愚かな僕は勇者になれない   作:ソウブ

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十八話 三ノ輪家へ

 祝勝会という名のカラオケから一日後、つまり次の日。

 早朝一番に、姿を現して銀は、真摯な瞳でこう言った。

 

「頼みがあるんだ……」

 

 ――それから朝食や、朝にやることが終わった後、直ぐに僕たちは家を出た。

 夏休みだから当然学校はないし、勇者部の活動も今日は休みだったからだ。

 銀は僕に、ある場所に行って欲しいと頼んだ。

 ここからは少々遠いらしいので、電車を使う必要がある。

 少し前までの僕なら、お金を持っていなかったので電車なんて乗れなかったが、今は大赦から受け取った給料があるからなにも問題はない。

 相も変わらず僕は、休みなのに制服を着ている。

 銀は外だから姿を消して僕の中に戻っている。

 銀から道を聞きながら駅まで歩いて行き、切符を買い電車に乗る。

 ゴトンゴトンと鳴る電車に揺れること、数十分。

 銀に指定された駅に、降り立った。

 

「ふう……」

 一息吐く。

 駅前を見渡しても、特に変わったものはない。

 見たことのない土地、というだけだ。

 さらに銀に案内されながら、歩き続ける。

 長いような短いような時間歩き続けて、夏の日差しに熱いな、と袖で額に付いた汗を拭っていたら。

 

『ここだ』

 

 銀が、そう声を上げた。  

 僕は立ち止まり、その場所を見上げる。

 そこは、和風の一軒家だった。

 

『あんまり変わってないな、アタシの家は……』

 

 そう、僕は、生前に住んでいた自分の家に連れて行ってくれと銀に頼まれて、ここにやって来たのだ。

 家族の姿を見たかったんだろう。

 目を覚ましてから一刻も早く会いたかったんじゃないのかと思って、何故今まで言わなかったのだろうと考えたが、直ぐに思いなおす。

 まだ数日しか経っていないが、銀と最初に会ってから、色々とあった。

 僕が金銭を持っていなかったし、自分や周りの変わりすぎた状況への心の整理もあって、タイミングが掴めなかったのだろう。

 それに銀は亡くなったことになっている、僕から離れられないのに今更会いに行っていいものかと考えていたのかもしれない。

 全部、僕の推測だけれど。 

 

「じゃあ、入る?」

 聞くと、意外な事に銀はこう言った。

『いや、いい。会おうと思ってきたわけじゃないから。ただ、一目見ておきたかったんだ。弟が元気にやってるかどうか』

「そうなんだ」

 銀には弟がいたのか。

 どんな人だろう。

 そもそも何歳なのか知らないけど。

『だからちょっと塀の上から覗き込んで、中にいる弟を見れたらなって思ったんだけど……いけるか?』

「え、誰かに見つかったらまずくない……?」

 塀から他人の家を覗き込んでいる人物なんて、どこからどう見ても不審者だ。

『大丈夫だって、今は周りに人は居ないしちょっと覗くだけだから』

「で、でも……」

 やっぱりもし気づかずに誰か来たらどうしていいか分からないし、警察に通報されたらと思うと踏ん切りがつかない。

 そうやって家の真ん前でまごまごしていると、

 

「あら? 誰かしら?」

 三ノ輪家の玄関が開き、女性の声がした。

 そちらへ視線を向けると、銀が呟いた。

 

『母ちゃん……』 

 どうやら銀の母親らしい。

 まあ、銀の家から出てくる何十歳かぐらいの女性なんて、それぐらいしかいないだろうけど。   

 とはいえ、家の前で立ち止まっているところを見つかってしまった。

 ここからどうしようかな……。

 

 

 

「はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます……」

 銀の母親からお茶を出される。

 とりあえず一口啜る。

 あつっ。

 緊張して飲んだものだから、少し口の中を火傷してしまった。

「まさか銀のお友達が来るなんて思わなかったわ」

 僕は苦し紛れに、銀の昔の友達ということにしてあの場を乗り切った。

 まあ友達なのは間違いないし、完全な嘘は言っていないはずだ。

 そのまま流れで家に入ることになってしまったけれど。

 

 今更この時期に来る理由として、もう一つ言葉を重ねておく。

「前にちょっと世話になったことがあって、僕も最近になってここに来れるぐらいには心の整理が付いたので、訪問しに来ました次第であります」

 最後らへん丁寧口調になりすぎたが、世話になっているのも本当だ。

 僕は、銀が近くにいてくれることで支えられているものがある。 

「そうなの…………」

 銀の母親は、寂しげに言葉を漏らした。

 やはり自分の娘を早くに亡くした傷は、まだ完全には癒え切っていないのだろう。

 

「おかーさん、このひとだ~れ?」

 銀の母親に、さっきからしがみついていた幼い男の子がそう母に尋ねた。

「……お母さんの知り合いよ」

 優しい声音で銀の弟に言った。

 姉の死を、思い出させるようなことはしたくないんだろう。  

 そもそも伝えているかどうかも知らないけど。    

 思っていたよりも銀の弟はずっと小さかった。

 まだ三歳ぐらいであろう。 

 やんちゃで元気いっぱいな小学生を想像していたが、これには意表を突かれた。

 こんなに小さい子を残して、銀はいってしまったのか。

 やるせなかったろう、どうしようもない感情に支配されただろう。

 それでも、銀は元気に振舞っていた。

 とても、強い人間だ。

 …………憧れる。

 

 

 それから銀の仏壇に線香を上げて、御暇(おいとま)することになった。 

 駅までの道を、ゆったりと歩く。

 

「あれで、本当によかったの……?」

『ああ、母ちゃんはもうちょっと時間が掛かりそうだったけど、弟は元気に育っていた、だからその姿を見れただけで満足だ』

「そっか……」

 結局銀は家の中で、会うことも喋ることも一切せず、見ていただけだった。

 銀がいいというのなら、これ以上僕から言えることは何もない。

 

「というか銀に線香上げるのは、変な気分だったよ」

 家に上がった形式上上げないわけにはいかなかったけど。

『うん、アタシも変な気分だった』

「そっか……そりゃそうだよね」

『まあな』

「ははっ」

『ふふっ』

 

 少し寂しげな空気漂う帰り道。

 二人揃って、笑った。 

 

 

 

 

 黒。

 

 蠢く。狂気に廻る。

 

 闇に、廻り続ける。

 

 静かに、ゆっくりと、だが確実に、侵食していく。

 

 ゆらゆらと、ぐらぐらと、ぐちゅぐちゅと、漂い、這い寄って来る。

 

 少しずつ、少しずつ、闇よりも黒い絶望が、滲み、塗り潰す。

 

 近づく黒い足音は、まだ遠く。

 

 時は、まだ熟さない。

 

 ……まだ――――――。

 

 

 

  

 (きらめ)く太陽。踏みしめる熱い砂。なんともいえない潮の匂い。気持ちのいい波の音。

 つまり。

 夏だ! 海だ! 海水浴だー!

 ということだ。

 

 

 僕達は、勇者部全員で旅行に来ていた。

 大赦が、お役目を果たしたご褒美的な報酬的なお礼的なもので用意してくれたのだ。

 そして泊まる旅館のすぐ近くに、この海水浴が出来る海があるというわけである。

 ビーチパラソルを立てて、ビニールシートを敷いていると、皆も着替え終わったのかやって来た。

 なにげに銀も水着を着て姿を現している。

 勇者部の誰かに借りたのかな?

 僕は急だったので学校指定の水着だ。

 まあ、男の水着なんて変なものでない限りなんだっていいだろう。

 ブーメランパンツとか。

 あれはない。

  

「ほら朝陽、なんか感想言いなさいよ」

「えぇ……」

 僕なんかが感想なんておこがましいというか恥ずかしいというか。

 とにかく本人に言うのはちょっと……。

 友奈も期待したような瞳を向けてきているが、それでもやっぱり恥ずかしい。

「アンタ、まさかこんなに粒ぞろい前にして何も言わないなんてことないわよね? ハーレム王?」

「誰がハーレム王ですか!!」

「あんた」

 思い切り指を刺された。

「どこがですか!?」

「まさか自覚ないとは言わせないわよ、こ~んなに美少女に囲まれて、同じ部に入っている。これをハーレムといわずなんというか!」

 確かに、最初に会った時から思っていたが、皆美少女の部類に入るだろう。

 風先輩、だからって自分で言うかなあ。

「別にそういう目で見られてるわけじゃないんだから、ハーレムとは言わないでしょう……」

 恋愛的な目で僕なんかが見られるはずがない。

 そう反論するが、

「とにかく! ハーレムを享受しているんだからみんなの水着の感想ぐらいいなさいよねっ、それが女の子に対する礼儀ってもんよ」   

 聞いちゃいない。

 はあ、もういいや。

 ここまでいわれて感想言わなかったら、それこそ男が廃るってもんだ。

 そう、強く、優しく、かっこよくなのだ。

 

「じゃあ、え~と」

 まずは友奈の感想から言うか。

 僕が目を向けると、友奈は両手を後ろに回し、少し潤んだ瞳で頬を赤らめ、上目遣いになった。

 な、なんだよ……。

 見られるのが恥ずかしいのかな……。

 可愛すぎる反応に目を逸らしそうになるが、感想をいうためには見なければ。

 友奈は、ピンク地に白いフリルの付いた水着を着ていた。

 下はスカート状になっていて、友奈に似合った可愛い水着だと思う。

「えっと、うん、友奈、すごく、とてつもなく、僕好みで、かわいい、よ…………」

 ガッチガチに緊張して、途切れ途切れな言葉になってしまった。

 情けない、命の掛かってない状況では強く優しくかっこよくを維持できないのか。

 平和で、気分が緩んでしまっているのだろう。

 だがそれを押して、考えを通さなければ。

 

「えへへ、そうかな? ……ありがとう朝陽くん」

 照れながらはにかむ友奈は、とても可愛い。 

 そして僕は、連続で感想を言った。

 

「うん、銀は、活発な感じが似合ってる」

 銀は競泳水着に似た青色に(ふち)が白い水着を着ていた。元気な銀に似合った水着だと思う。

 

「東郷さんは、セクシーで、とっても綺麗だよ」

 東郷さんは白地に横にスカイブルーのラインが入った、多分セパレート水着って奴かな? だけど上は胸の部分をリボンで結んであるだけなので綺麗なへそが覗いていて、やっぱりセクシーだ。下はホットパンツのような形状だ。

 

「夏凜は、引き締まった体に健康的な水着がいいね」

 夏凜は鍛えられたスレンダーな体に、赤と白のストライプの水着を着ている。上はビキニっぽい感じで下は東郷さんと似てショートパンツのような形状だ。

 

「樹さんは、かなりキュートで小動物的な可愛らしさがあると思う」

 樹さんは下がスカート状のワンピース水着だ、明るい緑地にカラフルに他の色が付いていて、セクシーさよりも可愛らしさを表している。

 

「風先輩は、大胆で曲線的な美しさがいい感じなんじゃないかな」

 風先輩はオレンジの地にハートの柄が付いた、シンプルなビキニタイプだ。だがそのシンプルさが彼女の魅力を引き出しているといえる。

 

 ――ぜえっ、ぜえっ……。

 これで、どうだっ……。

 順番に、なんとか頭をフル回転させ、少ない語彙を搾り出して答える。

 

「上出来よ、さすがハーレム王!」

 風先輩がぐっと親指を立てる。

 もう突っ込まないぞ。

「ああ、朝陽、頑張ったな!」

 労うように笑ってくれる銀だが、頬が少し染まっている。

「なんといいますか、男の人にこんなこといわれたのは初めてなので、戸惑ってしまうわ……」

 頬を染めながら微笑む東郷さん。

「私は、その、可愛らしいなんて、そんなことないですよっ……」

 樹さんが顔を真っ赤にしながら俯いて、もじもじしている。

「私はっ、別に感想言われたくて着たんじゃないんだけどっ」

 夏凜は頬を赤くしながらそっぽを向いた。

 そう言ってはいるが、夏凜も皆と同じで満更でもなさそうだった。

 

 皆にそんな反応をされまくると、こっちの方が恥かしくなってしまう。

 なんだ、なんだこの状況は。

 ハーレムか、本当にハーレムなのか。

 ついに来た、ニューヘヴンなのか。

 まあそれはないか。

 ないない。

 だって僕だし。

 そりゃ褒められれば誰だって嬉しいし、ましてや水着なら頬を染めるほど恥ずかしくなるだろう。 

 むしろ彼女達の年頃なら照れてしかるべきだろう。

 それを無駄に恋愛的に捉えるのはよくない。

 恋愛脳はよくない。

 勘違いして後でダメージを追うのは自分なのだから。

 

「それじゃあ泳ごっかー!」

 風先輩のその言葉から、海水浴は開始されたのだった。

 

 

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