剣閃が
よく砕けないものだと思うほど、白刃と剛牙が衝突し合う。
常人ではなにをしているかさっぱり理解できないほどの、超越した速さで剣戟を繰り広げる。
流れ星の大軍が入り乱れて戦争をしているかのような剣閃が、交じり合う。
そうして、何度も何度も神速のバーテックスとの攻防を繰り返す。
東郷さんに頼まれた時間稼ぎをしているが、少しばかり、いやかなり厳しい。
向こうは、無尽蔵の体力があるのではないかと思うほど、疲れを知らずに牙を叩きつけてくる。
対してこちらは、汗を滝のように掻き、息もぜえぜえと荒く、限界に近い。
水分をたっぷりと補給した後、ぶっ倒れて惰眠を貪りたいぐらいだ。
それでも、勝利をその手に掴むために、みんなを守るために、そんなことをしている場合じゃない。
東郷さんが確実に一撃を入れられる分の隙を作り出さなければならない。
それが今の僕の役目だ。
「うおああああああああ!!」
気迫を上げるために、力の限り叫ぶ。
気を強く持って、動きの鈍りそうな体に鞭を打ち、隙を作り出すための攻撃を乱打し続ける。
勢いを加速させる。もっと、速く、速く、速く。
魂よ枯れろと、一滴残らず力を絞って敵に注ぐ。
その最中で、一つの技を使う。
さっきまでの戦闘では、とても実用的とは言えなかったであろう技を。
一瞬だけ、己の速さと力のバランスを崩す。
速さが減退する代わりに、力が上昇した。
今この瞬間に全てを注いで隙を作ろうとしているからこそ、意味のある技。
最初に使っていても、攻撃後に速さで負けてカウンターを喰らうだけで終わったであろう技。
それを今、この一瞬だけ、速さの衰えをを限界まで縮小して、代わりに体力を底の底まで絞り出して、使う。
そうして――――先よりも強力で、極力と成った、白刃を振るう。
山を切り刻まんばかりの白閃を、バーテックスに叩きつけた。
バーテックスは剛牙を弾かれ、大きな隙ができる。
――今だ。
引き付けていた時間は、とても長く思えたが、実際には数秒程度だろう。
だがこの数秒の時間稼ぎと、敵に大きな隙を作ったことで、東郷さんのの最大の攻撃が、決まる。
無数に、吸い込まれるように、バーテックスに空色の砲撃が打ち込まれていく。
満開システム。
そんなものがあると聞いたのは、いつだっただろうか。
僕は限界を出し、底を付いた体力では体を支えきれず、地面に前のめりに倒れこみながら考える。
前回の戦いが終わった後だったのは確実。
とにかく僕は、その話を風先輩からすでに聞かされていた。
もう戦いはないと思っていたから、一応伝えておくということだったけれど。
今、それが役に立っている。東郷さんが満開をしたからだ。
簡単に言えば、満開をすると、強力な力を出せるらしい。
だが、満開をするためにはゲージを最大まで溜めなければならない。
そのゲージはそれぞれ花弁の刻印として、増えていくようだ。
ゲージを溜めるには、敵に攻撃を命中させたり、逆に攻撃を精霊のバリアで受けたりする必要があるらしい。
つまり、勇者システムの力を使えば使うほど、ゲージが溜まっていく。
それを聞いたとき僕は、まるでゲームの様だ、と思った。
ゲームならよかったのに。
でも、これはゲームじゃない。
これはリアルな、人類とバーテックスの戦争だ。
現実の、自分たちの命の掛かった、戦いだ。
だからやれる手は何でも使い、全力で敵を殲滅する。
うつ伏せに倒れ、荒く呼吸を繰り返しながら、顔を上げる。
東郷さんは、白を基調とした空色のラインが入っている巫女装束のような姿に変わっていた。
本物の神聖な巫女のようだ、と思った。
その東郷さんが、白と空と金の色を宿した巨大な戦艦のようなものに乗っている。
重厚で神聖さを感じる戦艦だ。
八門ある砲身から、間断なく空色の砲撃が、バーテックスを塵と化さんと放たれ続けている。
一撃も外さず、一発でも超威力であろう砲撃を、間断なく命中させ続ける。
その頼もしい姿は、全てを任せたくなってしまいそうな安堵感を湧き上がらせる。
数秒間、あるいは数十秒間、極神の鉄槌のような砲撃が放たれ、命中する音だけが響き渡っていた。
満開の力は強力すぎるほどに強力だ。
まるで核兵器のように。
ゲージを溜めた必殺技は、強いと相場が決まっている。
満開も例外ではないのだろう。
僕の得体の知れない力と、どちらが強いだろうか。
そんな意味の無い思考が浮かんだ。
やがて、東郷さんの砲撃が止んだ。
倒した、そう思った。
そう確信するに値する強力な力だった。
さっきはそう思って倒せなかったけど、必殺技を命中させて倒れない敵なんていないだろう。
先の僕の、ちゃっちい攻撃とは違う。
しかも何回も、数えるのも嫌になるくらい命中させている。
だから、倒せていなければ可笑しい。
非常識だ、理不尽だ。
だって覚醒した必殺技だ、必殺なのだから、相手は生命活動を停止してしかるべきなんだ。
その筈だ。
その筈、なのに。
――――なのに、なんで。
奴は、生きているんだ。
神速のバーテックスは、立っていた。
まるで自分こそが理不尽の体現だといわんばかりに、存在を
確かに満開の力は強力無比だった。
それは、奴の満身創痍といった風体を見ればわかる。
身体は所々欠損し、白銀の聖剣でも破壊できなかった剛牙も、三分の一ほど破損している。
だけど、倒せなかった。
体の修復も現在進行形で進んでいる。
跡形もなくなっていても不思議ではなかった一斉砲撃だったのに、体を維持し、立っている。
常軌を逸した生命力だ。
それでも、満身創痍なんだ。
今から直ぐに奴へと接近して白刃を振るえば、倒せたかもしれない。
だけど、僕らは動けなかった。
完全に気圧されていた。畏怖してしまったのだ。
東郷さんは砲撃を打ち尽くして、再装填までに時間が掛かるのだろう。
でも、僕は今動かなければいけなかったのに。
そういう場面だったのに。
動けなかった。
ただ殲滅するべき対象である敵に、畏怖してしまった。
どうしようもなく、弱くて愚かだった。
でも、ここまでやっても倒せなかった相手だ。ここで攻めても、また何らかの方法で
そんな不安が渦巻いて、行動できなかった。
慎重になりすぎたのかもしれない。
故に。
神速のバーテックスに、次の行動を許してしまう。
両手両足の剛牙を、ここが自分の領域だとばかりに、地面に突き立てた。
割れる樹海の根、大地。大樹が悲鳴を上げたように思えた。
パイルバンカーを打ち込んだかのように、地に完全に喰い刺さる牙。
なにを、しているんだ……?
僕達に攻撃が届いているわけでもない。
理解不能な行動に困惑して、迂闊に近づくことができない。
でも、警戒するに越した事はない。
そもそも、戦闘中はあらゆることに警戒しておくべきだ。
今すぐに肉迫すれば、白閃を奔らせて切り殺す事は可能だろうか?
わからない、もしかしたら僕をおびき寄せるための罠かもしれないんだ。
得体の知れない行動には、最大限の警戒をする。
それが正しいと思った。
普通ならそれが正しいだろう。
警戒し、襲い来る脅威に対策を練って対処する。
それが無難、安定の戦法。
だから、僕はミスをしたわけじゃなかった。
――ただ。
――その選択が、今回は間違いだったというだけの話だ。
刹那。
地が、揺れる。
三半規管が狂い、立っていられないほどの大振動が世界を揺るがす。
――
大地が割れ、大樹が倒れて行く。
だけど、僕は。
その地震よりも、重大な何かに意識を持っていかれていた。
頭が強烈に痛い。
気が狂いそうだ。
痛い、痛い、痛い。
地震の揺れで膝を突いたまま、頭を掻き毟るように抱える。
壮絶な痛みに、悲鳴すら上げれず、ただ口から喘ぐように息が漏れる。
その痛みの中で、脳の中核、魂の奥が、刺激される。
何度も針の先で突くように、刺激され、やがて覚醒へと導かれる。
記憶が、段々と浮き上がってくる。
そして――
――記憶が一部、鮮明に、完全に、思い出された。