次の日。
学校は、いつも通りに何の問題も無く全ての授業を終えた。
そうして、放課後。
キーンコーンカーンコーン。
いつもの、どこの学校にも存在するであろうチャイム。
学校中に響き渡る。
――と。
ピロロ、リリリン。ピロロ、リリリン。
不安を煽るような、電子音。
樹海化警報が鳴り響く。
人も時計の針も、空に漂う雲すら停止し、世界が静止する。
この警報音も現象も最後か。
これで終わりだ。
終わらせてやる。
皆と共に。
白い光が景色の彼方から押し寄せてきて、
――僕の視界は、白に呑まれた。
眩しい光に思わず瞑ってしまった目を開ける。
世界は樹海に、変貌していた。
皆も
スマホを一斉に取り出し、皆は変身し、勇者へと煌びやかに
その姿は、それぞれ違わず勇ましく、気高い。
世界を、人を守るヒーロー達の姿だ。
僕も、戦う準備をする。
右手を拳に固め、高く腕を、降り上げる。
そしてその拳を、己の心臓の位置に叩き付ける。
ドクンッ――。
叩き付けた位置が、純白であり、
そして
心臓から顕現し、自動的に、
そうして、僕の眼前に今か今かと主を待つ様に浮遊した。
その聖剣は、何ものにも染まらない。
一切の異物が無い白。
その秘めた力は、清廉潔白な聖の力。
不純なる魔は、僅かも混入していない。
本物の、前までのような偽剣の魔剣とは違う、完全な聖剣。
僕が望んでいた、正しく、護る為だけの力。
聖剣を、手に取る。
その瞬間。僕の姿は変革される。
白銀のコートが翻り。
白金のマフラーを靡かせ。
白よりも白い白髪へと変色し。
両の瞳は白金の煌めきを持つ。
白銀と白金の粒子が周囲を
人ならざる者。
希望の光輝く、神々しき純白の神へと、僕は成った。
その容姿は、荘厳。
外面だけは、聖心を持ち、邪心など一欠片も存在しないかに見える純白の神。
されど内面は、泥臭く弱い人間。
不完全でアンバランスな存在。
しかし秘めたる力は、これまでとは比べるのも浅はかなほど強大。
総てを為し得る、神の力。
この力で僕は、皆を護り、総てを、何もかも、終わらせてやる。
辛いこと、悲しいこと、理不尽なこと。
全部全部斬って、消滅させてやる。
結局は、強大なる暴力にはより強大なる暴力で以ってしか対処が出来ない。
それは悲しい。酷く哀しい。
それでも、斃さなければ大切な人たちが不幸になってしまう敵がいるんだ。
説得の余地も、引いてくれる余地も無い敵。
だったらそんな存在、叩き潰すしかないじゃないか。
理不尽だけを与えてくる邪魔な障害は、排除して前に進む以外はない。
だから、前言撤回になってしまうけれど。
この聖剣は、決して正しいものなんかではない。強大な暴力の権化だ。
けれど、僕は護る為に敵を斃す。
皆との日々を、まだ続けたいから。
日常が、愛しいから。
勝って、僕たちは帰るんだ。
あの場所に。
だから前に進み続ける。行動し続ける。
それを勇気という強さだと、皆に教えられた。
勇気の神だと、友奈は名前を付けてくれた。
少々抵抗のある名前だが、悪くない。
せっかく現人神なんてふざけた者に成ったのだから、決めておこう。
僕は、勇気の神だ。
『朝陽、アタシも行く。出来るだろ?』
「…………御見通しってわけか」
『そりゃお前の中にいるからな』
「でもブランクがあると思うし、いきなりは危ないんじゃ……」
『そんなやわな鍛え方はしていなかったぞ。いいから最後ぐらい、一緒に戦わせてくれよ』
そんな言い方されたら、断りにく過ぎるじゃないか。
「わかった……けど無理はしないでくれ」
『ああ、当然。みんなで帰らないといけないもんな』
「それならいいんだ」
言って、僕は意識を集中する。
そうして内側へ、神の力を行使する。
僕の隣が強く光り輝く。
光が晴れると、そこには勇者へと変身した銀が立っていた。
紅い衣装は、どことなく夏凛の衣装に似ている。
手に持つ剣のような二本の斧は、僕が大赦の人とやり合った時に使った斧と全く同じものだ。
それを右の斧を順手に、左の斧を逆手に持っている。
ただのいつもの実体化とは違う。存在としての力が今生きている人間と変わらない。
現人神の力を使えばこれぐらいは出来るというのは自分の力であるから知っていたが、銀は二年も実戦をしていないから戦うのは控えた方が良いと思っていた。
けれど、結局気づかれて押し切られてしまった。
満開までは出来ないから、言ったように無理をしないことを信じるだけだ。
前を
遠くの前方から、バーテックスの軍勢が出現し進行して来ていた。
その光景は、圧巻。
視界を埋め尽くす、異形達。
十二体の、黄道十二星座全てのバーテックス。
そして、無数の、軽く四桁は超えるであろう星屑の群れ。
合体バーテックスがいないことは幸いだが、数は圧倒的。
それにこれから合体しない保証もない。
だが今していないのなら、する前に早急に斃してしまう必要がある。
「「「「満開」」」」
神聖な五色の光が辺りに輝いた。
見ると、豪腕や戦艦が視界に飛び込んできた。
「な……! なんでみんな満開してるの!? 散華が――」
「これで最後でしょ、朝陽くん。だったら、全ての力を使うべきだよ。終わったら全部返ってくるんだから大丈夫」
決然とした表情を皆はしている。
意思は固いようだ。
みんなも、全力ということか。
確かに、最後なのだから持てる力は行使すべきだ。
終わったら供物は戻ってくる。ならば代償はないも同じ。
かといって抵抗がなくなるわけではないが、皆が決めたのなら僕がどうこう言えることじゃない。
「なら、必ず勝たないとね」
「「「「うん(おう)!」」」」
皆は答え、樹ちゃんは力強く頷いた。
「――って今気づいたけれど銀も戦えるの?」
東郷さんが銀を見て驚き、言った。
「ああ。朝陽の力のおかげだ」
「大丈夫なの?」
「無理はしないように言ってあるから多分大丈夫なんじゃないかな。銀次第だけど」
東郷さんの心配げな声に僕は応える。
「問題ないって。アタシは満開が使えないからそこまで無理は出来ない」
「……うん、そういうなら信じるわ」
何とか東郷さんは納得したみたいだ。
「――来てるわよ!」
風先輩が叫ぶと同時、風切り音。
前を向くと、風先輩が大剣を振り切って星屑を一体消滅させたところだった。
色々ごちゃごちゃとやっている内に敵はそこまでやって来ていたみたいだ。
最後なのに締まらない。
けど、そんなこと考えている場合じゃない。
戦って、勝つ。それだけだ。
即座に戦闘態勢に皆移行した。
銀は斧で星屑を叩き切る。
ブランクがあるはずなのに、その姿と身のこなしはそれを感じさせないほどに手慣れていた。
あの調子なら銀は問題なさそうだ。
よく考えたら、二年といってもずっと体が衰えることないまま寝ていたようなものだからあまり関係が無いのかもしれない。
「さて、神の力とやら。どこまであの化け物たちに通用するか試してやる」
通用しないと困るなんてレベルではないほど窮地に立たされるが、問題ないだろう。
溢れ出る力がそんな余裕を出させてくれる。
何だってやってやれる気分だ。
純白の聖剣を一薙ぎした。
白閃。
白発。
爆白。
辺りが神々しき純白に包まれた。
白の世界が元の樹海に戻ると、
――目の前の星屑が、一気に三桁ほど、一瞬で消失していた。
圧倒的な神の力。
それを今初めて本当の意味で、体感したような気がした。
一体だけで、あれだけ殺されてなんとか一矢報いた星屑が、まるで虫けらのように消えていく。
その力に高揚しなかったと言えば嘘になる。けれど慢心しても、力に溺れてもいけない。
それは後に破滅を招く。
最後なのだから、気を引き締めろ。
皆も星屑共を次々と斃して行っている。
急激な速度で星屑は数を減らしていった。
東郷さんの戦艦の砲撃がサジタリウス・バーテックスを打ち抜いた。
そのただ一撃で、サジタリウスの
聖剣を振り薙いだ。
そのただ一振りで、タウラス・バーテックスとジェミニ・バーテックスは砂となって消えた。
満開と現人神の力は、強大な化け物であるバーテックスを全く怖くない雑魚へと変えた。
圧倒的に、安全に敵が排除できる。
僕はこれが、よかったんだ。
誰も辛い思いなんてしない。ぬるま湯。
誰だって、傷付きたくなんて、死にたくなんてないのだから。
僕をゲームの駒なんかにしたデウス・エクス・マキナは、不満だろうけどな。
次々と、僕らは敵を殲滅していく。
僕も満開時の皆みたいに空を飛ぶことも出来る。現人神に成った今ならその程度造作もない。
容易く、調子が良い。
これは作業だ。気を抜かずに淡々と対処していればいい。
敵が来たら聖剣を振るだけ。
敵に近づいて聖剣を振るだけ。
それだけで、化け物共は死んでいく。
レオ・バーテックスが――バーテックスの親玉と言える存在が砲撃を放ってきた。
剣を一振り。
その後。
刹那の間にレオの眼前へと移動する。
超速を超えた、神速すら凌駕する
次の砲撃を撃たせる時など与えない。
純白の制なる聖剣を振り下ろす。
空間を白き斬光が奔った。
荘厳なる斬撃が空間ごと切断する。
レオ・バーテックスは、中央から真っ二つに別たれた。
一瞬後。
砂と成って消えていく。
その後も僕たちは、易々とバーテックス共を蹴散らしていった。
苦戦などない。
疲れなどない。
傷などない。
容易な、勝ち
そうして――
僕たちは、全てのバーテックスと星屑を
されど。
「ここからだ」
「みんな、行くわよ!」
風先輩の言葉と共に。
全員、前方の空に向かって飛んでいく。
満開が出来ないことで飛べない銀は東郷さんの戦艦に一緒に乗っている。
云わばさっきまでのは前哨戦。本の小手調べ。楽なのはここまで。
ここからが、正念場。
樹海の隅、結界の最大距離の場所へと辿り着く。
神樹が僕たちの目の前の結界をトンネルのように開いた。
通れということだろう。
――この穴を通った先には、回避出来ない苦難が待っている。
それは苦しくて、辛いこと。一歩間違うだけで死んでしまうかもしれない。
それでも、進むんだ。
どの道後戻りは出来ない。
ここで立ち止まっても、逃げても、苦難が無い選択肢などない。
だったら、進んで、終わらせれば後はもう何も脅威が無い道を、選ぶべきなんだ。
この結界の穴を通って、天の神とデウス・エクス・マキナを倒す。
それさえ出来れば、終わり。
だから。
動け、僕の足。
竦んでいる場合じゃない。
現人神の力を体感しただろ。この力さえあればなんだって打ち倒して見せられるはずだろ。
こんなのは武者震いだ。
この期に及んで僕は震えてなんていない。
これはただの高揚。
今からくそったれな神を屠る事が出来るという興奮。
その筈だ。
そうでなくてはいけない。
ここまで来て震えてるなんて、まるで成長していないじゃないか。
そんなことあってはならないんだ。
僕は、少しは変わったはずなのだから。
勇気を出せ。
僕は勇気の神だろう。
友奈がそう言ってくれたんだ。
なら体現しないでどうする。
勇気を持って、一歩踏み出せ。
正しいと思って信じた行動を、止めるな。
ただただ愚直に、進め。
勇気だ、勇気。
なせば大抵、なんとかなるんだ。
だったら、やって見せろ、為して見せろ。
諦めずに、体を動かすんだ。
震えが次第に、収まってきた。
「朝陽くん」
と、友奈の声。
顔を上げる。
「私たちは朝陽くんを信じてる、だから朝陽くんも信じて」
絶対の自信を持った微笑み。
「うん……」
ここで信じられなかったら、男が廃るだろう。
最後まで心配かけて、そんなことを言わせてしまったのだから。
みんなをちゃんと頼るって、一人では突っ走らないって、決めたんだ。
決めたことは、忘れてはいけない。
辛かったら、頼る。
全力で寄り掛かる。
大丈夫、僕ならやれる。
みんながいるのだから。
一人ではない。何人も僕には心強い味方がいる。
だったら、恐れることなど何もない。
勇気を、失ってはいけない。
僕は勇気の神なのだから。
「行こうか」
僕は一言いい、歩き出す。
皆も、少し遅れて歩き出す。
ここからが本当の、最後の戦いだ。