愚かな僕は勇者になれない   作:ソウブ

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四十一話 私を叩いて

 後ろで爆発が起きたけど、振り向かずに進む。

 朝陽くんと東郷さんが蛇を必ず引き付けてくれているから、振り向く必要はない。

 朝陽くんには力を使って欲しくないけど、もうここまで来たらしょうがない。

 しょうがない事ではないけれど、今考えていても仕方がないんだ。

 とりあえず今は、私と夏凛ちゃんと風先輩と樹ちゃんでバーテックスをやっつけて、後の事はそれから考えればいい。

 倒す事に考えを集中していないと、大きなミスに繋がるかもしれない。

 だから今は、あの、座って空中に浮いている、人みたいな形をした巨大なバーテックスを倒す。

 それだけを考える。

 

 その巨人が、口腔を、顔が見えなくなってしまうくらいに開いた。

 

 さっきの、すごく太くてデカい砲撃だ。

 その予備動作。

 あれに当たったら、一溜まりもない。

 防御できるのかも怪しい。

 避けるしかない。

 

 特大砲撃が巨人の大口から放たれる。

 みんな一斉に、飛び退いた。 

 巨大な砲撃だから、少しでも遅れると避けれないかもしれない。

 今回は何とか、避けれた。

 地面に砲撃が当たって、鼓膜が破れそうな轟音が響き渡る。

 爆風が吹き付けて、さらに飛ばされる。

 空中でバランスを取って、着地する。

 樹ちゃんが転んじゃったけど、風先輩に支えられてすぐに立った。

 みんな避けれたみたいだし、この一発は、乗り切った。 

 

 ――巨人が、動き出す。

 

 今までずっと、胡坐(あぐら)座りをしてその場から動かなかったけど、動き出した。

 まず、地面に足を付けた。

 ゆっくりと立ち上がって、辺りに大きな影を落とす。 

 何十メートルもある巨人へと成った。

 座ってる時よりも、威圧感が凄い。

 立ち上がるだけで、こんなにも違う。

 蟻みたいに踏み潰されてしまいそうだ。

 巨人は、私たちに顔を向けている。

 その間は隙だらけに見えたけど、威圧されてしまって動けなかった。

 立ち上がる動作に当たっただけでも、羽虫の様に弾き飛ばされてしまいそうに見えて仕方がなかった。

 

 巨大な腕が、地面の影を濃くしながら襲い来る。

 壺を片手に持っているから、片腕だけだ。

 だけど。

 それでも、巨大だ。

 身体の奥から根源的恐怖が滲み出してきそうだ。

 

 ――そう、あくまできそうなだけだ。

 ギリギリ、滲み出してはいない。

 今まで幾多の戦いを乗り越えてきたんだ、そう簡単に怖がったりしない。

 それでも、ギリギリだけど。

 

「ここは私に任せてください!」

 私はそう叫んで、跳び上がって飛行した。

 巨人の腕に自ら飛び込んでいく。

 白桜色の豪腕を思いっきり振りかぶる。

 最大の勢いを付けて、右の豪腕を叩き付けた。

 全身に伝わる衝撃。

 拮抗。

 どちらも押されず押さず、力の押し付け合いをしている。

 使っているのは自分の直接の右腕じゃないのに、右腕が痺れてきている。 

 でも、この隙に出来ることがある。

 

 夏凛ちゃん、風先輩、樹ちゃんがバーテックスに接近する。

 今バーテックスは私と拳をぶつけ合っていて、動けない。

 樹ちゃんがワイヤーで手足を縛り付け、風先輩が大剣を左足に叩き付け、夏凛ちゃんが刀で右足を斬り付けた。

 衝撃音。

 満開の力は凄い。

 バーテックスの両足とも、吹き飛んだ。

 私は拳を押し付けて、一旦離れる。

 バーテックスはバランスを崩していたから、簡単だった。 

 大地に横倒しになろうと倒れていくバーテックス。

 その間、ずっと私の方に顔を向けていた。

 

 特大の砲撃が、真っ暗な大口から放たれる。

 

 だけど、私はそれを予測していた。

 だって、バーテックスはずっとこっちを見ていた、さすがに気づく。

 満開の力で飛行して、何とか避ける。

 風圧で少し吹き飛んでしまったが、食らったわけじゃないから問題ない。

 これで、バーテックスはそのまま倒れるだけだ。

 倒れた後なら、勝つのは簡単。

 

 ――そう思っていた。

 

 バーテックスが片手に持っていた壺。

 それを、倒れながら放り投げた。

 ただの、壺だ。

 こっちに、向かってくるわけじゃない。

 他の三人の方に、飛んで行っているわけでもない。 

 だけど。

 

 壺が、突然甲高い音を立てながら爆発した。

 それで壺が破壊されただけなら、よかった。

 でも、違った。

 バラバラになった破片は、私たちに物凄い速さで降り注いだ。  

 

 あれは、爆弾だ。

 前に、東郷さんに教えてもらったことがある。

 手榴弾(しゅりゅうだん)だったか、手榴弾(てりゅうだん)だったか、どっちか忘れたけど。

 とにかく、手榴弾という爆弾だ。  

 

 この不意打ちには、誰も対応できなかった。

 高速で飛来する破片の群れが、私たちのバリアに何個も突き刺さる。

 バーテックスの倒れる音が聞こえた。

 

 でも、私たちはそれどころじゃない。

 バリアの罅割れていた部分を破壊され、腕に突き刺さる。

 何とか避けようと身を捩るけど、意味を成さない。

 咄嗟に身を捩ってしまったけど、すぐに気づいて豪腕を前でクロスして盾にする。

 

 そうやって、なんとか乗り切った。

 

「はぁ……はぁ……」

 痛みと疲労と緊張で、息が荒くなる。

 なんとか今の攻撃を凌ぐ事が出来た安堵感もあるだろう。

 汗も、いっぱい出ている。

 

「みんなは!?」

 声に出してしまいながら、辺りを見回す。

 他の三人も、私とほとんど同じ状況だ。

 バリアはボロボロだし、破片が所々に刺さっているし、武器で防いだから何とかまだ動ける状態。

 満開の力があったから、この程度で済んだともいえる。

 満開がなくて、バーテックス製の手榴弾なんて食らってしまったら、一瞬で死んでしまうだろう。

 破片が刺さるだけで済むわけがない。

 

 バーテックスを見ると、私たちが手榴弾に気を取られている内に、足を再生させたのかぴんぴんしている。

 それでも早い。

 手榴弾に気を取られていたといっても、時間にすればほんの少しだ。

 満開の攻撃を受けておいて、その間に完全に再生しているなんて、あの蛇と同等の再生力だ。

 バーテックスにも手榴弾の破片が飛んできたのか、身体の所々に刺さっているけど、 即座に修復され、身体から押し出されて破片は地面に落ちていく。

 バーテックス自身には手榴弾なんて聞かないんだ。

 だからあんな、自分も巻き込まれる至近距離で、爆弾なんて投げれたんだ。

   

 勝てる方法は、何があるんだろう――?

 考える。考える。

 けど。

 思いつく前に。

 ――来た。

 

 巨人バーテックスが、特大の砲撃を口から発射して来た。

 風先輩と樹ちゃんの方に砲撃は行った。

 なんとか避けてくれることを信じる。

 

 ――こっちも、対処しないといけないから。

 私の方には、巨大な足による蹴り上げが来た。

 夏凛ちゃんの方には、右拳の叩き付けが行った。

 巨大質量の格闘攻撃は、風圧を伴い、ビルが丸々一つ迫ってくるような圧迫感が襲い来る。

 今度は左の豪腕を使って、蹴り上げてくる足に殴りつける。

 衝撃波が衝突点から起こり、空気を揺らす。

 夏凛ちゃんも、六本の刀を拳に叩き付けたみたいだ。

 

 このまま拮抗させるのは、大きな隙になる。

 だからすぐに距離を取ろうと思った。

 さっきの二の舞にはしたくないから。

 けど、衝突した時に少しも隙が出来ないなんてことは無い。

 その、数秒か、一瞬かの隙に、左拳が飛んで来た。

 

 右の豪腕で、何とか防ぐ。

 だけど、力をあまり入れることができなかった。

 叩き飛ばされる。

 計算して飛ばしたのか、飛んだ先に夏凛ちゃんがいた。

 

「え? ちょ!?」

「夏凛ちゃんどいてええええええ!」

 叫ぶも空しく、夏凛ちゃんに激突した。

 

「ぐっ……!」

「わっ……!」

 それでも勢いは止まらず、一緒に吹き飛ばされる。

 樹海の根に、叩き付けられる。

 

「っつううぅ……」

「いたたた……」

 顔を上げて、状況を確認する。

 夏凛ちゃんに抱き付く形で、私が上になって倒れていた。

 

「わっ、夏凛ちゃんごめん! 立てる?」

 すぐに飛び起きて、手を伸ばす。

 

「あ、うん……だいじょう――――友奈!!」

「へ?」

 夏凛ちゃんが物凄い速さで私の後ろに跳んだ。

 背中の方から、デカい塊同士がぶつかったような衝突音と、風圧と衝撃波が襲った。

 それにより前につんのめった後、すぐに振り向くと、夏凛ちゃんが刀で巨人バーテックスの足を受け止めていた。

 私は後ろから蹴り上げられそうになっていたみたいだ。

 夏凛ちゃんが助けてくれなかったら、まずかった。

 あとで煮干しをプレゼントしよう。

 

 それはともかく、早く加勢しないと。

「はあっ!」

 白桜色の豪腕を、夏凛ちゃんと鍔迫り合いをしている足に殴り付ける。

 満開をした二人の、同時箇所攻撃に、流石の巨人バーテックスも足を弾き返される。

 装甲も少し破壊したけど、即座に修復された。

 バーテックスは、足を弾き返されても転ぶことなく、バランスを取って、さらにバックステップもして後退した。

 

 このまま続けていても、埒が明かない。

 でも、さっきからずっと考えてるけど、あの再生速度のバーテックスを倒す手段は浮かんでこない。

 早く対策を見つけないと、その行動をするための体力が無くなってしまう。

 早く閃かないと。

 

 早く。

 早く。

 早く。

 ――――――。

 

 

 気づく。

 考え至る。

 ピコーンというやつだ。

 

 

 頭を叩いたら閃くんじゃないかな?

 

 

 そんな考えが浮かんで来た。

 ほら、昔のテレビも叩くと直るっていうし。

 関係ないかな?

 まあなくてもあってもどっちでもいいや。

 でも自分でやると手加減しちゃいそう。

 他の人にやってもらおう。

 ちょうど隣に、夏凛ちゃんがいる。

 頼んでみよう。

 最悪煮干しに上乗せしてサプリも上げればいいし。

 最悪って何だろう。

 そういえば前の戦闘でもプレゼントしようとか思ってたけどしてないや。

 じゃあ煮干し大盛りにしなきゃ。

  

「夏凛ちゃん! 私の頭を思いっきり叩いて!」 

 

「はあっ!!?? アンタ急に何言ってんのよ!? ここは戦場よ!?」

「戦場だからだよ。バーテックスを倒すために必要なの」

「ふざけてる場合じゃないのよ! 仲間の頭ぶっ叩いて戦況が変わるならとっくにぶっ叩いてるわよ!」

「確かにそうだね!」

「ならなんで言ったのよ!」

 

 ええい、うるさい夏凛ちゃん。

 早く私の頭を叩けばいいんだよ。

 そうすれば何もかも解決――

 

 ゴンッ。

 

「あいた~~~~~~っ!」

 頭に鈍い衝撃が奔った。

 思わず両手で頭を抱える。

 痛い。

 これをやったのは、夏凛ちゃんではない。

 だって目の前にいるし。

 殴る動作してないし。

 振り向く。

 

「友奈。アンタね、ストレス溜まるのも混乱するのも分かるけど、今はそれどころじゃないでしょ。お願いだから気を引き締めて。ここを乗り切りましょう」

「風先輩……」

 そう。私の脳天に拳骨を落としたのは、駄目な部下を見るような眼をした風先輩だ。

「それで、みんなで頑張って終わったら、ストレスも何もかもパーッとみんなで晴らすのよ。だからそこまでは、ね?」

 

 私は、ストレスがたまっていたのだろうか?

 混乱していたのだろうか?

 

 ――多分、していたんだろうな。

 だって、そうでもなきゃ自分の頭を戦闘中なのに叩けなんて、言うわけない。

 そんなに私は弱かったのかな。

 そうでもないつもりだったんだけど。

 

 でも最近、色々な事が起こった。

 厳しい戦いの連続。

 散華について。

 朝陽くんについて。

 そんな色々が重なったせいなのかな。

 風先輩が言うように、気を引き締めなきゃ。

 みんなが悲しまないように、私がなんとかしなきゃだもんね。

 私だけじゃなく、みんなと一緒に頑張ってもいかないと。

 一人だけでは、駄目だ。

 みんなで、協力して頑張るんだ。  

 支え合って、進んで行くんだ。

 だから私も、ちゃんとしないと。 

 

「目が覚めました風先輩。冷静に考えます」

「うん。それならいいのよ」

 風先輩は微笑んで頷く。

 特大砲撃を避けたことで、離れた位置に風先輩と樹ちゃんは居たはずだけど、巨人バーテックスが後退したことで、合流してきたみたいだ。

 樹ちゃんもここに居る。

 

 バーテックスはまた、少し遠くから特大砲撃を放ってきた。

 遠めだったので、危なげなくみんなで散開して避ける。

 牽制のつもりで放ったのかな。

 向こうも慎重になっている。

 驚異的な再生能力を持っていても、決定打に欠ける戦闘に打開策を練っているのかもしてない。

 それだったら、こっちも打開策を打たせてもらうだけだ。

 

 実は、さっき風先輩に拳骨を落とされた時に、思いついていた。

 訳が分からないが、閃いてしまったのだ。

 だからって戦闘になるたびにそうボコスカと叩かれるのは嫌だけど。

 ただの偶然だと思うし。

 とにかく、思いついた。 

 

 ――封印の儀というやつを、忘れていたと。

 

 最近は、朝陽くんの力や満開で、バンバンそのまま倒せていた。

 だから、封印の儀ってなんだっけ? と思うぐらい失念していた。

 封印の儀さん、ごめんなさい。

 でも、今回のバーテックスの再生力は異常だ。

 それなら、封印の儀で御霊を露出させて、それを破壊すれば倒せる。

 そんな簡単なことに、すぐに思い至れなかった。

 みんなも言ってきてないことから、忘れているみたいだけど。

 とにかく、思い出せたのだからそれはいい。

 あとはそれを、やるだけなんだ。

 

「みんな聞いて! 倒す方法思いついたよ!」

 封印の儀のことを、みんなに伝えた。

「盲点だったわ……」

「すっかり忘れてたわね」

 夏凛ちゃんが額に手を当てて言葉を零す。

 風先輩が呆れたように続けて、樹ちゃんがこくこくと頷いていた。

 

「じゃあさっそく行動に移りましょう! 散開して囲むわよ!」

「はい!」

「おう!」

 風先輩が行動開始の声を上げると、私と夏凛ちゃんは短く答えて、樹ちゃんは強く頷いた。

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