「そろそろ話を聞いてくれてもいいと思うんだけど」
天の神に話しかける。
傷を負った今なら応じてくれるかもと思った。
しかし。
『まだですよ。まだ少し傷を負っただけです。この程度で負けはしません』
どうやら、長く生きているだけあって頭が固いようだ。
不毛な戦いを、まだ続けるつもりか。
どっちが愚かなんだ。
「そうかい」
だったら僕も、容赦はしない。
殺すことはできないけれど。
容赦なんて最初からしていなかったけれど。
応えてくれるまで、攻撃を当ててやる。
天の神は陽炎の能力を使い、距離を取った。
追い縋って攻撃したいが、距離や場所が旨く把握できない状態で追いかけても、手痛い反撃を食らうだけだろう。
そうして何もする事が出来ないまま、奴に次の攻撃に移らせてしまう。
天の神は、無数の小型の太陽弾を生成してきた。
空を埋め尽くしてしまいそうな量。
この量だと、純白の楯でなければ防ぎ切れない。
何度も発動は出来ないのに、このままでは不味い。
楯を形成できなくなった瞬間、窮地に立たされる。
されど今形成しないという選択肢はなく。
僕は再度、絶対防御の楯を形成した。
「みんな! 楯の中心ぐらいに集まって!」
いくら強固な楯を用いようと、防ぐ範囲から外れていたら意味が無い。
即座に全員、楯の前に集まった。
放たれる無数の小型太陽。
降り注ぐ隕石の様に襲い来る。
だが、その総てを純白の楯によって防ぐ。
筈だった。
「なっ――!」
楯の横を通りすぎて行った太陽弾が、直角にありえない軌道変更をした。
無数に在った小型太陽の、約半数ほどが横から挟むように殺到して来る。
楯を形成している今、全力の対処が出来ない。
能力を発動しない状態の聖剣のみだ。
皆はバリアがもう無い。
だが全員を護り切るなど不可能。
――信じるしかない。
僕一人で戦っている訳じゃないんだ。
このぐらいの攻撃、みんななら耐えきれると信じるんだ。
みんなだって弱くはない。
だから、信じて自分に出来ることをするしか、今やれることはないんだ。
聖剣を襲い来た小型太陽に向けて薙ぐ。
力を調整し、消滅させるのではなく弾く。
そうして弾いた小型太陽は、別の太陽とぶつかり合い爆散して消滅した。
皆も、どうにか小型太陽を消滅させていっている。
だが、数が多すぎる。
半数減っても、かなりの数だ。
全てを対処しきるのは、無理だった。
聖剣を振り下ろして消滅させた直後に、別の太陽弾が脇腹に直撃する。
衝撃で骨が砕け、一瞬で脇腹周辺の皮膚が焼き尽くされる。
「ぐっ――ふっ――!」
壮絶な痛み。
神樹の試練で、痛みに慣れることはなくとも、まだ前よりも耐えられるぐらいにはなった。
だから、これぐらい、どうってことはない。
痛いけれど。
涙が出そうなほど痛いけれど。
また、命中した。
体中が、痛い。
熱いというよりも、痛い。
みんなは、どうなっている?
振り向いた。
太陽弾が、皆にも直撃して爆発したところだった。
「そんな!?」
バリアが無い状態であの攻撃を食らったら、ただでは済まない。
軽傷でも済まない。
良くて重症、悪ければ死ぬ。
しかし、そのどちらにもならなかった。
爆発の煙が晴れた頃、皆は傷を負うことなくそこにいた。
何故?
バリアも、元に戻っている。
小型太陽を防いだからか罅割れたりしているが、先程までの様に全損はしていない。
――そうか。
視界に入った状況証拠のみの推測だが、理解した。
みんなは、満開をしたんだ。
一度満開を解いてから、再度満開して精霊のバリアを最初の状態に戻した。
そういうことなのだろう。
普段ならそんな散華を大量に負う行為できなかっただろう。
けれど今は違う。最後の戦いなのだから幾らでも満開が出来る。
詳しく皆に聞くのは、戦闘中だから無理だが。
終わった後にでも聞いたり聞かなかったりすればいい。
何はともあれ――
聖剣を振り薙いだ。
小型太陽が消滅する。
――この攻撃は、乗り切った。
小型太陽は総て無くなっていた。
楯も壊れて既に粒子と成って四散している。
しかし、満身創痍。
みんなは、なんとか大丈夫そうだ。バリアは割れているけれど。
だが僕は、動くのも辛い。
戦える状態ではない。
全身火傷を負い、骨が何本も折れている。死に体だ。
されど、問題はない。
今痛いのは問題だが、というか既に感覚が無くなってきているが。
大局に支障はない。
内に念じる。
イメージを叩き付ける。
傅く様に漂う白金の粒子とマフラーに戻っていた粒子が、再度弾け、身体に染み込み、効果を発揮する。
それだけで、傷は完全に癒えた。
粉々に折れた骨は元通りだし、肌も黒く焦げている箇所は一つも無い。
前までは無理矢理生かされていたが、今は、自分から生きようと発動する必要がある。
けれど、全回復魔法を何度か使えるようなものだ。
何度も無限に使うことは出来ないが、それでも便利で強力な力だと実感する。
周りに目を走らせ、状況を確認する。
距離を取られたままでは、また遠距離から狙われるだけだ。
投槍を使ってもいいが、あれは一直線すぎて当たらないだろう。
斬撃を飛ばしても同じようなもの。攻撃後の隙を突かれるだけだ。
東郷さんの戦艦の砲撃もあるが、威力面で心許ない。
やはり何とかして接近戦に持ち込まないと。
離れていては、分はあちらのみにある。
多分、恐らく。
戦略によっては遠距離でも行けるのかもしれないが、今の僕には思いつかない。
それに接近戦の方が勝ち目があることは間違いないと思う。
だからとにかく、接近したい。
僕一人では陽炎の能力に対処できず、無理だっただろう。
けれど、僕は一人ではないんだ。
現人神であり、力を皆より持っている自分がどうしてもメインで戦うことになってしまうが、それでも一人ではないんだ。
だから打てる手の幅は、無限とまでは言わないが、大きく広がっている。
「みんな。奴に接近したいから協力してくれ」
皆は即座に頷いてくれた。
そうしてすぐに行動へと移した。
一斉に、空を駆ける。
天の神は中型の太陽を五個生成して放ってきた。
「ここは私たちに任せて!」
友奈がそう言葉を発すると同時に、皆は太陽に向かって飛翔した。
ここは彼女たちに任せて僕は天の神を叩くことだけを考えていればいい。
天の神へと肉薄していく。
奴には陽炎の能力が在る。
けど、対策を考えていない訳じゃない。
己の内に念じる。どういう形で力を発現させるのか、詳しく、細かく、イメージして現人神の力へと叩き付ける。
万能の力という部分は、前と変わっていない。
だからコンピューターのように細かく指示を打ち込んでおけば、その通りに発現するはず。
天の神の距離も場所も不鮮明で、判らない。
けれど、この方法なら。
傅く様に漂っていた白金の粒子が聖剣に纏わり付き染み込む。
純白の聖剣が、さらに白く光り輝く。
指示された通りの力の装飾が付与された状態へと昇華する。
近づいているつもりだけれど、天の神との距離は縮まっているのか縮まっていないのかすら判らない。
けれど、前に、天の神のいるであろう方向に向かって飛び進んではいるんだ。
なら、策に支障はない。
――気づいた時には、体が動いていた。
僕の真横。右に聖剣は自動的に振られた。
遅れて気づく。
真横には、いつの間にか天の神がいた。
しかし僕は、聖剣に効果を付与させていた。
――敵が接近時、自動的に剣がその方向に振られるように、と。
前にも一度やった事のある、オートカウンターだ。
そうして、光り輝く聖剣は天の神へと刃を届かせ、
――なかった。
敵の姿は、霞と消える。
幻影。
本体ではない、能力で創り出したもの。
左上から、気配。
振り仰ぐ。
天の神が、右手の平に太陽を生成して振りかぶっていた。
こちらが、本体。
天の神の右手が振り下ろされる。
されど、僕はこのままやられない。
聖剣はまだ輝きを失っていないのだから。
それは、付与された効果が続いている証。
既に、僕が天の神を認識する前から、聖剣は動いていた。
付与した効果は、二つ。
二度のオートカウンターだ。
一撃目は、幻影で命中しないだろうと踏んでの予防線として二度にして置いた。
その分力を多く消費することになるが、結果としてはそれでよかった。
天の神は予測通りに、幻影を使ってきてくれたのだから。
神仏同士の正面からのぶつかり合い。
大気は震撼し、衝突点から莫大な衝撃波が発生する。
力は、拮抗。
こちらが少し押したかと思えば、あちらに押し返される。
一瞬でも気を緩めたら、お互い押し切られるだろう。
でも、これは言っておきたい。
集中力を切らさず、力も緩めず、僕は叫ぶ。
「神樹もそうだったが、お前らなんで自分で戦わねえんだよ!」
神樹には、理由があったけど。
こいつは、何かを結界で護っているわけでも、バーテックスさえ創らなければ何かを供給している訳でもない。
ならなんで、最初から自分で人類を滅亡させなかったんだ。
尖兵を創り出して、送り出すだけ。
まだるっこしいじわじわとした
まるで戦隊ものの敵組織のような。
デウス・エクス・マキナみたいに享楽的ならともかく、天の神はそうではない筈だ。
それにこれほどの強大な力も持っている。
最初から本気を出していれば、人類なんて一瞬で木っ端微塵だったのではないか?
なのに、なぜ?
『…………』
天の神は何も言わない。
鍔迫り合いをしているようなものだから、気を抜けないだけかもしれない。
けど、僕は言葉を発する事が出来た。
なら天の神も何かを言えない訳ではないだろう。
言わないだけだ。
つまり、結論は。
――迷っているんじゃないのか?
天の神は、人類を滅ぼすことをまだ迷っている部分があった。
だから自分から出向かず、バーテックスを送るだけだった。
ただ慎重だっただけかもしれない。
自分が出向いてもしもの負けてしまう可能性を嫌っただけかもしれない。
けれど、それだったらこの無言は何だ?
やはり迷っているということではないのか。
僕はそう思いたい。
その可能性に、賭けてみる。
もしもそうだったら、説得の余地はまだ存在しているのだから。
僕の横を通過する者たちの気配。
天の神が豪腕を、砲撃を、剣斧を、赤刀を、大剣を、ワイヤーの一撃を、その身に受ける。
六人が天の神の攻撃を凌ぎ、加勢にやって来てくれたのだ。
天の神が体勢を崩したことで、鍔迫り合いは中断される。
即座に陽炎の能力を駆使し、天の神は僕らから距離を取った。
「わかっただろ。僕たちは貴方を倒せる。だからもう戦いは止めよう。人類を攻撃するのを止めてくれ」
少し柔らかめの言葉を放つ。
攻撃を加えた後の柔らかめの言葉など、脅迫と何も変わらないだろうけれど。
そもそも言ってる事自体が完全に脅迫だけれど。
もっと良い言葉があったのではないか。
それでも、天の神は迷っているはずなんだ。
だから刺々しい言葉遣いでより印象を悪くするのもどうかと思う。
「そうだよ、こんなこと意味ないよ。だから話を聞いてください!」
友奈達が、僕の拙い説得を繋いでくれる。
『戯言をほざかないでください……ワタシはまだ倒れていません』
されどまだ、届かない。
もっと消耗しないと、聞く耳持たないのか。
ならばとことん、付き合ってやる。
話を聞いてくれるまで、何度でも。
内に念じる。イメージを叩き付ける。
聖剣が光り輝く。
天の神は、再度攻撃を開始して来た。
太陽の生成。
僕達は身構える。
しかし、それがこちらに放たれることはなかった。
天に向けて放たれる。
僕たちの頭上。
危険を感じ、即座に皆この場から離れようとした。
だが。
閃光。
明滅。
視界の混乱。
轟音。
震撼。
爆雷。
轟雷。
宙に滞空した太陽から、
まるで天の裁きだとでもいうかのように、刹那の間に電気という暴力が襲い来る。
この目暗ましと同時の避けるという意思すら抱く前に到達する攻撃は、容易に回避は出来ない。
されど、僕は既に剣へと力の装飾を施していた。
雷を、光を認知する前から、聖剣は動き出している。
振り上げられる聖剣。
神の雷へと吸い込まれるように迎撃した。
爆散し、煙を巻き起こしながら雷はエネルギーを消失した。
――上からの、脅威の気配。
空に滞空していた太陽が、煙を散らしながら隕石の如く落下してくる。
不味い。
先の様に二度のオートカウンターにしておけばよかった。
力を使い過ぎないようにと温存を優先させてしまった結果だ。
そうしないと後に響くと思った。
まだ、デウス・エクス・マキナは姿を現していないのだから。
けれど、相手は神なんだ。出し惜しみしている場合ではなかった。
全力で、力を積極的に枯渇させるレベルで戦わなければ、後に響くどころか今やられる。
内に念じる。イメージを叩き付ける。
しかし、間に合わない。
太陽は力を聖剣に付与する前に、墜落するだろう。
砲撃が太陽へと命中する。
豪腕が殴り付けられる。
大剣が叩き込まれる。
赤刀が斬り込まれる。
ワイヤーを絡み付かせた斧が振り薙がれる。
落下する太陽は、それで爆散した。
また僕は、一人で焦ってしまった。
一人ではないというのに。
ミスしても補ってくれる仲間がいるんだ。
感情に流されず、そのことを忘れるな。
今は、思うように戦えばいいだけだ。
爆散する太陽。その火の破片に雑じって、接近する強大。
天の神が、僕の目の前まで肉薄した。
その右手には、
太陽を剣の形に固定したような、
剣の刀身は常に太陽フレアが起きており、爆発し続けている。
振り下ろされる。
聖剣が白よりも白く光り輝く。
――装飾は、永続ホーミング。
――あの焔剣が消滅するまで、喰らい付け。
聖剣と焔剣の剣戟。幾度となく切り結ぶ。
爆発する太陽フレアのエネルギーは、聖剣の粒子をエネルギー化しぶつけ、相殺する。
この剣戟は、剣士同士が魂を
向こうは純粋な剣の腕、しかしこちらは能力によるごり押し。
噛み合わず、勝つ為の力を行使し、無理矢理押し付けるだけ。
されど敵を倒すための戦いなのだから、それでいい。
勝てればいいのだ。
僕は戦闘を楽しみたい訳でも、より高みへと至りたい訳でもない。
ただ、総てを終わらせて平穏を勝ち取りたいだけだ。
天の神が振り薙いだなら、聖剣も振り薙がれる。
焔剣を振り下ろしたなら、聖剣は振り上げられる。
振り上げられたら、振り下ろす。
袈裟には、逆から。
逆袈裟にも、逆から。
何度も何度も、正確無比なカウンターが稼動する。
けれど、力の消耗が激しい。
今は互角の戦いを出来ているように見えるが、ギリギリのところを踏み止まっているだけだ。
力が先に枯渇したら、勝てる道は極端に狭まれる。
だがこれは、一対一の戦いではない。
僕はやれることを全力でやる。
そしてそれで足りなければ――
ワイヤーが天の神の焔剣に絡みついた。
――誰かが補ってくれるのを信じればいい。
満開の武装とはいえ、細いワイヤーではあの焔剣にすぐに切れるどころかその前に焼き尽くされてしまう。
されど、一瞬あれば十分。
一瞬の隙。そこに能力の解除と同時に白の斬撃を入り込ませた。
天の神の胴体に聖剣が奔る。
攻撃した後になって思ったが、殺さずに打ち負かさないといけないのに完全に殺す気の一撃を放っていた。
神なのだからこのぐらいで死にはしないだろうけれど。
むしろ殺す気で行かなければこちらが死にそうだ。
僕の攻撃が命中したことで天の神の胴体は一部散り、削れ、怯む。
さらに続いて皆が一斉に攻撃を叩き込む。
豪腕が胴体に食い込み、砲撃が肩に命中し、赤刀が左腕を斬り裂き、大剣が肩に振り下ろされ、ワイヤーで絡めた斧が足に叩き付けられる。
その後天の神は手の平から小爆発を起こし、僕が軽傷を負い怯み、皆がバリアで防いでいる隙に陽炎の能力も駆使して一旦下がり距離を取った。
流石に天の神も消耗して来ているようで、肩で荒い息を吐いている雰囲気。
だが戦える力はまだまだ残されているだろう。
こちらも消耗はしているが、全然戦える。
『よろしい。貴方達の力は解りました。全身全霊で以って相手をしましょう。それで、終わりです』
天の神が、そう言った。