愚かな僕は勇者になれない   作:ソウブ

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十九話 海水浴に美味い料理

「東郷さん、どう?」

「ええ、とっても気持ちいいわ、友奈ちゃん」

「朝陽くん、は、気持ちよさそうだね」

「うん、まあね」

 友奈が東郷さんの水に浮く車椅子を持ちながら、海の浅めの部分を漂っている。

 僕も最初から激しく動く気にはならず、体を思いきり弛緩させて一緒に漂う。

 ああ、やっぱりのんびりが一番だよね。

 

 少し潜水してみる。

 ゴーグルがないのであまり視界は良好とはいえないが、周りをぐるりと見渡す。

 と、

 ある一点で僕は動きを止めた。

 それは東郷さんと友奈の方角。

 方角というかすぐ隣にいるんだけど。

 僕の視界には、でっかいマンボウが二匹、水面をふよんふよんと浮いていた。

 その二匹に僕は釘付けになる。

 おっぱ、おおおっぱ、お、お……おっぱい!

 有り体にいって東郷さんの胸である。

 視界が不安定とはいえ、ここまで近くだとそれなりに見えなくもない。

 僕のテンションは夏休み&旅行&海水浴で、少し変になっている。

 その影響もあって、僕はその白くやわらかそうな双球に、視線が固定されてしまったのだ。

 釘付けだ。

 もう他のところに眼球が動ない。

 何してんだ僕。

 エロガキかよ。

 馬鹿かよ。

 だが止めない。

 息が続く限り眺めていると、 

 

「はい、どーーーーーーーーーーーーーーーーん!」

 

「ごっばあああああああああああ!!??」

 ドンバラバッシャーン!

 僕に思い切り突進するというふざけた暴挙に出た者がいた。

 三ノ輪さん家の銀さんである。

 というか前にも同じようなことがあった気がする。

「だから暴力ヒロインは嫌われるっていったでしょうが! 僕に恨みでもあるの!?」 海に浮かぶ銀に抗議の声を上げる。 

「朝陽がヘンタイだから悪い! 今からアタシと泳ぎで競争だ! 負けたら再度制裁になるからな!」

「なんて横暴な!?」

「正妻!?」

 ほら、友奈も制裁なんて酷いこといけないって驚いてるよ。

 意味合いが少し違う気がしたが、気のせいだろう。

 

 だが、僕の返事も聞かずに銀はバタフライで泳いでいってしまった。

 このまま放置してもいいが、それだと後で負けたから制裁とかいわれて、何をされるかわからない。

 僕はすぐさま銀を追った。

 バタ足で。

 

 

 ――まあ、負けた。

 そりゃそうだろう。

 僕の運動神経は決して良いとは言えない。

 バーテックスの時は、能力のおかげで戦えているだけだ。

 バタフライが上手い者と、バタ足でしか泳げない者。

 どちらが勝つかなんて最初から分かり切っていた。  

 でも制裁は別に受けなかった。

 そもそも競争とか言っておいてどこまでとか言ってなかったから、ルールがガバガバだ。

 銀はフライングしてたようなもんだし。

 結局、遠くまで泳いだ挙句、砂浜の方まで泳いで戻ってくるという遠泳のような競争もどきをしただけだった。

 銀はその後、元気に友奈たちの方へ行った。

 なんだったんだ。

 体力がかなり削られてしまった。

 海水浴序盤からこれだよ。

 ほんとに、なんなん。

 一息吐く。

 すると、

 

 バンッ!

 

 ビーチボールが僕の顔に、まるでドッジボールのごとくぶつけられた。

「本当になんなん!?」

 さすがに僕も疲れたところにこの仕打ちは腹が立った。

 ボールの飛んできた方に目を向ける。

  

「ぶわっははは! 朝陽キレイに正面から当たったわね!」

 風先輩が笑い転げていた。

 ああーもう。ああー。

 ちょっと、イラッとしちゃったかなー?

 近くに落ちたビーチボールをむんずと掴み、風先輩へとお返しのようにドッジボールのごとく投球した。

「へぶっ!?」

 笑い転げている風先輩にクリーンヒット。

 ふははは。

「やったわね!」

 風先輩も少し熱くなったのか、勢いよく投げ返してきた。

 だがビーチボールごとき、強く投げた程度で顔面でもなければ大して痛くない。

 身構えていた僕は、余裕で己の肉体を使い正面から受け止める。

「なっ!?」

 動じない僕に風先輩が驚く。

 僕はターミネーターの如く無傷で立つ。

 ボールを再度持ち構える。

 投げる。

 

 ブオンッ。

 勢いをつけて右腕の力をフルに使って投げた。

 だが、ハイテンション()つ変に力が入ってしまい、大暴投となった。

「あっはは! どこに投げてんのよ朝陽!」

 風先輩が指差して笑うが、

 

 バンッ!

 

「はぶっ!?」

「「あ」」

 その大暴投は、見事近くにいた夏凜に直撃した。

「アンタたちねえ、いい加減にしなさいよ!」

 近くにいた、お前が悪い。  

 なんてことを言ってる場合じゃない。

「優れた戦士はボール競技でも強いってとこを見せてやるわ!」

 

 夏凜が参戦した!

 

 

 ――そこからは、完全に泥仕合だった。

 ぶつけられたその瞬間の感情に任せて、投げては投げ返しての繰り返し。

 三人とも砂だらけになり、血みどろの戦場と化した。

 なんて大げさなものではなく、ただ三人でテンションに任せて騒いだだけのような気がする。

 最終的に三人とも疲れ果て、共倒れで終わった。

 遠泳で疲れた矢先にこれだ。

 僕はもうへとへとになり、海水で砂を洗い落としてから敷いておいたビニールシートにばたりと倒れた。

 ああ、ビーチパラソル最高。

 さっきまで燦々と輝く太陽の下にいたから、日陰が心地良い。

「うう~」

 

「はい、これどうぞ」

 向けられた声に顔を上げると、樹さんが両手に持った缶ジュースの一つをこちらに差し出していた。

「ありがとう」

 体を起こしてから、礼を言って受け取る。

 トロピカルジュースだった。

 ひんやりとしていて気持ちいい。 

 樹さんが僕の隣に座る。

 周りを見ると、他の皆ものんびりと缶ジュースを飲んでいた。

 プシュッとプルタブを開け、喉に流し込む。

 通り抜ける清涼な液体が心をほぐす。

 樹さんも一口飲んだ後、微笑んで言った。

「いっぱい騒いでましたね、すごく楽しそうでしたよ、夢河さん」

「そ、そうですかね……?」

 なんだか恥ずかしい。

 

 …………。  

 そのまま静かに、ジュースを時たま飲む音と波の音、海水浴客の喧騒だけが支配して、沈黙の時間が続く。

 あ、カモメが飛んでる。

 

「あの、夢河さん」

「ん?」

 ジュースを口に当てながら、目を向ける。

 樹さんが再び、話しかけてきた。

「ありがとうございますね」 

 ……?

「なにがですか?」

 いきなりお礼を言われてしまったが、心当たりがない。

「えっと、夢河さんが来なかったら、あの時バーテックスを倒せなかったと思って、今、こうやって楽しく過ごせてるのは、夢河さんのおかげもあったからだと思うんです、だから、ありがとうございます」

 ああ、そういうことか……。

「でも、僕の力だけじゃ倒せなかったと思うし、やっぱり皆でやったから成せたことだとしか考えられないから、お礼をいわれるようなことじゃないですよ」 

 むしろお礼を言いたいのはこっちだろう。

「それでも、私は感謝してます、それと、敬語はいらないですよ。私は年下ですので」

 そういえば、樹さんは年下だったな。

 対応が丁寧なので、敬語で接しなければならないような感覚を抱いていた。

「……そ、それじゃあ、樹ちゃん、で、いいかな……? 後、僕も名前で問題ないから……」

 何故だか緊張してしまった。

 ちゃん付けとかしたことないような気がする。

 だからだろうか。

「はいっ、いいですよ、朝陽さんっ」

 その笑顔はやわらかく、優しさに溢れていた。

 青く、眩しい空を見上げる。

 こうやって皆と過ごす日常は、とても大切で、これ以上無いくらい楽しいと思った。

 

 

 

 夕日が海を染める頃、旅館に帰ってきた。

 今、僕達の前には鯛やら蟹やらの豪華な食事が並べられている。

 夕食だ。

 僕は制服だが、皆浴衣に着替えて、この旅館特有の和風の部屋にいる。

 

「「「「「おお~!」」」」」

 友奈、夏凜、風先輩、樹ちゃん、銀が感嘆の声を上げる。

「すごいご馳走!」

「蟹です、蟹がいます!」   

「鯛だぞ朝陽鯛! めでたいってことか!」

 続いて友奈と樹ちゃん、そして銀がはしゃいだ声を出す。

「しかもカニカマじゃないよ、本物だよ! ご無沙汰してます、結城友奈ですー」 

 蟹の爪をカチカチと弄びながら、何故か蟹に挨拶をしている友奈。

「あのー、部屋間違ってませんか……? ちょっとアタシたちには豪華すぎるような……」

 風先輩が頬に汗を垂らしながら、料理を持ってきた旅館の女将(おかみ)の人に聞く。

 いくらバーテックスと戦ったとはいえ、中学生相手に出される豪華すぎる料理の数々に萎縮してしまったのだろう。

 僕だって――ああいいですいいです、お茶漬けとかでいいですから僕は、とか言いたい気分である。

「とんでもございません、どうぞ、ごゆっくり」

 だが女将の人は、柔和な笑みを湛えたままそれだけを言い、(ふすま)を閉じて出て行った。

 …………少しその態度が気になったが、客にたいする態度なら普通かな? と思い思考から外した。

「私たち、好待遇みたい」  

「ここは大赦がらみの旅館だし、お役目を果たしたご褒美ってことじゃない?」

 東郷さんが呟き、それに夏凜が返す。

 まあ確かに、命を賭けて戦って世界を守ったんだし、これぐらいの手厚い歓迎をされることもあるかな。

 むしろされて然るべきなんじゃ?

「つ、つまり食べちゃってもいいと……」

 わくわくした顔で風先輩が喉を鳴らす。

「では」

 東郷さんがそう言い、続いて、

「「「「「「いただきます」」」」」」」

 全員で合掌し、食べ始める。

 風先輩と銀が速攻で箸を食べ物と自分の口へ往復を始めさせ、それを夏凜が呆れた様子で見つめる。

「そうだ! せっかくだから撮っておこ~、家族に自慢するんだっ」

 友奈が思いついたように言い、スマホを取り出してカメラ部分を料理に向ける。

 あの両親か、写真を見せられた時のほっこりしたような顔が頭に容易に浮かぶ。

「アタシも、思い出して味わえるように」

「じゃあ私も」

 風先輩と樹ちゃんもスマホを取り出す。

 次々と写真が撮られていく。

 

 料理の写真。

 風先輩と夏凜が蟹を丸ごと持ちながら写っている写真。

 友奈が鯛とキスをする0.5秒前といったような写真。おいそこ変われ鯛風情が。

 友奈が撮った他全員がピースしている写真。銀は満面の笑みでダブルピースをしていて、夏凜が照れたように目を逸らしながらダブルピースをしている。二人以外は片手でピースをしているので、対照的な二人が印象深い。というか照れてるのにダブルピースしちゃうとか可愛いなおい。

 友奈だけ入ってないのはあれだと思い、その後に僕のスマホで取った女の子だけの写真もある。 

 

「場所的に私がお母さんするから、おかわりしたい人は言ってね」

 東郷さんがそう言いながら、自分の隣にある釜に手を置いて示す。 

「東郷が母親か、厳しそう」

「確かに」

「うん」

 夏凜の言葉に銀と僕が速攻で続く。

「門限を破る子は柱に張り付けます」

「「「ひぃ!」」」

 

「まあまあおまえそこまでしなくても」

「あなたが甘やかすから」

「おいおい夫婦か」

 友奈が声を低くしてお父さんのように言い、東郷さんがそれに乗った後夏凜が突っ込む。

 ……。

 百合は嫌ですよ? 

 

「時々言ってるけどさ、いつかこういうの日常的に食べられる身分になりたいわね~、自分で稼ぐなり、いい男見つけるなりで」

 おいおい、いい男ならここに……いないか。 

「後者は女子力が足りませぬ」

 風先輩がそう言って樹ちゃんが即座に返す。

 結構ツッコミが辛辣である。

「そうかな? この浴衣姿から匂い立ってこない~?」

 一昔前のグラビアアイドルのように頭の後ろと腰に手を当ててくねくねする風先輩。 女子力……? これが……?

 

「ちょっと夏凜! 刺身は人数分なんだから同じの二つ取ったらだめよ!」 

「ぶつぶついってるのが悪いのよ」

 風先輩の戯言を全スルーして夏凜は刺身を食べていたようだ。

「っていうか、女子力いうなら東郷の所作を見習いなさいよ」

 そう言って夏凜は東郷さんへ顎を向けた。

 東郷さんはお吸い物の蓋を開けるのも、箸を持つのも、お吸い物を啜る動作一つ取っても大和撫子といった感じで完璧だった。

「おお~ただ普通に食べているだけなのに」

「うつくしいです!」

「さすがお嬢様、やるわね」

「そ、そんなに見られたら、食べづらいです」

 頬を赤くする東郷さん。

「まあ、私もそこそこマナーにはうるさいけど、ね」

 最後のねの部分で迷い箸をしていた挙句刺し箸をした夏凜。

 マナー?

「それがすでにアウトです」

 さらに手皿までしている夏凜に樹ちゃんがツッコム。

「え!? うそ!?」

 怒涛のマナー違反連続コンボだった。

 逆に拍手を送りたい。

 

「ま、まあ、あまり細かいことは気にしなくても」

「そう! 食事は楽しむのが一番!」

「最低限のマナーだけ守ってりゃいいのよ~!」

「その通りだなあ!」

「おおー! そうだそうだ!」

 友奈の言葉に夏凜と風先輩と銀が全力で乗っかり、友奈がさらに煽る。

 なにげに銀もガツガツと食べていたから便乗したのだろう。

 

「こういう時は団結するんだ」

 樹ちゃんがまたも辛辣なツッコミを入れた。 

 

 

 テーブルにある料理が少なくなってきた頃。

 突然風先輩が、

「うああ、アタシの邪眼がさらなる生贄を求めているうぬぬぬにゅお゛」

 中二病のつもりなのかそんなことを言い出した。

 本当の厨二病を知らない言い様だなあ!?

 まあそんなことはどうでもいい。

「ごはん、おかわりだそうです」

「おお、通訳した」

「つーか普通に言え」

 やはり姉妹なのか樹ちゃんがすぐに翻訳し、友奈と夏凜が反応する。

「三杯目だから遠慮してんの」

「居候か!」

 夏凜の言葉は最近まで居候をしていた僕に――別に突き刺さらなかった。

 僕あんまり食べる方じゃないしね。

 いっても二杯くらいだ。

 居候している時は一杯がほとんどだったけど。

「はいはい」

 東郷さんがそう言いながら風先輩の茶碗を受け取る。

 

「おかずも少なくなってきたわねー……は――!」

 風先輩が呟き、何かに気づいたのか顔を上向ける。

 その視線の先には――神棚。

 僕は、顔を(しか)めた。

 やはり神関連のものはどうにも気にくわない。

「たしかお供え物って、時間が経てば自分で食べてしまってもいいのよね」

 風先輩が亡者のような顔をして神棚に供えられている饅頭(まんじゅう)に手を伸ばした。

「わわあっ、そうですけど止めましょうよ~!」

「あははっ、冗談よ冗談」

 友奈が止めるが、風先輩はあっけらかんと笑って手をヒラヒラと振りながらそう言った。

「冗談に聞こえないっての」

「先輩がお供え物に手を付ける前に、次行こう次っ、樹ちゃん次は何するんだっけ」

 友奈がそう聞いて、樹ちゃんはこう宣言した。

「このあとは、皆でお風呂です!」

 

 

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