愚かな僕は勇者になれない   作:ソウブ

30 / 68
三十話 白桜色の豪腕と純赤の六刀

 地に着弾した神槍(しんそう)により、辺り一面が吹き飛ばされる。

 樹海の大樹が何本も、一瞬で塵も残さず消滅した。

 強烈な爆風と衝撃波で、消滅しなかった大樹も大きく揺れ、軋みを上げる。

 辺り一面が焦土と化した。

 煙に包まれて、何も見えない。    

 それでも、着弾して数百メートル圏内は、何もかも跡形もなく消し炭になっているだろう。

 誰もがそう予測する一撃だった。

 まさに神槍と呼ぶべき天からの裁きのような攻撃だった。

 

 やがて、煙が晴れていく。

 そこには、何もない灰色の大地だけが広がっている筈だった。

 だが。

 立っている影が、二つ。

 あの一撃を受けて、消滅せず、倒れることも無く、立っている。

 常識を超越した二つの影は、煙が完全に晴れると共に姿を現す。

 

 満開を果たした、友奈と夏凜が傷一つ無く立っていた。

 友奈は、桜色のラインが所々入っている白い巫女服のような装束の姿に変わり。

 神の力を借りた神聖さ漂う、二つの白桜色(はくおうしょく)豪腕(ごうわん)が、両肩の横に自分の腕のごとく浮遊している。

 夏凜は、赤色のラインが奔っている白い巫女服のような装束の姿だ。 

 そして、左右に二本ずつ、四本の鮮烈な赤色の腕が浮遊し、巨大で長大な刀身が純赤(じゅんせき)に染まった刀を、それぞれの腕に持っている。己の手でも純赤に変わった二本の刀を携えているので、計六本の六刀流となっている。

 

 ――そうして、ここに敵を殲滅せんと美麗(びれい)絢爛(けんらん)な巫女が、顕現した。 

 

 

 

 満開をした私は、その豪腕を即座に天へと叩き付けた。

 夏凜ちゃんも全く同じタイミングで、六本の赤刀(せきとう)を叩き付けた。

 衝撃が、爆裂する。

 体の芯から軋みを上げるような衝撃が体を駆け抜ける。  

 それでも、一歩も後退はしない。押し負けることにもならない。

 私たち二人は、天から降り来た神槍を、完璧に受け止めていた。

 動きを止められ推進力を全て失った神槍は、もはやただの鉄骨のようなものだ。

 二人同時に、弾く。

 神槍は、遥か遠くまで放物線を描きながら飛んで行った。

 

「夏凜ちゃん、行くよ!」

「ええ! 私たちの本気、見せてやるわよ!」

 

 同時に、地を蹴る。

 地面に足を付けず、私たちは先よりも格段に上がった速さで、バーテックスへと接近する。

 走る必要はない。満開状態の私たちは空を飛翔することが出来るから。 

 バーテックスはそれを見るなり、即座に全力の攻撃を放ってくる。

 

 無数の光の矢。

 反射板の赤光。

 尖針の白い光弾。

 大口からの橙色の巨大光線。

 

 無数の弾幕が、襲い来る。

 だけど、さっきまでの私たちでも、持ちこたえることはできていた。少しずつでも敵に迫ることはできていた。

 だから、満開を果たした今の私たちなら、敵じゃない。

 

 光の矢を片腕の豪腕と、夏凜ちゃんの大太刀で薙ぎ、

 反射板の赤光と尖針の白い光弾を両豪腕の二連拳打と、夏凜ちゃんの回転斬りで打ち砕き、

 大口からの巨大光線を、両手を組んで振り下ろしたハンマーナックルと、六刀同時振り下ろしで木っ端微塵にする。

 

 避ける必要すらない。

 精霊のバリアも満開をした瞬間全回復したが、それで受けることもしなくていい。

 敵の攻撃は(ことごと)く打ち砕く。

 私たちの行軍は、速度を落とすことなく止まらない。

 ただただ無心に弾幕を薙ぎ払いながら、前に進む。

 

 満開の力は絶大だ。

 何の苦もなく敵に接近できている。

 怖いくらいに。

 本当に、怖いくらいに身に余る力だ。

 でも、今はこの力に思う存分頼ることにする。

 勝つために、守るために。

 

 ――そうして、進み続けた先。

 ようやく私たちは、苛烈な弾幕を突破し、このヘンテコなバーテックスに肉迫することができた。

   

 徹底的な遠距離型であるこのバーテックスは、近づかれたら何もできない。

 ならこれで、私たちの勝ちだ。

 白桜色の豪腕を、全力で繰り出す。

「勇者パ――」

 気を奮い立たせるために叫ぼうとした。途中で止められた。

 動かない。

 豪腕を繰り出すことはできなかった。

 身体が動かなかった。

 

 バーテックスの泡だ。

 忘れていたわけじゃない、それなりに警戒もしていた。

 だけど、こんなに疾い泡だとは思っていなかった。

 先に泡に捕まった時は、気づいたら取り込まれていた。

 だから、気づかれないように忍ばせていたんだと思っていた。

 違った。

 あの泡は普通の泡じゃない、バーテックスが生み出す泡なんだから。

 尋常じゃない速さで操ることができるんだろう。

 それに気づけなかった。

 だから今、動けず、拘束されている。 

 

 先とは違って、何倍も数が多い大量の泡で拘束されているから、満開の力を以ってしてもそう簡単に抜け出せない。

 見ると、夏凜ちゃんもこの不可思議な泡に、拘束されていた。

 早く抜け出さないとまずい。

 だけど、全力でもがいても、直ぐには抜け出せそうにない。    

 

 バーテックスの、先端に針を持った尻尾みたいな腕が、蠢動(しゅんどう)した。

 尖針が、白いオーラを纏った。

 何か来る。見て悟った。

 ちょ、ちょっと待って、と思った。

 けど、待ってくれるわけもない。

 

 夏凜ちゃんも、(はさみ)を三本同時に突き出されていた。

 バーテックスが、白いオーラを纏った強力な針の一突きを繰り出す。

 針、刺突という概念を突き詰めたような突きだ。

 その極針(ごくしん)は、私に向かって一直線に、凄まじい速さで迫る。

 身体はまだ泡に拘束されたままだ。

 けど。

 ここで負けるわけにはいかない。

「あああああああ!!」  

 なんとか、さっきからずっともがいていた甲斐あって、腕だけは動かせるようになった。

 豪腕を即座に前でクロスさせて、極針を防ぐ。

 衝撃波で、周りの泡が吹き飛ぶ。

 貫通はされなかったけど、豪腕が少し砕け、欠けた。

 吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 

 夏凜ちゃんも、鋏に叩き飛ばされたみたいだ。

 徹底的な遠距離型なんかじゃなかった。

 接近戦もできる、万能型だった。

 甘く見ていたわけじゃない。

 だけど、もっと別の可能性を考えておくべきだった。 

 そもそも最初から針も鋏も見えていたわけだから、ちゃんと警戒しない方がおかしかった。

 いや、警戒してなかったわけじゃない、あそこまで接近できたら、満開をした私たちのほうが速いという自信があった。

 けど、予想外に疾い泡で、何もかも予定が狂わされた。

 もう考えてもしょうがないけど。

 とにかく、やることは変わらない。

 バーテックスを倒すだけだ。

 

 バーテックスが泡を、何個も私たちに向けて放ってくる。

 今度は奇襲ではなかったから、満開をした私たちなら避けられる。

 二人で避けながら、バーテックスに肉迫する。   

 極針(ごくしん)剛鋏(ごうきょう)が、また道を(はば)む。

 泡がなければ、殴り壊すか、弾き退けるか逸らすかして、本体に攻撃を叩き込むのは簡単だったかもしれない。

 だけど、そのもしもに意味は無い。

 今こうして、泡に邪魔されて思うように針に対処できていないのだから。

 

「――っ」

 泡を避けた隙を突いて放たれる、オーラを纏った極針を豪腕でギリギリ逸らす。

 そのまま攻撃に転じる前に、また泡が飛んできて回避に徹さざるを得なくなる。

 

「夏凜ちゃん、このままじゃまずいよ……!」

「……っ! 私に、考えが、あるわっ!」

 夏凜ちゃんが泡と剛鋏に対処しながら、途切れ途切れに答え返してくれる。

 その考えに頼ってみようと思った。

 少しの間、ジリ貧のまま針と泡を凌いでいると、夏凜ちゃんが叫んだ。

 

「友奈、下がって!」

 言われたとおりに、直ぐに下がった。

 できるだけ大きく下がった。

 夏凜ちゃんの背中を見ると、体を捻って六刀を大きく構えていた。

 

「喰らいなさい!!」

 そして、その大太刀四本と赤刀二本で、大きく捻りを加えた横薙ぎをした。

 いや、違う。

 横薙ぎじゃない。

 回転斬り。

 大回転斬りだ。

 竜巻のような突風が辺りに散らされる。 

 衝撃波も巻き起こる。

 私は距離を置いて下がっていたのと豪腕を盾にしたことで、さほど影響は無かった。

 だけど、敵の方は違う。

 

 突風と衝撃波が晴れたときには、泡が全て消し去られていた。

 さすが夏凜ちゃん。

 凄い。

 今度にぼしとサプリをプレゼントしよう。

 

「友奈、今よ!」 

「うんっ!」

 ここだ。

 ここが、今一番の隙だ。

 畳み掛けないわけにはいかない。

 満開のスピードで、肉迫する。

 最後の抵抗とばかりに、白いオーラを纏った極針と、三本の剛鋏が襲い来る。

 

 私は豪腕を勢いよく振りかぶった。

 夏凜ちゃんも全ての刀で居合いの構えを取った。

 そして。

 

 豪腕と極針、赤の六刀と、三本の剛鋏が激突する。

 泡に注意を向ける必要がない今、全ての力と集中を豪腕に注げている。

 少しの間鍔迫(つばぜ)り合った後、極針が砕け散った。

 夏凜ちゃんも、純赤の刀で、全ての剛鋏を切り落としていた。

 

「これで――」

「――終わりっ!」

 私と夏凜ちゃん、繋いで叫ぶと同時。

 バーテックスの本体、前衛芸術のような顔面。

 

 その顔面に私は、両の豪腕を肩よ外れろとばかりに思い切り振りかぶって叩きつけ、 夏凜ちゃんは純赤(じゅんせき)の六刀を再度居合いのように溜めてから、合わせて一閃させた。

  

 砕き、めり込む豪腕。奥まで切り込まれる純赤の六刀。

 へしゃげて粉々になるバーテックスの顔面。

 奥の奥まで、潰されて、切り刻まれて、粉々になっている。

 封印の儀なんてする必要もなく、御魂ごと完全に破壊されている。

 

 バーテックスは一瞬の後、砂となって消えた。

 ――そうして今回の、私たち二人の戦いは終わった。

 

 

 ――――地が、揺れた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。