愚かな僕は勇者になれない   作:ソウブ

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三十九話 蛇遣い座

 検査と怪我の治療が終わった私たちは、お昼頃に病院から解放された。

 怪我は大きなものは無く、日常生活に支障をきたすほどではなかった。

 包帯とか大げさにちょっと巻かれてるけど。

 

 病院から出た後、とりあえずみんなで勇者部の部室に集まった。

 昨日の話をみんなで相談するためだ。

 朝陽くんも電話やメールで呼んだんだけど、返事は返って来なかったし、部室にも来なかった。

 それで、嫌な予感がした。

 朝陽くんは、一度大赦の人に殺されそうになった。

 何かが起きているのかもしれない。

 東郷さんも同じことを思ったみたいで、心配そうにすぐに探すべきだと言った。

 風先輩たちは、まず昨日聞いた話というやつを教えてと言ったけど、今は一刻を争うかもしれなかった。

 だから、後で絶対に話すからと言って、とにかく今は朝陽くんをみんなで探そうとなった。

 それからは、話し合う間もなく、みんなで探し回った。

 大赦にも行ってみたけど、建物がボロボロになっていて、朝陽くんもいなかった。

 大赦の人に聞いても、どこにいるかはわからなかった。

 何も、答えてくれなかった。

 どうして、重要なことばかり隠すの……。 

 

 そして夕刻。

 赤い赤い夕陽に、世界が照らされる時刻。 

 探しても全然見つからなくて、とりあえず情報を整理しようと、またみんなで部室に集まった。

 そうして全員が集まって、いざ話し出そうとした時。

 

 部室内にいる全員のスマホに、同時にメールが来た。

 みんな何事かと一斉にメールを開いた。

 大赦からのメールのようだ。

 こんなことが書かれていた。

 

『夢川朝陽を殺せ。奴は敵だ』

 

 ただ、それだけ。

 何も教えてくれなかったのに、なんでそんなことだけは言ってくるの……?

 ひどいよ。

 散華の事なら、知っていたとしても私は戦ったと思う。

 だから、教えてくれなかったことは悲しいけど、やることは変わらなかった。

 だけど、朝陽くんを殺せだなんて、あんまりだよ……。

 今まで、ずっと私たちと戦ってきた、同じ時間を過ごしてきた、勇者部の一員なんだよ。

 本当は弱いのに、私たちを必死に守ろうとしてくれた、大切な仲間なんだ。

 ――私たちを、もっと頼ってほしいけど。

 殺すなんて、ありえない。

 いなくなるなんて、ありえない。

    

「東郷さん、夏凛ちゃん、風先輩、樹ちゃん――朝陽くんを守ろう」

 皆一様に、真剣な表情で頷いた。

 と、その瞬間。

 

 ピロロ、リリリン。ピロロ、リリリン。

 

 不安を煽るような、電子音。

 樹海化警報が、勇者部の部室に鳴り響いた。

 

 

 

 

 急に、雑草をざわめかせ、顔に吹き付けていた夕暮れの風が、ピタリと止んだ。

 顔を上げると、高架下に生えた雑草が、風にあおられた状態のまま、静止していた。

 自然にそうなることはあり得ない。

 普通じゃない状況。

 あらゆる物が止まった状況。

 

「樹海化か……」

 力無く呟いた。

 来るの、早すぎるだろ。

 もっと、待ってくれてもよかったのに。

 

 ――僕は結局、どうすればいいんだろう。

 分からない。

 分からないけど、とにかくみんなは守ろう。

 

 視界が、白く染まった。

 

 そうして、樹海に降り立つ。

 周りを見ると、みんなもいた。

 

「朝陽くんっ!」

 友奈が走り寄って来る。

 動かなくなった左腕は、ギプスで固定されている。

 さらに、包帯を身体の所々に巻いていた。

 前回の戦いでそんな傷を負っていたのか……?

 気づけなかった。

 服の下に隠れていたのだろう。

 痛がっている様子もなかったし。

 戦わせたくない。

 さらに強く思った。

 

「大丈夫!? 何もなかった!?」

「夢河くん、誰にも襲われなかった? 銀も大丈夫?」

 友奈と東郷さんがすごく心配そうに聞いてきた。

 

 なんで。

 東郷さん、あの時泣いてたじゃないか。

 なのに、なんで僕の心配なんてしてるんだよ。

 自分が、辛いはずなのに。

 泣いてしまうほど、辛いはずなのに。

 

「今までどこにいたのよ」

「みんなで町中探し回ったのよ?」

 夏凛、風先輩、樹ちゃんもそれぞれ僕に詰め寄って来る。

 樹ちゃんは喋る事無く、全身と表情でみんなと同じような意を表している。

 何故、喋らないんだ?

 

 ――喋れないのか?

 夏凛と風先輩はそれぞれ右目と左目を、眼帯で覆っていた。

 そして夏凛と風先輩も身体の所々に包帯を巻いていた。

 前回の戦いは、相当きつかったんだろう。分断されてしまったし。

 それ以外は、全部、散華の影響か。

 いや、包帯も散華で失った部分かもしれない。友奈も包帯をしていたから戦闘の傷だと思ったけれど。

 どっちにしろ、戦ったからそうなってしまった事である事に変わりはないが。 

 

「僕は……」

 何を言えばいいんだろう。

 大赦に殴り込んで、無駄に力を使って、失敗しておめおめと逃げ帰ってきましたって、そう言えばいいのか?

 ――言えるわけがない。

 

「何も……無かったよ……銀も大丈夫だ」

 声が、少し上擦ってしまった。

「朝陽くんは……嘘が下手だね……」

 友奈が、優しく微笑んでそう言った。

「なん、で……」

「そんな顔してれば、誰だってわかるよ」

 そんな顔? 僕は、どんな顔をしているんだ?

 自分の顔を手で触るが、わからない。

 

 僕は友奈の顔を見ていられなくなって、スマホを取り出そうとした。

 なかった。

 また、壊してしまったことを忘れていた。

 でもこのままだと、敵の情報が分からない。

 

「友奈、スマホを貸してくれ。今持ってないんだ。敵の情報が知りたい」

 先の話を誤魔化す意味でも、すぐに貸してほしい。

「その前に、何かあったのか話して。それまでは絶対に貸さないよ」

「……っ」

 強い意志を宿した瞳で僕の目を見てくる友奈。

 誤魔化すことはできない……か。

 他のみんなを見回すも、誰一人話すまで貸してくれそうにない。

 敵の情報はどんなことでも重要だ。手に入るなら手に入れておいた方がいい。

 ここでぐずぐずしていてもバーテックスがすぐにやって来てしまう。

 

「ああ……。あった……よ。あったさ。あったけど、今は敵と戦うことが先だろ……戦いが終わったら話すよ。後、銀が大丈夫なのは本当だ。これは嘘じゃない」 

 友奈は僕の目を凝視してから。

「――うん、わかった。じゃあこの戦いが終わったら絶対に話してね。でも、戦うのは私たちだけ。朝陽くんは力を使っちゃだめだからね。みんなもそれで、いい?」

 

「アタシたちはその事情をまだ知らないけど、友奈がそう言うならここはその判断に任せるわ」

 風先輩がそう返して、それぞれ頷く。

 だけど僕は、頷かなかった。

 そこから察したのか、友奈は念を押すように言ってきた。

「朝陽くん……? 戦っちゃだめだよ?」

「約束は……できない。みんなで倒せるなら、それでいいけど。もしも怪我したり、危険な状況になったら、僕は迷わず戦うよ」

「だめだよ。力を使ったら人がいっぱい死んじゃうんだよっ!」

「友奈ちゃんの言う通りだよ夢河くん。ここは私たちに任せて。自分の意思でその力を使ってしまったら、夢河くんは本当の人殺しになってしまう。夢河くんを、人殺しにしたくないの」

 

 ――もう、手遅れだよ。

 東郷さんの言葉に、そんな一言が喉の奥から出掛かった。

 だけどその一言は、言えなかった。

 

「……わかった。だけどそれなら、絶対に倒して、戻って来てほしい」

「うんっ、必ずみんな無事で、敵をやっつけて帰って来るよ」

 笑顔で頷く友奈。

 とりあえずはそれで納得してくれたようで、友奈はスマホを渡してくれた。

 樹海の地図に、敵のアイコンが表示されていた。

 

 ――獅子蛇遣い座。 

  

 獅子……『蛇遣い座』?

 蛇遣い座――オフィウクス。

 その姿形(すがたかたち)と巨大さと、前衛芸術の様なのは他のバーテックスと変わらないが、人形(ひとがた)をしていて腕も足も人と同じ位置にあり、胡坐(あぐら)をかいて座ったまま浮いている。 

 そして、奇妙な壺の様な物をその両手に抱えている。

 吹き付ける威圧感が、他とは違う。

 そんな感じがした。 

 

 バーテックスは、十二体ではなかったけれど、それでも十二種類だと思っていた。

 合体して、厄介な別物になっていたけど、それでも黄道十二星座以外はいないと思っていた。

 実際、いないといっていた。

 なのに、十三体目。

 蛇遣い座は確かに黄道にはあるが、十二星座には入っていない。

 それが今、獅子座と合体してレオ・オフィウクスと成り、視界の向こうから進行して来ていた。

 

「来たわね」

「ええ――みんな行くわよ!」

 夏凛と風先輩がそう言葉を放つと、五人は変身して新手のバーテックスへと跳んで行った。

 友奈は変身すると、動かなかった左腕が動くようになっていた。

 勇者システムが戦闘のために補助をしてくれているんだろう。

 

 みんなの接近を感じ取ってか、レオ・オフィウクスはピタリと進行を止め、空中に静止した。

 それに構わずみんなは接近していく。東郷さんは少し離れた位置でスナイパーライフルを構えて待機した。まずは様子見ということか。

 

 そして――――

 

 嫌な悪寒が、全身を虫が這うように駆け巡った。

 ガンガンと脳内が警鐘で埋め尽くされる。

 レオ・オフィウクス。

 あれは駄目だ。あいつはいけない。

 危険すぎる。強力だ。

 ああ、特に駄目なのはあの壺だ。早く壊さないと。

 取り返しがつかない。

 そう思った瞬間、僕は咄嗟に、無意識で叫んだ。

 

「東郷さん!! 早くあの壺みたいなのを打ち抜いてくれ!!」

 ダアンッ!!

 

 即座に空色の弾丸が、放たれた。

 さすが東郷さん。突然の大声に戸惑うことなく実行してくれた。

 まさに熟練の狙撃手だ。

 

 空色の弾丸は壺に吸い込まれるように一瞬で飛び、着弾した。

 衝撃音。煙が上がる。

「よしっ」

 思わず小さくガッツポーズをした。  

 だが、ぬか喜びに終わる。

 

「――なっ」

 壺は、健在だった。

 傷一つ、付いていない。

 なんでだよ。確かに当たっただろ。

 狙撃銃の弾だぞ、無傷なんて可笑しいじゃないか。

 

 ――そうして危険で強力な脅威は、野に放たれる。

 

 レオ・オフィウクスが壺を掲げると、その中から前衛芸術の様な蛇だかミミズだか判別しづらい、奇妙な、生き物と言ってもいいかすら判らない動き回る物体が、うじゃうじゃと湧いてきた。

 その総数は、パッと見では分からない。

 視界を埋め尽くすほどの、無数の蛇であろう生物が、友奈たちを囲んだ。

 

 場違いにも。神樹と戦法が被ってるじゃないか。なんて思ってしまった。

 だが、効果的で効率的な戦法であることに変わりはない。

 厄介な相手だ。

 なにしろ対処がし難い。

 

 

 ――――――視界が白に埋め尽くされた。

 目が痛い。眩しい。なんだ急に。

 そんなことを思っている場合じゃない。

 無数の蛇の口であろう部分から、白いレーザー状の砲撃が、放たれたんだ。

 轟音が響き渡り、樹海を騒めかせる。

 轟音が止み、視界が完全に晴れた時には、酷い有り様だった。

 ふざけた光景だった。

 ありえない。なんだよ。理不尽だ。

 

 ――五人とも倒れ伏して、精霊のバリアが跡形も無く粉微塵に砕け散っていた。

 息は、多分あるように見える。

 考えたくもないけど、部位の欠損もないはずだ。遠くて良くは分からないけど。

 少し離れていた東郷さんまで、あれを同じように食らったのか。

 可笑しい。

 確かに精霊のバリアは前回の戦いで過信しすぎるのは良くないと解っていた。

 みんなもそれぐらいちゃんと解っていて、気を付けていたはずだ。

 それに、もともと強力無比を誇っていたバリアだぞ。

 なのに、これはなんだ。 

 一撃で跡形も無くなっている。

 本当に強力なバリアなのかと疑いたくなる。

 対処する間もなかったというのか。

 それほど砲撃が速くて、超威力だったっていうのかよ。

 奴が、敵が、レオ・オフィウクスが、

 化け物過ぎるんだ。

 

 

 

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