愚かな僕は勇者になれない   作:ソウブ

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四十話 それでも僕は力を使う

 ――――もう、待っている場合ではないのではないだろうか。

 力を使ってはいけないとか、そんなこと今更だ。

 

 でも、みんなと約束した。   

 必ずみんな無事で、敵を倒して帰って来るって。

 友奈はそう言った。

 その言葉を信じられなくてどうする。

 勇者部のみんなを信じないで、他の何を信じられるっていうんだ。

 

 でも、相手がこれほどの力を持っているなんてあの時は分かっていなかった。

 それなら、取り返しがつかなくなる前に早く助けに行かないと。

 本当に取り返しがつかなくなったら、後悔してもし切れない。

 後悔なんて通り越してぶっ壊れそうだけど。

 

 でも、だけど、いやそれでも。

 そんな思考が行っては来ては無意味に徘徊している間に、時は無情にも無くなっていた。

 

 二射目の、白いレーザー状の砲撃が、放たれる。

 

「――――っ!!」

 今から飛び出して行っても、間に合わない。

 

 どうしよう。

 

 どうしようじゃねえよ。

 僕が優柔不断に迷っていたからこうなったんだろうが。

 ふざけんなふざけるな。僕はどうしてこうも地に足が付かないんだ。

 時間を掛けずに即断即決で自信を持って行動できたらいいのに。

 そんな強い人間に成れたら何もかもどうにかなりそうなのに。

 だけどもう、遅い。

 

 砲撃はみんなに命中し――

 

「「「「「満開!!!!」」」」」

 

 それなりに遠く離れたこの場所まで聞こえるほどの大音声(だいおんじょう)で、みんなが叫んだ。

 同時に。

 白桜色(はくおうしょく)の豪腕に、空色の砲撃に、純赤(じゅんせき)の六刀に、萌葱色(もえぎいろ)のワイヤーに、大樹のような大剣に。

 白の砲撃が跳ね返る、消滅する、逸らされる。

 

 僕が行かずとも、あの状況をみんなは乗り切った。

 僕は、信じてそのまま待っているべきだった。

 そういうことなのだろうか。

 

 だけど。

 満開だ。

 またあの代償を伴う神の力を使ったんだ。

 だが、この局面なら使わざるを得ないだろう。

 そうしないと今ここで死ぬ。

 それでも僕は、また散華で失われることに絶望的な気分だ。

 みんなに満開させるぐらいなら、最初から一人で戦った方が良かったのではないか? あの包帯を見た時点で、意地でもみんなに戦うことを諦めて貰うべきだったんじゃないか?

 

 そう思ってしまう。

 そんな考えが浮かんできてしまうんだ。

 任せて待っていたのは自分なのに。

 それなら迷わずに最初から自分が行けばよかったんだ。

 中途半端な愚か者め。クズ野郎め。

 そんな風に自分に悪態をついても、何も変わりはしないけど。

 

 でもこれなら、みんなは大丈夫かもしれない。

 かもしれないじゃない。大丈夫なんだ。

 信じて待つんだ。

 満開の力は強力だ。

 それが五人、一気に戦力として戦っている。

 前回の戦いみたいに分断されているわけではない。

 これなら、いける。

 

 

 次々と放たれる蛇の砲撃、それをみんなは全員で協力しながら迎撃する。

 その中で、遠距離攻撃をできる東郷さんが、戦艦の砲台を一部蛇へと向けた。

 放たれる空色の砲撃。

 着弾。

 爆音。

 蛇は数匹ほど消し飛んだ。

 そう、消し飛んだんだ。 

 身体を欠損させて、爆裂して、動けないほどに。

 

 ――確かに、消し飛んだんだ。

 その筈なんだ。

 なのに。

 

 蛇共は、一瞬で再生した。

 瞬く間に、蛇は原形を取り戻した。

 まるでビデオテープを巻き戻したかのようだ。

 バーテックスは元々再生能力を保有しているが、ここまでの速さではなかった。

 ましてや満開後の攻撃に、この再生速度は度を越している。

 それにあの蛇は本体ではないだろう。見た限り遠くに鎮座している人形(ひとがた)が本体のはずだ。

 無数の蛇全てが、倒しても倒しても瞬時に再生する。 

 

 驚異的な再生能力。

 恐らくレオ・オフィウクスは、そんな能力を持っているのだろう。

 馬鹿げている。卑怯だ。早く殺されろ。

 僕が言えた事ではないけれど。

 

 東郷さんは何度も空色の砲撃を、無数の蛇共に撃ち込んだ。

 爆音。爆音。爆音。

 爆裂。四散。焼失。

 

 だが――瞬時に再生する。

 

 このままでは切りが無いことが解ったのであろう東郷さんが、人形(ひとがた)の本体へ向けて空色の砲撃を放った。

 けれど、砲撃が辿り着く前に複数の蛇が本体の前に移動し、肉壁となって守った。 

 そして刹那の間に再生する。

 

 ジリ貧だ。

 なにか打開策を取らないと、このまま体力を消耗していって危険だ。

 それはみんなも、見ているだけの僕なんかよりも解っているのか、すぐに行動に移し出した。

 

 東郷さんが蛇の砲撃の迎撃を主に請け負い、本体目指してみんなで進んで行く。

 だが、かなり無理矢理な行軍だ。

 それでも、それしか手は無いと敢行したのだろう。

 結局本体を叩かなければ倒せない。

 蛇を倒したところで、すぐに再生されるのなら意味がない。

 RPGのボス戦で、周りの雑魚を無視してボスのみにダメージを与えた方がいい場合と同じ状況だ。

 雑魚を倒してからがいい場合もあるが、今の戦況ではそれは悪手だ。

  

 砲撃の雨が絶え間なく続く中、激しく迎撃しながらみんなは進んで行く。

 満開でさらに強力になったバリアが傷ついて、破壊されて、身体が爆炎で焼き焦がされても、それでもみんなは進んで行く。

 

 もどかしい。

 飛び出して行きたくて堪らない。

 誰かが傷つく度に、足が前に踏み出しそうになる。

 でも、信じて待たなければならない。

 何度も脳内で友奈の言葉を反芻し、何とか踏みとどまらせている。

 

『うんっ、必ずみんな無事で、敵をやっつけて帰って来るよ』

 

 友奈はそう言っていた。

 言ったんだ。

 ちゃんと言っていたんだ。

 優しい笑顔をして、必ずと言葉を発したんだ。

 だから、待たなければ。

 絶対に勝つと、信じなければ。

 生きて帰ってくると、信じるんだ。

 

 そうこうしている内に、みんなはレオ・オフィウクスに肉薄しつつあった。

 そこでまた、無数の蛇が一斉砲撃を放った。

 みんなも一斉に迎撃する。

 

 ――そして、一瞬の間ができる。

 蛇が一斉砲撃をした後の、間隙(かんげき)

 迎撃した後の、僅かな硬直時間。

 一斉砲撃後だから、すぐには、少なくとも一瞬後には、次の攻撃は来ないだろうという気の緩みの瞬間。 

 

 そこに、不意を打った攻撃が差し込まれる。

 

 レオ・オフィウクスの本体。

 その口が、裂けんばかりに大きく広げられた。

 口裂け女も裸足で逃げ出すほど、大きく大きく。

 

 ――深淵の様な口腔の奥が、白く光った。

 

 刹那の後に、特大のレーザー砲撃が吐き出された。

 都市を一撃で焦土と化せるだろう太く巨大な砲撃は、固まって迎撃していた四人の元に、一直線に吸い込まれていく。

     

 真正面から、東郷さん以外の四人に命中した。

 爆音。

 爆音なんてものじゃない。

 空気が震撼し、風圧が吹き付ける。

 着弾点から巨大なクレーターと化し、鼓膜が破れそうな凄まじい音がどこまでも響き渡る。

 

「みんな!」

 心臓が締め付けられるようだ。

 東郷さんは少し離れていたから免れたが、他の四人は何の防御も避けることもできず、あれほどの攻撃を食らってしまった。

 心臓が早鐘を打ち過ぎて、痛いくらいだ。

 みんなが死んでしまうんじゃないかという不安に押し潰されそうになる。

 

 ――そして僕はその不安に、勝てなかった。

 みんなにあの特大砲撃が命中したのを見た瞬間から、すでに走り出していた。

 我慢など、できなかった。

 

 四人は倒れている、クレーターの真ん中で、いまだ動けず倒れている。

 その倒れている四人に、再度特大砲撃が放たれる。

 空気を押し潰しながら、白の砲撃が迫る。 

 

「止めろこのやろおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!」

 刹那の間に、剣を抜き、力を使って超速と成る。

 時間も空間も何もかも置き去りにして、守りたい人達の元へと一瞬で辿り着いた。 

 迫り来る砲撃の前に、立つ。

 

 白刃を叩き付けて、砲撃を受け止める。

「ぐっ……!」

 衝撃が発破されない。

 普通、砲撃っていったら着弾した瞬間に爆発するはずだ。

 なのに本体から放たれた砲撃は、爆発せず残って、その破壊的なエネルギーを保ったまま、押し潰そうと勢いを衰えさせずに進んでくる。

 強力過ぎる一撃に、押され気味になる。

 足を引き摺り、後退してしまう。

 

 空色の砲撃が、白い特大の砲撃に撃ち込まれた。

 東郷さんの援護だ。

 連続で撃ち込まれる東郷さんの砲撃。

 そのおかげで、後退することはなくなった。

 だが、消滅させるには至っていない。

 耐えているだけだ。

 

「来ちゃ、だめだよ……!」

 僕の背中に、友奈が言葉を投げた。

 激情に駆られて、叫んだ。

「来なかったら、やられてた! 嫌なんだよそんなの!」

 叫びながら、力を使う。

 白銀の粒子が舞い、集まる。

 白刃を、光り輝く聖剣と化させた。

 押されていた砲撃を、聖剣を振り抜いて、打ち砕く。

 砲撃は消滅し、静かになった。

 

「とにかく、こいつはやばい相手だ。協力しないと倒せない」

「でも――」

「――来る」

 友奈の言葉を遮る。

 また蛇が、砲撃の雨を再開させたからだ。

 蛇の無数の砲撃が襲い来る。

 

 友奈は今は話している場合じゃないと分かったのか、

「あとでいっぱい文句言わせてもらうからね!」

 と言いながら立ち上がり、レーザー砲撃に豪腕を叩き付けて迎撃し始める。

 夏凛も、風先輩も、樹ちゃんも一緒に立ち上がり、迎撃した。

 僕も白刃を振り、砲撃を次々と消失させた。

 だけど、このまま迎撃していてもさっきの二の舞だ。

 

 僕はすでに考えていた作戦を伝える。

「とにかくあそこでふんぞり返ってる本体をやらないと意味がない。僕がこの蛇共は全て引き付けるから、みんなはその間に本体を倒してくれ」

 砲撃を、また一撃消滅させる。

「朝陽一人で出来るの……!?」

 大剣を振りながら風先輩が言った。

「大丈夫です。多分向こうにいる東郷さんが援護してくれると思うので」

 恐らく察してくれるだろう。

 人数が少ない方を援護するはずだ。

 それに、東郷さんは状況を見極められない人じゃない。

 この砲撃の雨の中、スマホで連絡を取ることもできないし。

 僕のスマホはないけれど。

 

「それじゃあ、頼んだよ」

 僕はそう言って、みんなの返事も聞かない内に跳び上がった。

 引き付けると言ったはいいが、方法は大して考えていない。

 だから、咄嗟に思いつける行動をしていく。

 とにかく、何が何でもみんなには攻撃させず、僕だけに引き付けるんだ。

 蛇は無数だ。難しいだろう。

 一匹もみんなの元には向かわせない、砲撃を行かせないというのは、至難の業だ。

 だけど、やるしかない。

 やると言ったからには、やる。

 これぐらい、やってみせろ。

 

 だから、跳んだんだ。

 とりあえず、跳んでみたんだ。

 飛行できるわけでもないのにこんな事しようものなら、無防備な的になる。

 そんな僕を、狙ってくるはずだ。

 

 ――ほら、来た。

 無数にいる半分くらい、いや、六、七割ぐらいか、が僕に向かってレーザー砲撃を前後左右から放ってきた。

 だが別の、残りの四、三割くらいの蛇は、本体に向けて走りだしているみんなに放った。

 

 やばい。

 まずい。

 どうしよう。

 引き付けるって言ったのに。

 みんなは僕を信じて本体に向かったっていうのに。 

 東郷さん頼む。

 そんな時の東郷さんだ。

 大丈夫だ。彼女ならやってくれる。

 僕はそれを信じて、今は目の前に迫る砲撃を何とかするべきだ。

 一撃一撃ならこの白刃を振るえば何とか消せはする。

 だが、この量だと少し削って後は命中だ。

 そうして僕は物言わぬ肉塊となる。

 だけど、これを乗り切る手なんて余裕で在る。

 力を使えばいいだけだ。

 

 もうすでに結構使ってしまっている?

 関係ない人間が大量に死ぬ?

 知るか、そんなこと。

 今更だ。

 僕はとにかく今を乗り切らなければならないんだ!

 余計な思考を振り払い、気を奮い立たせる。 

 

 力を、引き出す。

 粒子が、白刃に染み付く。

 光り輝く聖剣と化し、膨脹し、両手剣(ツーハンデッドソード)になる。

 

 それを横薙ぎに振り抜き、その勢いのまま一回転する。

 つまり、回転切りだ。

 振るわれた聖剣は、剣閃を拡大させる。

 その剣閃に砲撃がぶち当たったと同時に、砲撃は消滅していく。

 連続した爆発音を轟かせ、僕に来たレーザー砲撃は一瞬で全て破壊された。 

 

 その後、僕は重力に任せて自由落下する。

 すぐにみんなの方を見ると、期待通りに東郷さんが空色の砲撃でレーザー砲撃を打ち落としてくれたみたいだ。

 みんな無事に、本体に辿り着けるだろう。

 

 ――――そんな時に、一斉に白いレーザー砲撃が、本体に辿り着きそうな四人に放たれた。

 くそっ。

 そう旨くはいかせてくれないってのか。

 力を引き出す。

 粒子が全身に行き渡る。

 超速と成る。

 間に合ってくれ。

 

 レーザー砲撃と競争をする。

 いけ。

 行け。

 行けよ!

 追い越せ。

 何もかも追い越せ。

 今の僕は、何者よりも速いんだ!

 

 風を切る感覚すら追い越し、レーザーが遅く見えてくる。

 届け。

 もう少しだ。

 行け!

 並列した。

 僕はレーザー砲撃と並走している。

 前には出れなかった。

 だけど、それで十分だ。

 僕は、ただの競争をしているわけではないのだから。

 

 また、力を引き出す。

 今度はさらに、剣閃を長く伸ばす。

 白刃が、白銀に輝く大剣と成る。 

 

 一気に、真上に向かって半円状に振り抜く。

 その範囲には、全てのレーザー砲撃があった。

 どこまでも、高く高く剣閃が伸び、レーザー砲撃を一撃も漏らすことなく破壊した。

 爆音が何度も連続し、煙が立ち込める。

 煙が晴れた頃には、砲撃など一光(ひとひかり)も無かった。  

 

「よう」

 言葉が通じるかなど分からないが、僕は剣先を向けながら挑発する。

「お前らの相手はこの僕だ、全身全霊の力を持って、僕だけを潰しに掛かれ」

 一呼吸し、

「でないと、死ぬぞ?」

 そう余裕たっぷりに言ってやった。

 

 蛇共は一斉に、僕へとその口腔を向けた。

 

 

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