愚かな僕は勇者になれない   作:ソウブ

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二十五話 友奈と夏凛

 私は、遠く正面にいる敵を見据える。

 前に戦った事があるような気がする見た目の、バーテックスだ。

 美術館に飾られている様な変な顔に大口が開いた本体に、右腕の様に伸びるエビみたいな尻尾にその先に光る鋭い針。左腕にカニの鋏が三本合って、白い板の様なものが後ろに六枚浮いている。

 ヘンテコな姿だ。

 

 そんなことより、東郷さんが心配だ。

 さっき、バーテックスに一斉に攻撃された後に大きな悲鳴を上げていた。

 何かあったのかもしれない。

 大怪我を負ったのかもしれない。

 それに、他のみんなとも分断されてしまった。

 みんな心配だ。

 助けに行きたい。

 今すぐにでも行きたいけれど。

 

「友奈、来るわよ!」

 バーテックスの口から放たれた、無数の光の矢が襲い来る。

「――っ」

 夏凜ちゃんの声に行きたい気持ちを一旦落ち着け、光の矢を横に飛んで避ける。

 みんなのところに行きたくても、あのヘンテコなバーテックスが私たちに攻撃を集中させてる今、この目の前の敵を倒さない限り皆と合流することはできない。 

 スマホで通信をしようとしても、その隙を突かれてしまうだけだろう。 

 

 だから夏凜ちゃんと一緒にあのバーテックスを倒して、皆を助けに行く。

 それが、今やるべきこと。

 

 二人で、走り出す。

 バーテックスは遠くにいる、何百メートルかくらい先だ。

 まずは近づかなければ、攻撃を当てる事もできない。

 私は近接格闘、夏凜ちゃんは二刀流の刀使いだ、遠距離攻撃は不可能。

 だから何はともあれ、接近する必要がある。

 

 すると、バーテックスは背後にある六枚の白い板を様々な場所に放ち、展開させた。

 それを見て、気づいた私は夏凜ちゃんに言う。

「夏凜ちゃん、あの板は反射板だよ! 矢を反射させてくると思うから気をつけて!」「わかったわ!」

 以前戦った、見た目が似ているバーテックスがそんな戦法を取ってきた事を、反射板を見て思い出した。

 あの時は、二体のバーテックスが協力してその戦法をした。

 今回は一体だけだ。

 やっぱり合体バーテックスなのかもしれない。

 スマホで確認する前に戦いに入ってしまったから、確信出来ないけど。

 でも、そうだとしたら二人で倒すのは厳しいぐらいの強敵だ、気を引き締めないと。

 

 予想したとおり、バーテックスは光の矢を連続で反射させて襲い掛からせてきた。

 避けながら、走る事は止めない。

 だけど、分かった事がある。

 あの光の矢、前よりもかなり速い。

 反射板から軌道を変えてくる事が分かっていたのに、掠ってしまったほどだ。

 精霊のバリアで防いだから、無傷だけど。

 それに威力も上がっている。

 外れた矢は、地面を小さなクレーターの様に穿った。

 樹海が傷付いている。

 早く倒さないと。

 

 矢は速いけど、なんとか少し体を掠った程度で済ませられたまま、徐々に近づけている。

 勇者システムの力は凄くて、何百メートルの間を埋めるのなんて直ぐだ。

 このまま、一気に肉迫する。

 と、そう考えた一瞬後に。

 

 ヘンテコな見た目をしたバーテックスの、右腕の鋭い針。

 その先端が、白く、光った。

 私と夏凜ちゃんは、閃光の眩しさに目を背けてしまう。

 失敗だった。

 思わず目を背けてしまったけれど、そうするべきじゃなかった。

 

 巨大な白い光弾が、迫る。

 バーテックスは、針の先端から白い光弾を生成して、放ってきたのだ。

 光の矢ほど速くは無かった。

 でも、閃光に目を背けてしまったのと、同時に光の矢も迫り来たことで、避けられなかった。

 光の矢を咄嗟に避けたところで、二人とも白い光弾をまともに喰らってしまった   いつものとおりに精霊のバリアが一瞬で展開される。

 激しい衝撃。

 これもいつもどおりに、痛みは無い。

 精霊のバリアが振動する。

 吹き飛ばされる。

 

 二人とも立ち上がった時には、吹き飛んだ事で敵との距離がそれなりに引き離されてしまった。   

 簡単に近づけない。

 徹底的な遠距離型だ。

 どうにかして接近しないとこのまま何も出来ずにやられてしまう。

 作戦は。

 考えてみる。

 何も思いつかない。

 それでも、こんなところで負けられない。

  

「友奈! この程度でへばったわけじゃないでしょうね!」

「もちろんだよ!」

 夏凜ちゃんもやる気マンマンだ。

「気合入れていくわよ!」

「うんっ!」

 

 また二人で、走り出す。

「はああああっ!」

 夏凜ちゃんは裂帛の勢いで白い光弾を切り裂く。

 私も、負けてられないっ。

「勇者パンチ!」 

 襲い来た巨大な光弾に拳を打ちつけて消滅させる。

 

 二人で協力して、怒涛の勢いで駆けて行く。

 自然と私たちの息は、ぴったりだった。

 私が光の矢を避けて白い光弾に対処できない時、夏凜ちゃんが割って入ってその光弾を切り裂いて守ってくれる。

 夏凜ちゃんが光の矢を避けて白い光弾を避けれない時、今度は私が割って入って光弾を拳で霧散させて守る。

 

 そうやって、どんどんバーテックスとの距離を縮めていく。

 無傷とは行かず、光の矢も、白い光弾も当たってしまったけど、精霊のバリアがあるからなんとか進めれた。

 もう直ぐ、辿り着く。

 バーテックス本体へ攻撃の届く範囲まで。

 早く倒して、皆と合流するんだ。

 そうして、バーテックスとの距離はもう、後二十メートルぐらいへと――

  

 その時。   

 あと一っ跳びでバーテックスに肉迫できるというその瞬間。

 赤光(しゃっこう)が、反射板から瞬いた。

 赤いレーザーが反射板から放たれたんだ。

 

 え!? あれって反射するだけじゃなかったの!?

 私と夏凜ちゃんはそんな風に驚いた。

 完全に不意打ちだ。

 今から避けたくても、避けられない。

 私は来る衝撃に身構えた。

 でも。

 衝撃は、やってこなかった。

   

 視界に差す影。

 翻る赤い衣装。

 夏凜ちゃんが、私の前に出ていた。

 

「ぐううっ……!」

 夏凜ちゃんは赤いレーザーに正面から当たって吹き飛ばされる。

 私を庇ってくれたんだ。

「夏凜ちゃん!」

 叩き飛ばされ、倒れた夏凜ちゃんの方を向いて叫ぶ。

 見ると、強力な精霊のバリアに皹が入っていた。

 うそっ、と驚愕してしまう。

 精霊のバリアは壊れない。それが私達の認識だったはず。

 その認識が、音を立てて崩れ去っていく。

 精霊のバリアは、絶対ではないんだ。

 

 すると、降ってきた感情。

 恐怖が、湧き上がった。

 だって、今までは、絶対安全な精霊のバリアがあったから、精神的に楽な部分があったんだと思う。

 ――ううん、楽な部部分があったどころじゃない。そのおかげで、死の恐怖をあまり感じずに来れたのだ。

 でも、精霊のバリアが絶対ではなくなってしまった。

 死んでしまうかもしれない。

 それは、怖い。

 

 ――――――――――でも。

 今は、そんなこと言ってられない。

 時間が無いんだ。

 無理矢理に恐怖を押し込めて、いつもどおりに戦えばいいだけだ。

 今はそうするしかない。

 だって、大切な人達が死んでしまう方が、よっぽど嫌だから。 

 

 夏凜ちゃんが心配でならない。

 今すぐに助けに行かないと。

 死の恐怖なんかより、夏凜ちゃんが傷付いてしまう方が嫌だ。

 夏凜ちゃんへ向けて、走り出そうとした。

 けれど。

 

「友奈! 今が攻撃を当てるチャンスよ! 私に構わず早く行きなさい!」

 夏凜ちゃんは、鬼気迫る表情でそう叫んだ。

 確かに、今が最大のチャンスだ。今すぐに行動しなければ次は無いかもしれない。

 だけど。

 だけど。

 私は勝つために仲間を置き去りになんて出来ない。

 そんなことして勝っても、意味がない。

 誰かが傷付いたら、駄目なんだ。

 誰かが辛い思いをするぐらいなら、私が頑張るって決めたんだ。

 

「友奈!! 早く!!」

 夏凜ちゃんがさっきよりも強く叫ぶけど、私は聞かない。

 チャンスはもうやって来ないかもしれないけれど、来る可能性も無いわけじゃないんだ。

 勇者部五箇条の一つ、なるべく諦めない。

 そして、さらに一つ、なせば大抵なんとかなる。

 チャンスなんて、自分でもう一回作ればいいんだ。

 

 結論を自分の中で出して、夏凜ちゃんの元に走り出す。

「バカ!」

 夏凜ちゃんが怒ってるけど、許して欲しい。

 私は、こうするって決めたんだ。

 後でにぼしをプレゼントしようかな。

 

 それに、考えてた時間で既に攻撃できる時間は無くなっちゃってたけどね。 

 直ぐに決められなかった時点で、夏凜ちゃんを助けに走る以外に選択肢は無かったんだ。

 赤いレーザーが、倒れた夏凜ちゃんに続けて放たれる。

「夏凜ちゃんを、傷つけるなあああああ!!」

 振りかぶった拳を、赤いレーザーへと思い切り叩き付けた。

 赤光(しゃっこう)雲散霧消(うさんむしょう)させて、夏凜ちゃんを腕に抱えて下がる。

 離れて直ぐ、元居た場所に次のレーザーが来て地面を抉った。

  

「バカ友奈! どうすんのよ!」

 怒ってるからなのか、顔を赤くして声を上げる夏凜ちゃん。

「夏凜ちゃん」

「なによ」

「夏凜ちゃんは一回のチャンスを逃したぐらいで、私達が負けちゃうと思うの?」

 

 はっとした顔をした後、不敵な笑みを直ぐに浮かべて。

「そんなわけないじゃない。私が、私達が、一回どころか何回のチャンスを逃したところで、負けるはずがない!」

「そのとおりだよ夏凜ちゃん!」 

 私も、その笑みに笑って返した。

 

 瞬間――

 

 私達の動きが、鈍った。

 疲労とか、痛みとかじゃない。

 もっと別の、外的要因。

 体を包む、変な感覚。

 まるで雲の中にいるような、不思議な浮遊感。

 

 人一人分の大きさはある複数の泡が、私達を包んでいた。

 いつの間に!?

 

 敵の罠に掛かってしまった。

 気づかない内に、普通ではない泡が私達の動きを止めていた。

 

 ――そして、橙色(だいだいいろ)の光が強く輝いた。

 まるで辺り一帯が夕焼けに染まった様に見えた。

 破滅を感じさせる、夕焼けの様な光。

 

 バーテックスが、その大口から橙色の巨大光線を撃ち放ってきたんだ。

 このまともに動けない状態じゃ、到底避ける事は出来ない巨大さ。 

 

 だから私は、巨大光線に背を向けて、抱えていた夏凜ちゃんを強く抱きしめた。

 そうして目に写る夕焼け色が、最大限まで明るくなった瞬間。

 目が回っちゃうような衝撃が、私の体を駆け抜けた。

 

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