蛇の砲撃が、一斉に僕に向けて放たれる。
避ける事は、出来ない。
この量、速度、どれを取っても避けるのは容易ではない。
だったら、真正面から潰せばいい。
力を、使えばいい。
何度も。
何度でも。
念じる。
引き出す。
白銀の粒子が、剣に集まる。
煌めく聖剣を、真一文字に振り抜く。
白閃。
剣閃が伸び、砲撃全てに命中する。
爆発。
爆発。
爆発。
砲撃は、
爆発の煙が晴れても、蛇共は僕から目を逸らす事無く、ずっと体をこちらに向けている。
どうやら、僕を一番に排除すべき脅威と認識してくれたようだ。
それでいい。今は時間を稼がなければならない。
これで引き付ける事が、出来る。
「さあ、来い。来い。何度でも来い! 全て粉砕してやる!」
僕の言葉を聞いたからではないだろうが、蛇が再度砲撃をしてくる。
それを、力をまた引き出して対処しようとした。
だが、空色の砲撃が、蛇のレーザー砲撃に飛んできて、それは中断される。
東郷さんは、戦艦に八門ある空色の砲撃と、さらにファンネルの様な宙を飛び交う複数の機械を操っている。
そのファンネルからは、空色のビームが射出されている。
遠隔誘導攻撃端末といったところか。
東郷さんは何らかの理由で新しい武器が使えるようになったということなのか?
満開をしたからなのだろうか。僕はその辺を知らない。
でも今はそれはいい。重要なことではない。
戦いに、集中だ。
東郷さんは、八門から発射される砲撃と、遠隔誘導攻撃端末のビーム。
その大量の遠距離武器を巧みに操り、東郷さんは蛇のレーザー砲撃を全て消滅させていった。
だけど、全て消滅させた後に、すぐにまた蛇共はレーザー砲撃を放ってくる。
今度は、一斉ではない。
半分が、最初に来た。
東郷さんは、砲撃やビームを大量に撃った後だ。
すぐには撃つことは出来ないだろう。
だから僕が、また力を引き出して、対処しなければならない。
念じて、引き出す。
横薙ぎに、振り抜く。
砲撃は、爆発し、消滅する。
だが、間髪入れずに、一斉に放たなかった残りの半分の蛇が、レーザー砲撃を放ってくる。
僕は、剣を振り抜いたばかりだ。
対処、出来ない。
直撃する、かと思われた。
だけど、東郷さんが頑張ってくれた。
空色の砲撃と攻撃端末のビームが、砲撃に降り注ぎ、僕は護られる。
砲撃はまた全て、消滅した。
これを続けていれば、時間を稼げる。
何も蛇共を再生させずに駆逐しなければならないわけではない。
四人が本体の蛇遣いを倒すまで、時間を稼ぐことさえ出来ればいいんだ。
蛇共は、また砲撃を放とうとしている。
だが、今度も、手を変えてきた。
蛇は全て、僕を向いていない。
かといって、東郷さんの方を向いているわけでも、本体に向かった四人の方向に向いているわけでもない。
下だ。
地面。
蛇共は、真下を向いている。
何故?
何の意味がある?
そこには誰もいないぞ。
疑問が脳裏を通り過ぎていくが、そんなことはすぐに蛇共が教えてくれた。
真下に、一斉に放たれるレーザー砲撃。
すると、どうなるか。
どうなったか。
こうなった。
地面に、樹海の根に、砲撃は爆発し、爆散しながらぶち当たる。
地が砕け、根もバラバラに吹き飛び、樹海が攻撃される。
だが、奴らの本命はそれじゃない。
樹海が攻撃されているのは、この行動の副産物に過ぎない。
吹き飛んだ地面が、巨樹の根が、僕と東郷さんの視界を、塞ぐ。
飛び散った地の塊と、根の破片が僕に降り注ぐ。
これが、蛇共が狙った事だろう。
間髪入れずに、再度レーザー砲撃が一斉に放たれる。
いろんな角度から、砲撃が迫り来る。
だが、視界は不明瞭。
降り注ぐ地面の欠片や根に対処するために、剣を振っている。
振らなければ、爆散されて凄まじい速さで加速された根に、身を蹂躙されるだろう。
それでも全て防げるわけじゃない。根の破片は腹に突き刺さり、肩に突き刺さり、腕に突き刺さり、身体を掠めていく。
超速化していたら別だっただろうが、力を引き出す間もなかった。
このままでは、砲撃に対応できない。
東郷さんの、戦艦砲撃が放たれる。
巻き上げられた地面に視界を邪魔されながらも、僕に当たらない範囲で撃ってくれたのだ。
砲撃ではなく、蛇を狙っている。
蛇は即座に再生してしまうが、攻撃は中断されると思ったのだろう。
空色の砲撃は、蛇に直撃していった。
レーザー砲撃は無事、中断されていった。
だけど、全ての蛇に命中させられたわけではない。
当然だ、視界は明瞭ではないのだから。
その残った蛇のレーザー砲撃は、僕へと襲い来る。
かといって、避けられない。
飛んでくる地面や根の破片を捌くので精一杯だ。
でも、このままでは消し炭になってしまう。
何とか、跳ぼうとする。
けど、無理だった。身体を捻る事ぐらいしか出来なかった。
複数の砲撃が僕のすぐ近く、または隣、地面、身体に直接、命中した。
ボロ雑巾の様に、吹き飛ばされる。
身体の色々な部位が、千切れ飛んだ。
赤い鮮血が樹海に水を撒く。
ズザッと地面に身体を擦られながら、バウンドして転がっていく。
痛い。痛かったと言った方が良い。もうそんな感覚すらない。
破片が刺さってた時の方が、凄まじく痛かった。
というか、普通ならもう数秒もしないうちに死ぬ。
だけど僕は――
転がりが止まって、倒れている僕。
白銀の粒子がブワッと沸き出す。
身体に満遍なく、隙間なく、浸透する。
快感と不快感が、同時にやって来る。
暖かいような、寒いような、相反する感覚。
千切れた身体は再生され、血液は満たされ、感覚も戻って来る。
そうして無理矢理、命を繋ぎ止められる。
エリクサー。そんな単語が頭に浮かんだ。
無理矢理生かされるでも、別にいい。
僕は、死にたくなんてないから。
全快したら、即座に立ち上がった。
蛇もすぐに再生したのだろう、無数の蛇は、全て健在だ。
間を置かず、蛇は次の行動に出た。
こいつらは、手を変え品を変え、襲って来るな。
猪みたいに、単純な一つの事しか出来ない奴らだったら、どれだけ楽だったろう。
そんな僕の思いが届いたのか、蛇共は突進してきた。
勿論、猪みたいに単純ではなかったけれど。
むしろ、今まで蛇共がした中で、一番厄介な攻撃だ。
無数の蛇が、それぞれ規則性も無く、時間を空けて、動きも変えて、突進してくる。
僕にも、東郷さんの方にも。
その上、突進だけではない。
砲撃も、やはり規則性なく、放ってくる。
スクランブル交差点のようだ。
こんな殺伐としてはいないけど。
白刃で蛇を跡形も無く吹き飛ばしても、奴らは即座に再生する。
砲撃を消滅させても、規則性なくまた次の砲撃がやって来る。
しかも、全方位だ。
無理だ。
こんなの、どう対処すればいいんだ。
考えろ。
そんな時間は無い。
でも考えろ。
僕は、すぐに判断した。
即断即決だ。
でないと死ぬ。
力を急いで引き出し、超速へと成る。
突進してきた蛇を切り飛ばす。飛んでくる砲撃を破壊する。
全方位に神経を研ぎ澄ませ、斬って、斬って、斬りまくる。
東郷さんは、砲撃を、攻撃端末のビームを、何発も何発も撃っている。
いつまで、持ってくれるだろうか。
僕も、超速の超人へと、成りはした。
だけど、なにしろ数が多すぎる。
その上、囲まれている。
突進からの咬み付きで、脇腹が抉られる。
砲撃が近くの地面に衝突した衝撃波で、身体が軋む。
時間が経つごとに、大きく消耗していく。
間断なく襲い来る蛇と砲撃。
いくら倒しても、消滅させても、切りが無い。
それでもみんなが本体を倒すまで、ここは乗り切ってみせる。
僕が時間を稼ぐって、言ったんだ。
なら、それぐらい全うして見せろ。
やるんだ、僕は。
やれるんだ、僕は。
やる。
やる。
やる。
やる。
やれない訳がない。
いつ終わるかも分からない砲撃の雨の中、ひたすら剣を振り続ける。
身体を、動かし続ける。
東郷さんが心配だ。
まだ持っているだろうか。
確かめる余裕すらない。
それでも剣は振り続ける。
身体が抉られ、へしゃげる。
意識が朦朧としてきても、剣だけは振り続ける。
身体が満足に動けなくなっても、勝手に力が全回復させて来る。
だから、振り続ける。
何度も。
何度でも。
幾らでも。
振る、薙ぐ、叩き付ける。
そうして、どれくらい経っただろう。
何回、蛇と砲撃を消し飛ばしただろう。
いきなり、急に、一瞬で――
蛇共が、方向転換をした。
それはもう、統率されたように一斉に。
四人の、行った方向に。
蛇遣いの、本体がいる方向に。
一斉に、飛んでいく。
見ると、本体の身体から御霊が出ていた。
それが、砲撃を全方位に間断なく放っている。
――御霊が露出したから、本体を守ることを優先したのか。
だけど、そうはさせるか。
一瞬だけ、東郷さんの方を振り返る。
戦艦がほぼ崩壊して、ふらふらと今にも墜落しそうだったが、生きている。
ちゃんと、生きている。
それさえ分かれば、問題ない。
僕は前に向き直り、蛇共を追おうとした。
レーザー砲撃が、放たれる。
全ての蛇が、本体に向かったわけではなかった。
残った、三分の一ほどの蛇が、僕の邪魔をする。
砲撃を、放ってくる。
突進からの咬み付きを、仕掛けてくる。
「邪魔を、するなああああああああああ!!」
いったん超速を解除し、力を引き出す。
白銀の粒子が白刃に集まり、光り輝く
真一文字に、ツヴァイヘンダーを薙ぐ。
前を塞ぐ、邪魔な蛇共は一瞬で消滅した。
――だが、刹那の後には再生している。
先に行った蛇共は、もう御霊に辿り着きそうだ。
みんなが、危ない。
まずい。
どうする。
早くしないと。
蛇が邪魔だ。
だけど蛇は倒せない。
倒せないのなら、相手をしている意味は無い。
時間稼ぎは、今の状況では意味を無くした。
なら、どうすればいい。
御霊は、すでに露出している。
だったら、それを破壊して終わらせればいい。
本体を倒せば、蛇共も消えるだろう。
消えるはずだ。
消えてくれないと困る。
離れたここから、御霊を破壊する。
蛇共が邪魔で、近づくことは出来ないから。
たとえ近づけても、あの全方位砲撃をどう対処すればいいかは分からないけど。
とにかく、ここからあの御霊を壊せばいい。
その方法は、知っている。
前にも、やったことだ。
強力な遠距離攻撃。
僕は前にも、一度それをやった。
だが、間断なく砲撃と突進はやって来る。
それを気にせず、避けながら、自らの奥底に念じる。
白銀の粒子が、白刃に纏わり付く。
白刃は、形状を変化させていく。
白き剛槍へと、成った。
総てを貫く聖槍。
アリエス・アクエリアス・クラスターを貫いた、最強の投槍。
蛇共が、突進してくる。
構わず、全身全霊を以って投擲する。
ドオォッッッッッッッッ!!!!!!
蛇共が、僕に喰らい付く。
四肢を、喰い千切られる。
だが、倒れ行く中、僕は見る。
聖槍は、御霊が全方位に間断なく放っている砲撃すら貫いた。
けれど、減速した。
二撃ほど砲撃を浴びせられた聖槍は、著しく速度が落ちた。
でも、遅いというほどではない。
まだ、貫ける範囲の威力はあるはず。
そう思った。
聖槍が御霊まで辿り着く。
そのまま、貫く――そんな想像が頭を駆け抜けた。
けれど、想像だけで終わった。
そんなに甘くなかった。
希望的観測は、裏切られる。
白銀の聖槍は、御霊を貫けず、ほんの少し抉っただけで完全に勢いが消失し、粒子となり消えて無くなった。
――終わった。
聖槍が効かなかった時点で、僕に打つ手は無い。
四肢は、蛇共に喰い千切られとうに亡い。
動ける身体が今は無い。
動けなければ、何も出来ない。
絶望。
その二文字が、脳裏に浮かび上がった。
ここで、終わりなのか?
こんなところで、終わりなのか?
なんでだよ。嫌だよ。ふざけんなよ。
何か方法は無いのか。
四肢が無くとも、思考は続いている。
だから、何か。
けど、身体が無ければ考えがあっても実行できないのは同じ事。
無理だ。
終わりだ。
このまま僕達は――――――
桜色が、視界に映った。
それは、遠く。
御霊の近く。
翻る桜色。
それは。
あの色は。
「勇者パアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンチ!!!!」
――友奈だ。
ここまで届くほどの、友奈の叫び。
そのすぐ後。
固く重い物体同士が激しくぶつかり合ったような、衝撃音。
友奈が、白桜色の豪腕を、御霊に叩き付けた。
御霊は罅割れ、瓦解し、砕け散った。
刹那の間。
御霊が破壊されたことで、巨人バーテックスは砂となって消えた。
同時に蛇共も、砂となって消える。
僕は、血を体中から噴き出させながら倒れる。
だけど構わない。
襲って来る蛇共はもういない。
そして僕は、すぐに全快するのだから。
それを邪魔されることは無い。
ほら、来た。
白銀の粒子が、身体に浸透する。
身体が、急速に再生されていく。
僕はすぐに、元の傷一つ無い健康な状態へと戻った。
視界が、白く染まる。
樹海から、元の世界へと帰還する。