愚かな僕は勇者になれない   作:ソウブ

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五話 登校

 登校しようと家から出てすぐ、友奈が隣の家の前に立った。

「ここは東郷さんっていう私の大親友の家なんだっ。あの時一緒に戦っていた勇者の一人だよ」

『……!?』

 嬉々とした顔で説明してくる。

 そして銀が反応した気配。

 東郷さん? ああ、鷲尾須美(わしおすみ)さんだった人か……。

 銀が気にするのも頷ける。

 記憶は刺激しないようにしないといけないんだっけか。

「へえ、そうなんだ。それで、一緒に登校しようっていうこと?」

 家の前で立ち止まったっていうことは多分そうなんだろうと思って聞く。

「うん! そうだよっ。いつも二人で登校してたからね――朝陽くんはそれでもいい……?」

 こんなところでも友奈さんは気遣ってくれる。

 そこまで気にしなくても良いんだけどな。

「ああ、構わないよ。僕もその人とは会ってみたいし」

 銀の友達がどんな人か気になってもいた。

 戦っていた時はほとんど誰ともコミュニケーションなんて取れなかったし。

 まあ、友奈だけはすごく近くで見たから覚えていたけど。

「わかったよ、それじゃあ呼ぶね」

 安堵したように微笑み、友奈は敷地内に入って行き玄関扉の前でインターホンを押す。

 僕は敷地外の門の前で待っておく。

 なんか、僕まで一緒になって入って行くのは気が引けた。

 僕は本来人見知りなんだ。

 強く優しくかっこよく常に在ろうとはしているけども。

 門前でボーっとしていたら、友奈が車椅子を引いて戻って来た。

 その車椅子に乗っている人が東郷美森(とうごうみもり)さんなのだろう。

 足が動かないのにどうやって戦うのか一瞬疑問に思ったけど、変身すればどうとでもなるのだろう。

 現に、僕が戦いに割って入ったあの時に、東郷さんもいた筈だ。

 

「おまたせっ!」

「いや、問題ない」

 少し片手を上げて答える。

『…………!? やっぱり……須美だ……それに、あのリボンは……』

 愕然としたように銀が呟く。

「まだ出てこないでよ?」

 小声で銀に忠告する。

 ここは外だ。友奈と東郷さんは説明すればいいが、一般人にも見られかねない。

 友奈に銀の事はまだ言っていなかったが、後で一気に説明すればいいだろう。

『うん……わかってるよ……』

 ちゃんと返事はしてくれた。これで冷静さを欠いて無闇に出てくる事はないだろう。

 そして、東郷さんだが。

 

 一言で言えば清楚な黒髪美人だ。

 黒髪の長髪を、中ほどで水色のリボンで括っている。

 佇まいも丁寧な感じで、まさに大和撫子といった雰囲気だ。

 あと、なにがとは言わないが、でかい。うん、でかい。

 

「はじめまして。私は東郷美森といいます」

「あ、えっと、夢河朝陽です……」

「あの時は、強力してくれてありがとうございます」

「いえ……僕がやりたかったから……」

「でも、あんまり無茶はしちゃ駄目ですよ?」

「え、あ、はい……」

 やべえ……物腰柔らかな美人って話すの超緊張する……。

「これからも一緒に頑張って行きましょう――――ところで――」

 ん……? 雰囲気が変わったような?

「……友奈ちゃんと一緒に住んでいるというのは本当ですか?」

 

 笑顔なのに、なぜか寒気がする……。

 これは――殺気か!?

 東郷さんの後ろにどす黒いオーラが見える気がする。 

 漫画だったらゴゴゴゴゴという擬音が付いてそうなレベルだ。

 これ、絶対怒ってるよね……? 

 なんで……? 僕は何かしただろうか……。

 キョドった態度が気に入らなかったのだろうか。

 いや、友奈と住んでいるのかと聞きながら怒った。ということはそれが理由なのか?

 つまり、年頃の女の子の居る家に、他人の男が一緒に住むのはいかがなものかと言いたいのか。

 確かに、それはそのとおりなんだけど、僕からは何も出来ない。

 出て行くにしても行くところもないし、お金も無い。

 大赦の人に別の所に住まわせてもらうという手もあるかもしれないが、住む場所を提供してもらって、学校の用意までしてもらっておいて、そこからさらに何かを求めるなんて事は出来ない。

 考えてみると、まだ信用し切れていない組織とはいえ結構な借りを作ってしまっているな。

 とにかく、僕に怒られても結局改善は出来ない。

 そもそも僕の所為ではない。

 うん、僕は悪くない。

 そんな理論武装を固めてから。

 

「まあ、そうですけど、すいません……」

 結局ぼそぼそと謝る。

 弱いな僕! 

「いえいえ……別に謝る必要は無いですよ……?」

 黒いオーラ纏わせながらいわれても説得力がないんだけどな。 

「ちょっと、こちらまで来てくれませんか?」

 あ、寒気のするような殺気が消えた。

 さすがに少しばかり常識が無い事で、いつまでも怒ってるという訳は無いか。

 仕方がないという事情も分かってくれてるとは思うし、そういうことなのだろう。

 そう安心して、言われたとおりに近づく。 

 すると、友奈に聞こえないように耳元まで口を近づけられ。

 

「友奈ちゃんに変な事したら、絶対に許しませんからね?」

 

 ヒエッ……。

 怖いっ! この人怖いっ!

 これもう常識の欠如に憤ってるとかそういうのじゃないだろ!

 絶対に何か別の意味だろ!

 やっぱり言動からして、友奈のことが好きすぎるが故なのかな。

 その友情は素晴らしいけど、僕に怒らないで欲しい。

「さ、学校に行きましょう」

 また一転して笑顔で東郷さんは言う。

 今度は普通に可愛い笑顔だ。

「あ、はい……」 

「……? それじゃあ三人でしゅっぱつっ」

 友奈は僕らの様子を不思議がっていたが、自分が気にする事ではないと思ったのか、そのまま元気に喋った。

 

 

 

 

 友奈が東郷さんの車椅子を引き、並んで登校する。

 男の僕が手ぶらで女の子の友奈が車椅子を押しているのもあれかなと思い、僕がやると申し出てみたが、ここは私の特等席だから誰にも譲れないよと言われてしまったので、僕は引き下がるしかなかった。

 

「友奈、東郷さん、ここら辺で昨日猟奇殺人があってまだ犯人捕まってないみたいだから、気をつけたほうが良いよ」

「え、そうなの!? 怖いなあ……早く解決するといいね」

「私も朝のニュースで見ました。最初はバーテックスとの戦いの影響かと思いましたが、バーテックスの影響による被害は事故や地震という風に現れるはずなので、明確な殺人という現象で起きた事は無いはずですから、本当に殺人事件なのでしょうね。なにはともあれ、友奈ちゃんに危険が及ばないように、早く捕まって欲しいですね」

「うん。そうだね……」

 バーテックスの被害は、事故や地震で起きるんだな。

 

 ――地震。

 なんか、その単語を聞いた瞬間、もやもやした。

 失った記憶に、関係しているのか?

 でも、記憶が無いので分かるはずもなく、すぐに思考の隅に追いやった。

   

 それにしても、猟奇事件だ。

 学校も、何かしらの対処をしてくれるといいんだけど。

 朝に出たばかりの情報なら、すぐに対処するのは難しいだろう。

 今日行ったら何か言われるとは思うけど。

 休校まではいかなかったとしても、帰る時間が早まったり、複数人で行動するようにとか言って来る可能性は高い。

 まあ、そのうち警察が何とかするよね。

 友奈たちに危険が無い内に終わって欲しいもんだよ。

 ただでさえ、というか人間間(にんげんかん)の殺人なんかよりよっぽど危険な状況に曝されてるんだから。

 さらに危険な事があるなんて御免だ。

 友奈たちには、楽しく生きて欲しい。

 そのための障害は、僕が排除しないと。

 強くならないとな。

 皆を守るために、もっと強く。

 

 

   

 数分間そのまま歩いていたら、なぜか泣いている小さな女の子が道端で立ち尽くしていた。

 年は幼稚園に入るか入らないかぐらいだろう。 

 

 ――僕はさっき、強くならなければと思った。

 それに常に、強く、優しく、かっこよくありたいと考えている。

 最近、それを忘れがちになっているが、無理やりにでもそう在らなければいけない。

 だからその三箇条を信念に、いつも念頭に置いて物事を考えねば。

 つまり、何を言いたいのかというと。

 あの女の子を、助けたい。

 そういうことだ。

 

 強く優しくかっこよくと頭の中で何回も繰り返しながら、女の子の元へと近づく。

「ん? 朝陽くんどこ行くの?」

 友奈が、突然道を外れて放れて行く僕に聞いてきた。

「ちょっとそこに泣いてる女の子がいるから、助けに行こうかと」

「え!? どこ!?」

「あそこに」

 道端で泣きじゃくる女の子を手で示す。 

「ほんとだ! じゃあ助けないと!」

「そうですね。あのままにはしておけません」

 二人とも一緒に助けようとしてくれる。

 僕は、強くなるために一人でやろうと思っていたんだけれど。

 でも、二人の気持ちを無碍(むげ)には出来ない。

 一緒にやれるなら、一緒にやるべきだ。

 

「うん、じゃあ行こう」

「うんっ!」

「了解です」

 そうして三人で、迷子だったという女の子を親の元へ送り届けた。

 

 

 

 

 なんとか女の子を助けたはいいけれど、遅刻ギリギリだ。

 急いでいかないと。

 そう思っていた矢先、また困っている人を見つけてしまった。

 信念に基づき、再度助けたはいいけれど、それからさらに困っている人に出会ってしまった。 

 さらにその次も、次も。

 

 なぜだ。

 おかしい。 

 こうも連続でトラブルにみまわれるなんて。

 

 今日はたまたま運が悪かっただけか?

 それともこの地域は困る人が多いのか?

 いや、困る人が多い地域ってなんだよ。

 それぞれ困ってる案件は別だったしそれは関係ないだろ。

 とにかくこれは完全に遅刻だな。  

 遅刻するぐらいなら放って置けばよかったかな……。   

 でも、三箇条を念頭に置いてなきゃ信念が疎かになっちゃうし。

 それに友奈と東郷さんも困ってる人達を放っておく事はしなかった。

 勇者部として、見過ごす事は出来ないとか。

 なので僕だけ先に行くのもなんかなあ、とも思って。

 結局全員遅刻する事になった。

 

 全部終わらせて、友奈は東郷さんの車椅子を押しながら学校まで三人で走っているところに、銀が。

『もしかして、アタシのトラブル体質が移っちゃったのかな……』

「え!? マジ!?」

 そんなのがあるのか。

『うん。マジだと思う。アタシも前はこれぐらい日常茶飯事だったから』

「おいおい……これがチャメシインシデントかよ。頻繁にこんな事起こってたら僕の身が持たないよ」 

 げんなりする。

 あと、僕の何気ないネタ発言もスルーされてさらに一段げんなりする。

 ちょっと。一言くらい突っ込んでくれたっていいじゃないか。

 チャメシインシデントってなんだよ! って。

 まあいいや。

 そうして初日から遅刻してしまったが、なんとか讃州中学に着いた。

 

 

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