愚かな僕は勇者になれない   作:ソウブ

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四十八話 打開策

 気づいた時。

 急に。

 脈絡なく。

 ぶつ切りの様に。

 一寸で。

 一瞬で。

 刹那の間すらなく。 

 

 僕の意識は、在った。

 

 この場所にいるのは、これで三度目。

 さっきと、この樹海に来た時と、また同じ光景。

 確信する。やはり最初に、戻っていると。

 なら――――

 

「友奈っ!?」

 友奈が、いるはずだ。

 生きているはずだ。

 生きてなきゃ可笑しい。

 生きてなければ僕は死ぬ。

 目を血眼にしながら、探す。

 はたして――――

 

「朝陽くん……?」

 友奈は、いた。

 寸分違わぬ姿で、前の時と全く同じ場所に。

 生きていた。

 生きていたんだ。

 生きていたんだ!

 

「友奈!」

 すぐさま走り寄る。

「わぷっ!? 朝陽くん!? どうしたの!?」

 思わず、抱きしめてしまった。

 僕の胸に顔が(うず)まっていて、ジタバタする友奈。

 嫌がっているかもしれない。

 でも、本当にここにいるのか確かめたかったんだ。確信したかったんだ。

 大丈夫だ。友奈の感触も、匂いも、温かさも、ちゃんとある。

 友奈は、ここに、存在している。

 意思を持って、何者にも侵される事無く、存在している。

 

「朝陽くん……? 泣いてるの……?」

「え……?」

 心配そうな友奈に指摘されて気づいたら、僕の頬は濡れていた。 

 けれど、これは嬉し泣きだ。

 だって、友奈が生きていたんだ。

 嬉しすぎて、涙が出るなんて当然のことだ。

 友奈が、ぎゅっと抱き返してきた。

 

「私がいるから、大丈夫だよ。みんなで立ち向かうって決めたもんね。だから、泣くことなんてないんだよ。何かあったら、みんなで解決すればいいんだから」

「うん……うん……」 

 僕は二度、頷いた。

 ここにみんなはいないけれど、友奈しかいないけれど、それでも、僕はその言葉に救われる。

 だからまだ、立ち上がれる。

 もうあんな思いはしたくない。

 友奈が殺される光景なんて、見たくない。

 絶対に、守って見せる。

 この命に、代えてでも。

 

「友奈、悪いけど今は何も聞かずに一緒に逃げてくれ」

 抱きしめていた友奈を話し、精一杯の真面目な声色を出して言う。

「うん、いいよ」

 友奈は、即答した。

「え、自分で言っといてなんだけど、そんなすぐに判断しちゃっていいの……?」

「だって朝陽くん、今すごく焦ってる。きっと時間が無いんだよね」

 確かに、時間は無い。

 星屑は今も接近しているだろうし、変身も前に二回ともできなかったから、今回もできない可能性は高い。

 だからすぐに逃げて、隠れる必要がある。

 変身ができるかどうか確かめるのは、隠れてからでもいい。

「けど、それにしたって――」

 

「私は、朝陽くんを信じてるから」

 

 桜咲く微笑み。

「あ…………」

 こんな状況だってのに。

 僕は、見惚れてしまった。

 

「だから早く、行こう」

 硬直していた僕は、友奈に手を引かれて走り出す。

 僕が手を引いて、守らなければならないのに。

 僕の方が、守られているみたいだ。 

 だけど。

 友奈のその信頼には、応えなければいけない。

「朝陽くん、どっちに行けばいい?」 

「こっち」

 今度は僕が、友奈の手を引っ張る。

 とにかく、星屑がやってくる方向から、できるだけ反対方向に。

 行けるところまで、遠くに。

 そして隠れて、それから解決策を考える。

 走る、走る。

 今回は恐怖に足が竦むことなく立って、走れている。

 もうあんなことは、繰り返したくないから。

 二人で一緒に、両の足を動かし続けた。

 

 

 

 僕たちは今、樹海の、大きな根の下。

 影になっている部分に、隠れている。

 星屑の方が圧倒的に速いから、奴に視認される前にどこかに隠れる必要があった。

 ここは神樹の根が跋扈する樹海だ。だから、こういう隠れる事ができる場所はいくらでもある。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 友奈と二人で、影に座り込んで息を整える。

 しばらくすると、喋れるほどになった。

「友奈、変身はできる?」

 希望は薄いけれど、一応聞いてみた。

 もしも変身できたら、跳び上がって喜ぶけど。

「ちょっと待っててね」

 友奈はスマホを取り出して、画面をタップする。

 けれど、変化はない。

 何度もタップするが、何も起こらない。

「無理みたい……」

「やっぱり、そうか……」

 期待はあまりしていなかったが、それでも落胆は隠せない。

 

 僕も銀に呼び掛けたり、拳を掌に打ち付けてあの力が使えないか試してみたが、無理だった。

 銀からの返事は依然として無いし、白銀色は出てこない。

 白銀色は、出てきたとしてどうするんだということになってしまうけれど。

 この状況を打開する事が出来る力に縋りたいんだ。

 だけど、もう絶対に使わないと決めたんだ。

 どっちにしろ使えないから意味の無い葛藤だってのは解っている。

 けれど、使えたとしてまた僕が使ってしまうようなら、変われていない。

 同じような間違いを繰り返すだけだ。 

 人間そう簡単に変われるものではないと解ってはいる、しかし、変わろうとする意識さえなくなったら、終わってしまう。

 だからあの力が在ったとしても、絶対に、必ず、何が遭っても、行使してはいけない。

 

「朝陽くん、それで、何があったの?」

 思考の波を泳いでいると、友奈が話しかけてきた。

 そうだ。まだ友奈に一緒に逃げてきた理由について話していなかった。

「そうだね、話すけど、すごく荒唐無稽だよ?」

「それでも話してみて。それに、荒唐無稽なら今さらだよ」

 

 それは、この樹海に来てからのことか、それとも最初にバーテックス関連の問題に巻き込まれたときからのことか。

 どっちでもいいことだけれど。

 だけれど、友奈の言ったことは、それもそうかと思うには十分だった。

 本当に、今さらだ。

 

「じゃあ話すけど。星屑っていう、バーテックスと同類だと思う化け物が来てるんだ。そして、今も確認したように変身はできない。戦う力がないんだ。他のみんなもいない、僕たちだけなんだ。そうして僕は、僕たちは、殺された。だけど、最初にこの樹海に来た時に戻っていたんだ。つまり、時間が戻っていた、過去に戻っていた。今は、三回目だよ」

 一気に話してしまったけれど、もっと順序立てて説明すればよかったかな。

 こんなこと一気に捲し立てられても理解が追い付かないだろう。

 説明とか、苦手だ。

 

「えーっと、つまり、バーテックスみたいなのが今も私たちを探してるってこと?」

「まあ、簡単に言えばそうだね。目下の問題はそいつが襲って来るからだし」

 死んでもループするというのは、問題というよりもただ不可思議だというだけで、むしろ助かっている。

 戻っていなければ、あの時に死んでそれで終わっていたはずだから。

「それで、三回目? 過去に戻ったっていうのが、荒唐無稽なこと?」

「うん。そうだよ。信じられないかもしれないけど」

 友奈は僕の下手な説明でも、順番になんとか噛み砕いていってくれている。

 

「本当に荒唐無稽だけど、信じるよ。だって、朝陽くんの様子を見れば一発でわかるもん」

「わかる?」

「うん、嘘を吐いてないって顔に書いてあるから」

 友奈は笑って、そう言った。

「え」

 やはり僕は、そんなにもわかりやすいのだろうか?

 前にも、顔を見ればわかるとか言われた。

 でも顔に出やすいとか、自分ではわからない。

 普通にしてるつもりなんだけどな。

 

「とりあえず信じたけど、これからどうしよう?」

「どうしよう、か……僕も分からないんだ……だから隠れてるんだけど」

 しばらく二人で黙り込む。

 けれど、黙って考え込んでも、打開策は僕の脳から弾き出されてこない。

「一体どうすれば…………」

 

「そうだ! ここは樹海なんだから、神樹様に助けてもらうのはどう?」

「神樹に……?」

「変身できないのは、神樹様に何かあったからかもしれない。だから、直接助けてもらえばいいんだよ」

「そう、か」

 そうなのだろうか?

 確かに、変身ができないのは、理由があるはずだ。

 神樹に何かあったのなら、その理由に直結する。

 けれど、何かあったなら何かあったで、僕たちを助けれる状況なのだろうか?

 そもそも、友奈はともかく僕を助けてくれるだろうか?

 でも、僕にはもうあの力がない。ならば可能性はあるか?

 色々な疑問が、懸念事項が、頭を流動する。

 

「それか、この樹海が今までの樹海と違うなら、探し回っていれば何か解決する方法がある可能性もあるよ」

 この樹海内に、解決法。

 今までと違うのなら、確かに何かあるかもしれない。

 薄い希望だけれど、零ではない。

 化け物を斃せる何かが、在るかもしれない。

 

「だから希望を捨てず、二人で頑張ろう。力を合わせれば、きっとなんとかなるよ。なせば大抵、なんとかなるだよ」

「うん。勇者部五箇条は、忘れずにいないと」

 それを意識して、実行していかないと。

 

「それじゃあ――――」

 とりあえず立って動こうか。

 そう言おうとした。

 言おうとしたんだ。

 けど。

 言えなかった。

 

「あ――」

 星屑が、恐悪な歯をギラつかせながら、僕たちのいる根の陰を、覗き込んでいた。

 奴に目なんてないけれど、目が合った気がした。

 

「朝陽くん……あれが……?」

 友奈の言葉には、受け答える事が出来なかった。

 声が思うように出せない。息すら詰まる、止まる。

 状況にのまれてしまっている。この後呑まれることになるんだろうけど。

 慣れない冗談が思考から出た。

 全然笑えない。

 

 大口を開け、獲物に飛び掛かる猛獣の如く突っ込んでくる。

 猛獣など可愛いものだ、と思えるほど、星屑という化け物の歯は、口腔は、狂気に兇器(きょうき)じみていて、恐ろしい。

 

 今の僕たちの速さなど、星屑に比べれば赤子のようなものだ。

 ここまで接近されて逃げられるわけがない。

 避けられるかも怪しい。

 というか無理だ。出来るわけないだろ。

 でも。

 

 誰かが代わりに襲われていれば、別かもしれない。

 どっちにしろ今は、奴は友奈に一直線に突進している。

 飛び出す以外の選択肢など、無かった。

 地を蹴り、跳び、友奈を突き飛ばす。

「あ……」

 友奈の声。

 聞こえる同時。

 また一回目と同じような状況だな、と、そんな冷静だか呑気だか分からない思考が、脳裏で浮かんだ。 

 

 当然、友奈を突き飛ばしたらその位置に僕が来るわけで。

 友奈の元いた位置に僕がいれば、どうなるかなんて誰でも解る。

 

 僕は兇器に、喰い千切られた。

 血飛沫が上がる。 

 一瞬で、意識は闇に呑まれた。

 

 

 

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