橙色の巨大光線をまともに受けてしまった私たちは、否応無くかなりの距離を吹き飛ばされた。
地面にぶつかって、転がって、止まった時。
視界に納めたバーッテクスは、攻撃の届かない遥か遠くだった。
振り出しに戻ってしまった。
……ううん、振り出しよりも悪いかもしれないなあ。
夏凜ちゃんの精霊のバリアは罅割れている。
そして、私の精霊のバリアも、さっき受けた巨大光線によって放射状に罅割れて、一部が完全に割れてなくなっている。
最初よりも防御が薄くなった状態で、また最初からスタートしないといけない。
そんな状態で勝てるかどうかもわからない。
だけど――――
「諦めるわけには、いかない!」
「そう、ね!」
夏凜ちゃんと一緒に、立ち上がる。
何度だって、立ち上がる。
勇者部は、負けない。
勝って、みんなの所に行かないと。
「いくよ、夏凜ちゃんっ!」
「わかってるわ、友奈っ!」
二人同時に、走り出す。
勇者システムによって強化された脚力は、悠々とバーテックスとの距離を詰める。
作戦は無い。
打てる良い手なんて、手元に無い。
だから、愚直な気合の、正面突破。
それをするしかない。
だけど、絶対に勝つという気概は揺るがない。
策は無くとも、勝利をその手に掴むために、前に進む。
ただ、それだけ。
他のみんなに助けを乞うこともできない、みんなもバーテックスの相手で大変だろうし、正面にいるバーテックスが遠くに分断されたみんなの所に行くまでみすみす見逃してくれるはずもない。
だから、勝つために前に進むしかない。
走る、走る、走る。
だが、それを見て黙っている敵はいるはずがない。
先に隠していた手の内を見せたバーテックスは、それらを惜しみなく使ってきた。
無数の光の矢。
反射板の
大口からの橙色の巨大光線。
それらが、私たちを近づかせまいと乱舞する。
敵の攻撃は、先よりも苛烈さが一段と増している。
その破壊光の弾幕の中、ただひたすらに避け、弾き。ひた走る。
「「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」
二人で叫んで、意思を、弱音を吐きそうになる心を、奮い立たせながら。
意志力だけで何でもかんでもどうにかなるなんて思ってはいない。
それぐらいは私でもわかってる。
勇者部五箇条に、なせば大抵なんとかなる、があるけれど。
なせば大抵なんとかなるとはいっても、『大抵』と入っていることから解るように、全部が全部なんとかなるというわけじゃない。
それでも、今はこうすることしかできないし、成せなければ負けて終わってしまうだけなんだ。
だから、ただただひたすらに、敵を倒そうと前に進む。
無理でもなんでも、負けるわけにはいかないから。
負けたら、世界が、全ての人の命が、全部が、終わってしまうんだ。
そんなことは、許せないから。
割れたバリアの合間を縫って光の矢が肩を掠っていく。
赤光を受けて、バリアに新しい皹が入っていく。
夏凜ちゃんのバリアにも、皹だけじゃなく割れた部分ができた。
どんどん、バリアも体力も消耗していっている。
それでも、まだ負けていない。
負けていないなら、動けるのなら、勝つことは諦めない。
手も足も、動く。まだ全然、戦える。
先よりも敵の攻撃は、弾幕といえるほど苛烈で、容赦ない徹底的な制圧射撃だ。
だけど、私たちはさっきよりも戦えている。
息は荒くて、体のあちこちが痛くて、バリアも破損しているのに。
頭は冴え渡り、動きも的確で、夏凜ちゃんとのコンビネーションも鮮麗されていっている。
人間は極限状態に陥ると、こうも直ぐに変わるものなのか。
火事場の馬鹿力っていう奴なのかな。
とにかく私たちは、まだギリギリなところで、戦えている。
飛んできた光弾や光線を、自分で対処できるものとできないものを瞬時に見分けて、弾き、避け、お互いが助けに入る。
その間も体力やバリアは消耗し続けるけど、集中力も気合も、全く衰えていない。
極限状態の中での火事場の馬鹿力、その中で生まれた突発的な、だが長年一緒に訓練を積んできたような鮮麗されたコンビネーション。
それらが生んだ怒涛の顧みの無い行軍に、少しずつ敵に迫る事ができている。
このまま押し切れれば、いける。
その希望が見えた。
だから、その希望を信じて、行動し続ける。
血が出ても、痛くても、構わない。
そんなことより、希望に向かって手を伸ばして、前に進む。
その方が重要だ。
――――だが、その希望を嘲笑うように、合成バーテックスは新たな動きを見せた。
バーテックスは、体を少し上に傾けた。
二つある口の、上の大口に突き刺さっている巨大な
その物体は、巨大な柱の様な
貧弱な人間など、掠っただけで原形を留めなくなるであろう
淡黄色の神槍が、溜める間を置いてから、
――天高く、空に、射出された。
私たちは、避ける事ができない。
なぜか。
一目瞭然だ。
バーテックスは、一連の動作をする間、無数の光の矢も、反射板の赤光も、尖針の白い光弾も、間断なく放ち続けていたのだから。
この攻撃の苛烈さの中、大きく移動する事なんて不可能だ。
天から迫る極大の神槍。
避けれない、けれど迫る。
迫る。
迫る。
迫る。
襲い来る。
避けれない。
隕石のごとく飛来してくる神槍は、まるで終わりを告げる神様のお達しの様だった。
――私たちは、一歩もそこから動けないまま、神槍は着弾、巨大な爆発が辺り一面を吹き飛ばした。
・
・
・
――大爆発。
バーテックスは、自らの体から、白い閃光を伴う超巨大爆発を引き起こした。
強引に大気が振動し、地を揺るがす巨大爆発。
樹海の大樹さえ何本か一瞬にして消滅した。
リボンを叩き斬って直ぐのお姉ちゃんは、バーテックスの至近距離にいた。
そんなお姉ちゃんは、爆発を全面から最大威力で受けてしまった。
ガラスが盛大に割れるような音が耳に入った。
離れた距離にいた私まで、その爆発で吹き飛ばされる。
私の精霊のバリアに、皹が入った。
皹すら入るわけのない、強力無比のバリアに。
怖い、と思った。
けど、今は。
地面を転がって、止まる。
お姉ちゃんは!?
至近距離であの爆発、心配でたまらない。
視線を必死に走らせ、お姉ちゃんを探す。
見つけた、倒れている。
お姉ちゃんの精霊のバリアは、全損していた。
精霊の
無理もない、離れた位置にいた私のバリアだって罅割れたんだ。
至近距離であんな爆撃されたら、大ダメージを負って当然だ。
「お姉ちゃん!」
姉の下に、走り寄る。
「大丈夫!?」
言いながら、助け起こそうとする。
「……大丈夫よ樹、心配ないわ……」
でもお姉ちゃんは、私が助け起こす前に自分で起き上がった。
「いつつつ……」
見ると、体のあちこちに打撲や擦り傷がある。
バリアがなくなった後、吹き飛ばされて地面に体をぶつけて転がった時に負った怪我なんだと推測した。
「お姉ちゃんのバリアはもうないから、私が積極的に前に出るよ。無理しないで」
私もバリアが絶対ではないというこの状況が、怖くないわけじゃない。
ものすごく怖い。
死んじゃうのは、嫌だ。
でも、お姉ちゃんが死んでしまうのは、もっと嫌だ。
バリアが全部なくなったお姉ちゃんの方が、死んでしまう確率が高いんだ。
だから、私が前に出るしかない。
「…………わかったわ、樹も無理しないように」
「うん」
お姉ちゃんは少し考えた後、頷きながら返事をした。
今の状態で前に出ても、危険なだけで意味がないことをわかってくれたみたいだ。
納得いかないけどしょうがないといった思いが顔に出てたけど、お姉ちゃんは私に頼ってくれてもいいんだよ。
何の気兼ねもなく、頼っていいんだよ。
私たちは、姉妹なんだから。
それを伝えようとしたら、また耳障りな怪音波が耳を貫いて脳に届いて来た。
バーテックスは、自分の爆発では一切傷を負わないみたいだ。
とはいっても、自分の攻撃で傷をもし負っていたら間抜けと言わざるを得ないと思うけど。
私たちは即座に戦闘態勢に戻った。
ワイヤーをまた張り巡らせて、敵の位置を探る。
もうバーテックスの位置が分からなくて翻弄される事はない。
とはいえ、ちょっとばかりまずい状況かもしれない。
お姉ちゃんのバリアは、バーテックスの大爆発によって、全て割れてなくなってしまった。
そして、私たちはあの怪音波バーテックスに至近距離爆発という能力があることを知った。
迂闊に、動けない。
リボンはもう無いけど、至近距離爆発が怖くて近づけないし、離れていても状況は泥沼化する。
どういう戦法を取れば、安全に倒せるんだろう。
それがわからない。
もうワイヤーで敵の場所は特定できている。接近してきたとしても即座に離れれば爆発を受ける事もない。
けど、敵に攻撃を当てるには?
ワイヤーで中距離攻撃しかないのかな。
それともお姉ちゃんの大剣を投げる?
でも、それだとその後のお姉ちゃんの武器がなくなってしまう。
その一撃で仕留められるならいいけど、望みは薄いと思う。
怪音波による頭のキリキリとした痛みに耳を押さえてなんとか耐える。
そうして思考の海を漂っていると、
――バーテックスの潜行速度が、急上昇した。
その上、一直線にこちらに迫ってくる。
近づかれたら、危険だ。
また爆発を受けたら、今度こそ窮地に陥るかもしれない。
「お姉ちゃん、凄い速さでバーテックスが泳いできてる! 離れた方がいいよ!」
即座に二人で、怪音波を撒き散らしながら迫るバーテックスから、離れる。
「――っ!」
勇者システムの力をフルに使って、離れても離れても、バーテックスは誘導魚雷のように追尾して泳ぎ迫る。
虚を突くように、バーテックスが地中から飛び跳ねて、突進してきた。
まるで獲物に喰らい付くホホジロザメのようだ。
ギリギリで横に飛んで、脇に避ける。
しかし、バーテックスはその瞬間、眩い光を体中から放った。
先よりは小規模だけど、それでも十分に強力な爆発。
破壊することに特化した暴力的な衝撃を、その身に受けた。
精霊のバリアがさらに罅割れる音を聞きながら、吹き飛ばされる。
目の端に見ると、一部が完全に割れていた。
私が前にいたから、お姉ちゃんはたいした怪我はしていない。
お姉ちゃんにバリアがないからと、前もって前に出ておいてよかった。
だけど、二人ともまだ地に足が付かない状態で、衝撃により空中を飛んでいる。
その体制の悪い状況を突いて、バーテックスは爆弾を
私は爆弾を、
切り刻まれて爆発した爆弾の煙に、視界を塞がれる。
その煙を突っ切って、バーテックスが氷山を砕かんばかりの突進をしてきた。
避けられない。
突進なら、吹き飛ばされるだろうけど、まだ精霊のバリアで耐えられるはず。
そう思って――思わなくてもそうしたと思うけど――お姉ちゃんに突進の衝撃が及ばないように、その身に攻撃を受けようとする。
刹那。
バーテックスから、何かを溜めるような光が瞬いた。
きっと、大爆発だ。と直感した。
さっきの小規模爆発とは違う、最初の超巨大爆発に近い規模。
この溜め時間は、それを予感させるのに十分だった。
突進ならまだしも、そんな爆発を耐えられるかわからない。
精霊のバリアが全壊するだけじゃ済まないかもしれない。
だけど、お姉ちゃんはバリアがもう全くないんだ。
バリアの残っている私がお姉ちゃんを守らないと。
避けれないのなら、私が受けるしかない。
覚悟を決めて、盾になるべく身構える。
――すると。
肩に触れる感触があった。
振り向くと、お姉ちゃんが私の肩に触れている。
そして。
前に、進み出た。
危ない、と私が叫ぶ前に、
網膜を焼き尽くすような閃光が、視覚を虚無へと誘った。