愚かな僕は勇者になれない   作:ソウブ

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四十二話 私は諦めない

 それぞれ飛び立つ。

 満開の力で飛行して、巨人バーテックスの元に向かう。

 バーテックスは、飛行している私たちに特大砲撃を放ってきた。

 だけど、一発くらいなら何とか避けられる。

 衝撃波と風圧を撒き散らしながら、特大砲撃はあらぬ方向へ飛んでいく。

 地面を砕き、空気を揺らす。

 だけど、みんな避けれている。

 多かったら、厳しかったけど。

 後ろで蛇達を止めてくれている、朝陽くんと東郷さんのおかげだ。

 それによって、巨人の特大砲撃だけで済んでいる。

 私達は何度も特大砲撃だけを避けながら、巨人バーテックスに肉薄した。

   

 近づいてすぐ、格闘攻撃を仕掛けられる。

 迫り来た右拳の殴りを、豪腕の横殴りで逸らして、駆ける。

 少し衝撃によろめいてしまったけど、何とか体勢を立て直して進む。

 みんなもそれぞれ、蹴りや拳を、避け、逸らし、何とか乗り切った。

 

 乗り切った後、四方に散らばって、即座にみんなでバーテックスを囲んだ。

「封印の儀、いくわよ!」

「了解!」

「任せなさい!」

 和風の白い魔法陣みたいなものが、バーテックスの下に出現する。

 バーテックスは、一瞬動きを止めた。

「とっとと御霊をベロンッと出しなさい!」

「早く倒されて! 朝陽くんが戦ってるの!」

「消えろ!」

 それぞれ魂を込めた言霊(ことだま)をぶつける。

 すると魔法陣から、カラフルな花弁のような光の粒が大量に溢れ出し、バーテックスは完全に動きを止めた。

 

 そして。

 御霊が巨人バーテックスの腹から、吐き出される。

 いつも通りの、角ばったコマの様な見た目だ。 

 

 

 ――――刹那。

 目の前が、見えなくなった。

 白、白。

 目が痛いほどの白が、視界を埋め尽くした。

 なぜ目が痛いか。

 それは、光だからだ。

 なんの?

 それは――

 

 

 強烈な衝撃が、全身に奔る。

 その場から、ジェットコースターでいきなり移動させられたように、吹き飛ぶ。

 地面に、樹海の根に、何度もバウンドして身体を打ち付けながら、遠く飛ばされる。

 痛みと混乱と視界の大きい揺れで、何も考えられないまま転がり飛び続け。

 

 やっと、止まった。

 

 何が、起きたの?

 全身傷だらけで、痛くて痛くて、血が出てて、倒れてて、すぐに、立ち上がれそうもなくて。

 御霊を、破壊しようとしていたはずだ。

 それで、御霊が出てきて。

 それから?

 すぐ後には、こんなことになった。

 なんで?

 顔を、痛みが奔りながらも持ち上げて、辺りを見回す。

 

「――っ!」

 前方。

 遠く向こうの方。

 

 ――――そこに、全方位に砲撃を間断なく放ち続ける、御霊が浮遊していた。

 あれに、やられたんだ。

 それで、吹き飛ばされたんだ。

 至近距離から、みんな直撃を受けてしまっただろう。

 それぞれ飛ばされたはずだ。

 みんな無事かな。

 無事でいてほしい。

 無事じゃなきゃ、嫌だ。

 

 シュウシュウ、とか、ジュワッ、とか、そんな奇妙な音が耳に入った。

 音がした方向に目を向けると、枯れていた。

 巨樹が。

 枯れている。

 樹海が、枯れていってる。

 カラフルな色をした根達が、シュウシュウと音を立てて黒ずんでいく。

 

 確か、前に風先輩が言ってたっけ。

 長い間バーテックスを封印してると、樹海が枯れて現実世界に悪い影響が出るって。

 魔法陣みたいなのに出ている数字は、私たち勇者のパワー残量で、零になるとバーテックスを押さえつけられなくなって、倒せなくなるって。

 

 なら、早く立ち上がって、倒さないと。

 手遅れに、なる前に。

 

「……っ……んっ……」 

 何とか、痛みに耐えながら立ち上がる。

 血がポタポタと、地面に落ちて、樹海に赤い染みを作る。

 でも、腕も、足も、まだまだ動く。

 動けるのなら、戦える。

 だから、バーテックスを倒す。

 

 最初はよろめきながらだったけど、走り出す。

 途中から、よろめくことはなくなった。

 走る。

 走れる。

 いまだに御霊は砲撃を止めることは無い。

 もうすぐ、その砲撃の射程範囲に入る。

 それでも足は、止めない。

 

 ――入った。砲撃の射程範囲に。

 砲撃はすぐに目の前に、やって来る。

 白桜色の豪腕を、叩き付けた。

 数秒の拮抗。

 その後、砲撃は豪腕に吹き散らされ、消滅した。 

 

 全然、戦える。

 特大砲撃ほど、強い砲撃というわけじゃない。

 消滅させられる範囲内の力だ。

 

 だけど、間髪入れずに砲撃はやって来る。

 それを、何度も何度も、交互に、豪腕を叩き付けて消滅させていく。

 少しずつ、前に進んでいく。

 

「あああああああああああああ!!」

 声が、聞こえた。

 張り上げている、叫んでいる声が、聞こえた。

 この声は、夏凛ちゃんかな。

 悲鳴とかじゃない。

 裂帛の気負いを入れているような声だ。

 夏凛ちゃんも、近づいてきている。

 私と同じように。

 そういうことなんだろう。

 それなら、風先輩も樹ちゃんも同じはずだ。

 ダメージがひどくなければ、多分来ている。

 見回す余裕がない。

 状況確認が出来ない。 

 間断なく、砲撃は次々と来る。

 視界は常に白一色だ。

 これ倒せるの?

 いや、駄目だ、疑問に思ってはいけない。

 倒せると信じて前に突き進む以外に、結局やれることは無いのだから。

 だけど、冷静さも必要だ。

 冷静に、諦めることなく、進む。

 このまま砲撃を消滅させながら御霊に近づいて、攻撃を浴びせればいい。

 本当にそうなのかな?

 そもそもこんなに進むのが遅くて、体力が持つのかな?

 分からない。けど、進むしかない。

 今にも、倒れそうだけど。

 痛みと疲労で、砲撃に対処するのが、厳しくなってきている。

 このままじゃ……。

 なにか、打開策。

 別の、方法。

 冷静に、状況判断をして、考えるんだ。

 冷静、冷静、冷静。

 

 ――あ、忘れてた。

 前回の戦いで、初めて満開をした。

 その時に、戦いの後変わったことがある。 

 

 精霊が、増えたんだ。

 火車(かしゃ)っていう、かわいい火の猫みたいな精霊。

 その子の力を、使ってなかった。

 それを、試してみよう。

 そうすれば、何か変わるかもしれない。

 かもじゃない。変わるんだ。

 だって、新しい仲間の力なんだから。

 

「火車、来て!」

 呼んで間を絶たず、火車は私の横に現れた。

 すると、白桜色の豪腕が、赤く燃え上がった。

 私はまったく、熱くない。

 これは特別な炎だ。

 精霊の力。

 その炎と、元の牛鬼の力が合わさり、破壊力がさらに増す。

 砲撃を消滅させることができる時間が、短縮された。

 

「炎の勇者パンチ!」

 自分を鼓舞するために叫びながら、豪腕を繰り出す。

 砲撃は、数秒の拮抗だったのが、一秒くらいに短縮された。

 前より格段に効率が良くなり、進んで行く。

 近づく。

 もうすぐ、御霊に辿り着けそう。

 前が良く見えないから、距離からの憶測でしかないけど。

 もうすぐなんだ。

 あれを破壊すれば、こっちの勝ちなんだ。

 だから、私の身体、動いて。

 ちゃんと、動いて。

 もっと、動いて。

 鈍く、なってるよ。

 せっかく、火車の力も使って、良い方に向かってるのに。

 動けなくなったら、意味ないじゃん。

 体力が、底をつきそうだ。

 腕が、上がらなくなっていく。

 だけど、無理矢理持ち上げて、砲撃に叩き付ける。

 もっと、もっと、もっと。

 前へ、前へ、前へ。

 叩き付ける、殴り付ける、連続で、交互に。 

 

 ――御霊が、見えてきた。

 相変わらず、砲撃を間断なく全方位に放っている。

 エネルギーに底が無いのではないかと思うほど、ずっと、一撃放っては、間髪入れずに次の一撃を放っている。 

 あれにもうちょっと近づくだけで、炎の豪腕を叩き付けて破壊することができる。

 前へ、前へ。

 殴り付ける、殴り付ける。

 近づいている。

 着実に近づいている。

 あと、少しだ。

 あと、ほんのちょっと頑張れば、倒せるんだ。

 だから、動いてよ。

 血が出てるけど、痛いけど、頑張ってよ。

 無理矢理に、何度も何度も身体を動かす。

 ただ、殴り付けて、前に進むことだけを考える。

 ゆっくりでも、進んで行く。

 

 ――着いた。

 御霊に、炎の豪腕を叩き付けられる範囲内。

 すぐ、近く。

 横に、みんなの姿もある気がする。

 三人も、私と一緒で新しい精霊の力を使ったのかな。

 そういえば、夏凛ちゃんだけは新しい精霊がいなくて、悔しそうにしてたっけ。

 その代わり義輝が強化されてたけど。その力を使ったのかな。

 この至近距離だ。砲撃も、威力も速度も、最大になっている場所。

 早く、御霊を壊さないと、こっちが持たない。

 砲撃を放った後の、ほんの少しの、数秒もない間隙(かんげき)

 そこで、一気に畳みかける。

 

 

 ――――――。

 

 ――前もうまく見えない白い世界が、さらに、眩く輝いて、染まった。

 

 

 衝撃。

 衝撃?

 衝撃かすら疑問に思うほどの、尋常ではない衝撃が、襲った。

 これには、何の抵抗も出来なかった。

 吹き飛ばされる。

 ジェット機でいきなり運ばれたかのように、吹き飛ぶ。

 もう、何も見えない。

 視界が、良く分からない。

 何もかも、分からない。

 何が、起きたんだろう。

 推測は出来る。

 というかそれしかないだろう。

 御霊が、何かをしたんだ。

 多分、眩く、さらに強い光が見えたから、大方、間断なく放っていた砲撃より、さらに強い砲撃を一斉射したんだろう。

 それには、体力がほとんど無かった私は、どうすることも出来なかった。

 なせば大抵なんとかなるのに。

 もっと、やれるはずなのに。

 どうして、踏み止まれなかったんだろう。

 全身全霊を尽くして、ほんの少しでも踏み止まれれば、ただ一撃豪腕を叩き付けるだけで、勝てたのに。

 だけど私は、吹き飛ばされた。

 今は、他の三人の誰かが吹き飛ばされないでいて、御霊を破壊してくれることを祈るしかない。

 私がもっと強かったら、朝陽くんに戦わせることも無かったのに。

 朝陽くんに戦わせた上で、倒すことも出来ないなんて。

 もっと、強くなりたい。

 誰も傷つかせたくない。

 朝陽くんに、笑っていてほしい。

 地面にぶつかり、何度も転がって、止まる。

 全身傷だらけで、仰向けに倒れる。

 立てない、動けない、感覚がいくらか無い。

 息はヒューヒューと荒く、視界は鮮明ではない。

 見上げた空は、青くなくて、白い雲も無くて、

 淡い白色に、染まっていた。

 

 

 ――――いや。

 諦めちゃだめだ。

 弱気になっちゃだめだ。

 ここで終わってしまうなんて、そんなのいいはずがない。

 辛くても無理でも、立たなくちゃ。

 勇者部五箇条、なるべく諦めない。

 弱気も何もかも吹き飛ばして、立ち上がるんだ。

 そして、御霊を壊す。

 バーテックスを倒す。

 そうすれば、今回の戦いは終わる。

 だったら、立つんだ。

 立って、前に進んで、豪腕で以って御霊を壊す。

 ただそれだけでいい。

 それだけで、解決。

 みんなを、守れる。

 

「……っ……っ……!」

 痛みに耐えながら、腕をついて体を起こそうとする。

 やっぱり痛いけど、これぐらい耐えて見せる。

 じっとしてたところで、痛いものは痛いままだ。

 だったら、行動するべきなんだ。

 やってみせる。

「……っ、はぁっ……っ」

 何とか、体を起こせた。

 血が(したた)る。

 地面は赤く汚れる。

 骨がどこか、折れているかもしれない。

 それでも、立ち上がる。

 足を動かし、ぎこちなくても、立つ。

 立った。

 いけた。

 後は、前に進む、そして、御霊を壊すだけでいい。

 

 私は、諦めない。

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