ジト目で銀。

 あ、これまだ少しだけ根に持ってるな。

 ……んぐう……しょうがない。

「じゃあ、一応曲だけ見てみるよ……」

 とりあえず曲を選ぶ振りをして、時間を稼いでこの状況から逃れる策を練ろうと思った。

 名称不明の機械を手に取り、曲目を流し見ながら思考を続ける。

 だが、いい案は依然として浮かばない。

 焦っているのもそれを助長していた。

 と、

 

 そんな時、ある曲名が目に入った。

 それを見た瞬間、画面を止めてつい見入ってしまった。

 なんというかこう、途轍(とてつ)もなく気になったというか、ビビビッときたのである。

 僕は無意識に、それがさも当然のことであるかのように、その曲を入れてしまった。

 歌いたくないなんて考えはもうどこかへ吹き飛んでしまった。

 僕は立ち上がり、マイクを取る。

 

「お、歌う気になったか」

 風先輩がそう言う中、僕は取り憑かれたかのように無言で曲が流れるのを待つ。

 そうして、曲が流れ始めた。

「ん、ずいぶん可愛らしいイントロですね」

 東郷さんが呟いた後、僕は思い切り歌いだした。

 

「こころぴょんぴょん待ち? 考えるふりして、もうちょっと、近づいちゃえ♪ 簡単には、教えないっ♪ こんなに好きなことは、内緒なの~♪」

 

 皆唖然として口をあんぐりと開けているが、そんなことはどうでもいい。

 歌詞は自然と知っていた。

 なんで知っているのかなんて、そんなことは分からないけど。

「ふわふわどきどき内緒ですよ♪ はじめがかんじん、つんだつーんだ♪ ふわふわどきどき内緒だって♪ いたずら笑顔で、ぴょん♪ ぴょん♪」

 ああ^~こころがぴょんぴょんするんじゃあ^~。

 

 

 

 死にたい。

 ソファーに座って頭を抱えながら、暗いオーラを背負い俯く。

 僕は今、自殺志願者の中でもトップに位置するだろうぐらい死にたい。 

 むしろ一位取るまである。

 大げさだけど。

 なんで人前で、それも女の子の前であの歌を歌ったんだ。

 どんなチョイスだ。僕は馬鹿か、馬鹿なのか。  

 男の声であんなキュートな歌詞とか、聞き苦しいにも程がある。

 あああああああああああああ、ほんとに、何故歌った!

 

「あ、朝陽くん、大丈夫だよ、かわいかったよ!」

「そうですよ、すごく楽しそうでした!」

 友奈と樹さんが頬に汗を垂らしながら励ましてくれるが、僕の心は晴れない。

 こころぴょんぴょんどころか、こころどんよりだ。

 それにかわいかったのは曲の方で僕の歌じゃないでしょう。 

 というか男なのにかわいいとか言われても嬉しくない。

 でも楽しくはあったのか?

 わからない。少なくとも歌ってる間はこころぴょんぴょんしていた。

 ってうかこころぴょんぴょんってなんだよ。

 ますます、ずーんとする。

「あわあわっ、朝陽くん元気出して~!」

 友奈の慌てた叫びが木霊した。 

 

 

 ――そうして僕らの祝勝会は、終わっていった。

 まあ、最後にあれだったが、とても楽しかったことは間違いない。

 

 

 

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