結城友奈さんの家に着いた。
送ってくれた大赦の人に礼を言って、車から出る。
大赦の人は、そのまま車を走らせて帰っていった。
結城友奈さんとその家族には、もう話は通してあるらしい。
だから僕一人でも大丈夫だそうだ。
僕としては、付いて来て紹介してから帰って欲しかったけど。
まあ、しょうがない。
門を通り、玄関の前に立つ。
僅かに
ピンポーンとインターホンで毎度おなじみの音が鳴る。
少しして、中からバタバタと足音と「はいはーい」という声が聞こえる。
ガチャッとドアが開けられ、一人の女の子が姿を現す。
見た瞬間。最初は誰? と思ったが、すぐにわかった。
桜色のポニーテールをしていた、あの女の子だ。
聞こえた声と雰囲気でわかった。
ということは、この子が結城友奈さんか。
今は、変身していないからか少し短めの赤髪を、小さくポニーテールに結っている。
元気さ
「どうも……」
「こんばんわ! もしかして、あなたが大赦の言っていた今日から家に来る人?」
「あ、はい。そうです……」
ぼそぼそと、コミュ症の様な話し方になってしまう。
だって、やっぱり緊張してしまう。
「私は結城友奈! あの時は、助けてくれてありがとう!」
明るい笑顔で、そんな事を言ってくれる。
やばい。顔が熱くなってしまう。
「いや……えっと……」
どうした! 僕! 強く優しくかっこよくだろ!
何度も言ってるだろうが! 忘れるな!
そうやってまごまごしていると。
「あ、大丈夫! 焦らなくていいから!」
もしかして、気遣ってくれたのか?
話すのが旨くない事を察してくれた?
「ありがとう……」
すぐに察してフォローしてくれるとか、優しくてありがたい。
「うん! とりあえず、家に入って」
ぎこちない動きで頷く。
「お邪魔します……」
靴を脱いで、家に上がる。
脱いだ靴はちゃんと揃える。
廊下を結城さん先導で歩いていたら、彼女が振り向いて。
「あ! そういえば、怪我は大丈夫? いっぱい血が出てたから心配だったんだ」
「え、だ、大丈夫です。このとおりに」
腕や足をぶんぶんと動かしてみせる。
「それより、結城さんこそ大丈夫ですか?」
あの時見た限りじゃ、怪我は大してしていなかったように見えたけど、やっぱり女の子があんな化け物と戦っていたんだから、心配にもなる。
「私? 私は大丈夫だよ。あと、友奈でいいよ。敬語もいらないよ」
いいのか……。
一応初対面のようなものなんだが。
そこはあんまり気にしないフレンドリーな正確なのかな。
馴れ馴れしいともいうけれど、彼女からはそういう感じはしない。
なんだか、不思議な暖かさがあるんだ。
「それなら、友奈……これでいいかな?」
「うん! バッチシだよ!」
そこで少し、何かを待っているような表情と雰囲気を友奈は出す。
ん?
どういうことだ?
頭を必死に高速回転させ、その意味を考える。
僕が分かっていないと思ったのか、友奈が口を開きかけた時、結論に至る。
「あ、僕、名前まだ教えていなかったね。ごめん……」
ぎりぎりだった。0.何秒の攻防だった。
友奈さんが言う前に言えたから良かったけれど。
もう少しで心象を悪くしていたかもしれない、危なかった。
友奈はそういうことあまり気にするとも思えないけれど。
会ってまだ数分も経っていないのに何がわかるんだって話だけどな。
なんとなくそう思っただけだ。
「ううん。いいよ」
「ありがとう。僕は、
「夢河、朝陽くん、か。素敵な名前だね!」
うお……。
そんな満面な笑顔で言われると、たとえ社交辞令だったとしても嬉しい。
自分の名前を褒められるのなんて、嬉しいけれどなんかくすぐったいな。
顔がにやけそうになるのを堪えながら、言葉を返す。
「友奈だって、いい名前じゃないか」
「えへへ、そう? なんか照れくさいな……」
頬を赤らめながら少し俯いて笑う友奈。
かわいい。この子可愛いぞ!
「じゃあ、これからよろしくね!」
眩しい。
この子なんでこんなに明るいの。
とっても素敵やん。
「うん。よろしく……」
「親睦の印に、はい! これあげる!」
「……? なにこれ?」
「押し花だよ! かわいいでしょ!」
押し、花……?
その栞みたいな紙をまじまじと見る。
どう見てもキノコです、本当にありがとうございました。
いやいや、まてまて。
押し花に、キノコ? おかしいだろ。
嫌がらせ? いや、そんなはずは。
そんな事するような子には見えないし。何かの間違いだ。
ちょっと変わった趣味を持ってるのかな?
まあ、でも。
「ありがとう」
こんなに可愛い子からのプレゼントだ。大切にしよう。
「それじゃあ、お父さんとお母さんにも紹介しなくちゃだから、行こう!」
僕はキノコ押し花をポケットにしまいながら、頷いた。
・
・
・
友奈の両親とも挨拶し終わり、今は夕食を一緒に頂かせて貰っている。
友奈のお父さんは、大柄で屈強な体をした物理的に強そうな人だ。
お母さんの方は、柔らかく微笑んでいて、穏やかで優しそうな人だ。友奈の母親のはずなのに全然老けたようには見えない。友奈と年の離れた姉と言われても信じてしまいそうだ。
他人の家でご飯を食べさせてもらうなんて、正直萎縮してしまうけれど。
結城さん一家は暖かくて、少しずつ緊張も解けていった。
記憶喪失については、あまり触れられなかった。
大赦から僕の情報は聞いているはずだし、気を使ってくれたのだろう。
僕は、別に聞かれてもよかったんだけど、それでもありがたかった。
記憶が無いのは不安だし、取り戻したいとは思ってるからね。
ご飯はすごく美味かった。家庭の味がしたね。
急に来てあまり歓迎されないんじゃないかと懸念していたけれど、それも
みんな、いい人だった。
と、日記みたいな事を言っているが、まだ夕食中だということを忘れてはならない。
そして食べ終わりも間近という時に。
「ところで、夢河君。娘はやらんからな?」
「ぅっごほっ! えぐっごほっ! がっぐげほっ! げほっごほっがほっ!」
正面に座るお父さんが、なんか変なことを言った。
思わず盛大にむせちゃったよ。
「お父さん! 私達まだ会ったばかりだよ! 失礼なこといわないでっ!」
僕の隣に座る友奈さんが、即座に反発する。
「あらあら」
お母さんが微笑ましそうに、方頬に手を当てながら傍観している。
ちょっと、助けてくださいよ。
「朝陽くん、水飲んで?」
友奈が、僕がむせたからか水を、少し心配そうな顔でわたしてきた。
やはり元気なだけじゃなく気遣いの出来る人だ。
こんな嫁さんが欲しいね。
「ありがとう……」
ありがたく水を受け取り、一気に飲み干す。
ふう……。何とか喉のむせた感覚は無くなった。
食事を再開しようと、味噌汁を口に流し込んで直ぐ。お父さんがまた入らんことを言った。
「なんか今の、夫婦のやり取りみたいだったぞ。本当に絶対に娘はやらんからな!?」
「うっっげがっ、げはっ! ごふっ! げふっ!」
味噌汁がっ! 気管にっ! 入っ――ごほっ!
あんたっ、娘さん好きすぎるだろう!
親バカにも程があるっ!
「お父さんっ!!」
友奈が一喝を入れる。
「だって、友奈は……ぶつぶつ」
お父さんが、娘さんに怒られてしょげている。
「ふふふふ」
お母さんは最後までにこにこしていた。
むしろこの人が一番強そうだ。
母は強しっていうしね。
『……アンタ変な咳の仕方するんだな』
そうかな?
・
・
・
「ここが、朝陽くんの部屋だよ!」
夕食が終わった後。
僕は、今日から住む部屋へ案内されていた。
元々客間だったところなんだとか。
二階の、友奈の部屋の隣だ。
部屋は八畳ほどか、綺麗に整っている。
家具は、ベッドに机に棚に、一通り必要な物が揃っている。
友奈の家に住むことといい、この部屋の用意のされ具合といい、こんなに急なのに直ぐにここまで用意できるなんて、大赦はいったいどれだけ巨大な組織なんだ。
「明日から一緒に学校だねっ。はいこれ、鞄に、教科書にノート、それから制服」
友奈が、学校用具一式を渡してくる。
「……うん」
さらに、学校の用意も万端すぎる。
これは、神託で来るのが分かってたとか言っていたし、やっぱり事前に用意していたんだろうか。
でも、僕が学校に通うなんて言う保障はどこにも無かったはずだ。
いくらまだ中学生で、義務教育とはいえ、それでも行きたくないといって準備した物が全て無駄になる可能性もあったはずだ。
ちなみに、勘違いしている人も多いが義務教育というのは学校に行く義務ではなく、保護者が学校に行かせる義務だ。
無駄になっても大赦にとっては大した損失ではなかったのか?
そもそも、来るのが中学生の男というのは分かっていたのか?
協力者が来るという神託があったとしか言ってなかったが、それを額面どおりに受け取ったら、年齢も性別も分かってなかった事になるじゃないか。
ただ簡易的に伝えただけかもしれないが。
というか神託とか宗教臭くて嫌だなあ。
本当にそんなもので知ったのか?
疑念が湧いたらきりが無い。
結局、大赦はまだ完全に信用する事はできない、巨大で怪しい組織という事だな。
「学校には勇者部のみんなもいるから、明日みんなに紹介するね!」
「勇者部?」
なぜに勇者?
「うん! みんなのためになることを、勇んで実施するクラブ。それが讃州中学勇者部! あと、みんなを守るために戦う事も含めて」
そうか。それで勇者か。友奈たちの勇敢に戦う姿は、まさにそうといえるだろう。
そういえば、大赦の人と話した時、勇者とか勇者システムとか言っていたな。
それだけが理由ではないようだけど。
みんなのためになることを、勇んで実施する、か……。
僕も、そう出来たらいいんだけどね。
「そうか、じゃあ、楽しみにしてるよ」
「うんっ、みんなすごく優しいから、すぐに仲良くなれるよっ!」
「ああ、それは知って――――――」
今、僕は、なんて言おうとした?
知ってる? そんなわけが無いだろう。僕はまだ話した事もないのに。
目まぐるしく流れた一日に疲れて、適当な言葉を脳が吐き出しただけか。
よくあるじゃないか、疲れてて対応がおざなりになっている時に、ああ、はいはいそれね、知ってる。とかいうやつ。
多分そういうのだろう。
だからといって、今は適当に対応していいところではない。
反省しなければ。
「仲良くなれたら、いいんだけどね」
僕なんかがそうそううまく仲良くなれるのかわからないし。
そうなりたくはあるけどね。全力で。
何故かは分からないけど守りたい人達だ、仲が良くなれたらそれは嬉しいだろう。
まあ、守りたい理由は失った記憶に関しているんだろうけど。
それ以外に思いつく理由はないし。
友奈とはもう仲良くなれたと思ってもいいんだろうか?
本人に聞くのは怖くて出来ないな。
元気印な女の子だし、悪い風には思ってないとは思うが。
「きっとなれるよ、だって、朝陽くんはみんなを助けてくれたもん」
小さなポニーテールを揺らして微笑むその姿は、とっても可愛かった。