今度は僕が先制を取ろうと、超速で跳び走る。
神速のバーテックスも、動き出す。
聖剣と
衝突地点から剛風が吹き荒れ、樹海の大樹たちを揺らす。
お互いの一撃が、拮抗する。
聖剣と剛牙が弾き合い、また超速と神速の
白閃と牙閃が、紡ぎ合う。
白刃を十
終わりが無いように思えてくる。
無限に続く剣戟。
まるで戦争奴隷だ。
このままでは、ただジリ貧になるだけだ。
何か別の手はないか。
究極の剣戟を繰り広げながら、割けるほんの少しの思考で、考える。
今までの情報を、掻き集める。
何かないか。
何か状況を変えるもの。
白刃を手繰りながら、微弱に思考し続ける。
と。
向こうもこの状況を変えたかったのか、口の発射口を向けてきた。
また緑光弾か怪光線を発射するつもりなのだろう。
だがそれは、悪手だ。
発射口を向ける間は、先程までの神速を奴は出せていない。
――その隙を見逃す狙撃手はいない。
風を切り裂いて飛んできた弾丸が、奴のこめかみといえる部分にぶち当たった。
剣戟は中断され、吹き飛ばされていくバーテックス。
それによってできた時間の隙間。
その間に、僕は作戦を考え付いていた。
今すぐに追撃を仕掛けたところで、避けられるか防御されて決定打にはならないだろう。
だから別の、やり方をする。
「東郷さん、少し奴を引き付けてくれないかな」
この僅かな隙にスマホを取り出し、東郷さんに通信する。
――だが。
返事は、なかった。
何故か。
手触りの違和感に、今気づいた。
手に持つスマホを見る。
スマホは、壊れていた。
画面は割れ、外装は歪んでいる。
当然だ。あれだけ叩き飛ばされて、全身傷だらけだったんだ。機械なんて簡単に壊れてしまう。
むしろバラバラになっていないのが不思議なくらいだ。
戦いが始まる前連絡を取ろうとした時、あの時に壊れていなかったのも、奇跡といえる。
最初に叩き飛ばされてボロ雑巾みたいになった時は、運良くスマホに牙も地面も強くは当たらなかったのだろう。
皆のスマホが壊れないのは、ひとえに精霊のバリアのおかげなのだ。
とはいえ、このままでは東郷さんと意思疎通ができない。
仕方なく、奴が起き上がってくる前に東郷さんがいる位置まで超速で移動する。
だが、そこまで待ってくれる訳が無かった。
東郷さんに近づく僕の後ろから、神速で迫るバーテックス。
くそっ。
このままではまずいと、東郷さんにある程度近づけたところで振り向き、奴の攻撃に備える。
そして、大声で叫んだ。
「東郷さん!! 僕に考えがある!! 奴を引き付けてくれ!!」
この距離なら、大声で叫べば聞こえるはずだ。
バーテックスに人語が理解できるかはわからないけど、理解できない事に賭ける。
「わかったわ!!」
その困難な頼みに、東郷さんは即座に良い返事を返してくれた。
と同時に、神速のバーテックスがその剛牙を振り下ろしてきた。
白銀の刃で迎え撃つ。
強力な力がぶつかり合い、辺りに衝撃が駆け抜ける。
力の拮抗。
僕はそれを逸らし、弾く。
そして、全力で地を蹴り、奴から離れる。
バーテックスは僕を追撃しようとするが、そこに東郷さんの弾丸が放たれる。
奴は弾丸を神速で避ける。けれど、注意は東郷さんへ行った。
どうやら人語は理解できないみたいだ。
理解していたら、あんな言葉を聞いて僕への注意を少しでも逸らすはずがない。
東郷さんは、上下逆さに見える形状の中距離銃を二挺取り出した。
そして、ショットガンのように拡散する空色の光弾を、無数にばら撒いていく。
中距離銃をガンスピンのように手馴れた風に回転させ、リロードを瞬時にする。
その後即座に、拡散する弾を無数に放つ。
流麗さを感じるほどの華麗な銃捌きだ。
これ程の苛烈な猛攻でなら、上手く時間を稼いでくれるだろう。
僕はその間に、やるべき事をやる。
目を閉じ、息を吸い、吐く。
意識を、集中する。
纏う白銀の粒子に意識を傾け、イメージを強く形成して叩き付け続ける。
白い粒子を集め、個々に細かな球体状に密集させ、無数に圧縮させる。
イメージを強くし続け、やがてそれらが形と成った。
――
それらを無数に、自らの周りに形成した。
僕が考え至った作戦は、要するにこの白銀の力の応用だ。
今までこの力は、様々な形となって、状況に合わせた能力になった。
だったらその、都合の良い能力を、僕自身が意図的に発生させられないかと思ったのだ。
そして見事それは、成す事が出来た。
やってみれば、簡単だった。
無数の光弾にしたのは、バーテックスの緑光弾を見て、そこから思考に至ったことからだ。
神速の疾さを誇る奴には、攻撃が当たりにく過ぎる。
剣戟をしても、ジリ貧になり、体力を削られていくだけだ。
だったら、奴と同じように無数の光弾を
いくら速かろうと、避ける事ができる範囲全てに攻撃を仕掛けられれば、避けようがない。
まあ、この策は先に東郷さんが奴を足止めするためにしてしまった形になったけど、東郷さんの弾丸だけでは火力不足だ。
僕の光弾と合わせれば、奴に致命傷を与えれるはず。
今まで僕の攻撃はバーテックスを再生させずに打ち倒してきた。その白銀の力で創り出した大破壊力の光弾。
それを今、一気にぶつける。
「さあ、いけ」
聖剣の剣先を神速のバーテックスへと向け、イメージを強くするために言葉を放つ。
と、同時に、無数の白銀の光弾が一斉に発射された。
超速で風を引き裂きながら、狙い
それと時同じく、東郷さんが、空色の弾丸を牙で弾き掻い潜って接近したバーテックスの一撃を受けて吹き飛ばされていた。
精霊のバリアが、その剛牙の一撃で全壊してしまっていた。
――だが、その攻撃後の僅かな硬直は、今この瞬間、致命的な隙となる。
東郷さんが時間を稼いでくれたおかげで、成せた戦略と隙だった。
奴の横腹へ殺到する白銀の光弾。
避けようと体を捻っていたが、無駄だ。
広範囲に放たれた無数の光弾は、バーテックスの抵抗空しく幾つも命中していった。
着弾すると同時に弾が爆裂して行き、爆煙が吹き荒れる。
よし。
手応えを感じながら、東郷さんの元に向かう。
バリアが全損していたから、怪我がないか心配になったのだ。
「東郷さん、大丈夫?」
直ぐ近くまで走り寄ると、倒れている東郷さんを助け起こしながら僕はそう言った。
「――ええ、大丈夫、怪我はないわ」
そう答えて微笑む彼女の顔には一筋だけ切り傷があったが、他は見た限り本当に怪我はなさそうだ。
僕はハンカチを取り出して、東郷さんの傷の血をなるべく痛くないように丁寧に拭った。
絆創膏とかは持ち合わせていないので、これぐらいしか出来ない。
「あっ――ありがとう夢河くん……」
頬を染める東郷さん。
そんなに照れられるとこっちまで顔が熱くなってきてしまう。
「あ、私が洗って返すから……」
「いや、いいよこれぐらい……」
血がハンカチに付いたのを気にしたようだけど、僕は断った。
これぐらい自分の家の洗濯機で洗える。
東郷さんが気にする必要はない。
そこまで考えて、あの不気味な仮面が脳裏をチラついた。
もうあのマンションには戻れないという事実を思い出した。
……今は考えないようにする。
それはともかく。
僕は余計なことをしてしまっただろうか。
ただ心配だったからした行動だから特に考えていなかったが、少しキザっぽかっただろうか。
なんだか気恥ずかしい空気が流れている。
そんな空気を振り払うように、もう倒せたはずの敵を方へ顔を向けた。
白銀の光弾が爆裂した事によって出来た煙が、徐々に消えていく。
やがて、そのほとんどが吹き消えた。
そして、その先に神速のバーテックスの屍が――――
――無かった。
奴は、あれだけの攻撃を受けてまだ立っていた。
「嘘……だろ……」
なんで、砂になってないんだよ。
どれだけ、タフなんだよ。
もちろん、無傷というわけではない。
バーテックスの体の部位は、肩も胴体も頭も、所々欠損している。
さすがに僕の剣を受けれる牙の腕と足に傷は無かったが、結構なダメージとなっているように見える。
だが、まだまだ動くには支障がなさそうだ。
白銀の光弾では、火力が足りなかったのだ。
「……っ!」
さらに、驚くべき事に気づいた。
バーテックスの身体が、再生していっている。
今まで僕の攻撃では一切再生する事がなかったバーテックスの身体が、じわじわと装甲を再構成しているのだ。
他の皆の攻撃を喰らった時よりは遅めではあるが、しかし確実に再生している。
僕の攻撃も、通用しなくなってきてるのか……。
この状況から、どうやれば奴を打ち倒す事が出来るのか、思い浮かばない。
もう僕の少ない知恵では、あれ以上の策は引き出せない。
奴は、倒せるのか……?
でも、ダメージが通らないわけではない。
諦めるのは早すぎる。
それはわかっている。
けれど、決定打がない。
ここから先の戦法をどうすればいいのか。
ただ正面から剣で切りに行くのは、無策過ぎる。
また長い長い剣戟が続いて、ジリ貧になるだけだ。
確かに極限の剣戟の最中なら、その隙に東郷さんの弾丸を命中させる事が出来た。
けれど、奴はその傷を直ぐに再生させてしまう。
それでは意味がない。
延々と僕の体力が尽きるまで繰り返しになるだけだ。
そして体力が尽きれば、僕の身があの剛牙に蹂躙される。
どうすればいい。
考えている時間は無い。
バーテックスは直ぐにでも神速で迫ってくるだろう。
体感時間が遅くなった思考の中で、考える、考える。
…………考え至る。
――そうだ、勇者部五箇条……。
その一つ、悩んだら相談。
今僕の隣には、東郷さんがいる。
そして銀も、僕の中にいる。
そうだ、どうすればいいかわからないなら、ここにいる二人に聞けばいいんだ。
「東郷さ――――」
「夢河くん」
話しかけようとしたら、僕の発した声よりも力強い声に遮られてしまった。
「なに……?」
先に東郷さんの言葉を聞こうと言葉を返した。
「満開ゲージが溜まったわ。今度は夢河くんがバーテックスを引き付けてもらえるかしら」
その言葉を聞いて、僕が相談するまでもなく方針が決まった。